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コードの機能(機能和声)

7. 流派ごとの差

さて、最後にまた流派の話に触れておきます。1ページ目で紹介した分類法は、オリジナル版の思想をいくらか継承した日本のクラシック系流派のものです。一方で、日本で最も広まっているのはきっとバークリー音楽大学系の流派による分類でしょう。機能論はさまざまなバリエーションがあって統一されておらず、特に教え方が割れているのが先述のメジャーキーにおけるIIImの分類です。

なぜ分類が食い違ってしまうかというと、これは簡単なことで、分類の定義・基準・目的が異なるからです。考えてみたら「コードをその役割から分類する」なんて、いくらでもやり方がありますよね。何をもってドミナント機能とするかの定義が異なれば、当然分類結果も変わってくるわけです。

機能論に関しては特にクラシック系とジャズ系の間でその思想の差が顕著で、それぞれの音楽スタイルに沿うように理論が構築されています。これは序論で述べた「流派ごとの相違」が明確に現れている箇所です。

二本柱

そして全員が“機能和声”を名乗るものだから、別の流派に出会った時にはてっきり「この人は間違った内容を話している」と勘違いしてしまう…。

これは本当に、流派や歴史について知らない人からすれば紛らわしいことですね。この件についてはVI章・VII章でジャズ/クラシックの哲学をよく理解してから、最終的にVIII章で完全な説明をすることになります1

自由派と機能論

このようなややこしさがあるので、自由派ではそもそも機能和声論とできるだけ距離を置くことにします。基調和音のグループ分けとしては便利ですし、ベーシックな型の理論として適宜活用しますが、それ以外のコードの機能分類は原則的に行いません。そもそもこの機能論は19世紀末が発祥ということで、古典派理論が発展した150年近くも後になってから現れたコンセプトです。

150年後輩

だから機能論は音楽理論にとって必須の存在では決してありません。本格的な書籍であってなお機能論を採用しないモノも当然あります2し、それこそ全ての和音をTDSのどれかに分類しようというする書籍は意外なほど少ないです。

IIImの例を見ても明らかなとおり、本来コードはひとつひとつが異なるキャラクターを持っていて、それこそが音楽の奥深さだとも言えます。変に全ての和音を3グループに分けることに固執しても、実践上の実利がありません。だから本当に深追いはせず、あくまでも「使えるときにだけ使う小道具」としてこの機能論を持ち歩くことにします。

まとめ

  • コードの調の中の相対位置に基づく音楽的な意味・役割を「機能」と呼び、それをもとに論じるコード理論を「機能和声」といいます。
  • 機能分類は、I・V・IVを代表とするトニック・ドミナント・サブドミナントの3グループに分けるのが最も一般的です。
  • このTDSの遷移や「着地」のタイミングを元に分析すると、コード進行がもつ特色を理論的に理解できます。
  • TDSはとても便利かつ重要なアイデアではあるものの、あらゆるコードを3種類に分けようとすると、様々な問題が立ち現れます。せいぜい「基調和音のグループ分け」程度の認識に留めておくのがよいでしょう。
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