コードの機能分類

コード編 Ⅰ章:新しい言葉

前回の話はこうでした。コードには仲良しのペアがあり、3つのグループに分かれる。同じメジャーコードでも印象が違って感じられるのは、そこに「調の重力」があり、「中心からの距離」が違うためである。

ペアー

例えば調の中心であるIの和音にはリーダーとしての安定感があり、IVは中心から離れているためフワフワ感がある。こういった「コードの性質」について今回は掘り下げていきます。とても重要な回ですよ。

#1.緊張と弛緩

前回「お辞儀のピアノ」の例があったように、Iのコードには「着地した」という感じ、安定感があります。

IVIのコード進行

逆にVの時には、緊張感が生じているという風に考えます。音楽理論ではそんな風に、「緊張と弛緩」あるいは「不安定と安定」というような言い方で、音の性質を表現する慣習になっています。

グループが3つに分かれるわけですから、この「安定」の度合いも三段階に大別できるということになりますね。

#2.和音のT・D・S

その三段階にはそれぞれ特別な名前がつけられています。和音の所属分類と共に、まず表で確認しましょう。

名称 所属和音 印象
トニック IVIm 着地、安定、終止
ドミナント VIIIm 高揚、不安定
サブドミナント IVIIm 浮遊、やや不安定

トニック・ドミナント・サブドミナント。それが彼らの名です。略記するときはそれぞれイニシャルをとってT・D・Sと書きます。
印象については、「安定・不安定・やや不安定」という言葉で表現するのが一般的ですが、「着地・高揚・浮遊」の方が実際に作曲する際に曲想と結びつけやすいと思います。

これらの性質は、一般的にコードの機能Functionと称されます。改めて楽譜でも示しますね。

TDS

ちょっと気になるのは、楽譜の右端のお方ですね。IIImは、流派によってはトニックに分類されるという、「二重人格」の存在なのです。ですからこの「機能」というのは、思ったほどビシッと科学的に決まっているものではなく、慣習の中でなんとなく形成されたコンセプトなのであります。

このIIImの機能の詳細については、なんとⅧ章まで進んだ後に紹介します。実は流派によってどうあるべきかの見解がかなり異なる部分なので、複数流派の思想を正しく理解してからでないと、詳しいところは説明できないのです。現段階では、「基本的にドミナントだけども、Vの和音ほどキッパリしておらず、トニックに近しく感じられることもある」という認識でいれば、ちょうどよいです。

基調和音のどのコードが安定していて、どのコードが緊張感を生み出すか。それを理解することが、コード理論の基礎になっています!そうは言っても、大して難しい話ではありません。たった3種類ですからね。構えるほどのことでもない。

#3.機能同士の関係性

コードのTDSを変化させていくことは、曲の流れ作りに大きく関わってきます。簡単にまとめてしまうと、下図のような関係性が成り立ちます。

TDS
各機能の特徴について

トニック」に分類されるIVImは安定感があります。コード展開の出発点・到着点的存在です。パートの最初や最後にコイツらを使うと、非常にスッキリ、すわりが良い感じになります。

サブドミナント」のIVIImは、展開次第で様々な表情を見せる存在。パートの最初に使うと、先への展開を期待させるような雰囲気になります。パートの最後に使うと、なんだか割り切れない感じで終わります。

ドミナント」のVIIImは盛り上げ役。曲が展開し、盛り上がりを形成している印象を与えます。パートの最初に使われることはトニックやサブドミナントと比べるとやや少なく、パートの最後に使えば、高揚感を保ったまま次のパートへ繋がることになります。

これらをうまく使い分けることで、曲中での盛り上がりや落ち着きを的確にコントロールできるようになる、ってことです!

機能同士の連結について

機能同士の繋がり方についても見てみましょう。

先ほどの図の外回り、つまり「時計回りの動き」は、いずれも自然で聴き心地がよい感じがします。

TSDT
VImIImVI

音源は、このT-S-D-Tでコードを並べた一例です。少しずつ高揚の度合いを高めていき、最高潮から一気に着地するというような風合いになるので、聞いていて展開性が分かりやすいのです。特にジャズではこの自然な流れが非常に愛用されています。

逆に「反時計回りの動き」は、それぞれ特徴を持っているので、表現を構築する際に重要になってきます。

TDST
VImIIImIVI

例えば急激に盛り上げるTDはサビにぴったりだし、STは優しく穏やかな曲想を演出しますね。正直まだ現段階では、「穏やかな高揚」と「急激な高揚」の違いがそんなに分からないと思います。でも今回この概念を知ったことで、これからそういう違いにドンドン敏感になっていけるはずですよ。

もちろん「時計回りの動き」だってもちろん表現や特徴を持っているので、初歩の段階で「時計回り」と「反時計回り」をそこまで意識する必要はありません。このあたりについては「接続系理論」で詳しく解説していくことになります。

もちろん、Tから始めないコードの動きも考えられます。

SDSD
IVVIVV

こんな動きをすれば、終始落ち着かないフワフワした感じを演出することができます。TDSは、曲の展開作りに関する大きな指標となるのです。

6つのコードのキャラクター

そうすると、6つの基調和音は、素晴らしく整ったバランスでそれぞれのキャラクターが分かれていることに気づきます。それは下表を見れば明らかなとおり。実にうまい具合に、配分がなされています。

和音 質感 役割
I 🌞明るくて 🗿安定感がある
IV 🌞明るくて 🐥浮遊感がある
V 🌞明るくて 🚀高揚感がある
VIm 🌚暗くて 🗿安定感がある
IIm 🌚暗くて 🐥浮遊感がある
IIIm 🌚暗くて 🚀高揚感がある

貴方は今まさに、音の三原色を知ったということです。これまでは、「明るい」「暗い」までの区別しかありませんでした。これからは、同じメジャーコードでもどれを使うのがこの場面にふさわしいのかというのがもっと自然に判断できるようになります。

ずっとトニックを続ければ、安定感を保ち続けられる。いきなりドミナントをパートの最初に持ってくれば、ちょっとドッキリするような曲想が得られる。そういうのが、もう手に取るように分かるようになる、そのカギを今手にしたのです。

前回の「Everything Changes」のリハーモナイズが綺麗に成功したのは、単に「共通音が多く不協和音が生じにくい」という話だけじゃなく、「役割が同じものと入れ替えたから、曲の展開性が乱れなかった」ということも大きな要因だったのです。

色分けをします

このサイトでは、今後もずっとトニック=、サブドミナント=、ドミナント=をテーマカラーとして打ち出していきます。

文中の基調和音もここからはIIImIIImIVVVIm こんな風にカラーリングして表示します!
このページには基調和音がいっぱい登場するのでちょっとチカチカしますが、のちのちこの色分けが効いてくるはずですので、慣れていきましょう。

#4.聴いて実感しよう

さて、ここからはいくつかのコード進行を聞きながら、「ドミナント」の高揚感や「トニック」の安定感というものを耳で感じてもらいましょう。 けっきょく覚えるのは耳ですからね。音が大事。

伴奏なし

今回は、上のようなボーカルを切りはりしたメロディを使います。このひとつのメロディに、いろいろなコードを当てていくことで、コードが持つ雰囲気の違いを実感してもらおうというわけです。
前回リハーモナイズした時には、「適当にコードを変えると破綻してしまう」という話でしたが、今回はそうならないよう、理論を駆使してうまくメロディーを調整しました。

ここからは「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」の言葉をたくさん使っていくので、それぞれ「着地」「高揚」「浮遊」を意味するのだとイメージしながら進んでください。

IIVIIV

ドミナントを使わないパターンです。「浮遊」と「着地」を繰り返すだけなので、穏やかさがあります。Aメロって感じ。あまり曲を大きく展開させたくない時に使うコードですね。

IVVImIV

Vに進んだ時、さっきにはない高揚感があるのがわかるでしょうか? これがドミナントの持つ力です。
こちらは2個目のコードにドミナントを入れ、次にいったんトニックで着地、最後にサブドミナントでぼかすという展開。なかなか色彩豊かです。起承転結でいうと、起→転→承→結って感じですね。
カラっとした雰囲気があるので、特に英米で好まれているコード進行であります。英語版Wikipediaには、このコード進行の項目があるくらいですからね。「Let It Go」のサビとか、実にたくさんのヒット曲に使われています。

IVIImIV

では、さっきの音源のVImIImに変えるとどうなるでしょうか?
「着地」の役目、トニックであるVImがいなくなるので、さっきよりも展開を先延ばしにするような「焦らし感」が生まれました。IImのところでグッと溜めたような感じがあると思います。

IVVVImIIIm

トニックはじまりだったこれまでと比べると、堂々とした感じがなく、フワっとはじまります。サブドミナントでフワリとして、そこからドミナントで盛り上げ、トニックで着地し、最後はIIImで次につなげる。この頭3つのSDTという流れは、日本の大衆音楽で一番好まれているスタイルです。

ホワっと始まって、不安を煽ってから落ち着く。はじまりがクッキリしていないところが、日本らしいですよね。もし明るくしたければVImの代わりにIを使えばよろしい。非常にかんたん。

もちろん、洋楽でも愛用されていますし、ジャズもこの「SDT」という動きがいちばんの定番です。逆に古典クラシックは、大きなパートの始まりは必ずトニックから始めます。このような「フワッ」っていう始まり方は当時あまり好まれませんでした。

IVVIIImVIm

上の4-5-6-3よりもさらに日本で愛されている、No.1 IN JAPANのコード進行です。違いを見比べると、トニックに落ち着くのが遅い。ドミナント2連発ですから、これぞ「起・承・転・結」を体現したコード進行といえます。こういうタメにタメて最後にスカッとする!っていうの、日本人は好きですよね。
とりあえずこの進行を使っておけば、それなりのJ-Popには仕上がるといっても過言ではないほどの王道です。

VImIVIV

今度は暗いコードであるVImからはじめると、雰囲気は一転して短調風になります。切ない雰囲気。
似たようなコードの組み合わせでも、順番が変わるだけでこうも印象が変わるものなのです。
また、最後のVに進んだときにグイっと引っ張られる感じ、揺さぶられる感じがあると思います。それはやっぱり、ドミナントが持つ高揚感です。4つサイクルのうちのラストにドミナントを持ってくると、次への「推進力」のようなものが高まって感じられるので、とても使い勝手が良いです。

IIImIVVVImVVImIImV

最後はちょっと、コードが変わる頻度を二倍にして、同じ長さに8つのコードを詰めてみました。
コードの変化が急速になれば、そのぶん曲調もどこか急速な感じになります。

紹介しきれません

「具現化基礎」のときお話ししたとおり、4コードで1サイクルというのがポピュラー音楽の定番スタイルのひとつ。そうすると、この基調和音の組み合わせだけでも単純計算で6^4=1296とおりの進行が考えられるということです!!

もちろん現実には、IIImIIImIIImIIImなんてコード進行は使わないですけど・・・

だから初期の曲作りでは、まずこの基調和音の響きをよく理解することをオススメしたいです。上に挙げたコード進行たちでも十分かっこいい曲になっているし、色々バリエーションも作れていますよね。変にたくさんコードを知っている必要はないのです。それよりも、基調和音の効果的な使い方をよく理解していることの方が大事です。

#5.TDSは神ではない

「3つに分類できます!」と言われると「オォーすごい」って感じですが、それはもちろん細かな和音の個性を切り捨てて初めて成立している話です。本当はそれぞれのコードに個性がありますし、「同じ機能のコードなら必ず入れ替えられる」なんてことは全くない。

TDSの機能論は、様々なコンテンツで音楽理論の中心核であるように語られますが、歴史を辿ると実は音楽理論の中では若い部類で、19世紀末〜20世紀初頭頃に広まった思想です。

TDSの歴史的位置付け

そしてその提唱者たち自身も、色々と細かな注釈を加えていて、TDSで全てを語ろうとはしていません。時代と共に簡略化されていったのです。それゆえ、このTDSというのはまずそもそもの定義自体が曖昧で、本によって書かれ方が違うし、特にクラシック系とジャズ系ではその捉え方が全然違います。ですから、TDSを絶対の指針と考えることはないようにして頂きたい。1

忘れてほしくないのは、音に詳しくなるためにコード理論をやっているんですから、変に3種類に落とし込むより和音一つ一つの個性としっかり向き合った方が絶対にいいということです。「代理できます、入れ替えられます」なんて言ってもそれは「曲が破綻しにくい」というだけの話で、曲想は当然異なります。あなたは「破綻しない曲」を作るために理論を学んでいるのか? 違いますよね。

そこを忘れてしまって理詰め理詰めで曲を作っても、出来上がるのは曲想に意志がなく、伝える中身のない曲です。理論はあくまで表現を助けるためのツールであって、理論に頼って曲を作っても仕方がないということを、忘れないでください。

補遺

最後にひとつだけ補足をします。この「トニック・ドミナント・サブドミナント」という名前は、実は以前に一度だけ登場しています。いつのことだか覚えているでしょうか?

覚えていたならすごい。これは、準備編の相対的な音名の回に、各音の英語名として登場しました。

音名(英語版)
日本語 英語 フリガナ
主音 Tonic トニック
上主音 Supertonic スーパートニック
中音 Mediant ミディアント
下属音 Subdominant サブドミナント
属音 Dominant ドミナント
下中音 Submediant サブミディアント
導音 Leading Tone リーディング・トーン

先述のとおり、TDSは音楽理論史的にはかなりの“若輩”です。トニック・ドミナント・サブドミナントは本来こちらの「音名」として使われていたのですが、コード機能論の発案者であるフーゴー・リーマンがこの名前をそのまま和音の機能名として採用したという経緯があります。

1つの単語が2つの意味を指しているというのは、ややこしいですね。ただそうは言っても、日本で「トニック」と言ったらまあ99%今回扱ったコードの「機能」のことを指すと思っていてください。

総括
  • コードは調の中の相対位置によって印象が変わり、それは「着地」「浮遊」「高揚」の三段階に大別できます。
  • そしてそれらをそれぞれトニック・ドミナント・サブドミナントと呼びます。
  • このTDSの遷移や「着地」のタイミングを元に分析すると、コード進行がもつ特色を理論的に理解できます。
  • TDSはとても便利かつ重要なアイデアではあるものの、音楽の全てを統べる完全な理論ではありません。「コードの分類の仕方のひとつ」くらいの認識に留めておくのがよいでしょう。

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