パラレル・マイナー ❷

コード編 Ⅱ章:新しい音響

前節の記事で、同主調からの借用の基本的なパターンについては確認し終えました。

同主調からの借用

ここからは、違った文脈の使い方や、細かい理論的部分を見ていきます。

#4 ロック風な使い方

短調からコードを借りることで、長短が曖昧になる。そういう意味では、「パワーコード」と通じるものがあるかもしれません。特にIIIVIVIIの3名は、ロック音楽のリフの中で非常によく使われます
ちょっとポンポンといくつか、コード進行のサンプルを置いておきますので、参考にしてください。

IVVIIIV

あっけらかんとしたパンク調です。
上記3名はみなメジャーコードですから、根が明るい。なのでパンクにはぴったりです。同主調和音を取り入れることで、メジャー系コードだけでも様々なバリエーションを作れるというわけ。

VIIIの反復IV

IVIIを往復してるだけで、十分リフは成り立ちます。

IVIIVIV

VIをうまく使って、雄大さを表現しています。こんな風に、IVIIVIと下降していく流れは、ロック系の定番コードのひとつです。

IIIIIVV

IIIを使ったパターン。やはりこいつはクセがあるので、他2つと比べると組み込みにくいです。こうなってくるともう、本当に長調と短調の真ん中くらいになっています。前回はIIIは半音下行するのが基本と述べましたが、いま説明しているロック調の使い方となると、こうやってまた変わった使い方がたくさんあります。

IVVIIVVVIVII

IVVVIVIIという3連続上昇の進行も、ロックのサビでの定番のひとつ。なんだかこう・・・軽音部!って感じがしますね。

これまでの手持ちコードだったら、Vから上がるとVImに着くので、そこでトニックに解決してしまいます。そこでVIに進むことで、着地感を与えることなく上昇し続けることができる! 強いですね。

で、盛り上げておいて次のパートでは堂々とIVIIの繰り返しです。メリハリもバッチリ。こうしたコードを使いこなすことは、ロック系音楽にとってはかなりの武器になります。

こうやって他調のコードをみだりに交えることは、調性というものを大事にしているクラシックの伝統的作曲法に反するところがあります。でも、だからこそカッコイイというわけです。

#5 ミ・ラ・シの選択権

冒頭では「ミ・ラ・シにフラットのついたマイナーキーから借りてくる」と述べましたが、実際にはミ・ラ・シのうちどれか一部にだけフラットをつけた“派生形”を借り元として借用することも可能です。フラットの付き方により、それぞれ異なる名前がつけられています。

借用元一覧

例えばIVmを使う際に、関係あるのは「ラ」だけではありません。そのうえでメロディやフレーズを奏でるとき、「シ・ミ」をどうするかについての選択が発生します。もちろん、「セブンスコード」や「付加和音」で濁りを加えるときもそう。
もしIVmでラはフラットしたけど、ミやシにはフラットを付けなかった、そんな時にはこれを「ハーモニック・メジャー由来のIVm」と説明するわけです。

ただ現状では、上の楽譜に添えられた7つの名前を覚える必要はありません。一般的なポピュラー理論の範囲を超えているので、せっかく覚えても他人に通じないという悲しいパターンもありえます。

名前の代わりに、覚えておくべきは以下の3つです。

  • ミ・ラ・シにどうフラットを付けようとも、それに対応した「解釈」が存在しているので、安心して好きなようにやって大丈夫である。
  • ミ・ラ・シのどこまでフラットをつけるかは、表現したい曲想、作りたいメロディライン、前後関係などから判断して決める。
  • バンドなどで他人と演奏を擦り合わせる必要がある時には、ミ・ラ・シのどこまでフラットをつけるか確認した方がよい。

仮に「6つの基調和音」をベースにしたとしても、ミ・ラ・シのつけ方はそれぞれ7とおりあるので、組み合わせて42パターンの表現が新しく生まれることになります。どうフラットをつけるかは、まず実践の中でサウンドの違いを身につけていくことが大事。加えてメロディ編のIV章では、フラットの付け方でメロディラインがどう変わるかを考察したりもします。

名前を覚えるのはもっとずっと後、理論上級者になった時でよくて、「ラとシだけにフラットをつけて、ミにはフラットをつけないIVm」と言うのが長ったらしいな、覚えよっかなと思えてきたら、そのとき満をじして「ミクソリディアン♭6由来のIVm」と覚えなおせばよいです。その頃にはもう、「ミクソリディアン」や「ハーモニックマイナー」といった言葉の意味もよく分かっているはずですからね。

選択によるコードネーム変化

ひとつ注意が要るのは、セブンスコードにしたとき。I,IV,VIIその第7音にフラットを付けるか付けないかで、コードネームが変わります。だから自分で作った曲のコード譜を他人に渡すときなんかは、ここについてはしっかり気をつけてほしいと思います。

選択可能

「mM7」は、「マイナーメジャーセブンス」というコードでした。ポピュラー音楽の世界で「マイナーメジャーセブンス」が出てくる場合のほとんどがこの「IVmM7」だと思います。
うっかり「IVmをセブンスにしたんだから、IVm7だな!」としてしまうと、相手に「ミにフラットを付けます」と宣言することになるので、その辺が注意どころです。

サウンドと文脈に基づく選択例①

フラットの付け方は「表現したい曲想、作りたいメロディライン、前後関係などから判断」と言いましたが、実際どんな風にやるのか、実例で説明します。

IIm7IIIm7IVm7V

こちらは前回紹介したIVmの活用例ですが、改めてきちんとコードネームを書きました。こちらはIVm7、つまり「ミにフラットをつける」という選択をしました。コードネームには関係ないですが、シにもフラットを付けていて、「オール・フラット」状態です。

ここをオール・フラットにした理由は2つ。まず大きいのは、Vへドラマティックに進むために思いっきり切なくしたいということ。そのためには本来のキーとしっかりコントラストを作りたい。だからオール・フラット。曲想からの判断です。

もうひとつは前後関係。ミをフラットにすることで、後ろのVとのなめらかな半音関係が生まれるのです。

IVm7-V

半音移動が3つもありますね! これはかなりスムーズな部類の動き。これも加味して、やはりここはオール・フラットがいいだろという判断です。

サウンドと文脈に基づく選択例②

逆に極力ナチュラルを保ちたい場面もある。

IVM7IVmM7IIIm7VIm7

こちらは、ラだけをフラットにした“薄味”の例で、コードネームはIVmM7になりました。

これも理由が2つあって、まずはメロディ。ミをナチュラルに保ったおかげで、ストリングスが「ミファソファミレ」という聞き馴染みのあるメジャースケールのメロディを奏でることが出来ています。それにより、転調感を押し出しすぎない抑えめな表現に留めているんですね。

もうひとつの理由は、他のコードが全て構成音にミを含んでいることです。IVmだけミ♭にするよりも、ずっと共通音を保っていた方が全体の流れが綺麗に保てます。

ポピュラー音楽でのトップ・プライオリティはやはりメロディですね。作りたいメロディラインに準じてフラットの取り方を選ぶ。そのうえで、メロディと関係ないところの判断については「前後のコードとの繋がり」と「曲想」「転調度合い(コントラストの強さ)」から決めるとよいでしょう。

#6 名称について

さて、ここまでこの技法の「名前」について紹介していませんでしたね。というのもこの名前がややこしくって、流派によっても異なるし、また指す内容や範囲もちょっと曖昧。実はビシっと定まっていません。いくつかコレに関する名前を列挙していきます。

  • 準固有和音
    クラシック系流派での基本的な呼び名。ただし、クラシックの様式に基づいた借用を行うため、「借り方」は現代のものとは微妙に異なる。
  • モーダル・インターチェンジ (Modal Interchange)
    ジャズ系流派での基本的な呼び名。ただし、これはミ・ラ・シのフラットに限らず「よそから音階を借りてくる」技法全般を指すため、今回説明した内容よりも広義の内容を表す言葉である。
  • 同主調変換/同主調借用
    ライトなポピュラー理論でよく用いられる呼び名。ただし、ミ・ラ・シのうち部分的にフラットをつけたパターンのうちどこまでをコレに含むかは説明されないことも多く、曖昧になっているところがある。
どの名称にも、「ただし…」と“但し書き”が続きます。百年以上の歴史と話者人口を考えると、この辺りは仕方ないものがあります。ただ怖いのは、こうした言葉を用いたために各地の言葉に厳しい人たちと一悶着起きてしまうことですね。
クラシック系の怖い人
君の言うそれは準固有和音ではない。訂正したまえ。

ジャズ系の怖い人
君はずいぶん狭い意味でモーダルインターチェンジという言葉を使っているみたいだが、それは誤解を招くのでよろしくないね。そもそも君は「モーダル」という言葉の意味を分かっているのかね?

普通に怖い人
シだけにフラットなら、果たしてそれは同主調からの借用と言えるのかな? きみ、ちょっと「調とは何か」を説明しなさい。

ヒイッ

自由派はこういった面倒ごとを避けるために新しい流派を名乗っているわけなので、厄介な部分には新しい名前をつけて対処します
自由派音楽理論では、ミ・ラ・シのいずれかにフラットのついた音階(上譜で紹介した7つの音階)から借りてきたコード群のことを、「同主短調」を意味する英語からとって、パラレルマイナー・コードParallel Minor Chordと呼ぶことにします。

また、場合によってはもうちょっと縮めて「パラレルマイナー」という言い方も使用していきます。文脈中で「ここでパラレルマイナーを使おう」などと言えば、それが「パラレルマイナーから借りてきたコードを使おう」という意味であることは十分伝わるはずです。

  • パラレルマイナー・コード
    メジャースケールのミ・ラ・シのいずれかにフラットをつけた音階から一時的に借用してきた変位和音たちのこと。

他流派の人間と正しくコミュニケーションを取りたい場合は、上記のようなややこしさがあるので、変に用語を使わず「VIIで、ミ・シだけフラット、ラはナチュラル」などと説明するか、先ほどの「正確な借り元の名前」を用いて「ドリアン由来のVII」などと言うほかないでしょう。

#7 パラレルマイナーの探し方

実際に曲で使う場合には、今の調でのパラレルマイナーがなんであるかを、コードネームで探さねばなりませんね。それはやっぱり、五度圏を使えば一発で見つけられます。
五度圏をみると、ある調の基調和音は6つとも群れになっているという話は既にしましたね。パラレルマイナーは、そこから時計回りに90°進んだ位置に密集しています。1

五度圏で見る

ね。先ほどのメンツが集合しています。番号の振り方は、まず内側のマイナーの方の中心がIm。時計回りに進めばIVmで、戻ればVm。そして外側の方の中心がIIIで、時計回りに進めばVIで、戻ればVIIです。ほんとに便利な五度圏。たまにはありがとうと言ってあげてください。

#8 補遺

ここからは、またも細かいところがどうしても気になってしまう人向けの補足コーナーです。

パラレルマイナーのTDS機能

それから今回新導入したコード、TDS分類はどうなっているかを知りたいという方もいるでしょう。ImIVmVmはそれぞれTSDで良いと思うのですが、残りの3つはどうなるのかと。

一般的にはIIIはトニック、VIはサブドミナント、VIIはドミナントとみなすのが普通です。

パラレルマイナー

ただジャズ系理論ではVIIはサブドミナントとみなされることもあり、やっぱりその辺りはハッキリしていないのが実情です。
何にしたってこの段階になってくると、TDS分類なんて何の役にも立ちません。けっきょくこれらのコードは使い道が特殊なのだから、分類したところで何の指標にもならないのです。

例えばVIIIVは「DからSへの逆行」ということになりますが、実際弾いてみれば、何ら逆行感など無いことが分かります。あるいはIIIはトニックということですが、じゃあどこへでも進みやすいかというと全くそんなことはなくて、効果的な進行先は極めて限られています。

当然、「同じ機能のコードで代理してリハーモナイズする」とかも、うまくいく確率は大幅に減る。だいいち曲想が変わりすぎてもう「代理」なんて次元じゃなくなりますし。

“理論派”の人たちは本当にこのTDS分類に躍起になりがちなのですが、そうやって実利に関係のない「解釈」に夢中になってしまうことも、「理論に囚われる」現象のひとつと言えます。手段と目的を履き違えてはいけません。こんなことに時間を割くより、効果的な進行を「パターン」として覚えていった方がよっぽど有益ですよ。

表記の補足

ちなみに一般的な音楽理論では、「III・VI・VII」ではなく「III・VI・VII」という表記をします。おそらく、「flattened six(フラットしたVI)」という英語の読み順の影響や、楽譜上で♭が左側に来るといった事由からでしょう。

一般的な音楽理論楽譜・英語読みとの統一感を重視

他方、このサイトで「III」という順番を採用しているのは、コードネームとの統一性を優先しているからです。

一般的な音楽理論コードネームとの統一感を重視

ディグリーを日本語で読むばあい、この並びでの「さんふらっと」「ろくふらっと」という読み順の方がしっくりくるという点もあります。
どちらの表記であっても、十分に伝わります。個人の好みと理屈で、好きな方を選ぶとよいでしょう。ただ、表記に神経質な人間が周りにいる場合には、左につけた方が安全ですね。

この節のまとめ
  • ミ・ラ・シのいずれかにフラットのついた音階から借りてきたコード群を、自由派では「パラレルマイナー・コード」と呼びます。
  • この考えに基づいて使えるコードはImIIIIVmVmVIVIIの6つで、特にIVmVIIが使いやすいです。
  • IIIVIVIIの3つは、ロック風の調子を出すときに活用できます。
  • この6つのコードはそれぞれに活用パターンがあり、TDSだけでそのパターンを把握することはできません。
コード編 Ⅱ章はここで修了です! おめでとうございます。次にどの編へ進むか、あるいは制作や分析の期間を設けるかを考えながら進んでください。

トップへ戻る