ケーデンス

コード編 Ⅰ章:新しい言葉

前回はTDSの「機能」という極めて重要なコンセプトを学びました。サンプル曲を聴く中で見えてきたのは、Tに行くタイミングがかなり肝要だということ。そこで一旦展開が落ち着くわけなので、例えばサビの最後のコードで落ち着くのか、それともサビ最後じゃなく、そのあとの間奏の始めで落ち着くのか? そういったところで曲の展開性が大きく変わります。

そこで、音楽理論ではコードの終わり方について、名前をつけて分類しているのです。その名前などをわざわざ暗記する必要はないのですが、まあ概念としては大事なことなので紹介をします。

#1.解決

現在の一般的な音楽理論では、ドミナントの高揚感がトニックへ進んで落ち着くことを、解決Resolutionといいます。

  • VI
  • VVIm
  • IIImVIm

「解決」という言葉はかなり歴史のある言葉で、それゆえ意味に広がりがあって安定していません。濁った不協和音から綺麗な協和音へ進むことも解決と呼ばれたりするし、メロディ理論においても「解決」という言葉はよく使われます。まあようするに、音響的に「スッキリする」こと全般を「解決」と言うのだと思ってしまえばよいです。

#2.ケーデンス

一般的な音楽理論では、コード進行のまとまりの終わり方のことをさして、終止形Cadence/ケーデンスといいます。

ここからは、その終わり方のパターンの分類について見ていきます。先に断っておくと、この知識はもともと古典派クラシック理論のものであり、厳密な説明をするとだいぶ冗長になります。そこで、細部の説明はⅦ章でやることにして、今回は簡易的な形で説明を行います。

正格終止

まず、DからTへガツンと解決する終わり方を、正格終止Perfect Cadenceと言います。

正格終止

正格終止は、当然ながら最もスッキリ感があります。聴きやすさ重視のJ-Popのサビなんかは、この形で終わるのが最もベタ。

偽終止

これは特に、長短をクッキリ分けるクラシック特有の考えです。たとえば長調の曲では、たとえD→Tの動きであっても、VVImだと、コードが暗いせいで「綺麗に終わった感じ」が足りないと考えます。ニセモノの終止だ! と言うんですね。
そのため、VからIへ行かずVImへ行ってしまう動きを偽終止Deceptive Cadenceと言います。

偽終止

大昔の古典派クラシックでは、「パートの終わりはきっちり正格終止。偽終止じゃダメだ」なんて言われていましたが、長調と短調の境目があいまいな今日の音楽においては、この「偽終止」を特別扱いする意味はほとんどありません。「暗くしたければVImに行けばいい」というだけの話です。

変格終止

ドミナントではなく、サブドミナントからトニックへ行き着くものは、変格終止Plagal Cadenceと呼ばれます。

変格

変格終止は、正格終止と比べると圧倒的に穏やか。これはこれで、すごく良さがあります。

半終止

半終止

パートの終わりがVのままで、Iに着地しないものを半終止Half Cadenceと言います。
クラシックのコテコテな曲作りの思想でいうと、例えばサビの終わりはきちんとIで終わって、それから次のパートに移るのが基本形です。

正格

こんな感じだ。ところが、特に大衆音楽においては、サビの最後の最後までVで引っ張って、次のパートの最初でようやくドカンと落ち着くなんてパターンが往々にしてあります。

半終止

こんな感じ。こちらの方が盛り上がりを引っ張れるんですね。この時のサビ終わりのVが、「半終止」と呼ばれるということです。

もちろんVでサビが終わって、その先の間奏がIVから始まっていたとしても(つまり、Iが全く関与しなかったとしても)それはやはり「半終止」と呼ばれます。

半終止2

古典派クラシックでは、大きなパートの区切りや曲の終わりにこの「半終止」を使うことはなく、パートの途中でのみ使用しますが、大衆音楽であれば全然なんでもアリです。

名前は別にいい

色々と紹介しましたが、ぶっちゃけ名前はどうでもいいのです。これらを暗記しなくても、普通に「IV-I」や「V-VIm」といったコードネームで表現すれば、十分に情報整理はできますので。ただ、それぞれの形によって演出される曲想が違うということは忘れないでほしいところ。

例えばBメロの終わりをVで引っ張って、サビ頭にIを持ってくるのは、かなり分かりやすい盛り上げの展開。逆にあえてBメロ最後にIで解決してしまって、サビをIVから始めるなんてすると、展開性はかなり違ってきますよね。
こういうひとつひとつのコード使いに心を込めて、自分の表現したいものに近づけていく努力をしていく中で、音に対するセンスが磨かれていきます。名前は別に覚えなくていいので、ただひとつひとつのサウンドとしっかり向き合ってほしいと思います。

総括
  • コード進行の中で、いつトニックに着地するかというのは、曲の展開を決定するうえで重要な要素です。
  • 代表的な終止法が、「正格終止」「偽終止」「変格終止」「半終止」の4つです。
  • 現代の音楽で、特定の終止法を用いらねばならないといったセオリーは存在しません。

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