テンションコード ❷ アヴォイドについて

コード編 Ⅳ章:新しい技法

前回はテンションコードの考え方や表記法について学びましたが、実践上での壁となるのが「アヴォイド」と呼ばれる音への理解です。

テンションとアヴォイド

しかし、なぜ「回避」しなければいけない音があるのか。これは自由な作曲にあたって重要な問題となります。まずは、慣習的な理論の意見を、そのままの形で紹介しますね。

#4 アヴォイドを理解する

例外は後述するとして、イメージを掴むためにまずアヴォイドが何であるかを端的に一言で述べます。アヴォイドとは、「コードトーンに対して半音上で重なる音」です。
I章「付加和音と濁りの活用」で述べた「過度な濁りに注意」というのは、まさしくこのアヴォイド・ノートのことを言っていたのです。

半音差で音が重なると、人は上の音の方に注意が向いてしまうのでしょうか。「下から」と違って、「上から」の重なりはコードの響きが妨害されてしまう、だから「回避」するのだと説明されます。

しかし、すぐに疑問が浮かんできます。例えばVImにファを乗せたものは、IV7/VIだと捉えれば何の問題もないのでは?

スラッシュコードじゃん

構成音は全く同じなのに、左だけが“乱された”サウンドと言われる。これでは、納得できるはずがありませんね。なぜこんな制度が生まれたのかは、音楽理論の歴史を思い返してみると分かります。

アヴォイドの存在理由

アヴォイドは、ジャズ理論が生み出したシステムです。純クラシック流派の理論には、アヴォイドという言葉は存在しません。ジャズ理論は、クラシック理論では足りない部分を自分たちで開発して、改造していったんでしたよね。アヴォイドはそのひとつなのです。

二本柱

ジャズの醍醐味は、即興演奏。アドリブ・セッションをする時には、ベースとなるコード進行だけがあって、それを元に全員が即興で音楽を作り上げていきます。だから、コード進行が絶対的に優位で、唯一の指針である。これがカギです。

つまりアヴォイドとは、コード進行を誰かが勝手に変えることのできないアドリブ演奏の際の、プレイヤー同士の基本的な“マナー”として用意された概念なのです。

具体例で話しましょう。上の音源ではコード進行を2周していますが、2周目のVIm7のところで、ピアニストがファの音を鳴らしています。そのために、せっかくのドミナント→トニックの解決が決まらずヌルっとしてしまいました。これが「コードの響きを妨害する」という言葉の指すところです。

もちろんF7/Aのサウンド自体は魅力的で、これが「間違った音楽だ」ということではありませんよ。むしろ何回も聴いていると逆にこっちの方がクセになってくるような、不思議な毒を持っているとさえ言えます。

しかし、少なくとも誰かが即興の中で独断でやっていい範囲を超えたアレンジですよね。こういう独特な表現がしたいのなら、最初から話し合いをしてコードネームを「FΔ7/A」にしておけという話です。

ファの音は、まさにテンション界の「カレー粉」です。入れた瞬間サブドミナントの香りが音全体に広がって、トニックの香りをかき消してしまいます。影響力の強い音と弱い音。その線引きとして用意された言葉が「アヴェイラブル」と「アヴォイド」なのです。

テンション とアヴォイドの理解

ね。歴史を理解していれば、理論の意義を正しく理解することができます。この辺りをよく理解しないままアヴォイドという言葉の強迫観念に駆られると、自由な作曲精神を見失ってしまうことに繋がります。「アヴォイド」という言葉は非常に誤解を招きやすく、あまり褒められたものではない表現ですね。実際に、有名なジャズ理論書「The Jazz Theory」にも以下のような記述があります。

“Avoid note“ is not a very good term, because it implies that you shouldn’t play the note at all. A better name would be a “handle with care” note.

(“アヴォイドノート”はあまり良い言葉じゃない。というのも、まるでその音を全く使うべきではないと言っているようだからだ。より良い名前は、”取扱注意”の音、でしょう。)
Mark Levine “The Jazz Theory Book”

おっしゃるとおり。「避ける」というよりも、「注意して扱う」という気持ちで臨むべきです。

この世界に、存在意義のない音や間違った音などありません。その音でしか表現できない世界というのが必ずあります。ただ「アヴォイド」は、そういう表現探求のロマンは抜きにして、ひとまずアドリブの際の注意音をまとめておいた“ブラックリスト”のような物なのです。

#5 アヴォイドを見つける

注意する音をまとめてくれたリスト。そう捉えれば、まあ無碍に切り捨てることもないかという気持ちになってきますね。せっかくなのでこのストーリーに乗っかって、もう少しジャズ理論の話を聞いてみることにします。

音楽に禁則はない。禁則と呼ばれる全てに、効果的な破り方が存在します。でも“効果的”にそれを破るには、その禁則についてよく知っておく必要がありますからね。ここからはアヴォイドの判断法をサラッと紹介していきますが、これはあくまでもアドリブ・セッションを前提にしたジャズ理論における制度だという前提はお忘れなく。

アヴォイドの原則

改めて、アヴォイドとして選ばれる音の大原則は、先述のとおりコードトーンの半音上に乗るものです。1

CΔ7のテンション

こちらはIΔ7の例。コードを“妨害”しにくる危険なやつということで、毒々しい紫色でツノをつけてみました😈
特に11thの音はメジャー系コードの核とも言える3rdの音をつぶしにやって来るので、極めて危険な因子です。

保守的なアヴォイド

「アヴォイド=コードトーンの半音上」というシンプルな法則で話を終わらせられればよいのですが、ひとつだけ例外的にアヴォイドに含まれるものがあって、それがIImのコードの時に発生します。

Dmとアヴォイド

「13th」のテンションが、コードトーンの半音上というわけでもないのにアヴォイド指定されています。これはレ・ファ・シと鳴っているとサウンドがV7にかなり近しくなり、「サブドミナント機能に混乱をもたらす」ためと言われます。2

このアヴォイドは、他とは全く次元が違います。コードそのものを阻害してしまうというより、「V7の持ち味であるトライトーンを先に横取りしてしまうのがよくない」という、トゥー・ファイブ・ワンの流れを想定した論理にすぎません。

IImに13th(=長6度)を乗せたサウンド自体はすごく魅力的で、実は古典派クラシック短調の定番コードでもあるんですよ。その場合は、主にIIIのコードへと進みます。

VImIIm6III7(-9)VIm

すごく高級なクラシック感があって、何の問題もありません。だから現在ではジャズ系理論書の中でさえも、「問題なく扱われるケースが増えている」など肯定的に扱われたりします。3 自由派でもこれに関しては全くもって「使える」ものとして捉え、アヴォイドとはみなさないことにします。

アヴォイドの免除

逆に、例外的にアヴォイド判定が緩くなる場合もあります。コードクオリティがドミナントセブンスのときは、濁りに対する許容水準がアップするのです。普通ならアウトな濁りでも、ドミナントセブンスであれば(どうせそのあと解決するから)いい「緊張と弛緩」として機能する、と考えるのです。

ドミナントセブンスコードにおいては、コードクオリティを確定する大事な3rdを上から邪魔する「11th」だけがアヴォイドで、他は全て許可されます。4

ドミナントセブンスのアヴォイド

11th以外なら、何を乗せてもよい。短3度と異名同音である9thのテンションも、「変位の打ち消し」を代表とするいくつかの文脈を利用して積むことができます。


というわけで、アヴォイドの判定法は非常にシンプル。「IImの13th」を除いてしまえば、要は「コードトーンの半音上」だけがアヴォイドで、そしてドミナントセブンスの時にはその禁止が一部解除される。

フローチャート

こんな感じで、ごくシンプルなフローチャートにまとめられます。5

かくもシンプルな法則があるので、各コードのアヴェイラブル/アヴォイドの数字を頑張って覚えるプロセスなど不要です。というか、数字だけ覚えても無意味です。その先にあるサウンドこそ本質なのですから。

もし覚えるのなら、逆の順序です。すなわち、まず作曲/分析の際に良いサウンドに出会う。そのサウンドを記憶しておくために、数字に還元して脳に収納する。それなら数字とサウンドが一体の情報となって、“生きた知識”として身につきます。やがてコード譜を読んだだけで、頭にサウンドが思い浮かぶようになるわけです。

ここからの道のり

さて、これで慣習的なアヴォイドへの理解は十分深まったと思います。次の記事では、まだ慣習に沿ってテンションの使い方を学びます。

まとめ
  • テンションには、コード感への影響が大きいものと小さいものがあり、前者は即興演奏の場では気軽に使うことができません。それを「アヴォイド」と呼びます。
  • アヴォイドは、端的にまとめてしまえば「テンションのうち、コードトーンの半音上に乗るもの」です。
  • ただしドミナントセブンスコードにおいては、Rt・5thの半音上に乗るテンションがアヴォイドから除外されます。

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