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今回の内容には、一部リズムに関する基礎知識を絡めた話が含まれます。

リズム編I章の以下2回をまだ読んでいない場合は、そちらを先に読了してください。

ちょっと前にTDSの「機能」という極めて重要なコンセプトを学びました。

TDS

この概念によって「緊張と緩和」の流れを論じるのが、機能和声論です。中でもいかにしてTに着地するのかという点は、コード進行のまとまりや流れを考えるうえで大切になってきます。

1 解決

音楽理論においては、「不安定な音が安定な音になる」「濁っていた音が澄んだ音になる」など、「緊張状態が緩和する」という流れを総称して解決Resolutionと呼びます。

解決 (Resolution)
不安定な性質を持つ音が生み出した緊張感が、安定した音に進むことで解消されること。
メロディの理論でも同様の意味でこの語が使われるなど、この語はコード進行以外にも使われる。動詞形は「Resolve」。

どれくらいの「緊張」がどれくらい「緩和」したら解決と呼びうるかは、解釈に多少のブレがあります。ただ概ね一般的には、IVImのようなT機能のコードへと進行すれば「解決」となります。

解決のパターン

コード進行における典型的な「解決」のパターンが、DTのモーションですね。

ドミナントからの解決例
  • VI
  • VVIm
  • IIImVIm

これは「強力な着地」であり、クラシック、ジャズ、ポップスいずれにおいても基本となる解決の形です。ちなみにIIImIの動きは、その二重人格性が中途半端な印象を与えるためか滅多に使われず、どの流派においてもこの進行は「解決」とはみなされていません。1

サブドミナントからの解決例

またSTも「中程度の緊張感からの解放」ですから、広義には解決と呼ばれます。2

  • IVI
  • IImI
  • IImVIm

こちらは「穏やかな着地」であり、DTほど力強くない、ソフトな印象であるのが特徴です。クラシックやジャズでもこうした進行は見られるものの、頻度でいうとロックやゴスペル、ブルースといったジャンルでより多く用いられます。3

IIImが絡む解決

それからDTの“二重人格”であるIIImへの進行も、流派によっては解決の一種に数えます。

  • VIIIm
  • IVIIIm
  • IImIIIm

ちなみにVIVのようなDSの進行については、理論的には緊張感が減少しているわけですけども、キッチリ「着地」しているわけではないので、これは「解決」には含まれません。

2 ケーデンス

トニックへの着地はよく、文章における「句読点」に喩えられます。音楽理論ではこうした「コード進行のまとまりの終わり部分2-3個のコード」を指して、終止形Cadence/ケーデンスと呼び、いろいろ名前をつけて分類しています。

名前 進行 説明
正格終止 VI もっとも基本的な終止の型
偽終止 VVIm,VIIIm Iへ行くという予想を裏切る型
変格終止(プラガル終止) ST全般 穏やかな終止の型
半終止 V 解決せずVでパートを終えて次に繋げる型

こちらは代表的な、長調における4つのケーデンスです。そのほか流派ごとにまた細かい名前やサブカテゴリーがあったり、広義・狭義の捉え方などモロモロあるのですが、名前ばかりがかさばって実践にはさほど活きないところがあるので、その辺りは全て割愛します。4

クラシック理論においては、厳しいルールを構築していくためにこの「ケーデンス」にまつわる用語は必須なのですが、自由度の高いポピュラー音楽においてはそのようなルール構築をすることがないため、自由派にとってはあまり使い道のない語群なのです。

それこそ「偽終止」なんかはいかにも長調・短調を二分したクラシックらしい発想で、現代の私たちからするとVVImくらいで「予想を裏切られた」なんていうドキドキは感じませんし、しかもそれを「偽」と呼ぶというネーミングセンスもやはり前時代的なものがあります。自由派ではあまりこれらの語を使わずに進んでいきます。

3 ハーモニック・リズム

さて、コードのまとまりに関する理論はケーデンスだけではありません。1小節の中に何個のコードを詰め込むか、つまりコードチェンジのペースというのもすごく大事な要素ですよね。そのことを音楽理論ではハーモニック・リズムHarmonic Rhythmといいます。

ポップスで標準的と言えそうなのは1小節に1コードか2コードくらいのペースですが、曲のジャンルやテンポにもよるので一概には言えません。

標準的 : 1小節につき1コード
ゆったり : 2小節につき1コード
急速 : 1小節につき2コード

当然ゆったりなハーモニック・リズムはゆったりした印象を与え、逆もまたしかりです。急速なハーモニック・リズムは短い時間内に様々なカラーを入れ込めますが、ひとつひとつの印象は弱まりがち。対してゆったりしたハーモニック・リズムは、TDSの味をしっかりとリスナーに噛みしめさせることが出来ますが、単調にならないよう注意が必要ですね。

ハーモニック・リズムを崩す

パートごとだとか、パートの中の一部だとかでハーモニック・リズムを変更すると、良い刺激が得られます。あるいは、リズムを少し不規則にしてあげることでも、曲をグッと面白くすることが出来ます。

IVVImVIIIm

こちらは4-6-5-3という普通のコード進行ですが、半端なタイミングでコードを切り替える独特なハーモニック・リズムによってユニークさを授けられ、十分聞き応えのあるものになっています。
特に理論的思考、頭で物事を考えている時にはこういう「不規則」という選択肢は頭からスッポリ抜けてしまいがちなので、この「ハーモニック・リズム」という言葉を知ったことでその辺りに意識的になれたらよいなと思います。

4 TDSのタイミング

もうひとつ大切なのが、TDS配置されるタイミングです。

これはあくまでもジャズ流派の見解ですが、例えば4つで1サイクルのコード進行があった時、私たちの注目は1番目と3番目に行きやすい。そして「その1・3番目にTSのような安定寄りのコードが来て、2・4番目にDのような不安定なコードが来ることを期待する心理が私たちの中にはあるのだ」とまで言う人もいます。5

ストレスパターン

確かにジャズというジャンルの中ではこのパターンは定番ですが、どんな「期待」を抱くかは聴いてきた音楽の影響もあるので、ちょっと理論として提唱するには怪しいところ…。

ただ、1・3番目に注目がいってしまうというのは、人間の心理としてあるかもしれません。実際に聞いて確かめてみましょう。

IVIVImV

こちらは4-1-6-5というフォーメーション。上の説に従うと、私たちが注目するのはIVVImということになります。確かにココがSTということで、どこか落ち着きのある印象に収まっている…かも。

IVIVVIm

比較対象としてこちらは後半の2人をひっくり返した形。重要な位置にD機能を持つVが来ることによって、全体の勢い、平たく言えば”エモさ”が増したように感じられる…はず。

まあ個人差もあるでしょうし、ちょっとグローバルな理論として打ち出すには危うい感じが否めません。「そういう風に言ってる書籍もある」くらいで頭の隅にしまっておきましょう。
ただいずれにせよ、このように「単体の機能」や「2コードの連結」だけではなく、「持続する長さ」や「置かれるタイミング」も含めてコード進行は考えるべきという、この観点が非常に重要ですね。


TDS連結の際に生まれる6種類の曲想と、それを繰り出すタイミング。「六つの基調和音」だけでも、生み出されるサウンドの奥深さは凄まじいものがあります。もう少し先の「接続系理論」では、2コードの連結が生み出す曲想をさらに詳しく扱っていきますが、ぜひ先を急ぐことなく、ここ数回の内容を作曲/分析に活かしてもらいたいと思います。

まとめ
  • 音響の濁りなどが生み出す「緊張」が「緩和」されることを、「解決」といいます。
  • コードのまとまりの終わり部分を指して、これを「ケーデンス」といいます。
  • コードチェンジをしていくペースの速さのことを、「ハーモニック・リズム」といいます。
  • コード進行を聴くとき、我々はブロックを等分割した各群の先頭に注目する心理があるとされ、それを意識することでより曲想を厳密にコントロールできることが期待されます。
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