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7. リハーモナイズで実験

さて、ここからはひとつのメロディに対してコードを付け替える「リハーモナイズ」をして比較実験をします。つまり、たとえ同じメロディでもコード進行次第で感じられ方が変わることを確かめるのです。

これから伴奏をつけるメロディ

今回は、上のようなボーカルを切りはりしたメロディを使います。前回リハーモナイズした時には、「適当にコードを変えると破綻してしまう」という話でしたが、今回はそうならないよう、理論を駆使してうまくメロディーを調整しました。ドンドンやってみましょう。

ドミナント不使用で穏やかなムード

IIVIIV

ドミナントを使わないパターンです。「浮遊」と「着地」を繰り返すだけなので、穏やかさがあります。Aメロに使うような。あまり曲を大きく展開させたくない時に使うコードですね。

3機能バランスよく使用

IVVImIV

Vに進んだ時、さっきにはない高揚感があるのがわかるでしょうか? これがドミナントの持つ力です。
こちらは2個目のコードにドミナントを入れ、次にいったんトニックで着地、最後にサブドミナントでぼかすという展開。なかなか色彩豊かです。起承転結でいうと、起→転→承→結って感じですね。カラっとした雰囲気があるからか、特に英米で好まれているコード進行であります。

このVImIImに変えてみると、また面白いことになります…。

DSで“緊張の抑制”

IVIImIV

「着地」の役目、トニックであるVImがいなくなって“緊張の抑制”が発生し、さっきよりも展開を先延ばしにするような「焦らし感」が生まれました。IImのところでグッと溜めたような感じがあると思います。「機能逆行」の中でもDSというのは、DTという“ベタ”に対する“裏切り”なので、特にユニークな効果をもたらします。

次ははじまりのコードをトニックではなくしてみますね。

Sはじまりの切ない進行

IVVVImIIIm

トニックはじまりだったこれまでと比べると、堂々とした感じがなく、フワっとした感じがあるのがわかるでしょうか?

このコード進行はサブドミナントでフワリとして、そこからドミナントで盛り上げ、トニックで着地し、最後はIIImで次につなげるという形で、非常にバランスのよい展開構成になっています。

このSDTの流れはJ-Popでも洋楽でも愛用されていますし、ジャズもこれが一番のスタンダードです。逆に古典クラシックは、大きなパートの始まりは必ずトニックから始めます。このような「フワッ」っとした始まり方は当時あまり好まれなかったのです。

SDDTの起承転結

IVVIIImVIm

こちらは上の4-5-6-3よりもさらに日本で愛されている、No.1 IN JAPANのコード進行です。違いを見比べると、トニックに落ち着くのが遅いですね。ドミナント2連発ですから、これぞ「起・承・転・結」を体現したコード進行といえます。こういうタメにタメて最後にスカッとするパターンが、日本人は好きですよね。

とりあえずこの進行を使っておけば、それなりのJ-Popには仕上がるといっても過言ではないほどの王道です。

VImはじまりで暗い雰囲気に

VImIVIV

今度は暗いコードであるVImからはじめると、雰囲気は一転して短調風になります。似たようなコードの組み合わせでも、順番が変わるだけでこうも印象が変わるものなのです。

また、最後のVに進んだときにグイっと引っ張られる感じ、揺さぶられる感じがあると思います。それはやっぱり、ドミナントが持つ高揚感です。4つサイクルのうちのラストにドミナントを持ってくると、次への推進力のようなものが高まって感じられるので、とても使い勝手が良いです。

IIImはじまりで独特なムード

IIImIVVVImVVImIImV

最後はちょっと、コードが変わる頻度を二倍にして、同じ長さに8つのコードを詰めてみました。コードの変化が急速になれば、そのぶん曲調もどこか急速な感じになります。“二面性”を持つIIImから曲を始めると、その「どっちつかず」な感じが微妙な切なさや哀愁に繋がって、非常に面白いですね。

紹介しきれません

以前紹介したとおり、4コードで1サイクルというのがポピュラー音楽の定番スタイルのひとつ。そうすると、この基調和音の組み合わせだけでも単純計算で6^4=1296とおりの進行が考えられるということです!! (もちろん現実にはIIImIIImIIImIIImなんてコード進行は考えにくいですが……。)

だから初期の曲作りでは、まずこの基調和音の響きをよく理解することをオススメしたいです。上に挙げたコード進行たちでも十分かっこいい曲になっているし、色々バリエーションも作れていますよね。変にたくさんコードを知っている必要はないのです。

8. 流派ごとの差

さて、最後にまた流派の話に触れておきます。1ページ目で紹介した分類法は、オリジナル版の思想をいくらか継承した日本のクラシック系流派のものです。一方で、日本で最も広まっているのはきっとジャズ系の一流派による分類でしょう。そこではIIImTのみに分類されます1

これは序論で述べた「流派ごとの相違」が明確に現れている箇所です。

二本柱

なぜ分類結果が食い違ってしまうかというと、これは簡単なことで、分類の定義・基準・目的が異なるからです。

考えてみたら「コードをその役割から分類する」なんて、いくらでもやり方がありますよね。特にクラシックとジャズの間ではその思想の差が顕著で、それぞれの音楽スタイルに沿うように機能論が作られています。そして全員が“機能和声”を名乗るものだから、別の流派に出会った時にはてっきり「この人は間違った内容を話している」と勘違いしてしまう…。

これは本当に、流派や歴史について知らない人からすれば紛らわしいことですね。この件についてはVI章・VII章でジャズ/クラシックの哲学をよく理解してから、最終的にVIII章で完全な説明をすることになります2

自由派と機能論

このようなややこしさがあるので、自由派ではそもそも機能和声論とできるだけ距離を置くことにします。基調和音のグループ分けとしては便利ですし、ベーシックな型の理論として適宜活用しますが、それ以外のコードの機能分類は原則的に行いません。だから例えばもし「自由派の理論を活用しつつ、機能論についてはジャズ流派のを採用する」といったやり方をしても衝突は特に起きないはずです。

そもそもこの機能論は19世紀末が発祥ということで、古典派理論が発展した150年近くも後になってから現れたコンセプトです。

150年後輩

だから機能論は音楽理論にとって必須の存在では決してありません。本格的な書籍であってなお機能論を採用しないモノも当然ありますし、それこそ全ての和音をTDSのどれかに分類しようというする書籍は意外なほど少ないです3

IIImの例を見ても明らかなとおり、本来コードはひとつひとつが異なるキャラクターを持っていて、それこそが音楽の奥深さだとも言えます。変に全ての和音を3グループに分けることに固執しても、実践上の実利がありません。だから本当に深追いはせず、あくまでも「使えるときに使う道具」としてこの機能論を持ち歩くことにします。

まとめ

  • コードを調の中の相対位置に基づく音楽的な意味・重要性を「機能」と呼び、それをもとに論じるコード理論を「機能和声」といいます。
  • 機能分類は、I・V・IVを代表とするトニック・ドミナント・サブドミナントの3グループに分けるのが最も一般的です。
  • このTDSの遷移や「着地」のタイミングを元に分析すると、コード進行がもつ特色を理論的に理解できます。
  • TDSはとても便利かつ重要なアイデアではあるものの、あらゆるコードを3種類に分けようとすると、様々な問題が立ち現れます。せいぜい「基調和音のグループ分け」程度の認識に留めておくのがよいでしょう。
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