モーダル・インターチェンジ

II章で、「パラレルマイナー・コード」たちを紹介しました。

同主調からの借用

メジャーキーにおいて、パラレルマイナーキー(同主短調)からコードを借りてくる技法でしたね。このとき、少し謎を残して終わったのを覚えていますか? それは、セブンスの乗せ方や、音階の選び方に選択の余地があるという話です。

選択可能

これについて、II章の段階では、「どれくらいマイナーキーに寄せるかで転調の度合いをコントロールする」という、非常に実践寄りの目線で解説し、そこで止まっていました。ジャズ理論では、この辺りについても理論的にしっかりまとめています。だってやっぱり、そこを曖昧にしてしまったらジャズ・セッションが成り立ちませんからね。

作曲の場合

作曲の際には、こういう「自分だけがわかっている名前」で区別してもよかったですが、セッションで誰かに情報を伝えるときには不便。ですので今回は、「パラレルキーからの借用」を徹底的に掘り下げていきます。

#1 「スケール」を借りる

まず大前提から。ジャズ理論においては、「コードを借りてくる」というよりも、「スケールを入れ替える」という考えでこの理論を発展させます。やっぱり「E7といっても、メロディックマイナーなのかハーモニックマイナーなのか分からんことには・・・」という世界なので、パラレルマイナーコードについても、コードじゃなくてスケールを借りると考えた方が、しっくりくるわけです。

それゆえこの技法は、ジャズ理論においてはモーダル・インターチェンジModal Interchangeと呼ばれ、「パラレルキー」ではなく「パラレルスケール」ないし「パラレルモード」から借りる技法と説明されます。1

“Modal interchange (sometimes referred to as borrowed harmonies, mode mixture, or just mixture) is the use of a chord from a parallel (having the same root) mode or scale. ”

(「モーダルインターチェンジ(ときおり借用和音、モードミクスチャーまたは単にミクスチャーなどとも呼ばれます)」は、パラレルな(同じルートを持つ)モードかスケールから来たコードを使うことです。)

Robert Rawlins “Jazzology”より

「パラレルスケール」なんて言葉、普段はなかなか聞きませんが、ジャズ理論界では普通に存在する言葉です。そして、キーではなくスケールを借りるとなると、当然こんな考え方にいきつきます。

マイナースケールを借りるつっても、短音階って3種類あるやん・・・!!

そう、II章ではザックリと、ナチュラルマイナースケールから借りる前提で「ミ・ラ・シにフラットがつきます」と説明したものの、借りてこれるマイナー系スケールというのは、厳密に言えばいっぱいあるのです。さらに考えてみるとこうだ。

ドリアンスケールとかミクソリディアンスケールを借りてくることだって、できるやん・・・!!

そう、教会旋法まで視野に入れたら、借りれるスケールというのはめちゃくちゃ多い。何もマイナー系スケールじゃなくとも、明るいミクソリディアンやリディアンを借りてきてもよいのです。

チャーチモード・チャート

今回は、教会旋法めちゃくちゃ使いますからね。忘れかけている場合は、メロディ編III章を復習してください。とりあえず既知のスケールをリストアップし、シャープやフラットの居どころをまとめるとこうです。

 
音階 ファ
Lydian
Major
Natural Min.
Melodic Min.
Harmonic Min.
Mixolydian
Dorian
Phrygian
Locrian

実はこれだけたくさんのバリエーションがある! これだけあれば、フラットがどう付いていようとも、「これは〇〇スケールからの借用です」でスパッと説明できそう。

#2 パラレルマイナーコードを解釈する

まずはパラレルマイナーコードたちをザクザク分類していきましょう。以降は、Cメジャーキーを例にとって進めていきます。

Bの場合

Bの場合、借りるパターンとしてよくあるのは以下の3つ。これをジャズ理論では、「それぞれ別のモードから借りてきている」と解釈します。

Bb

一応最初なので丁寧に確認すると、一番上のパターンは、シにしかフラットがついていません。考えてみたらこれって、「同主短調から借用」という状態には程遠いわけですね。先ほどの表を確認すると、シだけにフラットがつくモードは、ミクソリディアンです。したがって、この音階をとるBは、「ミクソリディアン由来である」と解釈するのです。

Aの場合

Aはさほど用法にブレがないですが、たまにシがナチュラルになることもあるかと思います。そこでまたジャズ理論では「借り先が異なる」という話になります。

Abの場合

このとおり。2種類の異なるマイナースケールから借りているわけです。

Eの場合

Eの場合、ラはナチュラルのパターンが多いと思いますが、一応ありそうな派生形が2つあるので、3つ並べておきます。

Ebの場合

Fの場合

F上でのパラレルマイナーコードは「マイナーセブンス」と「マイナーメジャーセブンス」のどちらにもなり得ることでおなじみですが・・・

Fの場合

実は、上2つは既知のスケールでは対応できません。「ラ・シにフラット」「ラだけにフラット」というスケールは手持ちにない。これは終わった・・・となりそうですが、名前がないのなら、名前をつければいいじゃないということで、この2つにもきちんと名前がつけられています。

ミクソリディアン b6
ハーモニックメジャー

「ラ・シにフラット」は、「ミクソリディアンの6番目の音がフラットした」と考えて、直球で「ミクソリディアン 6」、「ラだけにフラット」は、「ハーモニックマイナーが明るくなった」と考えて「ハーモニックメジャー」と名付けられました。

Fの場合

そんなわけで、こういう形になる。「スケールの細部に曖昧なところを残さない」という考えが、ジャズ理論の根幹です。「同主調借用」をコードからスケールに拡大することで、細かくコードを論じることができました。

#2 その他のコードを解釈する

こんな具合で、モーダル・インターチェンジは様々なコードの解釈に決着をつける、いわば「解釈請負人」なのです。パラレルマイナーコード以外にも、これまで学んだコードの中で解釈を曖昧にしていたものが2つありますので、そこもズバズバ解決しましょう。

IVのハーフディミニッシュ

ひとつめは、ポップスの必殺技、IVøです。

F#ø

こちら、「II7(9)のルートを省略したもの」と考えてもよいですが、ジャズ理論ではこれもモーダル・インターチェンジで解釈します。II7の派生としてしまうと、次V7に行かなきゃダメな空気になっちゃいますからね。実際にはIVに進むことが多いので、ジャズではこれを二次ドミナントとはみなさない。

では何のスケールと入れ替えているかというと、「ファだけにシャープ」ですから、これは先ほどのリストにひとつだけあったシャープ系のスケール、「リディアン」から借りていると考えます。

F# Lydian

こうやってきちんと説明をつけていくのがジャズ理論のやり方です。

bIIのメジャーセブンス

そして残るもうひとつは、“裏コード(トライトーン 代理)”の派生形IIです。

IIbの場合

「トライトーン代理」はあくまでも、トライトーンの共通性を利用した代理コードです。だからV7がII7になるのは分かるけど、IIになることは説明できない。コード編IV章では、理由は説明しないで終わっていました。これについてもジャズ理論は、モーダルインターチェンジの一種と説明します。

IIΔで最もよくあるフラットのつき方はレ・ミ・ラ・シ。これも上の表で確かめれば一発。「フリジアン」だと分かります。

Dbの場合

たまにソにまでフラットが付くことがありますが、その場合は「ロクリアン」から借りているということになります。だからジャズ理論では、II7とIIΔの二人は、見た目は似ているけど分類としては全く別系統のコードと見なされます。

「解釈」とは何か

ただしこの“解釈請負人”に何でもかんでも任せる方法は、ちょっと「ニワトリとタマゴ」というか、怪しいところもあります。すなわち、「フリジアンにモード交換してるから、レミラシにシャープがつくんだよ」といういかにもそれらしい説明ですが、これは「レミラシにシャープがついてるから、フリジアンへのモード交換ってことにしたよ」という、完全な“後出しジャンケン”でもあります。ましてや「対応スケールがないなら新しく名前をつければいいじゃない」というスタンスなので、理屈上は(C音を含むコードなら)あらゆるコードを「○○スケールからの借用です」で解釈できることになります。

しかしこのやり方では、なぜこのタイミングでフリジアンにスッと交換ができるのか、なぜこの場合ではフリジアン特有の重苦しさを一切感じないのかといった、「一歩先の“なぜ”」には答えられません
こうした技法を自分の音楽性を高めるために身につけるならば、対応するスケールを見つけて終わりではなく、展開の中でそのコードが持っている音楽的意味をきちんと考えるべきです。このIIΔの場合、やはりII7との類似性は無視できない分析要素になるはずです。

理論書がこれらをモーダル・インターチェンジとして説明しているのは、まずそうすることで細かいコードをひとつの章・ひとつの言葉でまとめてスッキリ紹介できるという便宜的な都合、そしてコードをスケールとセットで覚えることで知識をアドリブに直結させるという実践的都合が大きいのでしょう。
こうした部分を表面的に受け取ってしまうと「ジャズ理論はあらゆる音楽を解釈できる究極の理論である!」などといった偏った思想に陥る危険があります。

音楽を「解釈する」とはどういうことなのか? あるいは、音楽を解釈する目的と目標、ゴールはどこにあるのか? という部分は常に自分に問いかけてほしいと思います。

狭義のモーダル・インターチェンジ

また、よりライトなポピュラー向け理論では、7つの教会旋法自体が紹介されないこともありますよね。そのような理論体系においては、交換するモードの候補が「3つのマイナースケール」しかありません
そのため、コンテンツによっては「モーダル・インターチェンジとは、同主短調からコードを借りてくること」と説明されてしまうこともあります。ややこしいですね。

もし「モーダル・インターチェンジ」を同主調借用の同義語として使っている人に出会ったらば、「その言葉の使い方は間違っている」などと責めるのではなく、「実は交換できるモードって、もっといっぱいあるんだよ」と、優しく“モードの沼”に引きずりこんであげてほしいと思います。


そんなわけで、今回はジャズ理論の細かさを認識する回となりました。これについては、「即興演奏」「素早い情報伝達」という目的が無いのであれば、覚えなくてもよい部分です。ただこの「モードを入れ替える」という発想自体は発展性のあるアイデアで、応用性がありますね。

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