ドリア旋法

メロディ編 Ⅲ章:音階の探究
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今回は「新しい音階を知る」回です。

「教会旋法」の概念を前回は知りましたが、その具体的な導入をします。まず最初に解説する「ドリア旋法」は、特にゲーム音楽で異国風の雰囲気を出すのによく使われる音階です。ポピュラー音楽での使用頻度はやはり低いです。


教会旋法は、7つ。アイオニアン(=長音階)とエオリアン(=短音階)を除けば、5つです。今回はその中でも最も使用頻度が高く重要である「ドリア旋法」について解説していきます。

用語を整理

前回確認したとおり、旋法には旋法単体に目指す“中心”の音があり、一方でコード進行もコード進行で“中心”を形成する。二者が目指す中心を一致させることで、リスナーに狙いどおりのサウンドを聴かせられます。

そうすると、「旋法の中心」、「コード進行の中心」、そして「最終的にリスナーが感じる中心」という3つの中心についてここでは論じなければいけません。用語の混乱を避けるため、ここで一時的に、この章の中での用語の使い分けを明確にしたいと思います。

  • モーダル・トニック
    旋法(メロディライン)が構築する中心。
  • キー・センター
    コード進行が作り出す中心。
  • トーナル・センター
    最終的に感じられる音楽全体の中心。

ですから、「モーダル・トニックとキー・センターがケンカしてしまうと、トーナル・センターは不明瞭でよく分からない音楽になってしまう。モーダル・トニックとキー・センターを一致させてあげることで、リスナーに狙いどおりのトーナル・センターを感じてもらえる」というような説明になります。

#1 ドリア旋法の構造

改めて確認しますと、ドリア旋法は、「レ」を中心にして白鍵だけを使って作った音階です。

ドリア旋法

まず最初にチェックしなきゃいけないことは、これが普通の音階とどのように違っているかです。そのためには、「レから始まる普通のスケール」を思い出さねばなりません。それは・・・

比較

もちろんDメジャースケールとDマイナースケールですよね。

こうして見比べますと、まずDドリア旋法は、どちらかというとDマイナースケールの方に似ています。というのも、中心であるレから「お団子がさね」でコードを作ったとき、出来あがるのがDマイナーコードだからです。

マイナー寄り

では、マイナースケールとドリア旋法で何が違っているのかを見ると、それはシに♭が付いているか否かですね。

マイナーとドリア

こうして並べてみると、「ドリア旋法」と「短音階」は、一音しか違わないことがわかります。つまりドリア旋法とは、「マイナースケールの6番目の音を半音上げたもの」なのです。鍵盤で表現するなら、こういうこと。

変位

ですから、ただのマイナースケールよりも浮き上がったような雰囲気をかもし出します。この、ドリア旋法と短音階の違いを決定づける音のことを「特性音(Characteristic Note)」といいます。1 このほんの半音の違いが、異国情緒を生むのです。

#2 ドリア旋法のサウンド

では、改めてドリア旋法がもたらす異国のサウンドを再確認してみましょう。

上がこれまで慣れ親しんだDナチュラルマイナースケール、下はDドリア旋法です。差はシに♭が付くか付かないか。やはり浮き上がった感じがあります。

実際の曲も聴きましょう。ドリア旋法は、特にケルティック音楽でよく用いられることでおなじみです。「異国情緒」を感じるのは、そのせいかもしれません。


楽器のユニークさに注目が行ってしまいますが、実は音階自体が普通のものとは違うってことなんです。この曲の「民族らしさ」の陰には、「クラシックの基本と違う音階が使われている」という、非常に理論的な理由があるのですね。

また、その民族音楽らしさゆえ、ゲーム音楽でも頻繁に使われます。

ファンタジックで、なんとも言えない魅力がありますね。日本人の感性からしても、ある意味クラシック調より心惹かれるところがあるかもしれません。

ポピュラー音楽とドリア旋法

ポピュラー音楽では、決して一般的に使われるものではありませんが、この独特な雰囲気を活かすために使われることはあります。

こちらはサビがドリア旋法。地球規模の神秘的なメッセージを伝えるために、あえて民族調を取り入れたという感じですね。

比較して聴いてみる

改めて、それなりの曲にした状態で聴き比べてみましょう。


上が通常の短音階、下がドリア旋法。明らかに下の方が、民族音楽っぽさが出ていますよね。これがドリア旋法の持つ響きなのです。

#3 ドリア旋法の用法

さて、ここまでは「Dドリア旋法」で話を進めていましたが、例えば最も馴染み深い「Aマイナースケール」を加工して、ドリア旋法に変身させてみましょうか。

ドリアンを作る

ファに♯をつけてあげればよいんですよね。ここからは、この「Aドリア旋法」で話を進めていこうと思います。

ライバルのキーを確認

思い出しますと、たとえばDドリア旋法は、白鍵だけを使った音階。だから、作り方が悪いとCメジャーキーの曲だと間違えられる可能性もあります。

Aドリア旋法の場合はどうでしょうか? シャープがひとつ増えたので・・・

Gメジャースケール

Gメジャーキーと同じですね! こんな風に、ドリア旋法には必ず「ライバルのキー」が存在しますから、要注意です。言ってみればこの7つの音は、「放っておけば勝手にG音をトーナル・センターに仕立て上げる7人」です。作り手がきちんとそこをコントロールしてあげないと、「ウッカリしてたらいつのまにかGメジャーキーみたいになってた」という事態も起こりうるのだ。

こちらは、さっきと同じメロディ。でもウッカリいつものノリでコードをAmDEmなんて進行してしまった例。そうなれば、これはもう「Gメジャーキーの2-5-6の進行」になっちゃいます。案の定、Emに来たときに、ドミナントがトニックに落ち着く解決感が芽生えてしまっていますよね。
意図していた「モーダル・トニック」はA、でも「キー・センター」はGにしか聴こえない。こんな風に“衝突”が起こってしまうと、勝つのはトーナル・センターの方です。メロディの下地にあるコードの影響というのは、計り知れないですからね。

メロディが狙っている位置の中心音の確立を、コード進行もきちんとサポートしてあげる。「モーダル・トニック」と、「キー・センター」を一致させてあげる。それによって初めて、ちゃんとした「Aドリア旋法の曲」になります。
とはいえ、そういう“引力”の確保というのは、そんなに難しい話ではありません。とにかくモーダル・トニックのコードを弾きまくればよいのです。

こちらは前回のサンプル音源ですね。コードはVIm一発で、とにかく低音がずっと中心音を弾き続けているんでした。こんな風にやってあげれば、リスナーが感じる「モーダル・トニック」と「キー・センター」の位置を合致させることができます。

通常の曲ではサブドミナントのIVから始めてメロウな雰囲気を・・・なんてのが当たり前にありますけど、教会旋法を使うときにはそういう軟弱なのはやめましょう。潔く主和音から始めて、主和音で終わる。そうした方が、旋法の魅力も活きやすいです。

まあ、先ほどの2-5-6のような「いかにも」のコード進行を使わない限りは、普通に作っていればちゃんと「ドリア旋法の曲」になりますので、さほど心配することはありません。

#4 ドリア旋法の理論

とはいえ、何でもかんでも説明してまとめるのが音楽理論です。ここからは、ちゃんと全てを理論的に把握したい人のために、細かく解説をしていきます。 もうフィーリングでいけそうという人は、読み飛ばしてOKですよ。

Aドリア旋法は、ファに♯が着くわけですから、基本に使うコードも変わってきます。ふだんのコードたちがどう変化するかを確認しますね。

ドリア旋法の基調和音

ハイ。変化が起きていないものもあれば、変化しているものもある。それによって当然使いやすさなどが変わってくるので、それぞれが持つ役割を分類していきますね。

共通コード

まず、Aマイナーキーの時から何ら変化がないのは、以下4つのコード。

共通コード

Aマイナーキーと共通しているコードということで、ここでは共通コードCommon Chordと呼ぶことにします。共通コードはキー・センターの位置を狙いどおりに安定させてくれる強力な仲間たちです。

共通コードの中でも、主和音はもちろん飛び抜けて重要です。ドリア旋法の場合は、VImですね。それに次いで使うのがIとV。IIImは、本来のAマイナーキーを強く彷彿させるせいか、そんなに使われません。

ただしVの和音については、セブンスまで乗せるとシャープが登場してしまい、共通ではなくなりますから、ちょっと特殊な存在といえます。

注意点

ですから、Vのコードを使うときには、セブンスにしないのが基本ですね。GM7が鳴れば、それはやっぱりGメジャーキーを想起させてしまいますから。もしセブンスにして使う場合には、キー・センターが揺らがない範囲でさりげなく使うのがよいです。

特性コード

しかし、共通コードばっかり使っていたら、せっかくのドリア旋法らしさが湧いてきません。肝心の特性音を使っていて、かつトーナル・センターを脅かす心配もないコードを、ここでは特性コードCharacter Chordと呼びます。

特性コード

特性コードを用いることで、曲が普通の短調の曲とは違うのだということを強く印象付けることができますから、これは極めて重要な存在です。

ドリア旋法で使える特性コードは、IIだけです。このコードは、通常のAマイナーキーでも「二次ドミナント」として登場することの多いコードですから、使っても調性はほとんど揺らがない! だから安心して使えます。

こちらは「二次ドミナント」の回で紹介したVImIIVII7という進行。こんな感じでカジュアルに登場するコードですから、ファにシャープがついていようともさしたる心配はないわけです。

ドリア旋法の曲を構成するには、この「共通コード」と「特性コード」があれば十分です。VImを中心に据えながら、その他のコードで彩りを作っていきます。


こちらは、先ほどのVIm一発だった音源を、共通コード・特性コードでリハーモナイズして彩りを添えてみた例です。展開は豊かになりましたが、キー・センターは乱れずキープ出来ています。

VImIという進行は、一般音楽理論で禁則の「E²接続」ですが、旋法の曲ではこういった進行が普通によく行われます。むしろ、そういうクラシック理論から外れたコードの方が、「旋法らしさ」が際立つのです。

変性コード

特性音としてファに♯がついたことにより、全く聞き馴染みのないコードに変化してしまったものもあります。

変性コード

ドリア旋法では、この2つ。VIImについては、使えないことはないのですが、やはりAマイナーキーでお目にかかることのないコードであるため、キー・センターが乱れがちです。使うことが推奨されません。
IVm(-5)に至っては、特殊なコードになってしまっていますから、これを使ってしまうとドリア旋法の「古風な味わい」が削がれてしまうので、やはり非推奨です。

このように、元々は基調和音だったにもかかわらず、変位したことによって使うことが困難になったコードを、変性コードForeign Chordと呼ぶことにします。

補助コード

臨時記号を用いて一時的にドリア旋法本来の音階から離れてしまうことも、場合によってはバランス取りとして効果的です。

補助コード

ようは、Aマイナーキーでおなじみのコードたちですね。これらはみな、キー・センターを強力に安定させると共に、少し近代的な印象を混ぜ込ませることになります。このコードたちを、補助コードAuxiliary Chordと呼ぶことにします。

100%純粋なドリア旋法のムードを出したいのであれば、補助コードは使わない方が良いです。またIVのコードを使うときも、メロディで露骨にファ♮を使うことは避けた方がいいですね。

話をまとめると、以下のようになります。

  • 共通コード
    教会旋法じゃない時と同じ感覚で使用でき、中心を安定させる働きがある
  • 特性コード
    特性音が含まれており、旋法のサウンドを際立たせる効果がある
  • 変性コード
    響きが特殊で馴染みにくいため、使うことが推奨されない
  • 補助コード
    旋法のサウンドから一旦外れて通常の音楽に戻る働きがある

「共通コード」と「特性コード」だけを使って無理のないコード進行を作り、そこに魅力的な旋律を乗せていくのが基本の形となります。

用語について

この「共通・特性・変性・補助」という分類は、自由派独自のものです。そもそも一般的な音楽理論では、旋法における細かなコードの分類など行っていませんからね。

またバークリー系のジャズ理論では、「モーダル・ハーモニー」という名称で旋法の解説がされているのですが、これは“ジャズの中に”教会旋法を取り入れるために作られた理論です。今回のようなドリア旋法本来の民族風サウンドを生み出すための理論とはやや方向性が異なっていますので、ここでは紹介しません。

メロディのアプローチ法

またメロディについても、ちょっとした配慮で「モーダル・トニック」の権力を向上させることができます。Gメジャーキーでの傾性に従わないような動きをすればするほど「あれ、今はG音が中心ではないのかな? 引力の向きが違うもんな」という雰囲気になり、Amの支配力を安定させることができるのです。

メロディの配慮

まあ、実際の作曲においては、そこまで考えなくてもセンスできちんと作れるはずですよ。異国情緒をもたらすということで、ジャンルによっては大変有意義な知識です。

今回のまとめ

  • 「教会旋法」の中で最もポピュラー音楽と親和性の高いのが「ドリア旋法」です。
  • ドリア旋法は、マイナースケールの第Ⅵ音を半音あげたもので、ケルト音楽でよく使用されています。
  • そのような文化的背景からか、ドリア旋法は「民族風」「異国風」のサウンドを感じさせます。
  • 私たちがあまりにも「メジャーキー/マイナーキー世界」に馴染んでいるため、旋法的音楽を作る際には「モーダル・トニックとキー・センターの衝突」が起こりえます。それを避けるために、コード使いに工夫が必要です。
  • コードを「共通・特性・変性・補助」の4つに分類すると、どのようにコードを使い分けるかが明確になります。

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