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音楽理論を学ぶか決める

By 2022.04.13序論

9. 自由派音楽理論

さてさて、序論もこれでいよいよ最終回です。前回の記事で、音楽理論のメリットについては十分理解できたかと思います。目に見えない音というものを、記録・記憶しやすいデータに変換してくれる存在であり、また既に発見された数々の技法が保管されたデータベースでもある。

ただ、それより前に紹介したマイナス面を無視することはできません。そこをどうにかしてから先へ進みましょう。

問題点のおさらい

問題は、音楽の世界は大変革の時代を通ってきたにもかかわらず、音楽理論の方では(ジャズ時代に成したような)大きなリノベーションがさほど達成できていないという点にあります。ハッキリ言ってしまえば、様式も時代も異なる音楽理論の“お下がり”でやり過ごしています。

焼き直し

これを長い間続けてきたため、各所に「ずれ」が発生します。「ポピュラー音楽理論の流派」では、それを音源も交えて紹介しました。ですが問題点が分かっているのならば、それはきちんと向き合って解決すればいいことです。そうして作られたのが「自由派音楽理論」です。最後は、そのことについて説明させてください。

禁則のない理論

自由派音楽理論は、クラシック理論・ジャズ理論を参考にしつつも、あくまでポピュラー音楽を中心、ポピュラー音楽を最優先ジャンルに据えて再構築された理論体系です。

自由派ではポピュラー音楽の新しい手法を「例外」や「誤り」ではなく、むしろ「現代の音楽を特徴づける新しい手法」であると考えました。「音楽理論なんか知らないぜ、無視して作ってやる!」というアーティストたちも理論の敵ではなく、むしろ重要な研究対象です。

味方

だから自由派には、禁則がありません。代わりに「伝統的な技法」と「新興の技法」という、平等な見方があります。こうして新しいスタイルを理論に取り入れるのは、歴史と流派の回で見てきたように、何百年も前から音楽理論が繰り返してきたことです。

流派を繋ぐ理論

流派ごとの理論の食い違いは、ときに論争の火種にもなります。自由派は、どれかひとつだけが正しいという考え方をしません。それぞれに歴史と哲学があって、体系の違いを理解することは音楽の違いを理解することに繋がると考えます。

多様性の包含

きちんとそれぞれの流派に耳を傾ければ、違いが生じた理由も納得できます。例えば「緻密な作曲」と「即興演奏」という前提の違いが理論のシステムに影響しているといった、一歩俯瞰した視点からの解説を自由派は積極的に行っていきます。

理論の“持ち替え”

また自由派は決して、伝統的な理論を否定する存在ではありません。自由派を学んだのちに伝統理論を学びたいという人のために、VI章にはモダンジャズ理論、VII章には古典派理論の入門編が用意されています。

ポピュラー理論→ジャズ理論→古典派理論

こうやって歴史を遡行するかたちで本格的な伝統理論を学ぶのを後にするのには、より挫折しにくく、より深く伝統理論を理解できるというメリットもあります。流派間の哲学の違いを対比させながら学ぶことで、ジャズ・クラシックそれぞれの相違点や特色がよりクッキリと浮かび上がるような構成になっています。

適材適所

10. 結論を下そう

さて、果てしなく思われた序論も、これで終わりです。音楽理論という言葉の幅広さを知り、理論の歴史と発展を知り、現状を知り、メリットを知り、デメリットも知りました。そろそろ決断を下すときです。

学ばない

ここまでの話を全部ふまえたうえで、「学ばない」という選択肢だってありえます。これを読んでいる人の中には、こんな方もいるはずです。

別に作曲で悩んではいないし、理論にそんなに興味はないけど、何か音楽理論をやってないやつの音楽はダメだという声が気になってここに来ました…。

もしそうであれば、「歴史と流派」の話を思い出し、安心して「学ばない」という決断をしてもらって構いません。音楽理論は「千年を超える偉人たちの叡智の結晶」なんかではない。どこまでいっても単なる「情報ツール」にすぎず、学習コストに見合った実利が得られるかは、人それぞれの状況次第です。

もしあなたが今の自分の楽曲に迷いがなく、良いものが作れているという実感があるのなら、きっとまだ理論の出番ではありません。音楽理論を学ぶのは、作曲する中で「何かが足りない」「自分ひとりの発想の限界を超えたい」といったマンネリズムを感じたときに、また検討すればよいのです。

まずは作曲から

また、まだ一曲も作ったことがないという人は、本当に簡単なものでいいので、まずは「曲を作ってみる」という経験を積むべきです。それは歌モノならメロディだけのアカペラでいいし、インスト曲ならスマホアプリの簡易的な作曲で構いません。

最近のアプリはなかなか優れもので、理論を知らなくても大枠の「型」から外れないように調整されているようなモノがあります。たとえ作る楽曲がまだ人に聴かせたくないくらいの小さな曲でも、「作品を作る」という行為自体がすごく貴重な経験値になります。あるいは結果的に挫折したとしても、理論なしで自分がどこまで出来るか、そして何が出来なくてつまずいてしまったのかが分かれば、理論を学び進める中で「自分に足りなかったのはコレか!コレでもう曲が作れるはずだ」というのが判りやすくなるはずです。

他流派を学ぶ

自由派ではない他流派の理論を学ぶ選択肢も当然あります。ジャズやクラシックに初めからどっぷり染まりたいのであれば、最初からその専門理論に進む方がきっと良い選択でしょう。そういう人にとっては、ポピュラー音楽の様式を優先する自由派音楽理論は逆に遠回りなコースになります。情熱と覚悟があれば、いきなり本格理論でも習得できないことはないはずです。


それこそ民族音楽現代音楽などは基本的に自由派が体系として取りまとめる領域の外ですし、そういうジャンルへ進んでいく場合に自由派はあまり役に立ちません。

並行して学ぶ

そもそも自由派と一般的な書籍を並行するのもいいでしょうし、今ならYouTubeの動画で音を聴きながら学ぶのもオススメです。というかむしろ、そういう複合的な学習法をとってもらった方が、流派を横断する自由派の意義をより明快に理解できると思います。どのようなやり方もウェルカムです。自由派は複数流派を包含しているので、一般的な音楽理論コンテンツであれば、その内容と食い違うことはないはずです。

自由派音楽理論を学ぶ

もしこれから自由派音楽理論を学ぶと決めたのであれば、膨大なコンテンツのうちどの分野をどこからどこまで学んでいくべきなのか、そのプランを一緒に考えていきましょう。目次にあった大量の記事たちを、すべて読破する必要はありません。次の記事でその話をいたします。

音楽を理論的に見るようになっても、作曲のよろこびがなくなることはありません。むしろ、今までは見えていなかった音楽の深淵が、ちょっとずつ見えてきます。音の探求が、終わることはないのです。

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