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メロディと伴奏の時間関係

2. 歌い出しのタイミング

もうひとつ歌と伴奏の関係性で注目すべき点として、パートの始まりに対して歌がどのタイミングで入ってくるかというのがあります。

例えばメロからサビへパートが移るとき、伴奏隊は楽器をジャーンと鳴らしたり、シンバルをバシーンと鳴らしたりして、サビに突入したことを明示しますよね。そこがメロとサビの区切りということになるわけですが、その区切りに対してメロディがどう乗ってくるかというのは3種類に分けられます。

メロディのタイミング
  • ①小節の先頭ぴったり(同時型)
  • ②小節の先頭より手前(先発型)
  • ③小節の先頭より後ろ(後発型)

この3つですね。3つそれぞれがどのような効果を持つのかを、確認していきます。

3. 同時型のメロディ

①の同時開始型は最も明快単純でわかりやすい形です。全員がドカーンと一斉に始まるので、その瞬間のエネルギーの総量は三種の中で最も強く感じることになるはずです。

特徴的な4曲をピックアップしました。

「創聖のアクエリオン」は、サビの直前で全員の演奏が一旦止まりますね。「ブレイク」と呼ばれる演出技法です。全員が止まってから、歌も含めた全員で一斉にサビへ突入する。「同時型」のメロディが持つ一体感を活かす最もベタなテクニックと言えます。

「American Soul」も似たようなことですが、こちらはギターが残り、ドラムのフィルインがあってからサビという、ロックバンドならではの形になっています。「同時型」にはパワフルさや豪快さがあるので、「You are Rock ‘n’ Roll!」と叫ぶ今回のような曲にはピッタリ。ロックとの相性がいい表現法でもありますね。

「Pick Me Up」はサビの前に「3,2,1」というカウントダウンが入っているのが特徴。カウントダウンしたからには、小節の頭ぴったりに入るのが理想的な演出になるでしょう。

「恋」は、サビが始まる瞬間だけでなく、その後もほとんどのフレーズにおいて小節の頭から綺麗に入っているのが特徴です。比較論としてはこの「同時型」は最もシンプルで分かりやすい歌いやすい、大衆性のあるスタイルだとも言えます。加えて区切りの分かりやすさは、ダンスの振り付けの分かりやすさにも繋がりますよね。「誰もが親しみやすい」という方向性を考えたときに、小節頭から始まる「同時型」は強みになります。

このように、「同時型」は一体感・パワフルさ・豪快さ、あるいは明快さ・分かりやすさ・シンプルさ・素朴さといった要素を持っていて、それを活かすようなテーマ性や演出・構成などがあると相乗効果を発揮することができます。

4. 先発型のメロディ

②が実は、メロディメイクでは一番効果的と言われる形で、弱起Auftakt/アウフタクトという名前がついています1

多くの曲では、小節の頭でコードが切り替わったり、クラッシュシンバルが鳴ったりしますよね。アウフタクトはそれよりも“フライング”で歌い始めるわけなので、そのぶん聴き手の注意を引き付けることで「小節頭の音をハイライトし、強調する働き」があるとされます2

メロディが全体をリードする形になるので、歌曲では最も歌を引き立たせる形といえそうですね。今回はその効果が分かりやすい例をピックアップしてみます。

春の歌 / スピッツ

ザ・典型例。 ボーカルだけが「春の」と先行することで、タイトルを際立たせています。先発型の中でもこんな風に周りの楽器が全員消える演出を伴うものは、いちばん「ボーカルを聴いて!」というのが分かりやすい、聴き手に優しい演出と言えますね。

Make You Happy / NiziU

NiziUの代表曲「Make You Happy」も先発型ですが、こちらは少し歌詞との関係性が異なります。この曲においては先行する「Ooh I just wanna」の部分は歌詞としてはあまり重要でなく、それが先行した結果としてタイトルである「make you happy」の部分がサビの頭に来るという点が重要です。

ですからこの場合は歌が先陣をきって音楽をリードというよりは、ドラムのフィルインと足並みを揃えた“助走”のような役割をアウフタクト部分が担っていて、盛り上がりのインパクトの重心としては「同時型」に近いものがあると言えます。その後の「What do you want? what do you need?」の部分も同様にwant,needという単語があくまでも主役で、「What do you」部分は助走という構図。こんな風に、強調の度合い次第ではアウフタクトを軽い助走のように使うこともできるわけです。

Love / John Lennon

この曲は「Love is…」という肝心の歌詞が毎回毎回アウフタクトになっています。結果として、「Love is ○○」という歌詞が提示された直後にコードが変わるため、語り手のメッセージに応じて背景が変わっていくような、心地よい展開が演出されています。

特に、中盤の「Love is you」の部分(1:49)などまさにアウフタクトの妙が光るところで、哲学的だった歌詞からラブソングに変わる瞬間、「you」が出てくる瞬間に曲が転調します。まるで歌のメッセージの力に音楽が引っ張られたかのような印象をリスナーに与えることができます。

「先行型」はこんな風に、メロディと歌詞が音楽全体の方向性をリードしているような構図を描きたいときにベストな選択肢と言えます。もちろん歌モノに限らずとも、「注意を引きつける」という効果はどんなジャンルでも利用価値が高いですね。

5. 後発型のメロディ

そう考えると、歌曲においてメロディが遅れてやってくる「後発型」はやや変わったパターンと言えます。

Sir Duke / Stevie Wonder

こちらはAメロとサビが後発型です。このような「ゆったりしたパーティー」感のある曲では、歌が落ち着いて後から入ってくる形が自然に聴こえるという側面はあるでしょう。

その他の「ゆったりしたパーティー」の音楽例

いずれもサビが後発型です。先発型は悪く言うと「歌が押し付けがましく前に出てくる構図」とも言えるので、こういう曲では歌が一歩後ろに引く形が活きているという見方ができます。

心情反映としての後発型

先発型が「気持ちが急いて、言葉が先走ってしまう」ような人間の精神状態と対応しているとすれば、後発型は逆に「気持ちが追いつかず、言葉が出てこない」状態と対応すると言えるかもしれません。「伴奏は空間と時間、歌はそこに乗る人物」という構図から考えるなら、後から入ってくるメロディというのは、まさしく時間の流れに置いていかれた人物の姿に見立てることができます。

そのような構図があるからか、失恋や喪失をテーマにした名曲たちの中に、ちょこちょこと「後発型」を発見することができます。

Tears In Heaven / Eric Clapton

この曲は、幼くして亡くした息子に向けた哀悼の歌で、全パートがみな後発型のメロディでスタートします。小節頭にメロディが不在で後から追いつくという構図が、わびしさや勢いのなさの演出に繋がり、曲をより寂しげなものにしています。

その他の「悲恋系」の音楽例

いずれもトボトボした感じ、ジメジメした感じを演出するのに、「後発型」が一役買っていると言えそうです。

サウンド映えとしての後発型

それからもうひとつ、純粋に歌以外のサウンドを聴かせることに重点をおいた結果としてメロディが後ろに引いているという構図もあります。

こちら、ボーカルの山口氏がリズムに合わせて体を揺らしていることからも分かるとおり、ベース・ドラム・シンセがいっぺんに「ジャン!」となるフレーズが曲のアイデンティティとなっている一曲。そのためか、それぞれの連において頭の「ジャン!」がちゃんと鳴ってから歌が入ってくる形になっています。
実際問題として音源に収める場合には、全員がいっぺんに音を鳴らせばそれだけ個々の音量は絞らざるを得ません。たいていドラムやベースは頭でガツンと鳴るので、タイミングをずらすことでそれぞれの音をクリアかつ大音量で聴けるという音響上のメリットが後発型にはあります。

ちなみにこの曲の場合、サビでは一転して「先行型」ですが、こちらもユニークで、先行している間にフレーズを歌いきって小節の頭はポッカリ空白を作る構成になっています。結果としてこちらも、小節頭の「ジャン!」がしっかり聴こえるようになっています。

簡単なまとめ

例外があることを承知でザックリとまとめるならば、こんな風に言えそうです。

  • ①同時型
    伴奏との一体感があり、ストレートさ、素朴さや力強さの表現に長ける。
  • ②先発型
    歌が注意を引きつけ、強いメッセージを伝えるのに長ける。
  • ③後発型
    背景空間が強調され、歌は控えめに見え、全体から置いていかれたような見せ方ができる。

たとえばメロディメイクがマンネリ化してきたときに、アウフタクトに頼りっきりになっていないだろうか?とか、情景が中心な曲を書いてみたいときに後発型を使ってみようかなとかいう風に、この分類を活用してみるとよいかと思います。

まとめ

  • メロディを変化させずに、伴奏のコードを変えることでメロディの聴こえ方を変えていくという手法もあります。
  • メロディ中の空白部分には音楽全体のスピード感をコントロールするような働きがあり、同じテンポでも空白の多さで緩急をつけることができます。
  • メロディの歌い出しが小節頭ぴったりなのか、前後にずれるかで、曲想に大きな変化が現れます。
  • 小節頭よりも手前からメロディが始まる形を「アウフタクト」といい、聴き手を引きつける働きがあるため、特に歌モノにおいては効果的な技法です。
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