様々な音階

メロディ編 Ⅰ章:構造の分解

さて、前回までで基本的なメロディのポイントは分かってきました。「半音進行と傾性」の回で、「四七抜き音階」を紹介しましたが、ここではそういった色んな音階のバリエーションを紹介していこうと思います。

#1.四抜き音階

まずは前に紹介した「四七抜き音階」の応用から。

「四七抜き」は、半音差の段差を全く使わないことで曲の情緒、柔らかさをなくし、力強い曲想を生み出す音階でした。
しかし、半音関係を完全に排除してしまうというのは、メロディのカラーがかなり限定されてしまいます。半音進行をいつ・どこに組み込むかはセンスの見せどころでもあるわけで、全く使わないのはもったいない。そこで、「ファ」は使わないけど、「シ」は適度に使おうというパターンも存在するのです。

4抜き

四七抜きに比べると知名度が低く、これといった名称もないのですが、名付けるなら「四抜き音階」でしょう。

四七抜きは、半音関係が全くなくなるため表情が「和」一辺倒になり、そこからの個性や曲想を出しにくいという決定的弱みがありました。
しかしそこで「シ」の音を解禁すれば、要所になめらかなメロディを作ることが可能になります。どこに、どんな形で「シ」を入れるかで、作曲者が個性を出すことができるようになったのです!

四抜きは、四七抜きと同様に頻繁に用いられる音階で、最近ではこちらの方が多く目にするのではないかというほど。その典型例が坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」です。

まずイントロのピアノが「四抜き」です。ファを使わない代わりにシを適度に盛り込むことで、適度な切なさを演出しています。
有名なメインのメロディの部分についても、はじめは「いかにも四七抜き」という風で始まりますが、4小節目でシの音が現れます。そこで前半の四七抜きによる力強さも相まって、旋律に急激に情緒が加わる。四七抜きだけではここまでドラマティックな曲想は生み出せません。

他にも、四抜きを活かした名曲はたくさんあります。

四抜き音階を使った名曲の紹介






枚挙にいとまがないとはこのことだ。みんな面白いくらいに「ファ」の音を避けてメロディが進んでいきます。

この音階も四七抜き音階と同じくらいキャッチーなメロディを作るのに向いていて、かつ四七抜き音階よりも表現の幅が広い。
「四抜き」は、本当にハイブリッドという言葉が似合う音階です。もしカッコいいメロディが書きたい、でもうまくいかない…というときには、ファの音を抜いたらそれだけでイイものが出来るかもしれませんよ。

ファを使いこなす技術も大事

逆にMr. Children、桑田佳祐、槇原敬之、松任谷由実といったJpopのメロディメイカーたちの曲を聴くと、「ファ」の音を絶妙な位置において心に残る情緒を生み出しているものが目立ちます。そう、やっぱり必ずしも楽すればイイというわけではない。ファにはファの役割があります。

#2.弐六抜き音階

ではでは、正反対のパターンはどうでしょうか? つまり、半音進行をさらに強調するとどうなるのか。ポピュラー音楽では聴きませんが、民族音楽の中には「レ」と「ラ」を抜くことで半音進行を格段に多くした五音階もあります。

26抜き

レとラは両隣が全音差ですから、これを抜いてしまえば必然、半音進行の登場率が急上昇しますね。このような音階は、「弐六抜き(ニロぬき)音階」と呼ばれたりします。古い言葉だからか、2の漢字はむずかしい方の「弐」が使われたりする。


弐六抜きの音階を使う音楽ジャンルの代表格がインドネシアのガムランです。「ミファソシド」という5音のラインが神秘さを醸し出していますね。
「ソシドシ」のような半音進行もそうですが、「ファソシソ」のようなラインも、ポップスでは情緒が強すぎて嫌われるものです。また、ミやシで終わってしまうフレーズが多く、これも”綺麗に終止して終わりたい”というクラシックやポップスとは相容れない価値観です。

また、沖縄の民謡もかなりラ・レが抜ける傾向にありますが、ときおりラ・レが出てきたりする。もしかしたら、本格的伝統的な沖縄民謡なら全く登場しないのかも。

沖縄音楽の方が明るく聴こえるのは、同じ音階であってもその中での節回しが違うからでしょうね。ガムランの方が、神秘的なメロディラインを積極的に使っている印象があります。

#3.アラビア風の音階

さて、このように音階のバリエーションはかなりたくさんあります。西洋のクラシックでは基本的に長音階・短音階が中心になりますから、他の音階というと民族的な何かを想起させるようなものが多いです。
特にアラブの音楽なんかは、合理化・均一化傾向の西洋と対照的。「半音の半音」なんて音程も出てきて、かなり多種の音階を使いこなして曲想を表現しているようです。



こうした雰囲気の音階も聴き覚えがあるかと思います。アラブでは「マカーム」と呼ばれる多種多様な音階があり、それを使い分けて曲想を表現するそうです。普通の長音階や短音階では、こういう雰囲気は出せませんね。

EDMとマカーム

昨今のEDMでは、このマカームとの融合がよくなされています。不気味な響きが生み出せるので、特にトラップ系との相性がバツグン。ピッチベンドを多用するEDMにおいては、「半音の半音」のようなアイデアも受け入れやすいのかもしれません。



アラブに限らず、たいていの民族音楽にはその民族の音階があります。普通と違った曲調を作りたいときには、そういったところを調べて作ってみると良いでしょう。

総括
  • 「四抜き」は、ハイブリッドな存在で、キャッチーなメロディを作るのに最適です。
  • 「レ・ラ」を抜いて半音進行を増やした音階を使うと、神秘的な感じになったり、ならなかったりします。
  • 音階は無限にあります。普通と違った曲想を作りたい時には、違った音階を試してみると良いでしょう。

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