ライン・クリシェ

コード編 Ⅳ章:新しい技法
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今回は「編曲技法を知る」回です。

これまでいくつか変わったコードを学んできましたが、それらの効果的な使い方を知る回です。ポップスで定番のコード進行を、パターンで直接紹介するという実践的な内容になります。

一音単位の細かい動きを扱うので、あまりそのように考えない荒めのロックや電子音楽ではあまり使わない技法となります。


#1.ライン・クリシェとは

ライン・クリシェLine Clichéとは、「単一のコードを奏でている中で、変化をつけるためにどこかの音を半音で動かしていく技法」のことを言います。日本では、略して「クリシェ」と呼んでしまうことが多い。
ちょっと言葉ではわかりにくいかもしれないので、実際の例で見てみます。

VIm+下降型
VIm6の使用例

こちらは、シックスコードのときに紹介したもの。基盤としてAmがあって、一番上の音が「ソ→ファ♯→ファ→ミ」という風に、半音で動いています。これがまさに、ライン・クリシェの典型です。
基盤がひとつのコードから動かないということがポイントですね。

I+上昇型
Cでのクリシェ

こちらは、明るいコードでやってみたパターン。ポップスのひとつの定型として確立されているコード進行です。ちょっとずつ音が上がっていくので、ウキウキ感・ワクワク感を表現するのにぴったりな進行ですよ。実際の用例としては・・・

こちら、銀座の商業施設「GINZA SIX」のためのテーマソングとして作られたもの。サンプル冒頭、メロのコード進行が上昇型クリシェになっています。ちなみにこの曲は、イントロでもクリシェが使われていますよ。

クリシェの動きは、半音であれば上昇でも下降でもオッケー。途中で上昇から下降に変わってもOKです。
ひとつのコードを基盤として長く続けるという性質上、トニックのコード上で行われることが多いですが、もちろんどのコードでやってもかまいません。

いくつかの呼称

この「ライン・クリシェ」の別名として「メロディック・クリシェ」と言ったり、ベースラインで行ったものを「ベースライン・クリシェ」、複数の音で同時におこなったものを「ハーモニック・クリシェ」といったような派生名が散見しますが、いずれもあまり国際的に広まっている正式な名称ではありません。

まあ名前はあった方が便利ですから好きなように呼べばいいと思いますが、どれも慣用的に生まれた言葉なので、どの呼び方が正しいとか、何をもってクリシェというかなどは、こだわらないのがよいでしょう。

#2.ベースライン・クリシェ

そもそもベースラインが動けばコード感がかなり変わりますから、「ライン・クリシェ」が本来意味するところとは少し変わってきてしまいます。ただ、ベースが半音で動く定番のパターンが存在することは事実ですから、せっかくなのでここでそれを紹介しちゃいましょう。

マイナー系のベースクリシェ

下降ベース

これは、特にJ-Popのサビ後半とかでよく使われる、定番のベースラインです。ウワモノが全く変化せずベースだけが動いていくのですから、これは要するに、スラッシュコードの時に紹介した「ソプラノ・ペダルポイント」の一種ですね。飛び抜けて有名なコード進行なため、こうやって「ベースライン・クリシェ」という別の名前がつけられているのです。

ウワモノはVImをキープするのが基本ですが、ベースに合わせて微妙に音を変えることもしばしばあり、亜種がたくさんあります。

「やさしいキスをして」のメロには、このパターンの亜型が使われています。「あなたが眠るまで」に相当するパートのところですね。露骨に悲しい感じがするので、J-Popとは相性がよいです。

洋楽では、Led Zeppelinの「Stairway to Heaven」で使われているものが最も有名でしょう。こちらは、ベースの動きに合わせてギターもVImから音を変えていっているので、もはやクリシェとは言えないかもしれません。ちょっと微妙なところです。

メジャー系のベースクリシェ

メジャーコード系でも、定番の半音ベースラインのパターンが存在します。もうホントに、「クリシェ」の本来意味するところからはずいぶん離れてしまうんですけどね。

メジャー系クリシェ

この4小節がまるごと使われることもあれば、前半2小節だけが引用されるケースも多いです。そのあとは定番の4-5-3-6に進んだりしてね。あるいはラストのコードをスラッシュコードじゃなく普通のVにすることも多い。
上のコードを維持したままベースだけが動く結果、普通ではあまり出てこないコードが現れるのが魅力ですね。基調外和音がたくさん登場するので彩りが豊富なのがよいところで、バラード系でよく使われます。
この進行を使った代表中の代表が、木村カエラの「Butterfly」のサビです。

幸福感を表現するのにピッタリって感じがしますね! この曲の場合、上譜6個目のレ♭の部分をすっ飛ばして、そこだけ全音で動いています。気分次第でそういうアレンジを加えやすいのも、クリシェの良さです。

こちらは平井堅の曲。三声のハーモニーが美しいカバーですね。サビの進行が完全なメジャー系ベースラインクリシェです。この進行はやはりこう、感情が溢れるようなバラードによくマッチしますね。

ひと昔前なら、たぶんコレが一番有名。Mr. Childrenの「Over」です。これまたカバー。シンプルなアコギアレンジなので、ベースラインが半音ずつ下がっているのが聴きやすいかと思います。これはもうホントに、バラード以外じゃ情緒的すぎて使えないですね。

#3.クリシェの使いどき

「Cliché」はもともと、「決まり文句、使い古した常套句」という意味のある言葉です。ここまでの音源を聴いてもお分かりのとおり、聞けば一発で分かるほど特徴的な進行であるのが、このクリシェです。

だからこそ、使うときには思い切って前面的に使うのがよいでしょう。「やさしいキスをして」もメロでくどいくらいに繰り返し使いますし、「Butterfly」も「僕は君に恋をする」もサビのド頭にコレです。
ですからもう、「私はこの曲においては、コード進行のオリジナリティでは勝負していません。その使い方と、そこにどんなメロを乗せるかで勝負します」くらいの気持ちで使うのがよいかと思います。

この回のまとめ

  • 単一のコード上で、どこかの音が半音で動く技法を「ライン・クリシェ」といいます。
  • ベースラインが半音で動くものは、本来のクリシェとは少し意味合いが違うものの、定番の技法として有用です。
  • 日本では「ハーモニック・クリシェ」や「ベースライン・クリシェ」といった派生語が存在しますが、いずれも俗称です。

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