トライトーン代理 ❶

コード編 Ⅳ章:新しい技法
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今回は「新しい基調外和音を知る」回です。

久々に、新しくコードを広げていきます。かなり特徴的で、しかも使い方の限られたコードなので、ポップスとジャズ以外で使われることはあまりありません。


#1 ドミナント・レゾリューション

ドミナントセブンスコードは、特別な推進力を持っています。V7IVImのコードと強く結びつくわけですが、そのパワーの原動力を紐解くと、そこには「緊張と弛緩」の構造美が隠れています。

トライトーンの解決

V7のコードが持つ緊張感は半端じゃないです。まずシはドへと向かう強傾性音。そしてファもミへと向かう強傾性音です。そしてファとシという音の組み合わせは、それ自体が強い濁りを持つ「トライトーン」の音程になっています。さらにはVというコード自体も、解決を望むドミナント機能のコードです。したがってV7というのは、こうした濁りや傾性が掛け合わさって増幅された、極めて強い緊張状態にあるわけです。1 その緊張が、次のコードに進むことでいっぺんに解決される。そこに心地よさが生まれます。

特にV7→Iの方は、ベースも推進力の強い「強進行」ですので、まさに「緊張と弛緩」を完璧に体現した進行といえます。このV7→Iの動きは、ドミナント・レゾリューションDominant Resolutionと呼ばれます。2 日本では、「ドミナント・モーション」という呼び名もよく使われますね。

とりわけジャズ理論においては、このドミナント・レゾリューションは理論展開における起点になっていて、これを原理にしたテクニックがいくつも存在します。この記事ではそのうちのひとつ、「トライトーン代理」を紹介します。

#2 トライトーン代理

けっきょくのところ、ドミナント・レゾリューションのエネルギーの大部分を担っているのはファとシの2音です。そこで、同じように「ファとシ」を有しているコードならばV7の代わりを務められるのではないかと考えました。それで白羽の矢が立ったのが、V7からルートの位置を大きく入れ替えたII7のコードです。

II♭7

II7のコードトーンは、レ・ファ・ラ・シで、見事にファとシを含んでいます。3 しかもコードクオリティは変わらずドミナントセブンスで、ルートの位置もIの半音上ということで、なんともIに進みやすそう。代理役としてはこれ以上ないくらいの“適任者”なのです。

ルート音がソからレに代わるということなのですが、この「ソとレ」もまたトライトーン関係にあります。トライトーン離れたところにいる二人のドミナントセブンスコードが、「ファとシ」という共通したトライトーンを持っている。なんだか数理的な美しさを感じますね。

この代理技法のことをトライトーン代理Tritone Substitutionといい、それにより連れてこられたII7は代理ドミナントSubstituted Dominantと呼ばれます。

  • トライトーン代理
    あるドミナントセブンスコードを、ルートがトライトーン離れた別のドミナントセブンスコードに置き換えること。
  • 代理ドミナント
    トライトーン代理によって連れてこられた基調外のドミナントセブンスコードのこと。

代理ドミナントは、ジャズ理論ではよく「subV」と表記されます。subはSubstitutedの略、Vはドミナントのことですね。

#3 代理ドミナントを聴いてみる

では実際にコード進行を作って聴き比べてみます!

VIm7IIm7V7IM7

これはいかにもジャズ風な、6-2-5-1の進行。V7が解決される心地よいドミナント・レゾリューション。ここにトライトーン代理を施して、II7を連れてくると…

VIm7IIm7II7IM7

こうなります。よりジャズっぽいというか、風合いの違った雰囲気がもたらされました。これが代理ドミナントのサウンドです。かなり特殊な緊張感を持ったコードなので、進行先は基本的にはIに限られます。

音階の選択

II7はコードトーンがだいぶ変わっているので、どんなスケールで演奏するかも迷いますね。これはパラレルマイナーコードと同じで、元々のトーンをどれくらい残すか、雰囲気をどれくらい変えるかを基準に判断するとよいでしょう。

フラット多めの演奏

ミ・ソ・シのフラットをメロディに混ぜ込むと、かなり別のキーに迷い込んだ感じが強くなります。4

フラット多めの演奏

だいぶCメジャーキーから離脱しかけたようなサウンドになりますね。

フラット少なめの演奏

逆にミ・ソ・シは完全にナチュラルで演奏すれば、元のV7により質感が似るため、より調性を乱さない演奏となります。極端な話、レとラすらナチュラルにして演奏することも可能です。

フラットなしの演奏

ミ・ソのナチュラルは全くなんの問題もありませんが、レとラをナチュラルにするのは、理論上はアウトな演奏です。しかしお聴きのとおり、これはこれでオシャレですよね。伴奏隊とメロディとで演奏する音が分離してもいい味が出たりするというのは、メロディ編の「ブルーノート」でもあった話で、それと似たようなものです。

こんな風に、一人だけキーが違う、調性を乱す、コード構造が見えないような演奏のことを、ジャズの世界では「アウトサイド」といいます。5 これは良い意味で使われる言葉で、ようは「カッコよければ何でもアリ」ということです。

#4 II7のクオリティチェンジ

II7は非常にジャズのテイストが強いコードであるため、ポップスではあまり見かけません。あまりにも「緊張と弛緩」の流れが露骨すぎて、かえって扱いづらいのかもしれませんね。そこでドミナントセブンスのテイストを弱めるために、これをメジャーセブンスにクオリティチェンジした形も存在します。6

メジャーセブンス化

ちょっとジャズというよりファンタジーというかメロウというか、使いやすい感じになりました! ジャズでないジャンルにこれを持ち出してみます。

IVM7IIIm7IIm7IIM7IM7

4-3-2-1の進行の間に、IIΔ7を挟んでみました。ポップスのアウトロとかでありそうですよね。

実例

こちらはポップスで実際にこれを使用している例です。Aメロで、IIΔ7が使われています(0:52の「あなたを見つめるのに忙しい」の「るのに」部分)。この曲のジャズっぽさを演出しているファクターのひとつに、IIΔ7があったというわけです。

#5 裏コード

この「代理ドミナント」は、日本ではしばしば裏コードと呼ばれます。これはソとレが、五度圏で見たときにちょうど正反対の位置にいることから付けられた名前です。

裏コード

ルートを裏側にひっくり返すから、裏コード。堅苦しくなく、直感的であるという点においては優れた名前ですね。日本国内では、どちらかというとこの名前の方が「代理ドミナント」や「トライトーン代理」という言葉よりも有名ではないかと思います。

トライトーン代理の応用性

今回はV7を例にとって「トライトーン代理」を行いましたが、実はドミナントセブンスコードであればどんなコードでもこのトライトーン代理が可能です。これは特にジャズにおいて重要になる技法なので、そうした発展的なトライトーン代理は、VI章のジャズ理論編で紹介することにします。ポップスの範疇であれば、ここで紹介したII7とIIΔ7を知っているだけでも十分です。

まとめ
  • V7を代理するコードとして、II7が使用できます。これを「裏コード」と呼びます。
  • それをクオリティチェンジしたIIM7も同様の文脈で使用することができます。
  • この技法、アイデア自体の名称は「トライトーン代理」で、国際的に通じる呼び名は「Substituted Dominant」です。

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