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音楽理論を学ぶか決める

By 2021.09.17序論

9 自由派音楽理論

さてさて、序論もこれでいよいよ最終回です。前回の記事で、音楽理論のメリットについては十分理解できたかと思います。目に見えない音というものを、記録・記憶しやすいデータに変換してくれる存在であり、また既に発見された数々の技法が保管されたデータベースでもある。

ただ、それより前に紹介したマイナス面を無視することはできません。そこをどうにかしてから先へ進みましょう。

問題点のおさらい

現代のポピュラー音楽理論の問題点はシンプルで、「音楽は変わったのに音楽理論は変わらないまま」ということです。ツァルリーノも、ラモーも、ジャズの人たちもみんな新しい音楽のために理論を新しくしてきたのに、ポピュラー音楽だけはなぜか自分とは様式も時代も異なる音楽理論の「お下がり」で済まされている。

焼き直し

これを60年近く続けてきたものだから、各所の「ずれ」が深刻な状態にあります。「ポピュラー音楽理論の流派」では、それを音源も交えて紹介しました。ですが、問題点がどこにあるのか分かっているのならば、それを解決すればいいだけですよね。「自由派音楽理論」は、そのために作られました。最後は少し、そのことについて説明させてください。

禁則のない理論

自由派音楽理論は、クラシック理論・ジャズ理論を参考にしつつも、あくまでポピュラー音楽を中心、ポピュラー音楽を最優先ジャンルに据えて再構築された理論体系です。

自由派は、ポピュラー音楽の型破りな手法を「これは例外です」「これは理論から外れた音楽です」と切り捨てるのではなく、むしろ「新しい手法」「現代の音楽を特徴づける重要な要素」とリスペクトして、真剣に研究することから始まりました。

味方

「禁則を破った名曲がたくさんあるから、音楽理論なんて意味ない」ではなく、「その禁則破りの事例をたくさん集めたら、今の理論の欠落を埋めてくれる重要なピースになるのでは?」という逆転の発想です。
つまり自由派は、これまで理論の“敵”であったはずの「音楽理論なんか知らないぜ、好きに作ってやる!」というロックスターやテクノスターたちの技を、まるまる“新しい仲間”として取り込みます。だから自由派には、禁則がありません。そこにはただ「伝統的な技法」と「新興の技法」という、平等な関係があるだけです。

こうやって最新のサウンドを理論に還元してアップデートする方式は、歴史と流派の回で見てきたように、500年前からずっと続いてきた伝統でもあります。

流派を繋ぐ理論

クラシック系理論とジャズ系理論では、わりと根本で異なっている部分もあるという話をしましたね。だから言葉の定義で言い争いが起きたりもする。自由派は、どれかひとつだけが正しいという考え方をしません。それぞれに歴史と哲学があって、体系の違いを理解することは音楽の違いを理解することに繋がると考えます。

多様性の包含

きちんとそれぞれの流派の思想に耳を傾ければ、違いが生じた理由も納得できます。

だから自由派は「派」を名乗ってはいますが、他の流派と対立する関係にありません。多様な思想を受容し、包含するように、体系が作られています。クラシック・ジャズ・ポピュラーという3つの異なる思想をひとつの箱に入れて、いわば呉越同舟、流派同士で争うのをやめて、協力することでもっと豊かな音楽観を作ろうという狙いなのです。

クラシックのスタイル、ジャズのスタイル、ロックのスタイル、ダンスミュージックのスタイル…。そのどれかを「正しい」と刷り込むのではなく、それぞれの「個性」を教えてくれる音楽理論の方がずっとタメになると、自由派は考えます。

伝統を愛する理論

ただ、中にはもちろん伝統派の理論をそのままの形式で学びたいという人もいますよね。そんな人のために自由派のカリキュラムでは、まずポピュラー重視の形式から入りますが、終盤では伝統的なジャズ理論・古典派理論の入門まで学べます。

自由派が押さえる領域

この「時代を遡っていくスタイルの順路」は、もちろんポピュラー音楽の様式を最優先したいというのが最大の理由ですが、この方がより挫折しにくく、より深く伝統理論を理解できるという側面もあります。流派間の哲学の違いを対比させながら学ぶことで、ジャズ・クラシックそれぞれの相違点や特色がよりクッキリと浮かび上がるような構成になっています。

自由派は決して、伝統的な理論を否定する存在ではありません。単に「“普通の”音楽理論がただひとつだけ存在する」という幻想を捨てて、「型」を自由に持ち替えできる柔軟なシステムでやっていこうということなのです。

適材適所

10 結論を下そう

さて、果てしなく思われた序論も、これで終わりです。音楽理論という言葉の幅広さを知り、理論の歴史と発展を知り、現状を知り、メリットを知り、デメリットも知りました。そろそろ決断を下すときです。

学ばない

ここまでの話を全部ふまえたうえで、「学ばない」という選択肢だってありえます。これを読んでいる人の中には、こんな方もいるはずです。

別に作曲で悩んではいないし、理論にそんなに興味はないけど、何か音楽理論をやってないやつの音楽はダメだという声が気になってここに来ました…。

もしそうであれば、「歴史と流派」の話を思い出し、安心して「学ばない」という決断をしてもらって構いません。音楽理論は「千年を超える偉人たちの叡智の結晶」なんかではない。どこまでいっても単なる「情報ツール」にすぎず、学習コストに見合った実利が得られるかは、人それぞれの状況次第です。

もしあなたが今の自分の楽曲に迷いがなく、良いものが作れているという実感があるのなら、きっとまだ理論の出番ではありません。音楽理論を学ぶのは、作曲する中で「何かが足りない」「自分独りの発想の限界を超えたい」といった膠着感を感じたときに、また検討すればよいのです。

まずは作曲から

また、まだ一曲も作ったことがないという人は、本当に簡単なものでいいので、まずは「曲を作ってみる」という経験を積むべきです。それは歌モノならメロディだけのアカペラでいいし、インスト曲ならスマホアプリの簡易的な作曲で構いません。

最近のアプリはなかなか優れもので、理論を知らなくても大枠の「型」から外れないように調整されているようなモノもあります。

たとえ作る楽曲がまだ人に聴かせたくないくらいの小さな曲でも、「作品を作る」という行為自体がすごく貴重な経験値になります。あるいは結果的に挫折したとしても、理論なしで自分がどこまで出来るか、そして何が出来なくてつまずいてしまったのかが分かれば、理論を学び進める中で「自分に足りなかったのはコレか!コレでもう曲が作れるはずだ」というのが判りやすくなるはずです。

他流派を学ぶ

自由派ではない他流派の理論を学ぶ選択肢も当然あります。ジャズやクラシックに初めからどっぷり染まりたいのであれば、最初からその専門理論に進む方がきっと良い選択でしょう。そういう人にとっては、ポピュラー音楽の様式を優先する自由派音楽理論は逆に遠回りなコースになります。情熱と覚悟があれば、いきなり本格理論でも習得できないことはないはずです。


それこそ民族音楽現代音楽などは基本的に自由派が体系として取りまとめる領域の外ですし、そういうジャンルへ進んでいく場合に自由派はあまり役に立ちません。

並行して学ぶ

そもそも自由派と一般的な書籍を並行するのもいいでしょうし、今ならYouTubeの動画で音を聴きながら学ぶのもオススメです。というかむしろ、そういう複合的な学習法をとってもらった方が、自由派の意義をより明快に理解できると思います。どのようなやり方もウェルカムです。自由派は複数流派を包含しているので、一般的な音楽理論コンテンツであれば、その内容と食い違うことはないはずです。

自由派音楽理論を学ぶ

もしこれから自由派音楽理論を学ぶと決めたのであれば、膨大なコンテンツのうちどの分野をどこからどこまで学んでいくべきなのか、そのプランを一緒に考えていきましょう。目次にあった大量の記事たちを、すべて読破する必要はありません。次の記事でその話をいたします。

音楽を理論的に見るようになっても、作曲のよろこびがなくなることはありません。むしろ、今までは見えていなかった音楽の深淵が、ちょっとずつ見えてきます。音の探求が、終わることはないのです。

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