歌い出しのタイミング

メロディ編 Ⅰ章:構造の分解

前回はメロディの長さに着目しましたが、もうひとつ忘れてはならないのが、フレーズが始まるタイミングです。
リズムというのは「小節」というまとまりをもって反復しているわけですが、その「一小節」のまとまりの中の、どの位置からフレーズが始まるのか?というのが重要な要素としてあります。特に歌曲のサビについて、どの始め方をするのかというのはちょっとした議題になります。

  • ①小節の先頭ぴったり(同時型)
  • ②小節の先頭より手前(先発型)
  • ③小節の先頭より後ろ(後発型)

この3つそれぞれが、音楽的にどのような効果を持つか?それを確認していくのが今回の要旨です。

#1.同時型のメロディ

①の同時開始型は最も明快単純でわかりやすい形です。「ドカーン」と一斉にはじまるので、全体の勢いは最も強く感じられます。そのため、アニメの主題歌なんかはこのパターンをよく見かける印象があります。有名どころでいうと「創聖のアクエリオン」のサビが「ドカーン」の典型例です。

この勢いやカタルシスは、この「同時型」だけがもつ魅力です。
この①同時型は真っすぐでクセのない感じがするので、素直で飾り気のない表現がしたい曲によく似合います。

こちらは「カードキャプターさくら」の主題歌「プラチナ」。素直で素朴な可愛さがしっかり出ています。

ロックともよく合う

「一体感」が魅力なわけなので、みんなでノッてこう! 的なロックソングともよく合います。

こちらサビで「YOU ARE ROCK ‘N’ ROLL」と歌う、典型的なロックの曲で、「同時型」のパワーを生かしたメロディになっています。

この「歌い出しのタイミング」は、実はけっこう癖の出やすいところです。ですから10曲20曲を作ったあたりで、偏りがないか確認してみるとよいでしょう。まあ、偏っていたとしても、それが個性だと思えば全然何の問題もないんですけどね。

#2.先発型のメロディ

②が実は、メロディメイクでは一番効果的と言われる形で、弱起(アウフタクト)という名前がついています。メロディが全体をリードする形になるので、歌曲では最も歌を引き立たせる形といえます。
そのため、サビが弱起で始まる曲というのは無尽蔵にあります。今回はその効果が分かりやすい例をピックアップしてみます。

春の歌 / スピッツ

ザ・典型例。 ボーカルだけが「春の」と先行することで、タイトルを際立たせています。スピッツのヒット曲は他にも弱起が多く、「チェリー(愛してる〜)」「空も飛べるはず(君と〜)」「青い車(君の〜)」「スパイダー(だから〜)」「楓(さよなら〜)」「冷たい頬(夢の〜)」「運命の人(アイニージュー)」「遥か(すぐに〜)「魔法のコトバ(魔法の〜)」など全てボーカルが先行します。

白い恋人達 / 桑田佳祐

「今宵」が先行して全体を引っ張ります。このようなバラードでは、先行型のメロディは「押し寄せる感情」とでもいった雰囲気を良く演出することができるので、愛用されています。

初日 / AKB48

こちらも、「夢は」という大事なフレーズを先行させることで、サビのテーマ性をビシっと最初に提示しています。またこの曲では、大サビに入るときに「夢は」を歌った後に1拍タメてからサビに入るという演出法が使われています。こういうことが出来るのも、アウフタクトならではですね。
ほか、AKBの曲では「RIVER(君の〜)」や「桜の木になろう(永遠の〜)」「ヘビーローテーション(I want〜)」など、弱起の例は多いです。1

Love / John Lennon

洋楽でも、弱起の強さは変わりません。ジョンレノンのLoveは、「Love is…」という肝心の歌詞が毎回毎回アウフタクトになっています。当然コード進行もその後に続く単語と一緒に変わるので、それも印象的です。特に、中盤の「Love is you」の部分などまさにアウフタクトの妙です。哲学的だった歌詞が一瞬でラブソングに変わる瞬間、「you」が出てくる瞬間にコードが転調するのです。この構成は地味ながらすごい。

I Want It That Way /バックストリート・ボーイズ

これは他と似て非なるパターンで、最も重要なフレーズである「Why」を先頭にビシっと置くために、「Tell me」を先に言ってしまっている形です。Whyを際立たせるための布陣ということ。

こんな風に「これぞ」という歌詞&メロディを小節頭より先行させるパターンは、ありすぎて紹介しきれないです。これが歌モノの定番パターンなんだぞということを心に留めていてください。

#3.後発型のメロディ

そう考えると、歌曲においてメロディが後から来るのは変わったパターンと言えます。バックのサウンドで先に世界観を提示したうえで後から乗るということで、バックのサウンドが曲の雰囲気をしっかり演出しているような曲でこの形が多いです。

こちらには特に決まった名前はついていませんが、呼び名がないと困るので、ここでは「後発型」と呼ぶことにしましょう。

Speed of Sound / Coldplay

サビはじめから新しいシンセやギターの音が鳴って、その後から歌が入る。この順番によって、ボーカルの人が広大に開けた世界の中に包まれて歌っているような、スケールの大きい情景が浮かんできます。
アウフタクトが歌い手の心にズームインするようなイメージであるのに対し、後発型はズームアウトして情景を広げるイメージです。

光 / 宇多田ヒカル

クラッシュ・シンバル的な音がキラキラしていて非常に印象的で、歌が遅れて入ることでこのキラキラが非常に目立ちます。タイトルどおり「光」の音世界を1拍目で広げているわけです。この曲はABサビどれも後発型ですね。

Sir Duke / Stevie Wonder

Aメロとサビが後発型です。こちらもかなり似た意味合いで、パーティー会場に足をふみいれ、賑やかな空間がブワッと目に飛び込んできて、そのあと「ようこそ」と迎えられるような、そんな感覚がしませんか。「ゆっくり楽しんでいってよ」と、空間に先に招き入れられる感覚です。

その他「パーティー会場系」の音楽

ゆったりしたダンスチューンには、後発型がよく似合う。そういう感じがしますね。

Clarity (feat. Foxes) /ZEDD

続いてこの曲はA・B・サビすべてが後発型です。「もし私たちの恋が狂っているというなら、どうして貴方は私をこんなに澄みきった気持ちにするの?」という歌詞の悲恋失恋ソングで、普通に考えたら感情にズームインするアウフタクトがいいのではと思ってしまいます。
しかし聴けば聴くほど、この曲のばあい、「現実に置いて行かれて取り残されている感じ」がすごく滲み出ているなあと感じるのです。
歌詞は極めて主観的な目線であるため、これでアウフタクトだと過剰な感じがしてしまうかもしれません。後発型の「独りよがりな悲恋を遠目のカメラワークで外から眺めている感覚」が、いっそうわびしく、この曲の悲しさを引き立たせていると思いました。

その他の「悲恋系」の音楽

この「ちょっとおかしな感じの人の取り残された悲恋ソング」はBGM先行型と相性がいいようで、どれもこれも「現実に置いて行かれた悲愴感」が滲み出ているような気がしてきますね・・・。

例外があることを承知でザックリとまとめるならば、こんな風に言えそうです。

  • ①同時型
    “共時的”であり、平坦である代わりに伴奏との一体感がある。ストレートで素朴、もしくはパワフル。
  • ②先発型
    “叙情的”であり、心情にズームインする感じがある。感情的、印象的。聴き手を引きつける。
  • ③後発型
    “叙景的”であり、ズームアウトして客観的になった感じがある。広大さ、空間性の表現。

たとえばメロディメイクがマンネリ化してきたときに、アウフタクトに頼りっきりになっていないだろうか?とか、情景が中心な曲を書いてみたいときに後発型を使ってみようかなとかいう風に、この分類を活用してみるとよいでしょう。

総括
  • メロディの歌い出しが小節頭ぴったりなのか、前後にずれるかで、曲想に大きな変化が現れます。
  • ①同時型」は「共時的」、「②先発型」は「叙情的」、「③後発型」は「叙景的」。

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