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1 コード進行の周期

前回に引き続き、具体的な編曲の際に参考になる知識を、今回も紹介します。ではいざコード進行を作ろうという時の、最低限の指針もここで示しておきます。
曲は基本的に、ある程度のサイクル(周期)を持ったコード進行の繰り返しで形成されます。ジャンルによってサイクルの大きさに差はあれど、ともかく最初から最後まで次々とコードが変わり続ける曲などそうそうなく、どこかしらに「カタマリ」と「繰り返し」の構造はあります。

どれくらいの長さのサイクルにするかはもちろん自由なのですが、ジャンルによって傾向が異なります。すごくザックリと、いくつかのパターンを確認しておきましょう。

ほぼ1コード/2コード

まず、シンセサイザーを用いた電子音楽系統は、比較的短めのサイクルを好む傾向にあり、特にテクノなどでは、たった1つか2つのコードを繰り返すようなものも普通にあります。ヒップホップでも、シンプルなトラックはよく見られます。

このような単調な繰り返しは、J-Popのリスナーにはなかなか受け入れられないでしょう。でもこうしたジャンルを聴く人にとっては、これが当たり前のことです。特にテクノなどの電子音楽界では、シーケンサーを使って同じフレーズを繰り返しながら音色だけを変えて曲を作るなんていうのが文化としてありましたから、「シンプルなループを楽しむ」ことがカルチャーとして息づいているのです。

ロック音楽でも、シンプルな1コード/2コードでズンズン進むものはけっこうあります。

ロック音楽や電子音楽系で音楽理論の必要性が低いとされるのには、このような単調なコード進行も理由のひとつにありますね。ちなみにこのとき基本となるコードは、暗めの曲ならたいていVIm、明るめならIのコードです。

4つサイクル

洋楽ロック、ヒップホップ、ポップなEDMなどでは、4つのコードで1サイクルを成すものが定番のひとつ。

これらの曲では、パートがまたいでもほとんど進行が変わらずに、「一曲通して1つのコード進行」で曲を成立させています。

4つのコードを繰り返しているのが、聞いた感じでわかるでしょうか? この「4つ」というのは単調すぎず、複雑すぎず、ちょうどいいんですね。例えば「Shape of You」は、このたった30秒のサンプル内で、コード進行をおよそ5周しています。繰り返しが多ければそれだけ聴き手の印象にも残りやすい。コード進行のユニットを大きくしすぎないことは、かなり重要なのです。

参考までに、上記4曲のコード進行を紹介いたします。

コード進行 キー
Viva La Vida D♭E♭A♭Fm Aメジャー
Move It EF♯G♯mF♯ Gマイナー
Shape of You C♯mF♯mAB Cマイナー
Cake By The Ocean EmBmAmC Eマイナー
In My Blood FB♭DmB♭ Fメジャー

この中でいうと特に「Viva La Vida」「Move It」のコード進行は、ものすごくポピュラーな王道のコード進行のひとつです…が、キーがバラバラなので、ちょっと比較がしにくいですね。せっかくですから、こないだやった「ディグリーネーム」に直しましょう。

コード進行
Viva La Vida IVVIVIm
Move It IVVVImV
Shape of You VImIImIVV
Cake By The Ocean VImIIImIImIV
In My Blood IIVVImIV

こうなります! こうしてみると、ちゃんとI~VImまでの基調和音の範囲で作られていることが分かります。抽象化って素晴らしい。

まだ慣れないとは思いますが、ゆくゆくはこのローマ数字を見た瞬間に、頭の中でコード進行が思い描けるようになります。

4コードのサイクルパターンが1つあれば、それだけできちんとした一曲が作れます! しかもそれは、基調和音で全然かまわない。難しいコードなんて、なくってもいいのです。上の曲はいずれもその典型例。ビギナー向けの作曲法としても、4サイクルはオススメです。

8つサイクル〜それ以上

ポップスでは8個やそれ以上で1サイクルを成すものも多くあります。サイクルが長ければ、それだけ音楽が長いストーリー性を持ちうることになりますから、ドラマティックな展開を作るには、長めのサイクルがやりやすいのです。


このように、大きいサイクルの曲では盛り上がりの展開性を作りやすいというメリットがあり、バラードなどには非常に向いています。4サイクル方式は悪く言えば淡々としてしまいがちで、ここまで大きなスケールでの「山」は作れません。ただ逆に、リピートの回数は減るわけなので、一発で人の印象に残すのは少し難しくなります。それに、気持ちいい盛り上がりを構成するためには、コードのバリエーションや、各コードの性質についてよく理解していないといけませんから、比較的上級者向けです。

たとえこれくらい長いコード進行であっても、一応2周はして印象に残そうとすることがJ-Popでは多いかな?と思います。ただ全く反復なしでサビが1本道のストーリーを作るパターンも、当然あります。



こうした曲ではサビを通して非常に長いひとつのコード進行を構成し、サイクルすることなくサビを走りきります。長いコード進行を構成する際には基調外和音を使ってバリエーションが出せると楽ですが、しかし例えば「Heal The World」は基調和音だけでサビのストーリーをきちんと構築しています。たった6個のコードでも、本当に侮れないのです。

歌詞・メロディとの一体感

コードがサイクルするタイプは必然的にひとつのコード進行に対し複数の歌詞とメロディがあてがわれるため、どうしても「グルグルと流れる背景+上に乗っかる歌」という分離的な構造印象を避けられません。
対してサイクルしない進行では、メロディに対してユニークな(=カブりのない)コード進行があてがわれることになるので、その一体感や表現力といった部分においてはやはりサイクル型では到達できないパワーがあります。

ここは諸刃の剣というか、キャッチーさをとるかストーリー性をとるかという選択を迫られるわけです。

Check Point

コード進行のサイクルの大きさが、曲の「ストーリー」の大きさに直結する。短いサイクルはリピートが多いぶん記憶に残りやすく、一方で長いサイクルはドラマティックな展開を作りやすい。

短いサイクルの曲ではメロディとサウンドの変化で展開を表現する技術が重要になり、他方長いサイクルの曲ではコード進行そのものでも展開を表現する技術が重要になる。

もちろん8サイクル以上のヒップホップだって、4サイクルのJ-Popだっていくらでもあります。ただ、ひとつの目安として考えておくとよいでしょう。

2 声部連結(Voice Leading)

それではいよいよコード進行を演奏していくとして、先述のとおり、配置は自由。自由って言われると、逆に困っちゃいますね。どうするのがいいんでしょうか?
その時参考になる知識が、声部連結Voice Leading/ヴォイス・リーディングという分野の知識です。
声部連結は、音同士をどんな風に連結するとスムーズに美しく聞こえるかなァという、編曲に携わる知識のこと。コレは掘り下げるとジャズも古典派もすごく細かい知識が体系化されているのですが、ちょっと難しすぎます。
ここでは、基本の基本だけを紹介することにしましょう。

こちらは有名な「パッヘルベルのカノン」のコード進行です。「お団子がさね」という言葉を素直に聞き、配置はすべてお団子になるようにしました。しかし、実際にはこんな配置になることは稀。基本的にはありえません。

こんな感じで配置した方が、美しく聴こえます。ポイントは、音の動きがなだらかになるようにしたこと。そのおかげで、ただの伴奏なのに、なんだか美しいメロディラインのようなものが感じられますね。それぞれのヴォイス・リーディングが辿った道すじを塗りつぶすと、二者の違いがよくわかります。

比較後者の方が圧倒的にスムーズ

もちろん、常になだらかでなければいけないとか、なだらかであれば優れているということではありません。でも、ちょっとした指標として、知っておくべきことです。コード編Ⅶ章ではこの声部連結に関する知識をかなり詳しく扱うことになりますよ。そこでの知識を修得すると、これよりもさらにワンランク上の美しさを手に入れることができます。

ちなみにこのサイトでは、解説の分かりやすさを重視したい時には基本形である「お団子がさね」状態の楽譜を使いますが、ちょくちょく「実践的な配置」になっているものも使用することで、より多くの配置サンプルに触れる機会を作ります。


具体的な編曲を学ぶには、やはり既存曲のコピーをするのが一番です。ギター弾き語りならコード譜を探して、弾く。ピアノなら、ピアノ用に編曲されている既存曲の楽譜を買って弾く。打ち込みは、頑張って耳コピするか、あるいは既存曲のMIDIファイルを探してきて、それで中身を探ってみるなど。その中で、より具体的な技術を学んでいってください。

まとめ
  • コード進行はサイクルを成すのが一般的で、その長さが音楽のストーリー性の大きさに直結します。
  • 音の繋ぎ方に関する理論を「声部連結(Voice Leading)」といい、実はすごく奥の深い分野です。伴奏の場合、スムーズな動きを心がけると良い結果を生むことが多いですが、全ては表現したいもの次第です。
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