Blackadder Chord

コード編 Ⅷ章:研究室

#1.Blackadder Chordとは

Blackadder Chord“とは、Joshua Taipaleという音楽研究家が名付けたとある現代ポップスのコードの名称です。2017年にYouTubeの動画で解説がなされた、まさに「名付けられたてホヤホヤ」のコードなのです。

解説動画

英語の分からない方のためにかいつまんで説明すると、「ラブライブ!サンシャイン!!」の「Guilty Eyes Fever」という曲に、すごく聞き慣れないコードが登場した。
驚いてコードを分析したがイマイチ解釈が分からず放置していた。しかし後に、別のいくつかの曲で同じコードに遭遇したため、ジャズファンの人々に見覚えがないか訊いてみたが、誰からも返答はなかった。

そこで改めてきちんと分析して、「Blackadder Chord」というクールな名前をつけた・・・という話です。

ナゾの新コードがJ-Popから飛び出してきたというのだから、なんとも面白いストーリーですね。Joshua氏は日本のアニメがお好きで、Tom-H@ckや百石元(けいおん!のBGMでおなじみ)などに影響を受けているそう。我々にとっては、二代目マーティ・フリードマン的な存在なのではないでしょうか。

Blackadder Chordの構成音

さてBlackadder Chordがどんなコードかといいますと、Augコードに対し、そのルートの全音上をベースに据えたコードであると動画では説明されています。

VII♭ blackadder

ただし、この並べ方は正直微妙で、このままでは解釈できないのも当然だ。違う見方をした方がよいと思うので、まずはその話をします。

Augmentedコードというのは、Diminished Seventhと同じく、転回してもコードクオリティが変わらないことでおなじみです。12音を四等分割したのがDiminished Seventh、三等分割したのがAugmentedですよね。

Augmentedと転回

ですから、Blackadder Chordのように「上がAug、下が独立したルートのハイブリッドコード」という場合、どのAugを意図しているのかについては3通りの解釈があるわけです。
そして、Blackadder Chordの効果や意味を理解し使いこなしていくには、次のように解釈した方が分かりやすい。

Blackadderの良い解釈

Augmentedコードの、ベースだけを増四度ひっくり返して作ったハイブリッドコード」ということ。そう捉えた方が、構成音の暗記、機能的な捉え方、従来の理論との結びつけ方、曲への導入の仕方、いずれについても分かりやすいです。

さてさて、Augmentedコードというのは、なかなか扱いづらいコードという印象がありますよね。このサイトでもここまでさほど紹介されていません。対するDiminished Seventhなんかは、構成音はどぎついけれど、「パッシング・ディミニッシュ」という便利な技法があったことで、ずいぶんポップスに導入されていますよね。

ここからは、このBlackadder Chordの使いやすさや魅力を紹介していくことで、AugコードをHalf DiminishedやDiminished Seventhと同じ「ポップスの必殺コード」という地位まで押し上げていきたいと思います。

#2.Blackadder Chordの位置付け

まず、動画中の参考音源で最もよく使われていた、IVをルートにしたBlackadder Chordを使って説明していきます。

IV♯blk

「blk」という表記を用意してみました。Caugが大元にあり、そのベースを増四度ひっくり返したという形ですね。強烈な不協和音ですが、ほかの経過和音たちと同様、流れの中で使えば自然にハマります。

動画中ではこのコードは半音下行するテンデンシーがあると説明されています。一見すると不思議なコードですが、しかしよくよく見ると、半音下行してIVへ進みやすいのは必然だと思えてきますよ。

Augとøの融合

結論を先に言ってしまうと、Blk Chordは、AugmentedとHalf Diminishedが合体したものと考えると非常にスッキリします。

Blkの正体

こういうことだ! 確かに改めて考えると、Augmentedとその増四度ウラのHalf Diminishedというのは、意外にも共通音が多いのです。
そしてIaugは経過和音としてIVに繋がりやすいですし、IVøもやはり、するっと下行してIVに繋がりやすい。

そして、増四度ウラのコード同士に類似性・関連性があるというのは、「トライトーン代理」や「中心軸システム」でおなじみの話ですよね。まあ今回はトライトーンこそ無いですけど、「増四度関係の音は機能が乱れることなく共存できる」という中心軸システムの話はここにも繋がります。

ですからこのBlackadder Chordは、トライトーン代理・Augの上昇気流・Half Diminishedの下降気流という3つがひとつになった強固なコードと言えるのです。

ジャズ理論的解釈

もちろん「ドミナントセブンスのトライトーン代理とオルタードテンション」といった観点からも解釈は可能です。

解釈

ただまあ、こんなに回りくどく考える必要はないと思います。分かりやすさからしても、実践投入の際の理解に関しても、AugmentedとHalf Diminishedの複合体と考えた方がスムーズです。

#3.Blkコードの用法

原理が分かってしまえばかんたん。例えばIVblkであれば、IaugやIVøを入れるようなところに入れればいいわけですし、他のルートの場合も、トライトーン代理やHalf Diminishedに近い存在であると分かった今ならば、自ずと入れどころは見えてきます。

IIaugIVM7VII7

こちらは、augやドミナントセブンスをそのまま使った形。それなりにおしゃれではありますが、やはり既視感が強く、新鮮味はありません。このaugと7を、どちらもBlackadderに変えてみます。

IIVblkIVM7VIIblk

何ということでしょう! ユニークでひねくれた、毒のあって小気味良いサウンドになりました。さっき単体で聴いたときは不気味だったコードが、綺麗にすっぽり爽やかポップスに収まっているのが面白いですね。

Blackadderの進行

こちらはコードトーンの確認。通してドとミが続いています。この辺りが、ポップに収まっている理由ですね。また、こうやって臨時記号少なめでトップノートを保てるということは、歌メロを乗せやすいということも意味します。

FblkもBblkも、ド・レ・ミを普通にメロディとして使えますね。これはかなり心強い。試しに上の音源のうえで即興のメロディラインを歌ってみれば、いかにポップス適性に優れているかが分かると思います。あるいは、ここまで不協和なんだからと、ソやラの音をあえて使うのも面白い。実にフレッシュなコードなのです。

ほか、理論的に面白いのは、FblkもBblkもウワモノは同じという点です。ソとラは異名同音ですからね。先述のとおりAugは転回してもAug。ですからひとつのAugに対して3つのBlkコードを作りうることになります。

共通ウワモノ

Diminished Seventhでもこういう転回がらみの話がありますよね。Dimばかりスポットライトが当たりがちですが、Augもこんなに面白いんだということを、Blackadder Chordは気づかせてくれます。

実際の楽曲例

このIIVblkIVM7という流れ、世代によっては何だかどこかで聴き覚えのある人もいたと思います。思い出せそうで思い出せない・・・

そう! ドラマ「電車男」の主題歌でおなじみ、サンボマスターの「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」で、Aaug/Dというコードが使われています。世界はそれをBlackadder Chordと呼ぶんだぜ。

2005年という時期を考えると、時代を先取りしすぎてますね。変わったコード進行だなと記憶していた人も多いのでは?
ジャズや近代クラシックならいざ知らず、ポップスにこのBlkコードを持ち込んだのは、もしかしたらサンボマスターが初めてかもしれないですよ。

他の楽曲例については動画の方で紹介されていますから、そちらを参照してください。またコメント欄には、御本人が「見つけられたのはそんなに多くなく、全部で7曲です」とコメントしており、以下の曲が挙げられています。

1. Guilty Eyes Fever (ラブライブ! サンシャイン!!)
2. ラブラドライト (OSTER Project)
3. CANDY LOVE (竹達彩奈)
4. リズムとメロディの為のバラッド (竹達彩奈)
5. わんだふるワールド (竹達彩奈)
6. クローバー♧かくめーしょん (三者三葉)
7. おはよう、またあした (けいおん!)

最近のアニメソングは変わったコードを使った曲が増えていますが、その「変わり種」にも「定番」が生まれてきているということですから、時代は着実に進歩している、といったところでしょう・・・。
特に動画冒頭の「Guilty Eyes Fever」は、このBlkコードをコンスタント・ストラクチュアで使っているのですから、J-Popはもはやジャズの域に入りつつあるのかもしれません。独自進化もここまで来るとスゴイ。

#4.Blkコードの応用

すでに何度も述べているとおり、Diminished SeventhとAugmentedは音階を等分割して出来る和音。あとはまあ、トライトーンもそうですよね。ですからこうした和音たちは、構成音を変えずに認識だけをひっくり返すことができます

これを利用して、Dimをつなぎにした転調など行われますし、「中心軸システム」の回ではトライトーンの認識を逆転させて増四度で転調する「バルトーク的擬似終止(Bartokean Pseudo Cadence)」を紹介しました。

擬似終止

本来はシが導音、ファが下属音なのに、その認識を逆転させる。ファを導音、シを下属音と見立ててFへと解決してしまうテクニックでした。

Augも本来はこのような行為が可能なのですが、なにぶん扱いにくいコードゆえ、こういった応用例はあまり見られません。そこへきてこのBlkコードは、ルートが独立して動いていることや、理解不能な不協和を起こしていることもあって、こういった転調テクニックにも活かしやすいです。

Blkを用いた転調

こちらは普通のコードとBlkコードを交互に繰り返しながら、好き放題転調している例です。ご覧のとおり、調性はかなり曖昧ですが、保留音や半音移動をうまく使って流れを作っています。冒頭3小節に着目してみましょう。

Blkを用いた転調

あっという間に転調していますが、聴いた感じだと分からないですよね。Fblkのサウンドがぶっ飛びすぎていて、我々の脳も「もう着地してくれればどこでもいい」という感じになっているのではないでしょうか?

また今回は、augの奇妙なソを異名同音のラにすり替えて保留するというテクニックも使っています。こういうことが出来るのも、augならでは。この辺りは、和声のスキルが活きるところでもありますね。

このような奇妙な和声、不思議系BGMに使うもよし、ポップスの間奏なんかに挟み込むもよし、また表現の幅が広がります。Ⅲ章でHalf Diminished、Diminished Seventhを必殺技のコードとして取り入れたわけですが、これからはAugmented、そしてこのBlackadder Chordも、ポップス用のアイテムのひとつとして仲間に加えていきましょう!

名前について

今回紹介したコードは、トライトーン代理の延長でどうにかこうにか説明できるとはいえ、明らかに別のコード、ひとつの技法として名前をつけておくべきものだと考えます。
たとえば「四度堆積和音」だって、コードネームを付けることは可能ですが、それではそこにある音楽的意味が失われてしまうため、我々はそれを四度堆積と呼びます。それはこのコードについても同じでしょう。「特別な意味を持って特定のジャンルで愛用されているコード」というこのコードの文化的側面を鑑みて、名前を与えるべきです。

しかしこの「Blackadder Chord」という名前は、冒頭に述べたとおりJoshua Taipaleという音楽家個人の発案であり、広まった名称ではありませんから、どのように呼び、どう書いても差し支えありません。なんなら「Guilty Kiss Chord」と呼んでも全く正当な名前なわけです。

もちろん一番すごいのはこれを楽曲に盛り込んだ作曲者たちですが、しかし、このような特殊なコードの用例をポップスの範囲で7曲も見つけてくるというのは非常に大変なことで、ましてやそれを楽譜に起こして分析し発表したJoshua氏の研究心たるや感嘆の一言であるわけです。

Joshua Taipale氏Joshua Taipale氏

それゆえこのサイトでは、Respectを込めてこの「Blackadder Chord」という名前を推進していきたいと思います。

総括
  • Augコードのベースだけを増四度ウラにして作ったハイブリッドコードが現代のJ-Popで稀に用いられており、これが「Blackadder Chord」と名付けられました。
  • 特にIVblkがよく用いられ、IVøに近い感覚で使用できます。
  • Augコードの転回の性質を利用することで、Blkコードを転調のきっかけとして活用することもできます。
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