付加和音と濁りの活用

コード編 Ⅰ章:新しい言葉

#1.音を付加すること

「自由派音楽理論」という名前に惹かれてここまで来た人の中には、怒りに震えている人もいるかもしれません。自由と言っておきながらコードはたったの6つ。「お団子がさね」も決まってしまっている。全然自由じゃないじゃないか! と。 ごもっともです。

基調和音

この基調和音たちにプラスして音を追加すると、まだ説明されていない応用的なコードが生まれることになります。その詳しい紹介は当然もっと後になるのですが、でも色々試したいですよね! だから現状でも「試行錯誤」が出来るように、ちょっとだけサポートをしたいと思います。

濁りは旨味

そもそも「お団子がさね」をする理由は、適度な距離を置くことで濁りを回避するためでした。これ以上音を加えると、音はだんだんと濁っていきます。

でもその濁りが「大人っぽさ」とか「哀愁」とかいったプラスの影響を与えることも事実で、ぜひとも使いこなせるようになりたいですね。

濁り

実際のポピュラー音楽では、シンプルな三和音のサウンドのみで楽曲が構成されることはほとんどありません。こうした“濁り”によって、より上質な音楽に仕立てあげているのです。緑茶よろしく、音楽においても“濁りは旨み”なんですよ。こうして、三和音に音を付加したコード全般を、クラシック系理論では付加和音と呼びます。

#2.一音付加の実験

現段階ではこの「濁り」は、「他のコード感が混ざる」「他のコード感を掛け合わせる」と捉えると、おおむね外れなく分かりやすいと思います。

例えばCにラの音を足すと、当然Amに構成音が近くなりますよね。だから「Cにラを足すと、CとAmが混じったような質感になる」という風に理解すれば、それでまあかなり的を得た認識になります。

付加六度

ご覧のとおり、ド・ミ・ラのAmと構成音がそっくりになります。だからそのサウンドは、元々のCと比べるとちょっと暗くて陰を増す。そんな風にコードの質感と原理を解釈することができますね。

ちなみに、ルートからみて6度の音を足しているので、右肩に「」と添えておきましたが、これは正式な表記ではなくて、現段階での単なる注釈です。もう少し遊んでみましょうか。

Iに濁りを加える

Iに濁りを加える

音源はまず普通のI、それから6°、7°、2°を付加したものです。どれも魅力的な濁りです! 今日からでも早速使っていってほしいコードたちです。

こうやって、詳しいことを知らない状態で化学実験みたいに試行錯誤をするのも面白いものです。これらはII〜IV章で扱う知識になりますが、こうやって原理が分かれば現段階でも全然使いこなせます。

VImに濁りを加える

VImに濁りを加える

今度はVImに対して6°、7°、2°を付加してみました。臨時記号が生じない、音階本来の音を足してあげる分には、メチャクチャなことはそうそう起こりません。けっこう自由にやって大丈夫ですよ。

ひとまずこの「質感が混ざる」という考え方を用いれば、「この音を足すことによってどんな効果が得られるか?」というのはおおよそ想像がつきますから、現段階の「簡易的な解釈ツール」として覚えておくとよいです。

#3.メロディ編の知識と合わせる

この“化学実験”は、メロディ編の知識と合わせて考えるとより直感的に理解できます。詳しくは「メロディ編 I章」で述べられることですが、メロディの各音は、それぞれがユニークな個性を持っています。かいつまんで説明すると、こんな感じ。

キャラクター
長調のボス。絶対的安定。
浮遊感、中心からの離脱。
訴えかけるような情感。
ファ めちゃくちゃ不安定。
高揚感、突き抜ける高さ。
短調のボス。暗さがある。
不安定。切なさ、大人っぽさがある。

音を混ぜるということは、コードにこれらのキャラクターを付加することであると考えても、やはり現実とほぼ食い違いのない、的を得た知識になります。この見方で、先ほどの実験をもう一度見てみます。

Iに濁りを加える

ラが加わったから暗くなった。シが加わったから大人っぽくなった。レが加わったから浮遊感が生まれた。そういう風に「濁り」を解釈するのです。

VImに濁りを加える

こちらでも、聴覚上の印象と言葉の説明がおおよそ一致するのではと思います。あまり差がピンと来ない場合は、実際の曲中で使ってみるとよりキャラクターの違いが判ります。先ほどのキャラクター説明はあくまでもひとつの表現なので、しっくり来ない場合は自分なりの言葉をあてて管理してもらえればよいです。

作曲にコードネームはなくてもいい

音楽理論が大変そうに見えるひとつの大きな要因は、コードネームとその命名規則がたくさんあってややこしいことですね。でもここまででお分かりのとおり、たとえ「名前」が分からなくったって、上級者向けのコードを使いこなすことは可能です。

コードネームが必要なのは、「自分の曲をコード譜にして他人に伝える時」「コード譜を元に演奏する時」などです。そうした必要性が低いのであれば、「コードネームの知識レベル」と「使える音の範囲」に食い違いがあっても、何ら問題ありません。それは少しも悪いことではないし、ある意味かっこいいですよね。

俺はこのコードの名前を知らない。だがこのコードが美しいということは知っている…

全然かっこいいです。これはちょっとした発見ですが、たとえ理論を学んだとしても、学んでいない音を使えばいつでも「感覚任せ・センス任せの作曲」をする自由があるわけですね。理論を学び始めたからといって、学んでいない音使いに躊躇することはありません。自由な精神を忘れないことが何より大切です。

#4.濁りすぎには要注意

ただし、濁りの中でも「半音差」の濁りには注意です。ミの半音上にはファが、シの半音上にはドがいます。もし本来のコードトーンに対して「半音上」で乗っかられてしまうと、コードの響きがかなり乱されるので要注意です。

要注意

基調和音内でありうるパターンはこの5つだけです。いずれもかなり濁った音がしますね。特に「ファ」は、先ほどもありましたが非常に不安定な音なので、「ファ」を「ミ」にかぶせるのはかなり挑戦的行為です。
逆に「ド」の方は別に、そこまで嫌な濁りではないので、この響きが良いと感じる場面では臆することなく使ってよいでしょう。ただ濁りが強いのは間違いないですから、編曲の時にはきちんと目立ちすぎない控えめなバランスで音を鳴らしてあげるとよいですね。1

下からの攻撃には強い

一方で、「ファ」や「ド」をコードトーンに持つコードでは、それぞれ「ミ」と「シ」が半音下からの濁りを発生させるわけですが、これは全く問題なしで、美しく響きます。

下からはOK

下から濁される分には、コード感が乱されないのです。むしろ、良い感じの上品な濁りです。

こうした注意事項と基本概念をザックリ理解しておけば、「名前レイヤー」の知識をすっ飛ばして上級レベルの実戦に取り組むことが可能です。

#5.二音付加の実験

音に濁りを混ぜるこの「実験」、本当に奥が深く面白いので、もう少し続けます。今度は音を2つ追加してみましょう。

2,7付加

こんな実験結果が得られるんじゃないかと期待するわけです。だんだんワクワクしてきたぞ😇

音の引き算

しかしコードの構成音が3個+2個で5音となると、だんだん音はグチャグチャしてきますし、楽器で演奏するのもしんどくなってきます。そこで、元の構成音のうちどれかを省略してしまおうと思います。

省略候補

このままじゃ、親指から小指まで全員出動ですからね。ちょっとそれは避けたい。このばあい、省略候補は2つです。

  • ルートを省略
    左手が「ルート」のドをもう弾いているんだから、右手も弾く必要は無い。だからこれを省略しよう。
  • 第五音を省略
    ソの音は、「第五音」。これは「無色透明のサポート役」だった。サウンドを構築するうえでの重要性は低いので、これを省略しよう。

このようにして、省略の候補は「ルート」か「第五音」になります。これは地味にハイレベルな知識ですね。それでは、重要でない音は適度に省略しつつ、「二音の付加」にチャレンジします。

2-5-1-6に二音付加

今回題材に取るのは、ジャズなどオシャレめの音楽でよく使われる2-5-1-6の進行です。

IImVIVIm

キーCでいうなら、DmGCAmとなります。現状あまりオシャレとは言えない状態ですが、ここにそれぞれ2つ音を付加します。すると・・・

2516に二音付加

かなりオシャレになりました!! 今回は、「実はもうこんな難しいコードが弾けるんだぞ」という意味を込めて、実際のコードネームを書いてみました。これはもうIV章の知識までが入り込んでいるので、相当ハイレベル。でも、やっていること自体は現段階でも全然理解できますよね。付加音の中では、「7°」がまず圧倒的に使いやすく、入り口としてオススメです。次いで2°、6°、最も扱いづらいのが4°という感じ。

今やっていることは、本当に重要なことです。「IV+6°の哀愁が絶妙だな」とか、「I+2°の開放感はアップテンポの曲に合いそう」とか、自分好みのコンビネーションを見つけてストックしておくと実践に生きるし、今後理論を学び進めたときに、「My定番コードだったコイツ、こんな名前だったのか〜」と“復習”の要領で学習できるので、非常に有益です。

Check Point

たとえ明確な知識がなくても、「音の濁り」「各音の性質」「ルート・第三音・第五音それぞれの役割の違い」といった“根本原理”を理解していれば、効果的に音を足し引きすることが可能である。

付加音が与える影響を考え、確かめながらコードを身につけていくことは、単にコードネームを暗記して使用するよりも音に対して本質的な作業であるとさえ言える。実践の経験を持っておくことは、学習の手助けにもなる。

音楽理論の学習は、焦らずに実践を積みながら進むことが、本当に重要ですよ。

こちらは白鍵だけ、基調和音だけで作られた演奏です。「音の足し引き」を使ってサウンドを彩っていくと、白鍵だけでもこれだけ豊かな音響が生み出せます。最後にもう一度、「音の付加」の原則をまとめておきますね。

  • コードに音を付加する際は、「コードの質感が掛け合わさる」もしくは「コードに各音のキャラクターが混ざる」とイメージするとよい。
  • コードトーンの「ミ」に「ファ」を乗せるのは要注意。「シ」に「ド」を乗せるのもちょっとだけ注意。“下からの攻撃”には強いが、“上から”には弱い。
  • 音を足したあとは、音がギュウギュウにならないようコードトーンを引くのも効果的。そのばあい、複数パートで重複している音を抜くか、そうでなければ第五音が筆頭候補となる。

もちろんこういうところを理論的に分類・解説し、名前をつけて管理していくのがII章以降の話ですが、現状でもこれくらいリッチなサウンドが作れる“自由”はあるのだということを忘れないでください。

#6.コード譜の演奏に際して

今回の知識は「コード譜を元に演奏する」なんて時にも参考になります。これまでに、自分の好きな曲をコピーしようと思ってコード進行を検索したら、色々難しい記号がついていて圧倒されたなんて経験があるかもしれません。

でもココまでの話で分かったとおり、後ろについている「6」「7」「9」といった記号は、ある意味“おまけ”とも言えます。編曲上のちょっとしたアレンジなわけですから。ですので、そうした部分を省略してもそれなりに演奏として成立します

省略前 省略後
Cm7 Cm
Dm9 Dm
F6 F
Fmaj7 Fmaj ⇒ F
E9 E
BM7 BM ⇒ B

こんな感じです。もちろん、これからどんどんコード理論を学んでいって、きちんと仕組みが分かるのが理想ですけど、でもそれまでの「一時しのぎ」として、こういう風に簡略化をするのもアリですよ。

総括
  • 基調和音に音を付加すると、複雑なサウンドを得ることができます。原理から考えれば、コードネームを知らなくってもある程度使いこなすことができます。
  • 音の付加によって得られるサウンドは、メロディ編で述べられる「各音の性質」とセットで考えると非常に分かりやすくなり、それで現実との相違もほとんどありません。
  • 構成音に「ミ」を持つコードに半音上の「ファ」を付加する行為は危険で、その不協和な響きをよく理解したうえで使う必要があります。
  • 自分にとって好ましい付加和音をストックしておくと、実践/学習の両面において有用です。

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