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ポピュラー音楽理論の流派

By 2022.04.10序論

さて、前回確認したおおまかな西洋音楽理論史を、もう一度おさらいしますね。

最小限の音楽理論史

ザックリですけども、こうなります。「古典派理論」と「モダンジャズ理論」が、理論界における二大流派である。その傾向と特色は、端的に言い表すならば以下のようなイメージでした。

二本柱

そして、どちらも現行のポップス・ロック・EDMといった「現代のポピュラー音楽」のために作られたものでは当然ない。それでは、いわゆる普通の“ポピュラー音楽理論”はどちらの流派から来ているのかという話になりますね。

6. “普通”の音楽理論とは?

しかし実のところ──クラシックやジャズの理論もそうだったように──日本の一般的な音楽理論というのも、その内容は決して統一されてはいないのです。「古典派理論」と「モダンジャズ理論」が入り混じったような形で各コンテンツが形成されていて、そこには著者のバックグラウンドが反映されます。

おおむね共通した部分が多くありますが、一方でどの流派の意見を採用するかで内容が割れる箇所や、異なる表記のバリエーションが存在し、また理論と現実とのギャップに対する向き合い方も、著者によって書き口が異なります。

重なり構図

厳密にいえば、モダンジャズ理論の一派であるバークリー音楽大学に由来する内容や表記を継承したものがマジョリティであるかと思いますが、ただクラシック系音大出身の方による本はまたやっぱり毛色が違ったりするし、もしくは2つの内容をミックスさせた本もあるし、そういった取り合わせが無限に考えられます。

そしてもし流派に関する説明がなければ、結果として「2冊で内容が食い違った時にどっちを信じればいいのか分からない」とか、「見解の違う2冊で学んだふたりで口論が起きる」とかいった問題が起きたりするわけです。

どちらが標準?

みんな同じ“ポピュラー音楽理論”を学んでいるはずなのに、なんであちこちで論争が起きてしまうのか? その背景には、流派をかけ合わせた様々な“ミックス種”が一律で「ポピュラー音楽理論」と称されているという事情があるのです。

音楽理論と音楽性

しかし何にせよ、クラシック理論とジャズ理論をうまくミックスして作った理論なら、ポピュラー音楽にもうまく適応できるのでは? という気もしますよね。そこをもう少し掘り下げてみることにします。

電子音楽 × 電子音楽の型

こちらは何ということもない小曲。ピアノでいうと白鍵だけを使ったシンプルな音楽です。どこにでもありそうなポピュラー音楽ですが、実は伝統理論に照らし合わせるとかなり“型破り”な作りになっています。これを従来の目線で分析すると……

見解の相違

まだFAmとか言われてもナゾだと思いますが、とにかくダメ出しをされまくっていることは伝わるかと思います。でも実際にはこれはもう“型破り”なんて評するほどのモノではなく、ごくありふれたパターンのひとつです。当然のことですが、クラシック/ジャズの混血によって作ったポピュラー理論では、それ以降の音楽で生まれた手法に関する情報はほとんど得られないという問題からは逃れられないのです。1

古典の型 × 電子音楽

“ポピュラー理論”書ではクラシックの型を基本型として解説するものも当然あるわけですが、ではその型に従うとどうなるのでしょうか。試しに先ほどの曲を“正しい型”に矯正してみます。

当然ながら18世紀クラシックの調子になってしまって、違和感がすごいですね。音楽と音楽理論の歴史を踏まえれば、こんな矯正はナンセンスなことだと分かります。

古典の型 × 古典クラシック

このようなお行儀のよい展開は、やっぱりクラシックのサウンドがあってこそです。逆にこのコード使いをそのままクラシック編成で使ってあげると…

このように、聴きやすい展開が優雅なサウンドと合わさって、完全にしっくりきました。

ジャズの型 × 電子音楽

“ポピュラー理論”書には、ジャズ時代に培われた技法も当然載っています。今度はそれらを駆使してみたらどうなるか試してみます。

これが好きという人もいるかもしれませんが、一般的に言えばこれは攻めすぎ、音が濁りすぎて受け入れられないでしょう。むろんこれは高度なテクニックを使わずに抑制すればいい話でもありますが、しかしせっかく勉強したのに実践では使わないのだったら、何のために勉強したのだという話にはなります。

ジャズの型 × ジャズ

この複雑に濁ったサウンドも、フォーマットがジャズであれば抜群にハマります。

これだったらいかにも大人のジャズという感じで、たいへんに魅力的ですね。こうして見るとやはりポピュラー音楽とクラシック・ジャズとでは求められる「基本の型」も違うし「応用の技」も違うわけですから、具体的なジャンルにもよりますけども、やはり“ミックス種”で何とかするには限界があります。読者は実情との食い違いに注意しながら読まないといけないし、ましてや「コレ自分はカッコイイと思うんだけど、理論書に例外的って書いてたから使うのやめようかな…」なんてことになったら、せっかくのセンスを理論が邪魔することにもなりかねません。

「ポピュラー音楽」とは?

確かに現代のポピュラー音楽にはクラシック・ジャズの血が流れてはいますが、しかしポピュラー音楽が受け継いだ血は決してその2つだけではありません。20世紀以降のポピュラー音楽の変化を見ることが出来る面白い動画があります。

こちらはレコード/CDのリリース数を元に1910-2019年の各ジャンルの勢力変動を可視化したもの。リリース数だけで音楽の人気を測れるものではないですが、大いに参考にはなります。

最初はオペラやマーチといったクラシック音楽が最大勢力だったところをまずカントリーが抜き、その後にジャズが流行り、ジャズが複雑化して「ビバップ」がランクインする頃から他ジャンルへと人気が移っていくさまを見ることができますね。そこからのジャンルの広がりは目覚ましく、シェアが多様なジャンルへ分散されていくのが分かります。

改めて見ると、ジャズがポピュラー音楽の中心だったのは80年近く前の話。その時代の“型”を中心に据え続けるのはもう難しい時代が来ているでしょう。本当は100年200年前の音楽に向けて作られた理論。それを「先人達の叡智の結晶」として教わってしまうと、「理論的に説明がつかないと気持ちが悪い」「禁則と教わったものはついつい使うのを遠慮してしまう」といった強迫観念に、知らず知らずのうちに囚われることになります。

同じアート/エンタメの分野でも、絵画やシナリオのセオリーというのは一般に受け入れられている。それに比べて“音楽理論不要説”がよく持ち上がる背景には、理論が現実の変化に対応していないという音楽ならではの事情も影響しているのではないでしょうか。

音楽理論に学ぶ価値はあるのか

さて、少しネガティブな話が続いてしまいました。でも、こうした課題は結局まとめ方や教え方の問題であって、工夫しだいで全然解決できる課題ではあるのです。だからまだ希望は捨てずに、今度は音楽理論を学ぶことによって得られるメリット・デメリットについて考えていきましょう。

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