目次
年末年始にかけて、溜まっていたサイトの【要修正】部分を色々と修正しました。わりと大きな変更を施したところもあるので、この記事でまとめて紹介します。
接続系理論の改修
去年「接続系理論」の構成要素から「機能和声論」を外部に切り離す変更を加えたことで、二論の立ち位置というのが明確になりました。
- IIm→VとIV→Vの類似性を明らかにするのが機能和声論
- IIm→VとIV→Vの差異を明らかにするのが接続系理論
- I→IIImとIV→VImの差異を明らかにするのが機能和声論
- I→IIImとIV→VImの類似性を明らかにするのが接続系理論
これに伴って全体の論調が微妙に変わったわけですが、ただIII章(F型の接続)、VIII章(不定調性の作曲)についてはツギハギの応急処置で整合性を保ったのみで、改善が望まれる状況でした。これを2記事ともアップデートしました。
III章 : 基調外和音と接続系
以前は、基調外和音に対しては「機能論がいまいち使えなくなるので、接続系理論も使いづらくなる」という状況でしたが、二者を分離したことで「機能論が使えなくなる基調外和音こそ、接続系の出番」という具合に、たいへんポジティブなアップデートとなりました。
記事では「dim7を連続で繋いでホラーなBGMを作ろう」「D/E型で基調外和音を繋いで映画音楽みたいなのを作ろう」という2つのケーススタディで、基調外和音に接続系理論を応用する事例を紹介しています。
クロマティック・ミディアント
後者はいわゆる「クロマティック・ミディアント」というやつで、これを程よいタイミングでコースに盛り込めたのは喜ばしいことです。
クロマティック・ミディアントがノーマルな体系からあぶれている理由というのはやはりT–S–D–Tを基本とする機能ベース理論との相性が悪いというところが本質だと思うので、接続系理論がうまく「補完役」として働いているといえます。
接続系理論はI章で既に3度関係の進行が「共通音が多く」「比較的穏やかな移動」で「D型は落ち着き」「E型は浮つく」というところまでは説明済みであるので、「それを基調外和音にまで適用するとこうなる」という感じで自然なストーリーの中にクロマティック・ミディアントを取り込めました。
VIII章 : 不定調性と接続系
VIII章の方も大きく変更され、準備編の「中心音」の話から用いられていた「調性スキーマ」という音響心理学方面の用語をストーリーの軸に据えました。
「調性スキーマ」はTDS機能の説明の際にも、「V-Iの進行に着地感を覚える。これも調性スキーマのひとつ」という話をしているので、それが「7→Δ7の強進行を聴くだけでリスナーは調性を想起する」という「ファントム論」にまさしく繋がってくるなというところです。
結果として記事タイトルも変わり、「ファントム」という語は廃止になりました。代わりに「基調和音のスキーマ」といった表現が用いられています。単純に、この記事を書いた当時の私は「調性スキーマ」という語をまだ知らなかった。既存語で説明ができるならそちらの方がいいという判断です。
「調性スキーマ」と「ファントム」は決して同義語ではないですが、例えば「ファントム・フリーの進行」は「調性スキーマにない進行」と言ってもほとんど差異が感じられないほど近似しているので、置き換えを決断しました。
そんなホイホイ新語を作る前にもっと調べておけ、と思うかもしれませんが、「既存の研究で同義語がない」ことを確認するのはいわゆる“悪魔の証明”なので、これはもうある程度仕方のないものがあります。
それから、リーマンの機能論との話の繋がりも出てきたので、記事の順序を入れ替えて、「機能和声の変遷」よりも後ろに記事が置かれる形に変更されています。
モーダル・インターチェンジ
もうひとつが、「モーダル・インターチェンジ」にまつわる一連の記事群の整備です。以前はVI章の当該記事が「ハーモニックメジャー」や「ミクソリディアン ♭6」の初出だったのでそこで丁寧な紹介をしていましたが、後にメロディ編IV章に「パラレルマイナーと変位シェル」の記事が出来たことでそこが初出場所となり、「モーダル・インターチェンジ」の記事の方が「もう紹介済みのスケールを初顔みたいな体で紹介する」という奇妙な風体になっていました。
さらにはその次の記事「音階の調号」でも事実上のモーダル・インターチェンジを行っているわけで、これに言及しないのもまた奇妙であったので、今回ずいぶんと改修がされました。
モーダル・インターチェンジを「解釈請負人」として働かせる問題についても、もう一歩踏み込んで論じています。ちょっと踏み込みすぎたかもしれないので、その辺りは様子を見てバランスを取ろうと思います。
ドミナント・コード上でのテンション
また「ドミナントセブンス上のスケール」がシンプルに記事のレベルとしてよわよわだったので、スケール交換だけでなくテンション全般を論じる記事としてパワーアップし、タイトルも変わりました。
また、ここで行っているスケールチェンジがコードスケール理論の先取りとなる「コードルート基準の交換」であることも明記し、モーダル・インターチェンジと対比させることで、CSTへの入りがよりスムーズになることを期待しています。そのために、モーダル・インターチェンジとこの記事の順序を入れ替えました。
書籍に載っている詳細なテンション論をここに書き写すことに価値は見出さないので、あくまで軽い説明に留め、逆に原則とは異なるテンションの乗せ方を紹介したりしています。
- IVΔVIIVII7(-9)VI–9
インターバルの紹介順序
ほか、大した話ではありませんが、減5度/増4度の正式な紹介をII章まで先送りにして、I章は「長3・短3・完5」の3つだけで乗り切ろうという形に変更しました。
よくよく考えたらI章で減5度を使う場面がVIIøの紹介の時だけで、しかも自由派はVIIを除外して話を進めるわけなので、覚えてもらう必要まではないじゃないかという所に思い至りました。ので「六つの基調和音」の記事で掠めるていどにだけ触れて、ちゃんとした紹介はII章でする形に今現在変更されています。
そう考えるとコード編I章は「トライトーンのない体系」なわけで、ちょっと面白いなと思うところです。ドミナントモーションが音楽の原動力だった時代が終わりつつあると思います。
プラグイン・ライブラリ
一方悲しいお知らせなのですが、プラグイン・ライブラリが密かに稼働を停止しました。これは純粋にサイトパフォーマンスへの負荷と管理コストというマイナス面に釣り合うほどの成果がなかったという理由からです。
レビューを投稿して頂いた方々には申し訳ない限りですが、開設当初からどのコンテンツがどれくらい人気になるかは未知数で、出して反応を見るしかなかったわけなので、ベータ版のサガとしてご理解頂きたいと思います。
「音楽理論/DTMのサイトというわりにはDTMの情報がない」という批判もありました。変に風呂敷を広げるよりも、音楽理論のサイトとして特化していく方が長期的にみて良いことかなと思いました。
一階層深い見出し
また地味な改善点として、ヘッダーメニューの目次が一階層深くなり、それぞれの章の目次へスムーズにジャンプできるようになりました。
もう一階層掘って各記事へのリンクが出来たらもっとアクセス性がよくなる気もしますが…記事の数が数なのでまだ実現していません。
今年のこと
年内にやり切れなかったこととして、「ネオリーマン理論」と「ネガティヴハーモニー」という、リーマンがらみの一連の記事の作成があります。せっかく「機能和声論の変遷」がめちゃ良い感じに出来たので、その流れにこの2つが乗ればVIII章の章としてのまとまりがもっと出てくるなというところであります。
それからハーモナイズの理論、ポリセミーの理論がまだ途中で止まっているわけなので、ここも走りきりたいところです。
とはいえベータ公開から2年半弱が経って、コンテンツもかなり充実したし、各流派に配慮した記述のバランスも段々取れてきたし、不具合も減ってきたし、そろそろ今年は正式公開ができるのではと思っています。今年もSoundQuestをよろしくお願いします。