コルトレーン・チェンジ

今回は、トゥー・ファイブの結合力の強さを利用した応用技法を学びます。

#1.コルトレーン・チェンジ

紹介するのは、ジョン・コルトレーンの編み出した、通称「Coltrane Changes(コルトレーン・チェンジ)」と呼ばれている手法です。
「Giant Steps」という楽曲内でその技法を使用していることでおなじみですので、まずはその部分を聴いてみましょう!

凄まじいコード進行です。もう、ピアノやサックスが一音弾くたびコードが変わっています。ここまででずいぶん相対音感を鍛えてきたであろう皆さんでも、何が起こっているか分からないと思います。
実はこのコード進行は、恐ろしいほど美しく作られているのです。その秘密を探っていきましょう。

コードを分析する

ちょっとまず、きちんとコード感を聴きたいですね。難しいシンコペーションをなくして、ピアノ・ベース・ドラムだけのシンプルな音源に直してみます。

うーん、まだかなり難しいですね。9th、-9th、6thがとてもよく使われていて、それがさらにコードの機能を希薄にしています。ちょっとそれを一旦取り払って、ドミナントの解決と思しき部分を見えやすくしてみましょう。

しかもトニックと思しき部分に着地した時だけ、音を短く切りました。こうやって聴くと、ようやく聴きなれたTwo-Five-Oneの骨格が見えてきましたね。もう全然違う曲みたいに聴こえちゃいますが、コード進行自体は紛れもなくGiant Stepsの原曲そのものです。

それでは、コード進行の実態を楽譜でみてみましょう。

ジャイアントステップスのコード進行

またもやバークリー式の「Bracket」と「Arrow」をマーキングをしました。こうして分析すると、「Giant Steps」の進行の美しさがよくわかります。なんといっても、「V-I」と「ii-V-I」の動きしか使われていません。このコード進行は、これまで学んできたジャズ理論の完璧な実践例なのです。そして、めまぐるしく転調しているかのように見えましたが、使っているキーはG・B・Eの3つだけという点にも注目です。3つのキーを自由に行き来しながら、ii-V-IやV-Iを繰り返している進行なんですね。

G・B・Eという3つのキーは、それぞれ長3度で離れています。この長3度の転調を繰り返す独特なキーチェンジが、ジャズ界ではコルトレーン・チェンジColtrane Changesと呼ばれています。

#2.マルチトニック・システム

このコード進行を、キーの移り変わりという点に注目して図にしてみました。

コードチャート

メインメロディを踏まえながらこの図を見ると、転調をフレーズの高低にそのまま結びつけていることが分かります。そして、3つのキーをなるだけバランスよく行き来しているようにも見えますね。トニックに着地している回数は、BとGが3回、Eが4回です。

こうなってくるともはや、「転調を繰り返している」というよりも、「3つのトニックが連立して楽曲を形成している」と考えた方が、自然と言えるのではないでしょうか? このように、複数のトニックがパワーバランスを保って交代交代で登場する形式を、「マルチトニック・システムMulti Tonic Systemといいます。

マルチトニック・システムを理解すると、「転調しているのに総体的にはまとまりがある」ような、不思議なサウンドを生み出すことができます! うまく機能させるには要件があるので、それを見ていきます。

軸の平等な独立

まずG・B・E♭の3つは、それぞれ長三度離れた等間隔にあり、五度圏で三者を結ぶとちょうど正三角形を作ります。

五度圏でみる

まずこの時点で、三者が偏りなく平等に離れているんですね。そして、この3つに従属するトゥー・ファイヴのルートもまた、それぞれ異なります

Key ii V I
G A–7 D7 G
B C–7 F7 B
E F–7 B7 E

五度圏で見ると、これはもっと直感的に見えるかもしれません。

ルートの動き

3つのキーの動きが対称的に美しく分離していて、互いに干渉していません。マルチトニック・システムをうまく機能させるには、ここが重要になります。

例えばC、D、Gを3つのトニックにしようとしても、これは明らかに上手くいきません。Cをトニックとすると、Gにはドミナントであってほしい。Gをトニックとすると、Dにはドミナントであってほしい。誰かがトニックの座を放棄しないと、V-Iやii-Vが成立しなくなってしまいます。「Giant Steps」は、3つの勢力がシンメトリックに分離しているからこそ成立しているのです。

テトラトニック・システム

Giant Stepsは、12音のルートのうち9音を使用し、3つの勢力に分けた、いわば「トライトニック・システム」です。そうなると気になってくるアイデアがありませんか? すなわち、12音全てを使用すれば、4つの勢力が作れるのではないか。すなわち「テトラトニック・システム」です。1

テトラトニック

スキマがなくなるため、ちょっとギュウギュウにはなりますが、理論上はこれも成立できるはずである。早速やってみましょう!

こちらが実践例。4つのトニックを移動しているわりには、さほど変わった感じもなく、普通に聴けています。推測ですが、普通の転調と違って「さっきまでドミナントだったやつがトニックに変わる」といったような「認識の書き換え」が行われないので、ある意味“何も変わっていない”ように感じられるのかもしれません。

コード進行を見てみましょう。

4トニックの進行例

前半4小節と後半4小節とで、キーは違うけどディグリーの動きは同じです。なかなか、機能的に出来たと言えるのではないでしょうか。
ちなみに4トニックになったことで、互いに少量の干渉は発生しています。例えば最初のFB–7のところ、これはFメジャーキーのIIVmという動きにも取れますよね。おなじみサブドミナントマイナーです。とはいえそれも、今回は転調のつなぎ目として良い方に働いているのではと思います。

ヘキサトニック・システム

しかしこうなると、また新しいアイデアが浮かびます。今はぜいたくにii-V-Iを構成したから4トニックで埋まってしまったけど、V-Iだけで構成していけば、トニック6個だっていけるんじゃないか? ヘキサトニック・システムです。

なんとこれもジョン・コルトレーンが実際に形にしています。Giant Stepsと同じアルバムに収録された、「Countdown」という曲のテーマ部分でです。

「Giant Steps」よりもさらに複雑なコードをしています。例のごとく、V7-Iの解決が分かりやすいように音を区切って、テンションを減らして、シンプル化してみます。

やはり、V-Iの動きがたくさん見られます。

Countdownの4小節

こちらが、最初の4小節。Giant Stepsとは違い、マイナーセブンスから始まりますが、これが実は伏線で、巡り巡って最後のV7-Iに繋がるiiのコードになっているというドラマティックな構成です。つまり、ii-Vの間にキーチェンジを2回挟んで“寄り道”しているようなイメージですね。この4小節で使われているキーは、D、B、F。Giant Stepsと同じ、長3度関係にある離れた3人です。

次の4小節は、この冒頭の4小節をまるまる全音下げた形になっています。

次の4小節

構造は全く同じですが、使うキーがC、A♭、Eとなります。当然先ほどの3つのキーとはかぶりませんから、これで6個のトニックが順に成立していることになります

V-Iの結びつきの強さを知ったことで、このような全く新しい発想が生まれるわけです。これがジャズ理論の面白さですね! もちろん、この調子で話を発展させて、12個全てをトニックにするやり方だってあるし、逆にトライトーン関係の2個でトニックを形成する方法もある。
V章でやった「多調性」が複数の調を同時に奏でるという難しい技法であったのに対し、こちらはその場その場のコードは普通だし、ii-V-Iという「手助け」もあるし、思ったよりかは実践しやすいです。その際は、微細なテンションの乗せ方やメロディライン、ヴォイシング次第で、自然にも不自然にも聴こえます。これまでの知識を総動員させて作るのがよいでしょう。

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