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クロマティック・アプローチ

今回は「メロディメイクの技法を知る」回です。メジャースケールから外れた音をメロディに導入する技法のひとつです。ロックやダンス音楽のようなストレートなジャンルでは、この技法はあまり用いられませんが、クラシックやジャズ風の高級感を演出したい際にはぴったりです。

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II章で「アプローチ・ノート」という言葉を紹介しました。さほど長く伸ばさずに、隣接するコードトーンへと解決させる音のことです。

アプローチ

「すぐ隣へ、すぐ解決」ということで、濁りを抑えめにしたい時によいラインの構築手法でした。

ところで、「半音進行による解決」がポピュラー音楽のメロディ作りにおいて要になってくることは、I章から繰り返し述べてきたことです。

半音の解決

他の音からすると、ドとミが羨ましいですよね。自分に向かって半音で解決してくれる“忠実な手下”がいるということですので。他の音においては、半音隣にいるのは、臨時記号を伴うスケール外の音です。

そこで、臨時記号がついてもいいから半音の関係を作ろうというのが今回やってみることです。

1 クロマティック・アプローチ

まずはアプローチ・ノートを多用したフレーズをちょっと作ってみますね。

こちらはまだメジャースケールに沿ったままのメロディ。ドシド → レドレ → ミレミ …と進んでいくのですが、半音差になっているのは「ドシド」と「ファミファ」だけ。そこで臨時記号を使って、半音差を人工的に作り出します。

こうです! 段差が半音になったことでラインが滑らかになりました。臨時記号のついた音は、その時のコードからは外れた音になっているわけですが、流れの中ではごく自然に聞こえます。

傾性論で考える

「傾性」の話と結びつけると、この場面で起こっている出来事はさらによく理解できます。

レと傾性

例えば「ミレミ」の例でいうと、普段のレは上下ともに全音差であって、どちらにも等しく解決できます。これをレに変えることで下方とは距離が空き、上方とは距離が縮まることになるため、ミの方へと引きつけやすくなる。そんな形で理解ができますね。

逆に言うと、そうまでして流れを作ってあげているのだから、それを裏切って別のところに進む行為は、成立しないリスクが大いにあります。半音できれいに解決してあげるのが基本です。

このように「半音隣のコードトーンへと解決させる」前提で「その時の音階からは一時的に外れている(≒臨時記号を伴う)」音を持ち込む行為を、ジャズ系理論ではクロマティック・アプローチChromatic Approachといい、その当該の音をクロマティック・アプローチ・ノートといいます。

クロマティック・アプローチのパターン

上例は「ミ-レ-ミ」のように2度の半音進行で挟み込むパターンでしたが、他の形も当然考えられます。

パターン

主なところではこれくらいでしょうか。④⑤のように、ジャンプしてクロマティック・アプローチ・ノートに至ることも可能です。

下方へ向かうアプローチ

上ではみな上行するタイプのクロマティック・アプローチを紹介しましたが、逆に半音下へと進むタイプもこの語の指すところに含まれます。

下行するアプローチ

ただ音のクセが強く、ポピュラー音楽では上行と比べるとあまり用いられない印象があります。

ダブルで挟み込むアプローチ

ほか、上下両側からターゲットとなる音を挟み込むようにしてアプローチする形もあります。

ダブル

理論書によってはこうした各モーションに名前をつけて分類をしたりしますが、ここでは割愛します。

2 曲想表現

クロマティック・アプローチの本質は「ラインが滑らかになること」なのですが、それがどのような曲想をもたらすかというのはまた多彩なものがあって、実にたくさんの活用法があります。

クラシック風の用法

例えば暗くてスローテンポなピアノ曲で用いると、より繊細で鬱々とした雰囲気を増長させられます。

半音のなめらかな動きが増えたことで、メロディから力強さが消えて柔らかい印象になっています。

ジャズやロックでの即興

ジャズやロックのような即興演奏系ジャンルにおいても、アドリブをよりカラフルに彩るためにクロマティック・アプローチが常用されます。

こんな風にクロマティックな装飾音が加わることで、メロディに「一筋縄でいかないひねくれ感」が生まれました。

特に「ミ→レ」「ソ→ファ」のようなモーションは、前回やったブルーノートと通じるものもあります。

演奏としては単に半音隣の音を使うだけなのに、響きとしてはかなり複雑なものになるということで、複雑性を好むジャンルにとってこの技法はもってこいであると言えます。

3 実際の例

ここからは、ポピュラー音楽での典型的な使用例を見てみましょう。

『マヌルネコのうた』と、ヒルナンデスの曲としておなじみ『LUNCH TIME WARS』は、節回しに似たところがありますね。どちらも「レ→ミ」というクロマティック・アプローチがメロディのフックになっています。

半音の動きは“なめらか”ですから、そこに「ヌルヌル」という歌詞を当てているのはすごく面白いし、マッチングとしてもすばらしいですね。

『怪物』の方は、「真面目に」「鳴らす足音」といった箇所で「ソ→ラ」の動きが何度も見られます。やはりこのヌルヌルした動きが“怪物”というテイストの演出に一役買っています。

『君の瞳に恋してる』は、印象的なメインフレーズでこれまた「ソ→ラ」の動きを活用しています。これに関しては、社交ダンスのようなエレガントさというか、やはりヌルっとした動きによってワイルドさを減じて、上品な風合いに仕上げているようなところがあるかと思います。

つまり、「なめらかさ」という半音進行の持ち味を、多種多様な表現演出として利用できるということですね。

4 クロマティシズム

クロマティック・アプローチは、あくまでも短い音で装飾的に用いるのが「基本」ですけども、これをどんどん長くしてサウンドを過激にする試みが、ショパンなどに代表される「ロマン派」の時代では熾烈化しました。

ノクターン第2番 op.9-2

ショパンの代表曲「ノクターン第2番」は随所にクロマティックな装飾が加えられています。特に上の抜粋部分のラストが顕著で…

左手はBの音、それに対して右手のメロディはBの音。メロがベースの半音上にかぶさるという強烈な濁りになっていますが、最終的にメロディが半音降りて、「テッテレー このB音はクロマティック・アプローチでした〜」という形で“緊張の緩和”が果たされるわけです。

「緊張」の時間を拡大させて音楽を複雑化させていったという歴史があります。

複数音のクロマティック装飾

過激化の一環として、クロマティック・アプローチを複数の音で同時に行うパターンも当然考えられます。

トロイメライ Op.15-7

こちらはショパンと同時期の作曲家、シューマンの作品。途中で「2音同時クロマティック・アプローチ」を発見できます。

がレへ、ファがファへと流れていきます。ご覧のとおり、もし単独のコードとして解釈すると「VIm6(-5)」なんていう複雑な和音がスッと繰り出せるところがクロマティック・アプローチの魅力です。

このように、もともとの音階にない半音を用いて音楽を複雑化させていったクラシック時代のムーブメントは、「クロマティシズム」と呼ばれます。

ベース音でクロマティック装飾

特に、肝心のベース音でこのクロマティック・アプローチを行ったり、さらにウワモノでももう一音アプローチしたりと過激化させていくと、結果的に新しいコードが生まれます

こんな風にして、旋律が流れていく過程の中で偶発的に生じた和音を総称して偶成和音といいます。段々と「メロディ理論」からは逸脱してきましたが…ただまあこうやって、和音を「旋律の重なりあい」として捉えるアイデアも大切です。
2つ目、4つ目の和音はどちらも単独の和音として見ると、コード編VII章・VIII章で扱うような難しい和音です。それが、「半音傾性による緊張と緩和」というメロディ理論の基本アイデアによって容易に引っ張り出してこれるわけで、クリエイティビティの発揮しがいがあるところですね。 

“Chromatic”は、音楽理論以外の世界では「色彩のある」という意味で用いられる単語です。クロマティック・アプローチは、まさに音楽に様々な“色彩”を与えてくれる存在であるわけです。これをメロディで使うのもよし、ベースで使うのもよし、伴奏でちょこっと使うのもよしということです。

5 異名同音について

ここで少し、楽譜がらみの補足をいたします。準備編で、レ♯とミ♭のような同じ位置を指す音を、「異名同音(enharmonic)」と呼ぶという話をしました。その時はまだ「細かいことは気にしなくていい」で終わりでしたが、このレベルになって来てようやく、どちらで書くべきかが分かってきます。
例えばコードがCで「ド-レ-ミ」というメロディの流れがあった時、これは「ミに向かって上昇していく」というニュアンスがあります。原型として「レ→ミ」があって、それが変化してこの旋律が出来上がりました。

レ♯

だからこの時の「レ♯」は絶対にレ♯であって、ミ♭と書くことは原則的にありません。

一方で、前回の「ブルーノート」の文脈で現れたミの場合、本来「ミ-レ-ド」であるフレーズが「ミ-レ-ド」に落ち込んでいるという意味を踏まえると、これはミがふさわしいと言えます。

ブルーノート

今なら「レ♯とミ♭は別物」ということが、実感をもって理解できるのではないでしょうか。レかミか、どちらで表すのか迷ったときには、レとミ、どちらから派生して生まれた音なのかを考えるとよいです。

まとめ
  • 「半音隣へと解決させる」前提で「その時の音階からは一時的に外れている(≒臨時記号を伴う)」音を持ち込む行為を「クロマティック・アプローチ」といいます。
  • クロマティック・アプローチ・ノートの手前は順次でも跳躍でも構いませんが、そのあとは半音進行で解決するのが基本です。ただしある音に対して半音上・半音下の2つのアプローチノートを連続させる場合はこれに限りません。
  • 複数のクロマティック・アプローチを同時に行うとさらに特殊な響きが得られ、コード理論的には高度な部類のものを簡単に引き出すことができます。
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