具現化基礎 ❷周期と声部連結

コード編 Ⅰ章:新しい言葉

#1 コード進行の周期

前回に引き続き、具体的な編曲の際に参考になる知識を、今回も紹介します。ではいざコード進行を作ろうという時の、最低限の指針もここで示しておきます。
曲は基本的に、ある程度のサイクル(周期)を持ったコード進行の繰り返しで形成されます。次から次へとメロディに合わせてどんどんコードを継ぎ足していったような曲は、構成として散漫に聞こえがちです。むしろコード進行のサイクルを決めてしまってそこにメロディを乗せていった方が、印象に残る曲は作りやすかったりします。

どれくらいの長さのサイクルにするかはもちろん自由なのですが、ジャンルによって傾向が異なります。すごくザックリと、いくつかのパターンを確認しておきましょう。

ほぼ1コード/2コード

まず、シンセサイザーを用いた電子音楽系統は、比較的短めのサイクルを好む傾向にあり、特にテクノなどでは、たった1つか2つのコードを繰り返すようなものも普通にあります。ヒップホップでも、シンプルなトラックはよく見られます。

このような単調な繰り返しは、J-Popではちょっとありえないですね。でもジャンルによってはこれが好まれるのです。テクノ音楽では、シーケンサーを使って同じフレーズを繰り返しながら音色だけを変えて曲を作るなんていうのが文化としてありましたから、シンプルなコード進行がカルチャーとして息づいているのです。

ロック音楽でも、シンプルな1コード/2コードでズンズン進むものはけっこうあります。

ロック音楽や電子音楽系で音楽理論の必要性が低いとされるのには、このような単調なコード進行も理由のひとつにありますね。ちなみにこのとき基本となるコードは、暗めの曲ならたいていVIm、明るめならIのコードです。

4つサイクル

洋楽ロック、ヒップホップ、ポップなEDMなどでは、4つのコードで1サイクルを成すものが定番のひとつ。


4つのコードを繰り返しているのが、聞いた感じでわかるでしょうか? この「4つ」というのは単調すぎず、複雑すぎず、ちょうどいいんですね。
例えば「Shape of You」は、このたった30秒のサンプル内で、コード進行をおよそ6周しています。繰り返しが多ければそれだけ聴き手の印象にも残りやすい。コード進行のユニットを大きくしすぎないことは、かなり重要なのです。
参考までに、上記4曲のコード進行を乗せておきますね。分かりやすいよう、全部Cメジャーキーに変えて記載します。

Shape of You AmDmFG
Blessing It AmGFG
Get Lucky DmFAmG
Viva La Vida FGCAm

この中でいうと特に「Viva La Vida」のコード進行は、ものすごくポピュラーな王道のコード進行のひとつです。せっかくですから、こないだやった「ディグリーネーム」に直した表も見てみましょう。

Shape of You VImIImIVV
Blessing It VImVIVV
Get Lucky IImIVVImV
Viva La Vida IVVIVIm

まだ慣れないとは思いますが、ゆくゆくはこのローマ数字を見た瞬間に、頭の中でコード進行が思い描けるようになります。

4コードのサイクルパターンが1つあれば、それだけできちんとした一曲が作れます! しかもそれは、基調和音で全然かまわない。難しいコードなんて、なくってもいいのです。上の曲はいずれもその典型例。ビギナー向けの作曲法としても、4サイクルはオススメです。

8つサイクル〜それ以上

ポップスでは8個やそれ以上で1サイクルを成すものも多くあります。サイクルが長ければ、それだけ音楽が長いストーリー性を持ちうることになりますから、ドラマティックな展開を作るには、長めのサイクルがやりやすいのです。




このように、大きいサイクルの曲では盛り上がりの展開性を作りやすいというメリットがあり、バラードなどには非常に向いています。
4サイクル方式は悪く言えば淡々としてしまいがちで、ここまで大きなスケールでの「山」は作れません。ただ逆に、リピートの回数は減るわけなので、一発で人の印象に残すのは少し難しくなります。それに、気持ちいい盛り上がりを構成するためには、コードのバリエーションや、各コードの性質についてよく理解していないといけませんから、上級者向けです。

たとえこれくらい長いコード進行であっても、2周はするのが基本です。その場合は、2周目はちょこっと変えてバリエーションを出してもよい。要は、全く反復構造がなく1パートが終わるのは稀ってことです。

もちろん8サイクル以上のヒップホップだって、4サイクルのJ-Popだっていくらでもあります。ただ、ひとつの目安として考えておくとよいでしょう。

Check Point

コード進行のサイクルの大きさが、曲の「ストーリー」の大きさに直結する。短いサイクルは印象に残りやすく、長いサイクルはドラマチックな展開を作りやすい。

短いサイクルの曲ではメロディとサウンドの変化で展開を表現し、長いサイクルの曲ではコード進行そのもので展開を表現する。

#2 声部連結(Voice Leading)

それではいよいよコード進行を演奏していくとして、先述のとおり、配置は自由。自由って言われると、逆に困っちゃいますね。どうするのがいいんでしょうか?
その時参考になる知識が、声部連結Voice Leading/ヴォイス・リーディングという分野の知識です。
声部連結は、音同士をどんな風に連結するとスムーズに美しく聞こえるかなァという、編曲に携わる知識のこと。コレは掘り下げるとジャズも古典派もすごく細かい知識が体系化されているのですが、ちょっと難しすぎます。
ここでは、基本の基本だけを紹介することにしましょう。

ヘタピ

こちらは、J-Popでよく使われる、王道のコード進行です。「お団子がさね」という言葉を素直に聞き、配置はすべてお団子になるようにしました。しかし、実際にはこんな配置になることは稀。基本的にはありえません。
実際にありそうな配置パターンは、例えば以下のような感じです。

ベター

なんか急に、聞き覚えのある感じになりましたね!?
ポイントは、音の動きがなだらかになるようにしたこと。そのおかげで、ただの伴奏なのに、なんだか美しいメロディラインのようなものが感じられます。
それぞれのヴォイス・リーディングが辿った道すじを塗りつぶすと、二者の違いがよくわかります。

比較後者の方が圧倒的にスムーズ

もちろん、常になだらかでなければいけないとか、なだらかであれば優れているということではありません。でも、ちょっとした指標として、知っておくべきことです。コード編Ⅶ章ではこの声部連結に関する知識をかなり詳しく扱うことになりますよ。そこでの知識を修得すると、これよりもさらにワンランク上の美しさを手に入れることができます。

ちなみにこのサイトでは、解説の分かりやすさを重視したい時には基本形である「お団子がさね」状態の楽譜を使いますが、ちょくちょく「実践的な配置」になっているものも使用することで、より多くの配置サンプルに触れる機会を作ります。


さて、コードにまつわる具体化の、基本部分をいくつか扱ったわけですが・・・こうしてみると、アコースティックギターが最もとっつきやすい楽器として選ばれている理由もちょっと分かります。ギターは押さえ方どおりに押さえればもうそれで綺麗な音が鳴るのだから。その圧倒的なお手軽さに対して、鍵盤や打ち込みはこうした配置を考えなくてはならないのです。
ただ逆に鍵盤では、前回述べたような「コードネームは分からないけど何となく音を足す」ということが断然やりやすいですね。一長一短だ。

具体的な編曲を学ぶには、やはり既存曲のコピーをするのが一番です。ギター弾き語りならコード譜を探して、弾く。ピアノなら、ピアノ用に編曲されている既存曲の楽譜を買って弾く。打ち込みは、頑張って耳コピするか、あるいは既存曲のMIDIファイルを探してきて、それで中身を探ってみるなど。その中で、より具体的な技術を学んでいってください。

この節のまとめ
  • コード進行はサイクルを成すのが一般的で、その長さが音楽のストーリー性の大きさに直結します。
  • 音の繋ぎ方に関する理論を「声部連結(Voice Leading)」といい、実はすごく奥の深い分野です。伴奏の場合、スムーズな動きを心がけると良い結果を生むことが多いですが、全ては表現したいもの次第です。

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