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さて前回は「2音の組み合わせ」というミニマルな世界を観察しましたが、今回は3音以上音を積み重ねることを考えます。

1. 基本となるコードは何か

そうは言っても、前回見たとおり、2音の組み合わせだけでも132パターンが存在します。3音以上となれば、組み合わせの数はさらに膨大に膨らみますね。そこで音楽理論はまず、曲作りに使いやすい基本的なコードを絞り込むことから始めます。

音階に沿って、お団子重ね

ポピュラー音楽において曲作りの基礎となる最も代表的な音階は「メジャースケール」でした。

音階の例

そして全パートがひとつのスケールに沿って演奏するというのが基本スタイル。そうすると、この7音だけを使って作れるコードというのがまず基本的なコードのレパートリーとなってくるわけです。楽譜でいえば、臨時記号のシャープ・フラットがつかないようなコードたちということ。

三度堆積の三和音

そして音の重ね方についても、基本とそうでないものがあります。西洋音楽の基本フォームは、「ド-ミ-ソ」のようにひとつ飛ばしで3音の綺麗なお団子にする形です。

音を3個積んだ和音は、そのまんま三和音Triad/トライアドと呼ばれます。またひとつ飛ばしで積むと、音は「3度」の間隔で並ぶことになるため、この積み方は三度堆積Tertianといいます。

間隔が適度に空くことで、濁りすぎず、澄んで安定したサウンドが得られるのがこの「三度堆積・三和音」の特徴です。

三度堆積の四和音

何個積むかについては、流派によってジャンルの好みが反映されており、ジャズ系理論では4つ積んだ状態を基本としてスタートします。

こちらの方が濁りが強めで、ただそのぶん大人っぽい感じに聴こえるかもしれません。こちらは4個積みなので四和音Tetrad/テトラッドと呼ばれます。ジャズ理論は完全にこの四和音を前提として理論を進めていきますし、実践でも4個積みが基本です。

一方でクラシック、ポップス、ロック、テクノ、EDM、ヒップホップといった他のジャンルでは、澄んだサウンドの三和音も重宝されていて、軽視するわけにはいきません。また四和音はコードネームの規則も複雑だったりするので、自由派ではまず三和音の方からスタートします。

四度堆積?

もし「ド-ファ-シ-ミ」のように4度の間隔で積んだ場合には、かなり独特なサウンドがします。

こう積むのが間違いなのでは決してありません。これもこれですごく魅力的なサウンドで、特にジャズなんかでは、こうした複雑な和音も積極的に活用されています。

せっかくなのでひとつだけ事例を紹介すると、「千と千尋の神隠し」のBGMのひとつ、「あの夏へ」では、冒頭から四度堆積の和音が多数活用されています。分かりやすいところで言うと、0:30-のところで左手がファ-シ-ミという和音を、その次にはラ-レ-ソという和音を弾いていますね。このような神秘的な雰囲気を表現するのに四度堆積は向いています。ただ生まれるサウンドが複雑なものとなるので、上級者向けという感じ。紹介するのはずいぶん後回しになります1

結論として、積み方は「3度」、積む数も「3個」というのが基本のスタートラインです。

2. ダイアトニックコード

さて、「音階に沿って臨時記号なし」で「3度間隔で」「3個」とまで限定すると、条件を満たすコードはたったの7つになります!

基本コードたち

3個積みにせよ4個積みにせよ、「音階に沿って音を積んで作ったコード」のことを、ダイアトニックコードDiatonic Chordと呼びます2

そして、ダイアトニックコード以外のコードは全てノンダイアトニックコードNon Diatonic Chordと呼ばれます。

3種類のサウンドタイプ

さてこの選ばれし7人のダイアトニックコードは、楽譜上で眺めるとみんな同じように見えます。でも、楽譜に騙されてはいけません。スケールの回でもあったとおり、楽譜というのは真の段差が見えないデザインになっているのでした。

音階の例 こう見えて、実はデコボコの「全全半全全全半」

このデコボコの楽譜に沿って音を重ねたわけなので、例えば「ド-ミ-ソ」と「ミ-ソ-シ」では、積まれた音どうしの間隔が微妙に異なっているのです。改めて「半音いくつぶん」という尺度でコードを見てみましょう。

ご覧のとおり、タイプが3つに分かれます。ド・ファ・ソを底とする和音がひとつの仲間、レ・ミ・ラを底とする和音がまた別の仲間。そして一人だけ浮いているのが、シから作る和音……。

シ-レ-ファの和音

一人だけ仲間外れになっている「シレファ」の和音は問題児で、7人の中で唯一、非常に不安を煽るような感じのサウンドがします。

シレファの和音

このサウンドはジャンルによってはあまり好まれないほか、曲中での効果的な使い方も限定されていて、いい感じに繋がる前後のコードも他6つと比べるとやや限られてきます。そうした理由から、このコードだけは7人の中で圧倒的に重要性が落ちます

3. 六つの基調和音

7人の中に1人だけ使い方が難しいコードがいる。これはちょっと、紛らわしいことです。それゆえ自由派音楽理論においては、しばらくの間この7番目のコードを除外し、まず残りの6つだけに的を絞って話を進めていきます

基調和音

この7番目のコードには、III章になってからまた再会することになります。パンク、EDM、ヒップホップといったシンプルなコードを使うジャンルを制作する場合には、このコードに再会することなくI章/II章で学習を終えても、なんら問題はありません。

実はたったひとつコードを削るだけでかなり話がスリムになって、体系が分かりやすくなります! このように6つだけに和音を絞り込むのはクラシックの理論書で実際に採られることのあるれっきとしたメソッドです。例えば作曲家のチャイコフスキーが音楽教師時代に使っていたテキストも、そのような構成になっています。

チャイコTchaikovsky, Pyotr/. “Guide to the Practical Study of Harmony” (p12).

こうやって暗記の負担を減らしつつ実践で重要なことから順に効率よく学んでいくのです。

名称を設ける

しかし一般音楽理論には「ダイアトニックコード」という概念しかなく、7番目を除いた残り6つだけを指す言葉というのは存在していません。これでは不便なので、自由派音楽理論ではこの6つの和音のことを基調和音Prime Chordsと呼びます。

基調和音 (Prime Chords)
ある調の中で、「音階に沿って(=臨時記号なし)」「お団子がさね(=3度間隔)」でド〜ラを基にして作れる基本的な6つのコード群のこと。
基調和音以外のコードはすべて「基調外和音」と呼ぶ。

この6つのコードだけで作られた名曲というのも、たくさんあります。鍵盤ベースで作曲をする場合、単にこのコードたちを繋げていくだけでもちゃんと曲らしい「コード進行」を組み立てることができます。

既に序論で説明したとおり、コード進行の「禁則」というのはあくまで特定ジャンルの“型”でしかないので、気にする必要はありません。I章後半でコード進行パターンを詳しく解説することになるので、その時までに色々なコード進行と実際に触れておいた方が、実践面でも理論学習面でも有利です。

そんなわけで、だいぶ話がシンプルになって来ました。ただ音階に沿って1つ飛ばしで和音を積むだけでよい。それで曲の基礎となるコードが手に入る。ここが前回の話と繋がってくるところですが、ただ音階に沿いさえすればいいので、別に「詳細度数」をしっかり暗記していなくても大丈夫なわけです。

理論と感性

もちろん、初歩の作曲はこの6つだけしか使っちゃダメという話ではありません。私たちにはそもそも、何の理論的裏付けがなくともこの6つ以外の和音を自由に使う権利があります。でもあまりに自由すぎると困ってしまうだろうから、何が一番基本であるかは提示しておこうという、そういう話にすぎません。

だから実際の曲作りにおいては、この6つ以外のコードがイイなと思ったら積極的に使ってみることをオススメします。のちのちそのコードが理論の中で紹介される確率はかなり高いはずで、「これ…あの曲で使ったやつじゃん! こんな名前が付いてたのか。」という体験は理論学習の面白みのひとつでもありますからね。

また、ジャズでは4つ重ねた「四和音」が基本ですから、ジャズっぽい曲を作る場合には思い切って四和音を使ってみるのもよいでしょう。思ったより簡単に、本格的なサウンドが得られるはずです。

理論でマスターしていないエリアというのは、決して「まだ使ってはいけないもの」ではありません。「理論的に習得はしていないけど、感性で使ってみたらよいもの」です。いざ学習を始めると、始める前の自由な気持ちというのを忘れてしまいがちなので、この点には注意してもらいたいと思います。


さて、だいぶ話の焦点が絞れました。この次に解説したいのは、先ほどあった和音の「タイプ」について。

縦に積んで比較

「タイプ1」と「タイプ2」の2種類に綺麗に3:3で分かれましたが、タイプが違うとサウンドがどう違うのかという話。そしてそれぞれどんな名前がつけられているのかという「コードネーム」の話にいよいよ入っていきます。

まとめ

  • 和音のパターンは無数に考えられますが、「キーの音階に沿って」「3度間隔で」「3つ、もしくは4つ」重ねて作ったものが、曲作りの基本となります。
  • ある調の中で、音階に沿って三度堆積で作るコード全般を「ダイアトニックコード」といいます。
  • 自由派音楽理論では、六つの「基調和音」を基本に理論を展開していきます。
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