音楽理論を学ぶか決める

音楽理論 序論

§9 自由派音楽理論

さてさて、序論もこれでいよいよ最終回です。前回の記事で、音楽理論のメリットについては十分理解できたかと思います。目に見えない音というものを、記録・記憶しやすいデータに変換してくれる存在であり、また既に発見された数々の技法が保管されたデータベースでもある。

ただ、その前に紹介したマイナス面を無視することはできません。そこをどうにかしてから先へ進みましょう。

問題点のおさらい

現代のポピュラー音楽理論の問題点はシンプルで、「音楽は変わったのに音楽理論は変わらないまま」ということです。ツァルリーノも、ラモーも、ジャズの人たちもみんな新しい音楽のために理論を新しくしてきたのに、ここ50年以上大きなアップデートをしないまま、ポピュラー音楽はなぜか自分とは様式も時代も異なる音楽理論の「お下がり」で済まされている。

焼き直し

そのため、各所で「ずれ」が生じます。「ポピュラー音楽理論の流派」では、それを音源も交えて紹介しました。ですが、問題点がどこにあるのか分かっているのならば、それを解決すればいいだけですよね。「自由派音楽理論」は、そのために作られました。最後は少し、このサイトが発信している「自由派音楽理論」について説明させてください。

平等の理論

自由派音楽理論は、クラシック理論・ジャズ理論を参考にしつつも、あくまでポピュラー音楽を中心、ポピュラー音楽を最優先ジャンルに据えて再構築された新しい理論体系です。

自由派は、ポピュラー音楽の型破りな手法を「これは例外です」「これは理論から外れた音楽です」と軽視して切り捨てるのではなく、むしろ「新しい手法」「現代の音楽を特徴づける重要な要素」とリスペクトして、真剣に研究することから始まりました。

味方

「禁則を破った名曲がたくさんあるから、音楽理論なんて意味ない」ではなく、「その禁則破りの事例をたくさん集めたら、今の理論の欠落を埋めてくれる重要なピースになるのでは?」という逆転の発想です。
つまり自由派は、これまで理論の“敵”であったはずの「音楽理論なんか知らないぜ、好きに作ってやる!」というロックスターやテクノスターたちの技を、まるまる“新しい仲間”として取り込みます。だから自由派には、禁則がありません。そこにはただ「伝統的な技法」と「現代的な技法」という、平等な関係があるだけです。

多様性の理論

クラシック系理論とジャズ系理論では、わりと根本で異なっている部分もあるという話をしましたね。だから言葉の定義で言い争いが起きたりもする。自由派は、どれかひとつがいちばん正しいという考え方をしません。それぞれに歴史があって、思想があって、理論体系の違いを理解することは音楽の違いを理解することに繋がると考えます。

多様性の包含

だから自由派は「派」を名乗ってはいますが、他の流派と対立する関係にありません。多様な思想を受容し、包含するように、体系が作られています。なるべく既存の言葉を使い、流派ごとに食い違うところは補足し、そしてどうしても不足する部分には新しい言葉を定義して、クラシック・ジャズ・ポピュラーという3つの異なる思想をひとつの箱に入れて眺められるようにしました。いわば「呉越同舟」、流派同士で争うのをやめて、協力することでもっと豊かな音楽理論観を作ろうということなのです。

クラシックのスタイル、ジャズのスタイル、ロックのスタイル、ダンスミュージックのスタイル。どれかを「正しい」と教え込むのではなく、それぞれの「個性」を教えてくれる音楽理論の方が楽しいに決まっている。そう思いませんか?

博愛の理論

ただ、中にはもちろん伝統派の理論をそのままの形式で学びたいという人もいますよね。安心してください。自由派のカリキュラムでは、まずポピュラー重視の形式から入りますが、終盤では伝統的なジャズ理論・古典派理論の入門まで学べます。つまり、自由派は伝統を愛する自由をも否定しないのです。

自由派が押さえる領域

初めから伝統理論が気になっている人であっても、この「時代を遡行するルート」はかなりお勧めです。というのも…

  • 挫折しにくい
    基礎がしっかりした状態で臨むので、内容の複雑な伝統理論でもキャパシティオーバーにならず理解できる。
  • 混乱しにくい
    いきなり伝統理論から入ると、現代に通じる部分と通じない部分を区別判断できないため、現実との違いに混乱したり、活用に苦労しうる。後から学ぶ方式なら、違いがクッキリと見えて、むしろ伝統理論の特色がよくわかる。
  • 染まらない
    先に流派ごとの違いを対比しながら学んでいるため、単一の思想(音楽観)に染まりすぎることがない。作曲の方法や音楽の分析法が固定される心配がない。

例えばあなたが自分の好きな音楽ジャンルを誰かに勧めるときのことを想像してみてください。本当はコアなところを勧めたいけど、でも「最初はもうちょっと馴染みのあるところから…」と配慮すると思います。“古典”の良さというのは、往々にして後から分かってくるものですよね。理論も同じこと。それを思えば、「共感しやすいところから始めて、徐々にルーツを辿っていく」という自由派の順序は至極真っ当だと感じられるはずです。

要するに自由派は、全てを肯定します。誰かにとっての良い音楽を教えてもらうためではなく、自分にとっての良い音楽とは何かを探すための理論です。

§10 結論を下そう

さて、果てしなく思われた序論も、これで終わりです。音楽理論という言葉の幅広さを知り、理論の歴史と発展を知り、現状を知り、メリットを知り、ついでに自由派音楽理論の概要も紹介しちゃいました。そろそろ決断を下すときです。

学ばない

ここまでの話を全部ふまえたうえで、「学ばない」という選択肢だってありえます。これを読んでいる人の中には、こんな方もいるはずです。

別に作曲で悩んではいないし、理論にそんなに興味はないけど、何か音楽理論をやってないやつの音楽はダメだという声が気になってここに来ました…。

もしそうであれば、「歴史と流派」の話を思い出し、安心して「学ばない」という決断をしてもらって構いません。音楽理論は2000年の知識の結晶なんかではないのだから。

もし貴方が今の自分の楽曲に迷いがなく、良いものが作れているという実感があるのなら、まだ理論の出番ではありません。音楽理論を学ぶのは、作曲する中で「何かが足りない」「自分独りの発想の限界を超えたい」といった膠着感を感じたときに、また検討すればよいのです。

また、まだ一曲も作ったことがないという人は、本当に簡単なものでいいので、まずは「自分の曲を完成させる」という経験を積むべきだと思います。それは歌モノならメロディだけのアカペラでいいし、器楽曲ならスマホアプリの簡易的な作曲で構わない。

こんな感じでね。まだ人に見せられないくらいの、1分くらいのちょっとした曲でもいいのです。曲を完成させるには、相応の根気が要ります。まずはそこからです。そこで得た経験もつまずきも、みんな音楽理論の学習の時の原動力になります。

他流派を学ぶ

自由派ではない他流派の理論を学ぶ選択肢も当然あります。ジャズクラシックに初めからどっぷり染まりたいのであれば最初からその流派に行くのもよいでしょう。情熱と覚悟があれば、いきなり本格理論でも習得できないことはないはずです。


それこそ民族音楽現代音楽なんかは、自由派が扱う領域の外ですしね。そういうジャンルへ進んでいく場合には、自由派はあまり役に立ちません。

並行して学ぶ

そもそも自由派と一般的な書籍を並行するのもいいでしょうし、今ならYouTubeの動画で音を聴きながら学ぶのもオススメです。もちろん一旦本格的な書籍を買ってみて、挫折したらまた自由派を検討するのもよいでしょう。というかむしろ、そういう複合的な学習法をとってもらった方が、自由派の意義をより明快に理解できると思います。先述のとおり自由派は多様性を愛していますので、どのようなやり方もウェルカムです。

自由派は複数流派を包含しているので、一般的な音楽理論コンテンツであれば、その内容と“食い違う”ことはないはずです。もっとも、「使えない」と言われたものを、「それはこう使うと面白いよ」と言うことは、あるでしょうけどね。

自由派音楽理論を学ぶ

もしこれから自由派音楽理論を学ぶと決めたのであれば、膨大な音楽理論のうちどの分野をどこまで学んでいくべきなのか、そのプランを一緒に考えていきましょう。目次にあった膨大な記事たちを、すべて読破する必要はありません。次の記事でその話をいたします。

音楽を理論的に見るようになっても、作曲のよろこびがなくなることはありません。むしろ、今までは見えていなかった音楽の深淵が、ちょっとずつ見えてきます。音の探求が、終わることはないのです。

プランを考える