パラレル・マイナー ❷

コード編 Ⅱ章:新しい音響

前節の記事で、同主調からの借用の基本的なパターンについては確認し終えました。

同主調からの借用

ここからは、いくつか細かい点についての補足をしていきます。

§5 ミ・ラ・シの選択権

冒頭では「ミ・ラ・シにフラットのついたマイナーキーから借りてくる」と述べましたが、実際にはミ・ラ・シのうちどれか一部にだけフラットをつけた“派生形”を使用することも可能です。1

例えばIVmを使う際に、関係あるのは「ラ」だけではありません。そのうえでメロディやフレーズを奏でるとき、「シ・ミ」をどうするかについての選択が発生します。もちろん、「セブンスコード」や「付加和音」で濁りを加えるときもそう。なので、以下3点を頭の隅に置いておいて頂きたい。

  • ミ・ラ・シにどうフラットを付けようとも、それに対応した「解釈」が存在しているので、安心して好きなようにやって大丈夫である。
  • ミ・ラ・シのどこまでフラットをつけるかは、表現したい曲想、作りたいメロディライン、前後関係などから判断して決める。
  • バンドなどで他人と演奏を擦り合わせる必要がある時には、ミ・ラ・シのどこまでフラットをつけるか確認した方がよい。

仮に「6つの基調和音」をベースにしたとしても、ミ・ラ・シのつけ方はそれぞれ7とおりあるので、組み合わせて42パターンの表現が新しく生まれることになります。どうフラットをつけるかは、まず実践の中でサウンドの違いを身につけていくことが大事。加えてメロディ編のIV章では、フラットの付け方でメロディラインがどう変わるかを考察したりもします。

選択によるコードネーム変化

ひとつ注意が要るのは、セブンスコードにしたとき。I,IV,VII7thにフラットを付けるか付けないかで、コードネームが変わります。だから自分で作った曲のコード譜を他人に渡すときなんかは、ここについてはしっかり気をつけてほしいと思います。

選択可能

「mΔ7」は、「マイナーメジャーセブンス」というコードでした。ポピュラー音楽の世界で「マイナーメジャーセブンス」が出てくる場合のほとんどがこの「IVmΔ7」だと思います。
うっかり「IVmをセブンスにしたんだから、IVm7だな!」としてしまうと、相手に「ミにフラットを付けます」と宣言することになるので、その辺が注意どころです。

サウンドと文脈に基づく選択例①

フラットの付け方は「表現したい曲想、作りたいメロディライン、前後関係などから判断」と言いましたが、実際どんな風にやるのか、実例で説明します。

IIm7IIIm7IVm7V

こちらは前回紹介したIVmの活用例ですが、改めてきちんとコードネームを書きました。こちらはIVm7、つまり「ミにフラットをつける」という選択をしました。コードネームには関係ないですが、シにもフラットを付けていて、「オール・フラット」状態です。

ここをオール・フラットにした理由は2つ。まず大きいのは、Vへドラマティックに進むために思いっきり切なくしたいということ。そのためには本来のキーとしっかりコントラストを作りたい。だからオール・フラット。曲想からの判断です。

もうひとつは前後関係。ミをフラットにすることで、後ろのVとのなめらかな半音関係が生まれるのです。

IVm7-V

半音移動が3つもありますね! これはかなりスムーズな部類の動き。これも加味して、やはりここはオール・フラットがいいだろという判断です。

サウンドと文脈に基づく選択例②

逆に極力ナチュラルを保ちたい場面もある。

IVΔ7IVmΔ7IIIm7VIm7

こちらは、ラだけをフラットにした“薄味”の例で、コードネームはIVmΔ7になりました。

これも理由が2つあって、まずはメロディ。ミをナチュラルに保ったおかげで、ストリングスが「ミファソファミレ」という聞き馴染みのあるメジャースケールのメロディを奏でることが出来ています。それにより、転調感を押し出しすぎない抑えめな表現に留めているんですね。

もうひとつの理由は、他のコードが全て構成音にミを含んでいることです。IVmだけミ♭にするよりも、ずっと共通音を保っていた方が全体の流れが綺麗に保てます。

ポピュラー音楽でのトップ・プライオリティはやはりメロディですね。作りたいメロディラインに準じてフラットの取り方を選ぶ。そのうえで、メロディと関係ないところの判断については「前後のコードとの繋がり」と「曲想」「転調度合い(コントラストの強さ)」から決めるとよいでしょう。