Skip to main content

メロディと伴奏の時間関係

この記事では前提知識として、リズム編I章の序盤で紹介される小節という言葉を知っている必要があります。


音域と5種類の進行全音と半音。これでタテに関する情報はだいぶ集まってきました。
今回は、ヨコの関係に関するポイントをいくつか見ていきます。

1. 伴奏との関係性

これまで全く触れてこなかった要素の一つとして、メロディと伴奏との関係性というものがあります。ここまでメロディの動き方ばかりに注目してきたけども、実際にはメロディと伴奏がワンセットでひとつの音楽です。

二者の関係性についてはII章以降に詳しく扱うわけですが、本当に基礎的なところだけ先にチェックしておきたいと思います。

メロディの聴こえ方を変える

モチーフの回では、メロディ作りにおいては単純なリピートも効果的という話でした。より極端な話をすると、メロディが動かなくても、伴奏が移り変わっていけばそれだけでパートが成立します

こちらは非常に極端な例で、サビの中で音の高さが一切変わらないという作りになっています。メロディは単調な同音連打ですが、伴奏のコードが変化することで、結果的にメロディの質感の感じられ方というのが微妙に変わります。そのため曲が動いている、進んでいるという感覚は十分に得られるわけです。

こちらもさらに究極的な例で、ただ1音を伸ばしっぱなしなだけでサビが終わります。こちらも伴奏のコードが移ろい、ギターの合いの手が入ることでパート内の彩りを作っています。このように一つの音を長く伸ばすメロディは「ロングトーン」と呼ばれます1

ロングトーンはシンプルかつ印象的であるので、メロディ作りにおけるある種の必殺技のようなものと言えます。伸ばして、その後ちょっとしたフレーズで区切りを作って、また伸ばして…で十分魅力的なパートが出来上がります。

伴奏のコードによってメロディの印象がどう影響されてくるかについては、II章で詳しく取り扱うことになりますが、「メロディを伸ばしたいけど退屈にさせたくなければ、コードを変えるという手がある」という発想は持っておくとよいでしょう。

メロディに空白を設ける

より抜本的なことを言うと、伴奏だけでも楽曲は成り立つわけですので、メロディのない“空白の時間”を設けることが、表現として非常に効果的である場合もあります。メロディラインでの特徴的な空白は「静けさ・澄んだ感じ・停滞・ためらい」などといった様々な表現へと昇華させることができます。

Frank Sinatra – My Way

こちらは一言一言の間に毎回ちょっとした隙間が挟まるという特徴的なメロディ構成をしています。「今までの人生を振り返る」というようなテーマの歌詞で、ポツリポツリと言葉が出てくることで、あたかも語りかけているような調子が歌にリアリティを与えている側面があります。非常にユニークな空白の活用法ですね。

例えば0:56〜の一連などはその効果が顕著です。

Regrets, I’ve had a few. But, then again, too few to mention

後悔も、少しはあるけど、 でもやっぱり、言うほどにもないちっぽけなことだ

Paul Anka (Lyrics). “My Way”.

前半の内容を“But”で切り返して否定するという起承転結の利いた歌詞ですけども、その都度に空白が挿入されることで、「言おうかどうか迷って、結局言わない」というような繊細な感情の揺れ動きを、時間を使うことでリアルに表現していることが分かります。もし空白なしにメロディを詰め込んでしまったら、“But”の登場が速すぎて、歌詞の微細なニュアンスが変わってしまうでしょう。

サカナクション – ミュージック

1:54~のサビが特徴的で、「消えた」という一言に強いエコーがかかってゆっくり消えていくという構成になっています。この曲は半分ダンスミュージックであり、サウンドを聴かせるためにメロディが控えめという側面もあるでしょう。

一方4:03~からの大サビでは言葉数がギュッと詰まった激しいメロディが現れます。これによって曲全体を見たときの緩急のコントラストが際立ち、メリハリのある展開が構成されています。

吉澤嘉代子 – 残ってる

こちらも「My Way」と同様に、ゆっくりと始まる“語り”のようなメロディが、倦怠感や停滞感を演出していますね。この曲の場合、前半/後半ではなくメロ/サビ間でコントラストが形成されていて、サビだけが急き立てるような調子になっています。

この曲もテンポがゆっくりですから、その中で緩急を構成するにあたって、メロでの空白はとても重要な役割を果たしています。

引き算の美学

同じ音を繰り返す、長く伸ばす、メロディを鳴らさない……。このような基本動作を改めてここで確認したのには理由があります。ここまでで「跳躍上行」とか「傾性音の解決」とか、いくつか理論的な知識を学んできました。
そうすると、人間どうしてもメロディを「どう動かすか」という方向に注意が向いてしまって、今回紹介したような逆方向のアプローチというのをついつい忘れてしまいがちです。つまり、動かしすぎ・詰め込みすぎなメロディに走ってしまうリスクが考えられます。それを予防するような意味を込めて、ここでしっかりと紹介をさせてもらいました。

こと歌モノにおいては、伴奏が「時間・場所」であり、そこに乗る歌が「登場人物」であるというような関係性が自ずと想起されます。メロディ作りにおいて全体像のビジョンが大事という話は以前にありましたが、メロディラインだけでなく伴奏との関係性まで含めてビジョンを構築できると、より幅広い、より奥深い表現が可能になります。

1 2