目次
前回は二次ドミナントのアイデアの応用で、「Related IIm」や「ii-V Chain」を学びました。今回も、既知の技法を発展させてパワーアップさせます。
1. トライトーン代理を拡張しよう
IV章にて、「トライトーン代理」というものを紹介しました。いわゆる「裏コード」です。
V7をII7に変えても、ウマいこと肝心の増4度部分が残る。それにより、コードを置き換えても違和感があまりないという話でした。裏コードを忘れちゃっている人は、一度そちらの方を読み返してください。
この増4度の関係というのは、V7に限らず、ドミナントセブンスコードであれば必ず持っているものです。じゃあ、この「トライトーン代理」を、これまでに習得した他のドミナントセブンスコードでやってもイケるのではないか?それが今回の内容です。
2. 二次ドミナントを裏返す
そうはいっても、これまでに登場したドミナントセブンスコードと言えば、「二次ドミナント」だけですね。
改めてみると、やっぱりどのコードでも、増4度の解決が見られます。早速こいつらを、「トライトーン代理」を利用して、反対側のルートへ裏返してやりましょう。
II7の代理 : ♭VI7
まずは普通にII7を使った音源がこちら。
見やすいようにトライトーンは赤色にしておきました。このII7を地球の裏側、VI7で置き換えます。
オオォ! なかなかこれは、いかにもジャズって感じの雰囲気が漂いました。楽譜上はファ♯がソ♭に変わりましたが、もちろん音は同じ。
構成音としてはパラレルマイナーのVIに似ていますが、
VIがロックぽさを帯びているのに対し、こちらは増4度が生み出す妖艶な雰囲気により、もっと大人びた感じがします。
今回のようにVImII7Vという強進行2連発の状態で入れ替えることにより、ベースラインが半音で下降していく綺麗な形になります。
III7の代理 : ♭VII7
この調子でドンドンやっていきます。次はドミナントのIII7。
やはり強進行2連発を作るため、IIm7VIIIII7VIm7という進行になっています。このIII7を裏返すと・・・
生まれ変わってVII7となります。なんでしょうこの、溢れ出る「怪盗感」は…。やっぱりこれも、妖艶になりますね…。やはりパラレルマイナーの
VIIでは、ここまでのテイストは出せません。
このコードは、わりとポピュラー音楽に導入がしやすいコードでもあります。
こちら、サビ最初はIVΔIII7III–7VI–7という進行。このIII7を2周目では裏返してVII7にするという、まさに“代理”が分かりやすく行われている例です。「明日なんか来ると」のところですね。
今回は特に前置のコードがIVΔなので、このVII7はパラレルマイナーコードの
VIIΔにちょっと似たところがある。ただやはりドミナントセブンスのトライトーンが生み出す“ひねくれ感”がジャジーなテイストを生んでいます。
0:29-でリズムをジャッジャーンと決めているところが、妙に不気味な妖しさを漂わせていますが、そこがVII7です。
この曲はその手前もIIm7IΔ7VIIと下って来まして、そこから
VII7VImですから、ずっと2度ずつ下がっていく美しいコード進行になっています。
本当に僅かな差。でもその積み重ねでこのような美しい曲が作り出されます。
VI7の代理 : ♭III7
そうしたらば次は、VI7ですね。
4小節目がVI7ですね。今回もやっぱり、3-6-2という強進行2連発の形です。裏返すとどうなるでしょうか・・・
生まれたのはIII7です。こちらは先ほどの二つほど怪しげな感じはなく、ちょっとおどけたような雰囲気でしょうか?やっぱり聞き覚えがあるようでないような、変わったコード感ですね。
I7の代理 : ♯IV7
I7の代理は、他と比べるとショッキングさが大きい感じがします。ルートがドからファ♯に換わるということで、安定感の差がかなり顕著です。I7が「主和音にちょっと味をつけたもの」くらいの感覚なのに対し、ひっくり返したIV7は明らかな異物となります。
こちらは交換前。繋ぎをよくするため、I7の手前は普通のV7じゃなくV–7にしました。この5-1-4という流れを、5-♯4-4と変えるわけです。
だいぶ過激な感じになりました! 馴染ませるために、今回はホールトーンスケールを使いました。やっぱり♯IVというのはなかなか毒があります。でもそのわりには、よく成立していますよね。それはやはりトライトーンの力と言えるでしょう。
VII7の代理 : IV7
出番は少なかったですが、VII番目の和音を二次ドミナント化したVII7というヤツもありました。これももちろん、トライトーン代理が可能です。
VII7の時点でなかなかオシャレですけどね。しかしこの和音は古典派クラシックでよく使われていたので、古風と言えば古風。トライトーン代理によって生まれ変わらせましょう。
出来上がるコードはIV7です。こうするとかなり、ジャズっぽいな!って感じがしますね。
3. 演奏上のポイント
トライトーン代理を行う際のメロディメイクなのですが、やはり二次ドミナントが本来持っていたトライトーンの音を強調するようなフレージングをすると、良さが生きます。「ドミナントセブンスらしさ」を出してあげないと、パラレルマイナーあたりとそんなにサウンドが違わなくなってしまいますからね。
なんならジャズ理論では「コードだけ裏返して、使う音階は元のまま」なんていう外し方も技法の一つとして存在しています。
こちらはさっきのIII7を裏返したモノですが、実はサックスだけは裏返らずにそのままIII7のコードトーンを中心に弾き続けるように変えました。文字通り、「裏切り」をしているのです。そうすると、いくつかの音はVII7のコードと激しく不協和になりますが、それが良い緊張感になったりするわけですね。最重要であるトライトーンの響きはIII7もちゃんと持っているわけですから、曲としては驚くほど破綻しません。
そうすると逆に、周りは普通にIII7を弾いている中で、ソリストだけがVII7に行ってしまうというパターンの裏切りも当然考えられます。そんな風に、わずかな理論的根拠を頼りにメチャクチャなことをやっちゃうのが、ジャズの醍醐味だったりしますよ。
今回は模範的な、強進行2連発状態での使用例でしたが、他にも可能性はたくさんあります。特にジャズでは、転調のきっかけとして非常に優秀で、ii-Vと並んで基本的な技法のひとつです。ジャズっぽさを出したい場合に使うとよいでしょう。
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