目次
- リズム編 第1回 : リズム理論をはじめる
- リズム編 第2回 : 拍子と拍
1. コード進行のループ周期
楽曲というのは基本的に、ある程度のサイクル(周期)を持ったコード進行の繰り返しで形成されます。ただ、どれくらいの周期でループし、どれくらいのペースでコードを変えていくかに関しては、ジャンルによって大きな差があります。その辺りの違いを見ていくのがこの回です。
1コード/2コード
ジャンル次第では、ひたすら1つのコードを繰り返したり、2,3個のコードをずっと行き来したりといった反復が好まれるものもあります。代表的なところで言うと、まず生演奏系のジャンルではファンクとロックがあります。
ファンクは小気味よいカッティングギターや軽快なパーカッション、リズミカルなベースといったリズムのグルーヴ感を重視するジャンルで、コード進行による展開をあまり必要としていません。
ロックも同じく歪んだギターやベースのサウンドだったり、激しいドラムのノリに合わせて身体を揺らすライブ音楽が本質ですから、コードの変化でリスナーを楽しませなくてもいいわけです。ロックでは、繰り返し演奏される印象的なフレーズのことをリフRiffといいます。上のプレイリストでいうと、レッド・ツェッペリンの『Immigrant Song』はキャッチーなリフが特徴の一曲ですね。「良いフレーズなんだから、何回繰り返したっていいじゃん」というような発想がこうしたジャンルにはあります。
シーケンサー音楽
一方で電子音楽方面でもシンプルなループ音楽の文化があって、テクノやトランスはその代表例です。
こうしたジャンルではシーケンサーやドラムマシーンのように同じフレーズをリピートする機材を用いて曲が作られることも多く、そうした文化的背景もあって、執拗にループすること自体がジャンルの特徴のひとつにもなっています。特にこの手の音楽にはクラブでかけられることを念頭に置いて作られたダンス・ミュージックも多いので、それがまたループの多さの理由のひとつになっていますね。
こうしたジャンルでは、コード進行に変化をつけるよりかはシンセサイザーやエフェクターのパラメーターをいじってサウンドの変化で展開を作る方が定番です。
サンプラー音楽
それから、サンプラーを利用した音楽も同じ素材をループする都合上、シンプルに1,2個のコードを繰り返すような曲が必然的に増えます。代表的なところでは、既存作品のフレーズをサンプリングする文化が定着しているヒップホップや、シカゴのDJたちが発展させたハウスでそのようなスタイルの作品が数多く見られます。
DAW時代となった今でもサンプル素材のループは作曲スタイルの一つとして生き続けていますね。
4コードループ
洋楽ロック、ヒップホップ、ポップなEDMなどでは、4つのコードで1サイクルを成すものが定番のひとつ。
プレイリストの曲のうちほとんどは、パートがまたいでもほとんど進行が変わらずに、一曲通して同じ4コードのコード進行で曲を成立させています。 4つでひとつのサイクルを形成しているのが、聞いた感じでわかるでしょうか? この「4つ」というのは単調すぎず複雑すぎずでちょうどいいんですね。例えば『Shape of You』は、このたった30秒のサンプル内で、コード進行をおよそ5周しています。繰り返しが多ければそれだけ聴き手の印象にも残りやすい。コード進行のユニットを大きくしすぎないことは、ひとつの戦略としてかなり有効なのです。
では、4つ並べるコードはどんなものがどんな順番で選ばれているでしょうか?上記の曲のコード進行(サビ部分)を分析してみます。
曲 | コード進行 | キー |
---|---|---|
Shape of You | C |
C♯m |
Dynamite | C |
E |
We Are Never Ever… | CGDEm | G |
BIRDS OF A FEATHER | DBmEmA | D |
Luv (sic.) pt3 | FmB |
A♭ |
Blinding Lights | FmCmE |
E♭ |
Closer | D |
Fm |
The Nights | BF |
F♯ |
Viva La Vida | D |
A♭ |
Emoji | C |
E |
今回は特に、「六つの基調和音」だけで出来ている曲をピックアップしてきました1。とはいえキーがバラバラなので、ちょっと比較がしにくいですね。せっかくですから、こないだやった「ディグリーネーム」に直しましょう。
曲 | ローマ数字分析 | ナッシュビル式 |
---|---|---|
Shape Of You | VImIImIVV | 6-2-4-5 |
Dynamite | VImIImVI | 6-2-5-1 |
We Are Never … | IVIVVIm | 4-1-5-6 |
BIRDS OF A FEATHER | IVImIImV | 1-6-2-5 |
Luv (sic.) pt3 | VImIImVI | 6-2-5-1 |
Blinding Lights | IImVImIV | 2-6-1-5 |
Closer | IVVVImV | 4-5-6-5 |
The Nights | IVIVVIm | 4-1-5-6 |
Viva La Vida | IVVIVIm | 4-5-1-6 |
Emoji | VImIIImIVI | 6-3-4-1 |
こうなります! まだ慣れないとは思いますが、ゆくゆくはこのローマ数字を見た瞬間に、頭の中でコード進行が思い描けるようになります。 こうしてみると、ちゃんとI~VIまでの基調和音の範囲で作られていることが分かります。ほか、この10曲で言うとIVかVImで始まる曲が多く、またIIImの出番はちょっと少なめといった傾向も見えます。さらに!!『We Are Never Ever Getting Back Together』と『The Nights』はどちらも4-1-5-6、そして『Dynamite』と『Luv (sic) pt3』はどちらも6-2-5-1で、使っているコード進行が同じですね。こういうのを発見するのがコード分析の楽しみのひとつです(*˘︶˘*)
4コードのサイクルパターンが1つあれば、それだけできちんとした一曲が作れます! しかもそれは、基調和音で全然かまわない。ビギナー向けの作曲法としても、4サイクルはオススメです。
より長いループ/反復なし
サイクルが長ければそれだけ音楽が長いストーリー性を持ちうることになりますから、ドラマティックな展開を構築したいのであれば、長めのサイクルの方が適していると言えます。特にクラシック音楽では、繰り返しよりも長いスパンで展開していくものが好まれていますね。
ポップスでも特にバラード系の歌では8個やそれ以上のコードで1サイクルを成すものも多くあります。
『マリーゴールド』のサビのコード進行はサイクルが長めで、8小節をかけて一周する構成になっています。
中盤に一箇所だけコードチェンジのペースを速める箇所があるので、合計9個のコードが8小節に収まっている。サイクルの前半と後半を見比べると、例えばGのコードは後半にしか出てきませんね。後半になって新しいコードが登場することで、音楽的なストーリーをより長丁場でドラマティックなものにしています。
4コードループ型は悪く言えば淡々としてしまいがちで、ここまで大きなスケールでの展開性は作れません。ただ逆に、リピートの回数は減るわけなので、一発で人の印象に残すのは少し難しくなります。そのぶん覚えてもらえるような印象的なメロディラインが必要になりますね。
それに気持ちいい盛り上がりを構成するためには、コードのバリエーションや各コードの性質について理解していないといけませんから、リピートの回数でゴリ押し勝負をする4コードループ型と比べて、ストーリー勝負のロングサイクル型はちょっとだけ難易度高めです。
また、これくらい長いコード進行であっても一応2周はして印象に残そうとすることがJ-Popでは多いかな?と思います。マリーゴールドもまさにそうですよね。一方古めの洋楽バラードなんかだと、全く周回がなく1本のロングストーリーでサビを走り切るものもちょこちょこ見られます。
長いコード進行を構成する際には基調外和音を使ってバリエーションが出せると楽ですが、しかし『Heal The World』は基調和音だけでサビのストーリーをきちんと構築しています。たった6個のコードでも、本当に侮れないのです。
歌詞・メロディとの一体感
コードがサイクルするタイプは必然的にひとつのコード進行に対し複数の歌詞とメロディがあてがわれるため、どうしても「グルグルと流れる背景+上に乗っかる歌」という分離的な構造印象を避けられません。
対してサイクルしない進行では、メロディに対してユニークな(カブりのない)コード進行があてがわれることになるので、その一体感や表現力といった部分においてはやはりサイクル型では到達できないパワーがあります。
ここは諸刃の剣というか、キャッチーさをとるかストーリー性をとるかという選択を迫られるわけです。
Check Point
コード進行のサイクルの大きさが、曲の「ストーリー」の大きさに直結する。短いサイクルはリピートが多いぶん記憶に残りやすく、一方で長いサイクルはドラマティックな展開を作りやすい。
短いサイクルの曲ではメロディとサウンドの変化で展開を表現する技術が重要になり、他方長いサイクルの曲ではコード進行そのものでも展開を表現する技術が重要になる。
もちろん8サイクル以上のヒップホップだって、4サイクルのJ-Popだっていくらでもあります。ただ、ひとつの目安として考えておくとよいでしょう。
2. ハーモニック・リズム
さて、コードの周期の長さとは別に、1小節の中に何個のコードを詰め込むか、つまりコードチェンジのペースというのもすごく大事な要素ですよね。そのことを音楽理論ではハーモニック・リズムHarmonic Rhythmといいます。
ポップスで標準的と言えそうなのは1小節に1コードか2コードくらいのペースですが、曲のジャンルやテンポにもよるので一概には言えません。
- 標準的 : 1小節につき1コード
- ゆったり : 2小節につき1コード
- 急速 : 1小節につき2コード
当然ゆったりなハーモニック・リズムはゆったりした印象を与え、逆もまたしかりです。急速なハーモニック・リズムは短い時間内に様々なカラーを入れ込めますが、ひとつひとつの印象は弱まりがち。対してゆったりしたハーモニック・リズムは、各コードの味をしっかりとリスナーに噛みしめさせることが出来ますが、単調にならないよう注意が必要ですね。
また複数のハーモニック・リズムを組み合わせることで、曲のスピード感に緩急をつけることもできます。
- ゆったり→標準→急速
こちらは徐々にコードの変更ペースを倍々にしていって、次第に曲に勢いを与えていった例。こんなふうにパートの終盤にかけてハーモニック・リズムを早めていく手法は定番です。
ハーモニック・リズムを崩す
あるいはコードチェンジのタイミングを少し不規則にしてあげることでも、ハーモニック・リズムに揺らぎが生まれて曲をグッと面白くすることが出来ます。
特に昨今は、使うコードが単純な代わりにハーモニック・リズムを工夫することで曲に勢いをもたらす技法が流行しています2。
これらの楽曲では、(30秒プレビューの範囲では)使われているのは六つの基調和音のみです。でも難しい裏拍のタイミングでコードが切り替わったり、一部だけ変化が急速になったり、逆に一箇所だけは長く続けたりといった不規則性によって曲が彩られています。
特に理論的にコード進行を考えていると、こういう不規則なパターンは選択肢からスッポリ抜けてしまいがちなので、この「ハーモニック・リズム」という言葉を知ったことでその辺りに意識的になれたらよいなと思います。
まとめ
- コード進行はサイクルを成すのが一般的で、その長さが音楽のストーリー性の大きさに直結します。
- コードチェンジをしていくペースの速さのことを、「ハーモニック・リズム」といいます。