タイムフィール

リズムの根本になる物差しが、「拍」でした。イチニッサンシと刻むひとつひとつのリズムが「一拍」と数えられる。

しかしながら、この「イチニッサンシ」に合わせてドラムを叩いてくださいといった時、その拍の流れをどう感じ取るかは、人によって違います。スタンダードな8ビートを演奏する人もいるでしょう。
拍子と小節

しかし、人によってはそうとも限りません。

#1 ハーフタイムフィール

もっとゆったりな気持ちの人は、もっと緩やかなリズムだと考えて、こんな感じの演奏をするかもしれませんよ。
スネアドラムは、2拍目・4拍目に打つのがスタンダードなスタイルなのに、この人は3拍目に打っています。そのせいで、あたかもテンポが半減したかのように感じられますね。というか、事実上半減している。そうすると、リズム的な分析も変わってきます。
ハーフタイム
実際のところは、こういう風に拍を捉えているとみなすべきでしょう。本来のイチニッサンシの掛け声を無視していると言ってもいい。さっきまでは「普通の速さで4小節」だったサンプルが、「ゆったりとしたテンポで2小節」に変わったのです。 こんな風に、与えられた拍に対する時間の流れの捉え方のことを「タイムフィール」といい、本来のテンポよりも半減したスピードで捉えることをハーフタイムフィールHalf Time Feelといいます。タイムフィールは、主だってはスネアを叩く頻度を変えることでそれを表現します。

曲の途中でタイムフィールを変えると、それは当然大きな曲想の変化、緩急の変化をもたらします。イチニッサンシを刻むテンポ自体は、(事実上半減しているものの)変わっていないわけなので、聴き手も戸惑うことなくリズムの変化を受け入れることができます。

実際の例

日本のロックバンドASIAN KUNG-FU GENERATIONの代表曲。とてもノリの良い曲ですが、間奏1:58あたりからリズムパターンが変則的になってきて、2:19の「ハッ」という掛け声というともに完全にハーフタイムフィールになります。そのあと3:34の「腐った心を」から再び本来のテンポに戻り、また盛り上がるサビへと繋がっていきます。 こうやって激しい曲で、メリハリをつけて最後まで盛り上がってもらうためにハーフタイムを活用するのは定番の技法です。

こちらは、サビまで1周終わった1:20〜のブリッジ部分で急にゆったりします。ハーフタイム化することにより、急から緩へ。聴き手を一休みさせているのです。

EDMとハーフタイム
特に昨今のEDMでは、ハーフタイムは重要な展開テクニックのひとつとして常用されています。 0:15から、「ドロップ」と呼ばれるメインの盛り上がりパートが始まります。ここは、比較的速めのテンポと言えますね。それからなんやかんやあり、1:45で二度目のドロップへ戻ってくるのですが・・・そこで予想外の裏切り。テンポを半減させてしまうのです。

このような手法は、曲を展開させるうえで非常に効果的であり、聴き手を飽きさせない工夫といえます。特にEDMは、速い時の良さと遅い時の良さがどちらもあって、一曲の中で両パターンを聴かせたいというのがコンポーザーの気持ちとしても強いんですね。

ブロステップ界の貴公子、Skrillexの出世作。こちらもスタートからしばらくはアップテンポの曲調が続くのですが、だんだんとそのノリにも飽きてきます。そこで、2:11ごろのパート(「ウォンバイベスマシャバピース!!」のとこ)から、ハーフタイム化するのです。その少し手前のところから聴けば、ハーフタイムの効果がよく分かります。

#2 ダブルタイムフィール

逆に、すごくせっかちな人がいたら、同じテンポでこんな演奏をするかもしれません。

今度はさっきの逆です。事実上テンポを2倍にして演奏しているのです。このように、本来のテンポの倍の速度で拍を捉えて演奏する状態を、今度はダブルタイムフィールDouble Time Feelと呼びます。 実際には、こんなに速いテンポからさらにダブルタイムすることは少なく、もっとゆったりしたテンポから倍速化するというのが一般的です。

実際の例

Aメロ・Bメロがゆったりめのテンポで堂々と始まります。それがサビになると、一気に倍速! 疾走感を一気に高めるのです。 サビに入った瞬間も気持ちいいですし、サビが終わってまた元のテンポに戻るところもまた開放感があって心地よいです。

さらにこの曲、間奏(2:51〜)からは今度はなんとハーフタイム化までしています! 基本のタイム、倍のタイム、半減のタイムの3つ勢揃いで一曲を作っている、非常にドラマチックな構成になっているのです。

EDMとダブルタイム
EDMではハーフタイムを活用した曲がとても多いですが、同様にしてダブルタイム化する曲もけっこうあります。 こちらの曲は、冒頭がゆったりめで堂々としたドロップを展開しています。そして2:38あたりからの展開にご注目。 そろそろスロウな曲調にも飽きてきたかなというところで倍速化し、古典的なダンスミュージックのリズムで攻めてきます。

ハーフタイムもダブルタイムも、分かりやすく曲の緩急を変化させることが出来るので、ここぞという場面で使ってみるとよいでしょう。

#3 言葉について

日本語では、シンプルに「倍テンポ」「半テンポ」というところから「倍テン」「半テン」と呼ばれます。「倍にずる」という意味の「テン」も想起されるので、ユニークでいい名前ですね。「ここから倍テンで」とか、「ここから倍テンしよう」とかいう風に使います。 人によっては、「ダブルテンポ」「ダブルタイム」「ダブルタイムフィール」で全て意味が異なると考える人もいますが、どの言葉もあまり区別がハッキリしていないので、さほど気にする必要はありません。そして、変にカッコつけず日本語の「倍テン・半テン」を使えば一番安心でしょう。 もちろん、理論的な提言をすることもできますが、そこまで言い出すと「理論に詳しくてきちんとしている」っていうより、「細かいことにこだわりすぎ」って感じですね。音楽理論の学習において、言葉にこだわることほど無意味なことはありません。 だって音楽の世界は、理論家よりもプレイヤーの方が圧倒的に多いですから、言葉の意味はいつだって流動的で不確定なのです。

曲中でテンポ感を倍化したり半減したりすることで、大きな緩急をつけることができる。それを覚えておいてもらえればバッチリです。

この節のまとめ
  • 曲中でテンポ感を2倍にすることを「倍テン」または「ダブルタイムフィール」といいます。
  • 曲中でテンポ感を半分にすることを「半テン」または「ハーフタイムフィール」といいます。
  • タイムフィールを変えることで、曲に大きな変化をもたらすことができます。
リズム編 I章はここで修了です! おめでとうございます。次にどの編へ進むか、あるいは制作や分析の期間を設けるかを考えながら進んでください。
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1,2,3,4のかけ声のサンプルは、「あみたろの声素材工房」さんで配布されている素材を使用しました。