クロマティック・アプローチ

メロディ編 Ⅱ章:旋律と和音
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今回は「メロディメイクの技法を知る」回です。メジャースケールから外れた音をメロディに導入する技法のひとつです。ロックやダンス音楽のようなストレートなジャンルでは、この技法はあまり用いられません。


#1 アプローチ・ノート

インコード・ディグリーが1・3・5度以外の位置取りをすると、それぞれの度数特有の「濁り」が発生します。「濁り」というのは、人間にとって本質的にストレスであると言ってもいいかもしれません。ですからNCTが隣接するCTに進むと、そこに「濁りの解消」が発生するので、心地のよい「解決感」が生まれます。

4から3

「緊張と弛緩」というやつですね。ですから濁りを帯びる2・4・6度については、順次で上行か下行をして解決してあげるのが、最も基本的な使い方と言えます。

特に、短く装飾的に使われるNCTのことを「アプローチ・ノート」と呼び、その解決先を「ターゲット・ノート」と呼んだりもします。まあちょっと、無駄に名前が増えちゃっている気もしますが・・・ターゲットに向かって移動していく!っていうのが分かりやすいネーミングではありますね。

  • アプローチ・ノート
    メロディの装飾に使われるNCT。
  • ターゲット・ノート
    アプローチ・ノートの濁りを解決できる進行先。

この分野は奥が深く、解決する方向の上下によって曲想がどう変わるか、あるいは解決しないことが魅力に繋がるパターンもあるのか? 考えることがたくさんあります。この細かな扱いについては、Ⅳ章でじっくりと学んでいくことになりますので、現段階では「濁る」ということを一応念頭に入れておくくらいでよいかなと思います。

#2 クロマティック・アプローチ

そんな中、現段階で紹介しておきたいのは、臨時記号を要する音をアプローチノートに使う方法論です。歌モノだと登場する機会は少なめですが、器楽曲では一般的な技法のひとつです。特徴的なテクニックなので、ここで頭に入れちゃおうというわけです。

代表的なCAT

こんな感じで、レ♯からミへ、ソ♯からラへという風に半音で滑らかに移動するのが基本的なフォームです。こんな風に、アプローチノートの中でも「コードトーンへ半音で進行する音」のことを、クロマティック・アプローチ・トーンChromatic Approach Toneといいます。

ちょっと実際に曲を作ってみましょう。

明るいアプローチ

CATなし

こちらはクロマティック・アプローチなしの通常状態。80年代テクノポップな調子でやってみました。ちょっと面白みがない感じもしますね。そこで、「レ→ミ」「ソ→ラ」の動きを、半音のアプローチに変えてみます。

CATあり

おどけた感じが強化されましたね! 今回の場合は、元々の全音差が持っていたパワーが失われたことでヘニョヘニョした調子になり、それがファニーな雰囲気へと繋がっています。こういう感じ、どこかで聴いたことありますよね。単なるメジャースケールでは出せないサウンドがあります。

曲調やジャンルが変われば、クロマティック・アプローチが生み出す効果もまた変わっていきます。

暗いアプローチ

うって変わって、逆に暗めのピアノソロにクロマティック・アプローチを導入してみます。

装飾

今回の場合は不穏で不吉な感じが助長されていますね。それは、普通にない音が混ざり合うことで、サウンドに濁りが増しているのが大きな要因でしょう。こういうのもやっぱり、聴き覚えがあると思います。このサンプルの場合、コードを複雑にしているわけではないんですね。むしろコードはシンプルで、メロディだけが不気味さを煽っているのです。


こういう不穏な雰囲気を漂わせるBGMで、この手のクロマティック・アプローチはよく使われます。

C.A.T.

中にはクロマティック・アプローチノートのことを「クロマティック・アプローチ・トーン」と呼び、C.A.T.と略す人もいます。ネコ派の人なのでしょう🐱

C.A.T.は当然ものすごく傾性の強い音であり、隣のターゲットノートに解決することが強く望まれます。普通のアプローチノートは跳躍進行することも多いですが、C.A.T.くらいの最強傾性音になると、大人しく隣へ順次進行するのが普通です。聴き手もそういうメロディの流れを期待していますからね。1

#2 実際の例

C.A.T.は情緒がかなり強いですし、歌うのも普通のメロディと比べると高度です。コードと強烈にぶつかる音をきちんと当て歌わなきゃいけないですからね。ですからどちらかというと楽器のメロディによく使われます。

こちら、どこかで聴いたことはあるであろう有名なフレーズ。冒頭の動きが「ソ♯→ラ」となっていて、これがC.A.T.です。先ほどのピアノ曲は暗い感じでしたが、使い方次第ではこういう明るい調子にも出来ます。やはり技巧的な印象が聴覚的にもあるので、高級感や上質な感じが漂います


25秒ごろ、「かしみでいっぱいの」のところが、C.A.T.になっています。まさに重苦しい悲しみを表現するために、ここだけ基本のドレミファソラシドからはみ出しているのです。

仕組みはとてもシンプルですが、どこにどういう風に使うかで効果が全く変わってくるのが面白いところ。

#3 異名同音について

ここで少し、楽譜がらみの補足をいたします。準備編で、レ♯とミ♭のような同じ位置を指す音を、「異名同音(enharmonic)」と呼ぶという話をしました。その時はまだ「細かいことは気にしなくていい」で終わりでしたが、このレベルになって来てようやく、どちらで書くべきかが分かってきます。
例えばコードがCで「レ♯→ミ」というメロディの流れがあった時、これは「ミに向かって上昇していく」というニュアンスがあります。原型として「レ→ミ」があって、それが半音差に近づいたという感じだ。

レ♯

だからこの時の「レ♯」は絶対にレ♯であって、ミ♭と書くことはまあありません。

楽譜には、作曲者の意思を込めることが大事なのです。だから例えばCのコード上であっても、それがブルーノート的なニュアンスで生まれたものであれば、ミ♭の方が適切と言えます。

ブルーノート

ブルーノートは基本的に「音が下がる(フラットする)ことで哀愁を帯びる」というスタンスで、下降指向ですからね。レ♯よりもミ♭の方がその意味が伝わるのです。今なら「レ♯とミ♭は別物」ということが、実感をもって理解できるのではないでしょうか。

補遺

ちなみに、「半音で進むアプローチノート」という定義からすると、「ファ→ミ」と進んでいた冒頭のアプローチノートもCATと呼べそうです。

4から3

しかし実際には、「ファ→ミ」や「シ→ド」のような基本の音階上で起こる半音進行をわざわざCATと呼ぶことはありません。CATには、「普通の音階じゃない、特別な半音の音階で」という含みが、暗にあるのです。

さて、ちょっと難しめの話が続きましたが、C.A.T.はそんなに頻用するものではないので、キッチリ理解・暗記しなくてもOKです。半音移動を活用するとまたメロディの選択肢が増える。それだけです。

この節のまとめ
  • 装飾的に使われるNCTを「アプローチ・ノート」と呼ぶことがあります。
  • NCTは順次進行で解決すると心地よさがありますが、跳躍したり、あえて保留したりすることで得られる曲想もあり、その用法は実に多岐に渡りま
  • (特に臨時記号を伴って、)コードトーンへと半音で進む装飾音を「クロマティック・アプローチ・トーン」と言います。
  • C.A.T.は非常に傾性が強く、半音移動して解決されることが基本的に望まれます。
  • C.A.T.は、使い方次第で様々な曲想の演出に使えますが、歌いにくいためメロディで使うには歌唱力が必要です。

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