七つの教会旋法

メロディ編 Ⅲ章:音階の探究
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今回は「新しい音階を知る」回です。

III章後半では、「教会旋法」と呼ばれる特別な音階を学んでいきます。普通とは違う音階ですから、ポピュラー音楽で使われることはそう多くありません。映画音楽やゲーム音楽のように、より幅広い曲想の表現が要求されるジャンルにおいて特に有効利用できる知識になります。


#1.教会旋法

序論で述べたとおり、今の音楽理論の基盤というのは、17-18世紀ごろに確立されたものでした。その際には、「メジャースケール」と「マイナースケール」という2つのスケールを基本に据え、他の音階は一旦排除したという話も、準備編でしましたね。

今回解説するのは、メジャー/マイナースケールが音楽の基本として君臨するよりも前にヨーロッパの教会音楽で使用されていた、教会旋法Church Modeと呼ばれる独特な音階についてです。「旋法(モード)」という単語自体に聞き馴染みがないと思いますが、ひとまずは「昔の教会音楽に使われていた特別な音階をモードと呼び、現代のメジャー/マイナーとは違ったサウンドの音楽を作り出せるもの」と認識してもらえれば、出発点としては十分な理解です。1

教会音楽の音階なんていうと、ポピュラー音楽からはかけ離れた存在に聞こえてしまいますが、この音階たちはポピュラー音楽で大いに活用されているんですよ。少し、そのサウンドを聴いてみましょう。

ドリア旋法

例えばこれから最初に紹介することとなる「ドリア旋法」は、民族調のサウンドを生み出すことでおなじみです。

この音階をマスターすれば、こういった風合いの曲が簡単に作れます。ゲーム音楽や映画音楽を作る人には必須の音階なんですよ。

ミクソリディア旋法

次に紹介する予定の「ミクソリディア旋法」は、うって変わってハードロック調のサウンドを生み出す音階として知られています。

この強烈な大胆さやパワフルさは、メジャースケールでは出せません。普通と違う音階あってこそのこのサウンドなのです。

フリジア旋法

その次に紹介予定の「フリジア旋法」は、ものすごい重苦しさを演出します。

こんな風に、シリアスな緊張感を出したりするのにも使えるし、モンスターのようなヘビーさを表現するのにも使える。この音階は、映画音楽やEDMで活用されています。

このいずれも、これまで学んできたどのスケールとも違う、「教会旋法」と呼ばれる新しいスケールたちを使って作られているのです。

スキップするのもあり

聴いてお分かりのとおり、新しい音階は新しいサウンドを曲にもたらします。しかし逆に言うと、普通のJ-Popやロックなどを作るぶんには、ほとんど必要のない知識であるともいえます。
ですから、あまり自分のジャンルにヒットしなさそうであれば、ここを飛ばして先にコード編のIV章へ進んだり、あるいはメロディ編のⅣ章へスキップしてしまうのもよいでしょう。

では、本題に戻っていきます・・・。


さて、教会旋法は、全部で7つあります。何はともあれそれをご覧いただきましょう。

教会旋法たち
教会旋法1〜4
教会旋法5~7

この7つが、かつての教会音楽を彩った旋法というわけです。いやあ、このそれぞれが、古典派クラシックの理論世界にはないユニークなサウンドをもたらしてくれるのだと思うと、ちょっとワクワクしますね!2

#2.コンセプトの理解

しかし! 先ほどの楽譜を見て、たいていの人はこう思ったはずです。「えっ、いや全部同じ音階じゃない? 全部Cメジャースケールでしょ」と。当然の疑問です。

違いは?

こちら、上は「ドリア旋法」で下は「アイオニア旋法」ですけど、白鍵だけ使ってる音階つったら、やっぱりCメジャースケールじゃないかと。新手の詐欺かと。そう思うわけですね。でもやっぱり、そんなことはありません。

さっき聴いたとおり、「ドリア旋法」には民族情緒があるし、「ミクソリディア旋法」には大胆なパワフルさがある・・・7つともちゃんと個性の異なった音階なのです。ここのコンセプトを理解するのが、ちょっと大変なんですけど、重要になってきます。

アイオニアンとエオリアン

まず先に言ってしまうと、「アイオニアンモード」は、確かにメジャースケールと同じです。いつもの「ドレミファソラシド」ですから、これはもう言い逃れできません。

メジャースケール

それから、「エオリアンモード」も、マイナースケールと同じです。見慣れた「ラシドレミファソラ」ですもんね。

マイナースケール

ただまあ歴史的に見ればこの「教会旋法」の方が先輩なわけですから、つまり、この「アイオニアン」と「エオリアン」の2つが生き残り、近代の世界ではそれぞれ「メジャースケール」「マイナースケール」と呼ばれるようになった。そういう話ですね。

  • アイオニアン = メジャースケールの昔の呼び名
  • エオリアン = マイナースケールの昔の呼び名

中心の認知

それでですね、もう一度初心に帰りましょう。メジャースケールとマイナースケールの違いは何だったでしょうか? それを思い出せば、教会旋法のコンセプトも把握できます。

思い出してね

答えはもちろん、「中心音がどこにあるか」ですね。我々には中心を認知する機能が備わっている。その「中心」次第で、同じ「白鍵を並べただけの音階」が、明るくも暗くも感じられるんでしたよね。
コード編ではもう長調主体で統合して話を進めているので、ちょっと忘れかけていたかもしれませんが、元々はそういう話でした。

フレーズ始まりや終わり、ロングトーンなどで「ラ」が多く使われていれば、マイナースケールとして認知され、全体のトーンも暗く感じられる。それは「認知」の問題なので、境目は曖昧である。って解説しましたよね。

だから全く同じように、フレーズ始まりや終わり、ロングトーンなどで「レ」を使うといった行為を行えば、レを中心として認識させることも可能なのです!

中心音

そして生まれるサウンドは、メジャースケールともマイナースケールとも違う新しい音響なのです! それが「ドリア旋法の音響」というわけ。

つまり、これまでセンターの座を取れる音というのは、「ド」か「ラ」だけだと思っていました。しかし実際には、どの音も中心になれる。そして、「メジャーキー」と「マイナーキー」の2つが確立されて圧倒的地位を得るよりも前には、7つの音それぞれがリーダーとなって音楽を形作る時代が実際にあったのです。

その時代にはそもそも調性(Tonality)という考えはなく、曲の中心となる音は終止音Finalis/フィナリスと呼ばれていました。

このような音楽の時代のことです。現代でも、「フィナリス」と同じような言葉でモーダル・トニックModal Tonicという用語があります。「メジャーキーorマイナーキー」の世界の中では、「トニック」になれるのはドかラだけ。でも、その世界観を飛び出せば、どの音も「モーダル・トニック」になれる可能性を秘めているというわけです。

コードの協力が不可欠

そうはいっても現代では、我々はもう、「ドレミファソラシドといえば、センターはドかラ」という耳になってしまっているので、きちんと工夫・配慮をしないと、リスナーに「レがセンター」と思ってもらうことはできません。現代においてリスナーに狙いどおりの「モーダル・トニック」を感じてもらうには、コード進行と協力する必要があるのです

いくらメロディが「レ」を強調したところで、コードがC-F-G-Cなんてやろうものなら、そこに「Cメジャーキー」という調性が生まれ、曲の“中心”はそっちに持っていかれて、「モーダル・トニック」は感じられなくなってしまいます。

こちらは、コードをずっとDmにして、フレーズ始まり終わりなんかも「レ」の音を積極的に使い、白鍵だけなんだけども「レ」が中心に感じられるようにした音源です。途端に、先ほどの「異国情緒」がもたらされました。
メロディはレを「モーダル・トニック」として押し出し、コードもDmを使うことでレを「トーナル・センター」として押し出す。二者が協力することで、メジャーキー/マイナーキーの世界から逸脱することができます

リーダー!

だんだん、これからやることがイメージ出来てきましたか?

我々はほんとうに「ドが中心」か「ラが中心」に慣れ親しんでいるので、それ以外を中心に感じさせるには様々な注意や工夫が要ります。ですからこのⅢ章では、各旋法ごとの特徴、扱い方、実例などを詳しく紹介していきます。

補遺

ちなみに、今回紹介した「アイオニアン」や「ドリアン」は、本格ジャズ理論でも使用される言葉なのですが、しかしそちらでは、言葉の使われる場面や意味合いが大きく異なります。そちらについては、コード編のVI章「ジャズの世界」にて取り扱いますので、ここでは言及いたしません。

「アドリブをレベルアップするには、7つのモードを覚えよう!」なんて話を見かけた時には、それはここで紹介する「教会旋法」とは異なるジャズ特有の使われ方をしていると思ってください。

今回のまとめ

  • 「長音階」「短音階」以外にも、しばしば使われる定番の音階があります。
  • そのうち、かつての教会音楽で使われていた音階たちを「教会旋法」といいます。
  • 「教会旋法」は全部で7つあり、うち2つは長音階、短音階と事実上同じものです。
  • 教会旋法を使うには、トーナル・センターの認知をうまくコントロールせねばなりません。

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