順次進行と跳躍進行

メロディ編 Ⅰ章:構造の分解

前回はフレーズの反復というわりと抽象的・根本的な話でしたが、今回は具体的に、ひとつのフレーズを作る際に重要になる「タテの関係性」についてやっていきます。

§1 音域

言うまでもなく、メロディは高くなればなるほど高揚感を生み、低いほど落ち着きを生みます。これは歌モノであっても器楽曲であっても同様で、あるメロディの走っている位置が、曲の中でいうと高い方なのか低い方なのかという意識は、常に持ちます。

盛り上がる場所を高くすることは当然ですが、そこを引き立てるために他の場所を抑えることも重要です。慎ましやかに抑えるべきを抑え、盛り上げるべきを盛り上げるだけで、聴いていて気持ちのよいメロディになります。

邦楽でいうとMr. Childrenはやっぱり抑揚が豊かでスゴイですね。ミスチルは、サビのコード進行なんかはけっこうワンパターンで、王道のコードがとても多いです。でもメロディは豊富な音域を活かした上下の激しい移動が特徴で、そのような印象的・特徴的なメロディラインで、かつ自然で聴きやすいものを生み出すというのは、大変なことです。

どの曲も、思いっきり上げるところと落ち着かせるところのメリハリがハッキリしていて、構造が聴き手にとってもわかりやすい。あっちもこっちも盛り上げればいいというわけではなく、メリハリなのです。

また、サビに最高音を持ってくるのは当然としても、サビの最初から最高音なのか、最後の方で最高音なのかによっても展開性は全く変わってきますね。

最初にピークを置いた曲

出し惜しみせずピークを最初に置くと、盛り上がりやすい、分かりやすい曲になりますね。

In My Place

サビ頭の「Yeah」がそのまま最高音。本当に、分かりやすいですね。とにかく、メロディが分かりやすくって悪いことは何ひとつありません。シンプル・イズ・ベストの、とても良いメロディです。

ソラニン

こちらもサビ頭の「たとえば」のところでいきなり最高潮。やっぱりノリのいい曲というのは、変に後ろに引っ張らず、早期に最高音に達してしまう方が、ベタな盛り上がりを作りやすいでしょうね。また、最高音を一回で終わらせず、定期的に繰り返すことで、リスナーに十分な情感的満足をもたらすことができます。

最後にピークを置いた曲

逆に壮大な感じのバラードでは、やや上に余裕のある高さから入って、最後にピークが来る形がよく見られます。

himawari

こちらまさに、壮大なバラードの典型。前半もそこそこの盛り上がりを作ってはいますが、最初のブロックは「ミ」がMAX、次は「ファ」がMAXと、少しだけ天井に余裕を残しています。そしてラストの「そんな君に」のところで真の最高音に到達する。バラードはこんな風に、最高潮の盛り上がりまでの“プラン”をよく練ってあげるのが重要だったりします。

ビギナー段階での作曲では、とにかくこの「天井に余裕を残す」ということを忘れがちで、特にAメロBメロの段階でかなり音階を広くとってしまうことがあります。その辺りをうまくコントロールするペース配分が出来るようになれば中級者です。具体的にどんな風に調整するとよいかは、もう少し後の「声域区分法」のところで紹介しますよ。

Check Point

サビでの最高音の「場所」と「回数」が、盛り上がりをコントロールする重要なファクターになる。

最高音をムダ使いせず、よく活きる形で使ってあげられることが、メロディメイクにおけるセンスのひとつである。

§2 メロディの進行種別

続いて、メロディがある音から次の音へ動くときの音程差に注目してみましょう。

上行と下行

メロディが次の音へつながるとき、その音程の変化は当然上がるか、下がるか、同じかの3種類しかありません。音楽理論ではそれぞれ「上行・下行・保留」といいます。「保留」だけちょっと、聴きなれない用語だと思うので、覚えておいてください。

移動種別

これは直感的なことですが、上行するメロディには力強さや高揚感が、下行するメロディには落ち着きや安らぎが感じられます。藝大の教科書を作ったことでおなじみ島岡譲氏は、この性質を”重力”に喩えてこう表現しています。

音はまた「上行」するときには緊張を増し、「下行」する時には緊張を減ずる。あたかも空間的上昇に際しては重力の抵抗を覚えるのにも似ている。(中略)上行は音重力に逆らうことを意味し、下行はこれに順応することを意味する。
島岡譲,外崎幹二 「和声の原理と実習」,p230 / p250

音重力」というのは、ナイスな比喩です。いちいち「上がると高揚感、下がると落ち着き」なんて説明するより、漢字3文字で収まってスッキリしてますね。今後もこの「音重力」という言葉は適宜使っていきます。

順次と跳躍

さらに細かく分類を考えると、移動量についても「ドレミファミレド」のように一音差で滑らかに移動するのか、はたまた「ドミソ」や「ドからオクターブ上のド」のように大きく移動するのかで分かれます。

となりの音(2度差)への滑らかな移動を順次進行Stepwise、それより大きい高低差のある移動を跳躍進行Skipwiseと呼びます。1

保留/上行/下行と組み合わせると、メロディにおける2音の継時的関係は5種類に分別されることになりますね。

移動の5種別

順次進行は穏やかな曲想を作り、跳躍進行は劇的な曲想を作ります。これはメロディの極めてベーシックな要素のひとつですね。

コレについても大事なのは、メリハリです。ドラマチックにしたいところで思いっきり跳躍する。抑えるべきところでは同音進行や順次進行でなめらかなラインを作る。そうした意識をフンワリと持っておくだけでも、何も考えずに作るのとは違います。こちらも、いくつか興味深い例を挙げてみます。

名もなき詩 – Mr.Children

サビの「あるがままの」は、まず順次下行をして落ち着いたかと思いきや、いきなり1オクターブ上へ跳躍上行します。この「順次下行」と「跳躍上行」という正反対の組み合わせが、まるで跳び箱の踏切台をグッと踏み込んでから大きく飛び上がるような、そういう勢いを感じさせてくれます。一方その後の「檻の中でもがいているなら」は、順次進行だけでオクターブ上まで進んでいて、このコントラストもまた印象的ですね。

[Alexandros] – ワタリドリ

跳躍の幅がすさまじいのがこちらの曲。「一心に」から「羽ばたいて」のところで、ドからオクターブ上のミまで、実に10度の跳躍上行をしています。実は純粋に音の高さでいえば、「羽ばたいて」の「羽」は、「追いかけてとどくよ」の「ど」と同じです。でも「羽ばたいて」パートの方が、落差があるぶんドラマチックに感じますよね。こういうところに、時間芸術である音楽の面白さがあります。

また、この大きなジャンプが「羽ばたいて」という歌詞と完璧にマッチしているところも見過ごせません。ポピュラー音楽においては、歌詞とメロディの合わせ方はめちゃくちゃ重要です。足し算じゃなく掛け算というか、相乗効果を起こすことがカギになります。

She Will Be Loved – Maroon 5

大きな跳躍をするのではなく、「跳躍を大きく感じさせる」という技もあります。

こちらメロはほとんどが順次で、サビに入っても主音と導音を行ったり来たりするだけで抑揚なし。しかしサビ後半でタイトルである”She will be loved”という歌詞を歌うとき、満を持して5度の跳躍をするのです。

1オクターブ以上跳躍するような上の例に比べると5度というのは控えめですが、コントラストが明確なため、十分な盛り上がりが感じられます。

For フルーツバスケット – 岡崎律子

むろん盛り上がりを作るだけが目的ではなく、一曲を通して飽きさせないようバリエーションを豊富にするという意味でも、この順次/跳躍の観点をマスターしていることは重要です。

メロは穏やかな順次進行がベースで、ちょこっとした跳躍があるだけ。一転してサビは跳躍進行で下がって上がってという起伏の激しいメロディから始まり、そこからひときわ高い場所へスキップし、その後は順次で下がって落ち着く。この辺りの構成やバランスが完ぺきです。シンプルながら心に響くメロディは、やはり響く理由があります。

もちろんこれらの曲を作った人が考えながら作っていたワケは(おそらく)なく、センスの賜物であるわけですが、センスを磨くためにもこうした原理を知っておくことは大事ですね。自分の作ってみたメロディが何か物足りないとか、メリハリがないと感じるときに、分析する手段にもなります。

ここからさらに、順次進行を詳しく掘り下げていくのですが、一旦ここで区切ります。

まとめ
  • 音域のコントロールは重要です。高い音程は、意味のある位置に持ってくると効果的です。
  • メロディの進行は「保留(同音進行)」「順次上行」「跳躍上行」「順次下行」「跳躍下行」の5つに分類できます。
  • 順次進行と跳躍進行のメリハリは、印象的なメロディの鍵となります。

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