接続系理論 ⓫ F型の諸用法

音楽理論 接続系理論
断り書き

今回の内容は、完全な研究回であり、接続系理論そのものに興味がある人向けの内容になっています。II章に入って基調和音以外の新しいコードたち、すなわち「基調外和音」が増えてきたので、それに対し接続系理論がどうアプローチするかを解説します。
コードの実践的使用とはあまり関係のない内容になるので、ここまで普通にコード編を読み進めてきた方は、飛ばしてしまい、Ⅳ章の方に進んでもらって全く問題ありません。

#1 定義の確認

ちょっと久しぶりの内容になるので、改めて接続系の確認からいきましょう。

接続系統図

基調和音の世界では、コード接続を5系統に分類するのでした。しかしⅠ章の段階では、全てを「簡易度数」で片付けていました。もうココまで来たからには、きちんと「詳細度数」で解説し直しますね。

Active Nexus (A型)

活発(active)でパワーのある4度下行の動きは、「Active Nexus」でした。

A型

これは全ての動きが「完全四度」ですから、改めてキッチリ定義すると、「完全四度の下行=A型」ということになります。

Basic Nexus (B型)

TSDTを順当に進むために聴きやすく、ルートの移動量が大きいために推進力の強い進行が、「Basic Nexus」でした。

B型

こちらもすべてが「完全四度」ですので、やはり「完全四度の上行=B型」というのが正確な定義になります。

Close Nexus (C型)

移度2級

近接(close)したお隣さんへ移動するから「Close Nexus」と名付けられたのでした。改めて確認すると、ひとくちに「2度」と言っても、「長2度」と「短2度」がありました。この中でいうと、IIImIVの間が半音差だ。

C型

ココでまた新しい分類用語を用意してもいいでしょうけど、変に理論が肥大化しても運用性が悪いので、今回は増やしません。ただコントロール・ファクターについて考える際には、「半音差か、全音差か」という点をメロディ分析の時と同様に意識した方がいいかなと思います。

Drop Nexus (D型)

3度下行が、「Drop Nexus」です。

移度3級(下)

この中では「6-4」と「3-1」だけが「長3度下行」で、他は「短3度下行」です。Close Nexusの方は「全音差か、半音差か」ということでそれなりに意味のある差異でしたけど・・・これこそ現段階では、取り立てて区別する意味は無いですね。分析の際も、さほど気にしなくてよいでしょう。

Elevate Nexus (E型)

3度上行の方は、「Elevate Nexus」というのでした。

移度3級(上)

これは面白くて、E¹が「長3度上行」で、E²が「短3度上行」という風に綺麗に分かれます。E¹とE²の違いは「TDS変化の有無」でしたから、つまり以下のような法則が成り立っているということです。

  • 長3度上行 = TDSが必ず変化する
  • 短3度上行 = TDSは変化しない

この辺りの話は、Ⅷ章まで進むとさらに突き詰めていくことになります。ちょっとこういう、数学的法則があるところって面白いですね。

#2 基調外和音の接続系

基調外和音が増えたとは言っても、新しく考えなくてはならない部分というのは少ないです。基調和音の時と同じように、機械的に分類をしていけばいいのですから。

たとえばII7IVはやっぱりIImIVと同じ「E型」で、聴けばお分かりのとおり、E型ならではの穏やかな高揚があります。ただ、長短の変化がなくなったので、そのぶん穏やかさが増しています。

II-IV

あるいはIVmVは、お隣さんへの移動ですから、「C型」です。IVVと同じく穏やかな2度上行であることには変わりなし。ただ、短長と動くので、テクスチャの変化が感じられ、よりドラマチックな展開になりますね。

IVm-V

ですからただのIVVではエネルギー量が足りないと感じられる時には、IVmに変えるのが効果的、なんていう風に言えそうです。
新しいルートを持つVIVIIにしても、そこまで違いはない。
VIVは半音下降の「C型」。長短の変化もなくて半音差なので、かなりスムーズな動きです。
VIIVは「D型」。聴いてみると確かに、基調和音でのD型と同様の、落ち着いた展開性を持っていることがわかります。

こんな風に見ていくと、基調外和音であっても、それぞれのコード進行が持っている性質というのは、やはり接続系理論による説明に当てはめることが出来るのが分かります。まあ理論自体がシンプルですからね。

#3 接続系の領域外

しかし、接続系理論では扱いづらい部分、問題も出てきます。ひとつは、他調からの借用和音はTDSがハッキリしないこと。もうひとつは、メジャー・マイナー以外のコードが出てきたことです。

TDSがハッキリしない

借用和音は、いわば一時的な転調です。転調が起きてしまった以上、主調を基準にしたTDS分類自体に限界がある。これは、同主調借用を紹介する際にも説明しました。なので、3つのコントロール・ファクターのうち1つが曖昧になってしまいますね。

もちろんどんなコードでもTDS分類をすることは可能ですが、あまり実践的な意味を持たないという話は、「同主調借用」の時にしましたよね。ですから、基調外和音を扱う時には、「TDS」を除いた残り2つのコントロール・ファクターを中心に考察する方が賢いでしょうね。

メジャー・マイナー以外のコード

シャープファイブやフラットファイブといったコードをどのように扱うかということも、接続系理論範囲の外の話になってします。まあ、当然ですよね。Iaug7を普通のIと同じ感覚で扱うことはできません。
ですからこういうコードの用法に関しては、結局それぞれのパターンを学んでいくしかないわけです。

とはいえ、こうした“領域外”の存在が、接続系理論の価値を減じるとは全く考えていません。調性が揺らいだ状況下で理論がぐらつくのも、特殊なコードに対してそれぞれ個別の説明が必要というのも、どちらも従来の音楽理論にしたって同じことですからね。

また、逆に「調性が常に不定で、かつ聴覚上自然な曲を意図的に作りたい」といった時には、2コードの連結だけに着目する接続系理論はけっこう便利だったりするんですよ。これについては、Ⅷ章でまた話すことになります。

肥大化と機動力

もちろんやろうと思えば、パラレルマイナーコードたちにある程度の法則性を見出すことが出来ます。例えば新しいルート音を持つIIIVIVIIが、そこからどこへ進行するか?というのを分析すると、以下のような法則はあります。

  • いずれも「半音下行」は非常に自然である
  • いずれも「半音上行」は非常に逆行感があり、非常に稀である
  • いずれも「短3度下行」は比較的行いやすい
  • いずれも「長3度上行」は比較的逆行感があり、稀である
  • いずれも「長2度上行」は十分に行いやすい

そしてⅧ章で学ぶ新興の理論を用いれば、こうした法則にある程度の説明をつけることも出来ます。ただ結局、こうやって帰納的に見出された「法則らしきもの」を暗記してそれを元に考えるより、単に各コードの定番パターンを覚えてしまった方が圧倒的に機動力が高いんですよね。例えばIIIの定番と言えば、下の2つ。

IIIbの定番パターン

これくらい、難しく考えなくたって覚えてしまえば瞬殺という話だ。さらに言えば、どれも曲想が特殊ですから、けっきょく「進みやすい」「進みにくい」なんて次元で話をしたところで何の実践性もありません

それでご覧のとおり、基調外和音になってくると、2コードの連結じゃ論じきれないです。3コード、4コードでワンセットの定番パターンというのがザラにある。それはやっぱり「慣性(Inertia)」の問題も大きくて、例えばいちばんベタなIIImIIIIImの動きは「半音下行」の慣性に従ってスルスルと落ちていくからこそ自然に聴こえるんですね。

そんなわけで、瑣末な事象を包含しようとすると、理論は必ず肥大化して機動力が落ちる。これは必然です。そして、実戦投入のために作られた接続系理論にとってそれは好ましくない事態です。
自由派は初めから、理論には流派がたくさんあり、それぞれの良さがあり、ひとつの理論で音楽の全てを説明する必要がないということを知っています。なので、こうした細かいところは全然気にしないし、一切扱いません

#4 Flip Nexus (F型)

ところで、度数に鋭い方だったら、さっきの分類の際にあることに気づいたかもしれません。コードが増えたことによって、ひとつだけあの接続系統分類のどれにも当てはまらないパターンが生まれていることに。それが、増四度で移動する接続法です。

増四度進行の例
例

四度に関わる接続法には「Active」と「Basic」がありましたが、あれは「完全四度の上行・下行」と先ほど定義しましたね。こうした「増四度」の進行は、該当する接続がなくなってしまいます。

そうなったらば、新しい分類種を作るしかないですよね。
このようにルート音が増四度で移動するコード進行のことを、接続系理論ではFlip Nexus (F型)と呼び、5つめの接続法として分類します。「Flip」という名は、増四度の移動というのが五度圏で見たときにちょうど裏返った正反対の位置へ動くことに由来します。

対向

#5 F型の用法

ここからは、「F型」の持ち味を説明していきたいと思います。

増四度の移動」というのは、12音の世界の中で出来る「最も距離の遠い移動」です。F型のFは、FarthestのFでもあるのです。
完全五度上行」の方が遠いのでは?と思うかもしれませんが、コイツは見方を変えたら「完全四度下行」になってしまうので、実は遠くない。上から見ても下から見ても一番遠いという風に考えると、増四度が一番離れているのです。

増四度

距離が離れすぎているために、音の流れが断絶するような感覚が基本的に生じます。逆に言うと、音の流れを劇的に変えるチャンスということでもあります。

しかも、F型は基調和音の世界では起きることのない接続ですから、それも含めて、最もショッキングな曲想を生み出しうる接続法と言えそうです。

ショッキングさを活かそう

そういった背景も踏まえると、基調外和音へと繋ぐF型は効果的だが、基調和音に繋ぐF型はあまり効果的でないと言えそうです。
だってドラマチックな展開性を利用して普通じゃないコードに行くのなら、すごく分かります。「劇的な展開と劇的なコードの相乗効果」って感じ。でも逆は微妙だ。「度数としては過激な移動をしたのに、行き着く先がただの基調和音」というのは、なんだか拍子抜けしちゃいます。

現実問題、F型の接続をして基調和音に戻ってくるなんてパターンは、まあ見たことがありません。そんな変なことをしても、曲がよくなる可能性は低いですからね。なのでここからは、F型を使って基調外和音へ流れていく具体例をドンドン見ていきたいと思います。

IV-VIIの接続

ちょっと前にハーフディミニッシュ、VIIØというコードを紹介しました。基本的にはIII系コードだけに進むとされているコードです。
このコード自体がやっぱりロマンチックですから、F型でこのコードへ到達すると、かなり強烈な展開性が生まれます。

4-7

こんな感じ。じっくりIIVで「起」「承」を作っておいて、いきなり急速なペースでVIIØIII7と進む「転」の展開、そしてVImで結ぶ。よくできたコード進行です。バラードの他、ジャズでもこの動きはよく使われます。

VII-IIIの接続

「浮遊感」でおなじみのVIIから、「強烈な不安感と暗さ」でおなじみのIII7へつなぐ。これもかなりドラマチックで、手持ちのパターンとして持っておくと実はけっこう使えるヤツです。

7-3

「パラレルマイナーコード」の時に紹介した音源をリアレンジしてみました。VIIでフンワリした気分になった直後、いきなり最強不安定のIII7へ! しかもルートが増四度で移動しているわけですから、まさに急転直下。数あるコード進行の中でもトップクラスのドラマ性を持った接続と言えます。

II-VIの接続

VIへ進むF型もカッコいいです。特にロック的な使い方をしたときによくハマります。

2-6

IImは基本的に“タメ”のコードであり、次に大きなアクションを起こしやすいコードです。そしてVIは「妖しさ」を持っていて、大きく雰囲気が変化するコードでした。ですからIImVIという流れは、展開を動かすにあたっては非常に理にかなったパターンであることが分かります。ましてやルートが増四度で動くなら尚更そう。

ちなみに、IImじゃなくてIIII7だってもちろん同様の効果が得られますし、やはり「F型」に分類します。

I-IVの接続

ついこないだ覚えたばっかりのIVØでもF型が行えます。安心バッチリのIからいきなり飛んでしまうのです。

1-4

なかなかドラマチックな展開ですよね。よくよく考えると、IVm7(-5)の構成音は地味にVImと似ているところがあります。

類似

だから実はジャズ理論では、このコードはトニックに分類されていたりするんですよ。変な響きのコードだからと敬遠せずに使ってみると面白いと思います。

VI-IIIの接続

VImからIIIへとFlipすると、もうメチャクチャな感じになります。フワフワしすぎて調性が落ち着かない。ですから普通の曲では使いづらいですが、逆に奇妙な浮遊感を出したいのであれば、全然使い道はあります。

6-3

あえて思いっきり使ってやりました! 最後にとどめでトニックマイナーImもぶち込み、もう調性はブレブレです。でも、それを狙ってやったならイイじゃないですか。
「ヤバい進行だから使えない」じゃなくて、「ヤバい進行だから、過激な曲想にしたい時に使える」と考えるところに、接続系理論の意義があります。禁則はない。ただそこには曲想があって、接続系理論はただその曲想を解析するだけです。

ジョーカーとして持っておこう

それぞれの曲調が違いすぎるため、散らばった感じの紹介になってしまいました。でもコイツらはみな「F型」という単一の接続種であり、どいつもこいつも「大げさな展開を作る時に使える存在」という点では共通しているわけです。

特に最後3つなんかは、「使えるよ!」って背中を押してもらわないと、あんまり使う気になれないような変わり種のコード進行だと思います。でもやっぱり、彼らでないと作り出せない曲想があり、全てのコード進行には存在意義がある。そこを忘れないでほしいなと思います。

この節のまとめ
  • 基調外和音に対しても、接続系理論の適応法は変わりません。
  • TDSが厳密に分類できないことにより、明確に分析できないコード進行が生じます。
  • ルートが増四度で変化する「F型」は、接続先を基調外和音にすることで、ショッキングな展開を生み出すことができます。
コード編 III章はここで修了です! おめでとうございます。次にどの編へ進むか、あるいは制作や分析の期間を設けるかを考えながら進んでください。

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