「減三度型Blackadder Chord」のコードスケールについての考察

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      先日書き込まれた柏崎でぃすこ氏による「『減三度型Blackadder Chord』について」(https://soundquest.jp/ch/topic/74160/)という投稿、及び同氏のnote(https://note.com/ka_disco/n/n68409957da86)を拝見し、減三度音程を含むBlackadder Chord(以下Blk)について考察されている方がいらっしゃることに感銘を受け、個人的に同様のコードについて考察していたためこちらに書き込ませていただいている次第であります。

      私が主に述べたい内容は、減三度型Blkのコードスケールについてです。
      もちろん文脈によって使用される音階は異なることでしょうが、一つの例として、リーディングホールトーンスケール上で三度堆積をおこなうことでBlkが発生することを書きたいと考えます。

      リーディングホールトーンスケール(長いのでLeading Whole-toneを略して以下LWTと書きます)はその名の通り、ホールトーンスケールに導音を付加したスケールのことです。
      移動ドで記述すると、構成音は
      「ド レ ミ ファ♯ ソ♯ ラ♯ シ」
      となります。
      このスケールはナポリタンメジャースケールの第Ⅱ Modeとしても知られています。
      (ナポリタンメジャースケールは「ド レ♭ ミ♭ ファ ソ ラ シ」で構成される音階)
      そして、LWTの第Ⅵ Mode(=ナポリタンメジャーの第Ⅶ Mode)の構成音は
      「ド レ♭ ミ♭♭ ファ♭ ソ♭ ラ♭ シ♭」
      となり、このスケール上で三度堆積をすることによって、Blkを発生させることができます。
      (理論上テンションは♭11thと♭13thですが、後者はまだ可能性がなくはないとしても、前者は実際に鳴らすと長三度と捉えられる恐れがありますから実用的ではないかもしれません)

      今回注目したいのは、LWTがあくまでホールトーンスケールに一音足しただけのスケールである、という点です。
      ジャズ的な文脈、或いは近年の複雑化しているアニソン・ボカロカルチャー等、ポピュラー音楽の場面においてもホールトーンスケールが出現することは少なからずあると感じています。
      一方で、ホールトーンスケール的でありながら半音差を含む箇所を持つエニグマティックスケールに関して、SoundQuestメロディ編Ⅳ章では「『ホールトーンスケール』よりも半音差がチラホラあるぶん、フレーズが作りやすいかもしれません」、との言及があります。
      https://soundquest.jp/quest/melody/melody-mv4/prescribe-scalesより引用)
      ここから、完全なホールトーンスケールだけでなく、それと近いが半音関係を含むスケールの出番もあり得るのではないか、という考察ができます。
      例えば、ホールトーン型Blkを使用する上でフレーズの都合上半音関係が使用したくなった場合などにおいて、LWTが活躍する場面もあるのではないでしょうか。(ただしその場合は必ずしも減三度音程が出現するとは限りません。♯Ⅳblk上で♯Ⅳ LWTを使う、みたいなことも理論上はあり得ます)

      減三度型Blkとして扱うとなれば、具体的にはホールトーン型の文脈で出現したBlkの上で途中からフレーズに半音関係を絡め、減三度型Blkに変質させて次のコードにつなぐ、といった使い方が可能性として提案できます。その逆も考えられるかもしれません。
      減三度型とホールトーン型は出自こそは異なりますが、コードスケールという観点で見れば存外近い位置にいるのではないでしょうか。
      (実は「Blkを鳴らしている間に中身をすり替える」ことについては、柏崎でぃすこ氏のnoteでも可能性として示唆されていました)

      さて、柏崎でぃすこ氏の発見された減三度型Blkのコードスケールに関しては、文脈から察するにLWT Mode‐Ⅵではなく、おそらくここでは(コードのルートではなくキーの主音をドとして)「ド レ ミ ファ♯ ソ ラ♭ シ」という構成音を持つスケールが使用されています。
      実は、♯Ⅳ LWT Mode‐Ⅵを使用した際には、(同じく主音をドとして)音階は「ド レ ミ ファ♯ ソ ラ♭ シ♭」となって、非常によく似たスケールになるのです。減三度型BlkはそもそもLWTと近い音階で出現する、と言えるかもしれません。
      「ド レ ミ ファ♯ ソ ラ♭ シ」のスケールの場合はペアレントスケールにあまり知名度がない(LWTではなくナポリタンメジャーと近いスケールだと見た場合、アイオニアン♭2とでも呼称するような音階になります)のですが、実例から考えればこちらのスケールについても考察する価値があると言えることでしょう。(ただしあくまで推測なので、そのような音階を使用していない場合も考えられます。その場合は申し訳ありません)

      改めてまとめますと。
      ①減三度型Blkに対してLWT Mode‐Ⅵというコードスケールが候補に挙がる。
      ②ホールトーン型Blkと減三度型Blkはスケール的には近い種類として扱える可能性がある。
      ③減三度型Blkが出現するコードスケールにはLWT Mode-Ⅵと近いが異なるものもある。
      となります。

      減三度型Blkについては元々個人的に考察はしていたのですが、作曲に活かすことが上手くいかず放置していました。しかし今回、作曲とともに考察されている方を見かけ、その感動の勢いのままにこの文を綴っております。
      減三度型Blkは、他にも♯Ⅳblk上でのソ♮やⅦblk上でのド♮等、従来なら変位のキャンセル以外の解釈が難しかった状況において、コードスケール理論に基づいた新たな解釈を提供したり、或いはBlk上で使用できるメロディのパターンを増やし作曲の幅を広げたりする等、まだまだ可能性に満ちたコードだと考えます。
      先述した「ド レ ミ ファ♯ ソ ラ♭ シ」という構成音のスケールで鳴らす♯Ⅳblkは四六抜き音階との相性が良いという見方もできるでしょう。
      (四六抜き音階についてもメロディ編で記述があります)
      https://soundquest.jp/quest/melody/melody-mv1/various-scales/

      それでは、これからも様々な方向に考察が深まっていくこと、それが今後生まれゆく新たな音楽の糧となることを祈って、拙文の締めとさせていただきます。
      長文大変失礼致しました。

      柏崎でぃすこ
      指数体
        指数体

        (追記)

        具体的にLWT Mode‐Ⅵをコードスケールとしてあてることが自然なBlkと、増六の和音との関連性について追記させていただきます。

        例として挙げるのは、ド♯、ミ♭、ソ、シというコードトーンで構成される♯Ⅰblkです。
        見てわかる通りド♯‐ミ♭という減三度の音程を含んでおり、♯Ⅰøから派生したBlkと見做すことができると思います。

        さて、このコードに対して♯Ⅰ LWT Mode‐Ⅵをあてると、(前述のようにキーの主音をドとして)
        「ド♯ レ ミ♭ ファ ソ ラ シ」
        という構成音の音階が出現します。
        コードの構成音以外をダイアトニックノートで埋めただけのスケールになるので、実用上も自然に扱えるのではないでしょうか。

        さて、こちらのコードの出自を考えると、♯Ⅰøとの類似性からⅥ7との関係が見えてきます。
        つまりⅥ9♭5の根音省略形体という解釈をするというわけですが、となると7♭5という形のコードとの繋がりも述べることができるようになり、柏崎でぃすこ氏の指摘していた増六の和音との関連性も論ずることができることでしょう。
        (フランスの増六は7♭5の転回形と見ることができます)

        LWT上のBlkと増六の和音の関係についてはナポリタンメジャーを介することでも議論が可能です。
        コード編Ⅷ章の「リスペルと黙殺された度数たち」の記事(https://soundquest.jp/quest/chord/chord-mv8/respell-and-neglected-intervals/)では♭Ⅱ+6に対してどのようなスケールをあてるかについて書かれている箇所がありますが、ここでナポリタンマイナーの第Ⅱ Modeが候補として提示されています。
        一方で、LWTはナポリタンメジャー(ナポリタンマイナーの♭6を♮6にしたもの)の第Ⅱ Modeであり、実は増六の和音に対応するスケールとも近い関係にあることがわかります。
        (そもそも減三度は増六度の転回音程なので、そういった観点からは近い関係であるのが自然なこととも言えましょう)

        今回は♯Ⅰblkという具体的にLWT上で扱えるBlkを提案。更に、その出自や関連するコードに対してコードスケールという視点を導入することで、ホールトーンスケール、減三度型Blk、増六の和音という三者が実は非常に密接に関係している、という考察を致しました。
        Blkは複数の文脈を束ねたコードであるからこそ、未だ考案されていない様々な扱いが存在するものと思います。今後も益々研究が進むことを願い、筆を置かせていただきます。

        yuta柏崎でぃすこ
        柏崎でぃすこ
          柏崎でぃすこ

          おおお!!!
          note 記事ではあまり深く掘り下げなかったコードスケールについての考察ですね、ありがとうございます!

          まず、減三度型 Blk にあてがうコードスケールに名前がない(?)のも不便ですし、便宜上命名しておきましょうか。

          Neapolitan Major – Mode VII (P1-m2-o3-o4-o5-m6-m7) を「Super Locrian ♭♭3」、
          Ionian ♭2 – Mode VII (P1-m2-o3-P4-o5-m6-m7) を「Locrian ♭♭3」としましょう。

          さて note 記事では「コードスケールの一例」として、偶数度をダイアトニック音で埋めた「Locrian ♭♭3」を紹介しました。

          この場合 3rd と 4th の間に ”増二度” が発生しますが、「Super Locrian ♭♭3」であれば回避できます。
          フレーズ作りにおいて、シ♮-ド の半音移動を重視するなら「Locrian ♭♭3」、ラ♭-シ♭-ド のラインを作るなら「Super Locrian ♭♭3」という使い方になるでしょう。

          拙作『憧憬の小径』では ♯IVø7♭♭3 の 4th にあたる シ♮ および シ♭ を鳴らしていないので、コードスケールが確定しない状態になりますね。
          (さらに言えば、前奏や間奏ではハモリのメロディが ラ♮ を鳴らしており、「変位のキャンセル」が発生しています。)

          また、今回 note 記事では ♯IVø7♭♭3 のみを扱いましたが、確かに音度によってスケール候補も変わってきますね。
          指数体さんの提案する ♯Iø7♭♭3 では、ファ に ♯ がつく「Locrian ♭♭3」よりも ファ が ♮ のままとなる「Super Locrian ♭♭3」のほうが使いやすそうです。

          次に、ホールトーンスケールとの類似性についてですが、「Super Locrian ♭♭3」の 2nd を抜けば、確かにホールトーンスケールと形が一致しますね!
          確かに重ね合わせの可能性は考えられますが、”減三度” が ”長二度” に聴こえてしまわないか、逆にホールトーンスケールの ”長二度” だったものをどうすれば ”減三度” に聴かせられるか……といった懸念は正直なところあります。
          後者については、半音関係を絡めたところで単にクロマティックな経過音が挟まっているだけと捉えられる可能性が高いでしょうし、ファ→ファ♯ と ラ→ラ♭ のモーションも作れませんから、ホールトーン型から減三度型にすり替えるのはかなり難しそうです……。

          他にも、異名同音を読み替えて、その他テンションコード型の Blk のコードスケールにすり替えることも可能だと思います。
          たとえば一周目の blk で「Super Locrian ♭♭3」を演奏、二周目の blk ではドミナントセブンスやハーフディミニッシュのコードスケールを演奏、そしてそのまま強進行して転調する……といった活用法が考えられます。
          ラ♭ と思って聴いていたら、いつの間にか ソ♯ にすり替わっていて、気がつけば転調している……
          SoundQuest 本編でも述べられている「リアルタイム分析」「カメレオン戦略」といった話に繋がってきますね。

          次に、増六の和音との関連性についてですが、まさに仰る通りで、和音の意味としては非常に似通っているものだと考えています。
          ♯IVø7♭♭3 は II9♭5 の根音省略・第一転回形、♯Iø7♭♭3 は VI9♭5 の根音省略・第一転回形と解釈でき、これが第二転回形であれば増六の和音になりますね。(SoundQuest さんもこれについて述べています。→ https://x.com/soundquest_jp/status/1700495043981988144

          また Blk とは離れるのですが、ミ が ♭ になっている ♯IVo7♭♭3(ドイツの六の転回形)については、『和声 理論と実習』にも使用可能な和音として載っており(Ⅱ巻 p.61)、さらに英語版 Wikipedia では J.S. バッハによる使用例が確認できます。→ https://en.wikipedia.org/wiki/Augmented_sixth_chord

          最後に、今回私が「減三度型 Blk」を使用して作曲した段階では、コードスケール理論は未使用でした。
          「ダブルドミナントの ファ♯ と ”IVm” の ラ♭ を同時に鳴らす」という、カーネル重視の発想のもとで生まれた和音であり、その結果として ”減三度” および Blk のフォーメーションがたまたま現れたにすぎません。
          そこにコードスケール理論の視点が加わることで、減三度型の新たな可能性が切り拓かれるかもしれません。
          特に、調性が不安定なコンテキストの中で減三度型を活用できるかどうかはまだ未知数なところがありますから、今後の進展に期待ですね。

          詳細な考察、ありがとうございました!

          指数体
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