音階と中心音

音楽理論 準備編

#1 音階とは

音階scale/スケールというのは、よく耳にする言葉だと思います。音階とは、文字通り「音の階段」です。つまり、「ドレミファソラシド」のような一連の音の並び全体のことを、音階と呼びます。
音階は、曲想と密接に関わります。曲は基本的に、中心となるひとつの音階を持っていて、その音階に曲想が左右されます。そして曲を展開させる時には違う音階を盛り込むことで曲想にバリエーションをつける。

ピアノの鍵盤が1オクターブでループすることからも分かるとおり、音階もループします。ですから曲で使う音階を示す時は、1オクターブぶんを示せば十分ですね。

音階の例

こんなふうに。これはいちばん典型的な音階です。鍵盤で見ると以下のようになります。

音階の例

この場合「中心となるひとつの音階」とはどういう意味なのでしょうか?「鍵盤全部使ってるじゃん!」という声が聞こえてきそう。でも、いやいやよく見てみてください。黒鍵をひとつも使ってないですよね。ですからこの音階は、全12音のうち、7音だけを中心に使っているってわけです。まずは、「音階が曲想に影響を与える」ということを耳で理解してもらいましょう。

音階(1) : 明るい音階

音階の例

まずはさっきの「白鍵だけを使った音階」でメロディをつくってみました。基本的には、明るい感じがしますね。

音階(2) : 暗い音階

音階の例

同じ白鍵7つでも、中心の位置をずらすと響きも変わります。上は、中心を2こ下の「ラ」に置いた場合の音階です。中心が「ラ」にずれただけで、だいぶ暗い響きになりました。

この「中心」という考え方については、この後くわしく説明しますね。

音階(3) : 黒鍵だけの音階

音階の例

今度は逆に黒鍵5つだけを使ってみました。これもやっぱり、雰囲気が違います。明るい/暗いとかいうより、和風な感じがする・・・不思議です。ちなみに、こんな風に5つの音で構成された音階を「五音音階」と言います。

音階(4) : 不思議な音階

音階の例

今度は白鍵から4つを選抜してみました。こんな風に飛び飛びになっていても音階と言えます。これは、なんでしょう・・・なんだか不思議な響き。なんかアジアの宗教儀式のBGMみたい。

ですからここで大事な気づきがひとつ。たとえ「白鍵だけ」といっても、そのうちいくつかだけを選抜したりすると、また違った響きが得られるということですね。スケールの世界は、とても奥深いのです。

音階(5) : 奇妙な音階

音階の例

最後。また五音階ですが、今度は黒鍵をひとつだけミックスしてみました。これは・・・なんだか世にも奇妙な感じがしますね。

こんな風に、音階は曲想に直結します。白鍵と黒鍵を交ぜることで、実にいろんな曲想が生まれる。
とりわけ「インド風」とか「和風」とか、そういう民族の調子を出すときには、音階がカギになってくるんですよ。ですから音階は、音楽の最も礎となる概念と言えます。

ひとまずドレミファソラシドから

とはいえ、ポピュラー音楽において圧倒的にメジャーでよく使われる、音階の「王様」的存在であるのが、最初に紹介した「ドレミファソラシド」です。

音階の例

音楽理論の基礎は18世紀に西洋で確立されましたから、「和風な音階」「アジアの儀式みたいな音階」「世にも奇妙な音階」などは一旦基本から外されてしまったんです。

ビギナーには、色々な音階を試すよりもまずこの音階を使った作曲をオススメしますし、音楽理論も基本的にココを出発点にして話を広げていきます。まずはこの音階を元にして、音楽の仕組みについて詳しく知っていくのです。

#2 音階の「中心」

先ほど「暗い音階」の時に、「中心をずらす」とか「中心を2個下に置く」といった表現をしました。しかし、目に見えない音の世界で「ずらす」だの「置く」だの、不思議なことを言っていますね。これこそ、音を具体的に捉えるための第一歩に他なりません。

実はある曲が演奏されたとき、人間は必ずどこかの音を曲の「中心」として認識します。それは絶対音感とか特別な能力じゃなくって、普通の人間でも必ず何となくは感じているもの。
それは音楽理論を進めていくうえでものすごく重要な考え方です。まずはその「中心」の存在を、意識的に認識できるよう、話を掘り下げていきましょう。

中心とは?

この「中心」というのは、もちろん「ここが中心です!」と作者が心の中で決めたらそこが中心になるなんてことではありません。曲を聴いている中で、聴き手が本能的に中心を「認知」するのです

だから、それって実は明確に定義できるものではない。人間の脳がそれを感じとっているのです。つまり、中心を認識する機能が我々には生まれながらに備わっているということ。たとえば、たった2音しか使わない音階だったとしても、人間は「中心」を感じます。

二音音階の曲での「中心」
二音階の曲

こういう感じの、童謡みたいな原始的な曲ね。「ソ」と「ラ」の二音だけで出来ています。この場合、大抵の人間は中心を「」、つまり高い方の音に感じます。・・・って言われて、スンナリ納得できるでしょうか? もしよくわからない場合、少し音程を変えたものと比較すると分かりやすい。

二音階の曲(よくない)

こちらは、フレーズの終わりを「ソ」に変えた場合です。何だか、落ち着かないですよね。「フレーズが終わった」という感じがしなくって、最後も全然曲が終わったように感じず、尻切れとんぼに聞こえます。こんな童謡、確実に廃れますよね。

だから、こんなに原始的な音楽であっても、そこには実に興味深い「認知」現象が起こっていることが分かります。
我々はメロディラインを聴く中で自動的に「ラ」の方を“中心役”、「ソ」の方を“展開役”とみなし、そこに音楽的構造を感じている。だから肝心なフレーズの終わりで“中心”の方に戻ってこないと、何か「メロディラインがスッキリ終われていない感じ」を受け取り、それによってフラストレーションを感じたのです。

Check Point

曲を聴く中で、脳が自動的にメロディ各音の“役割”を認知し、それを感じ取ることで音楽の展開を楽しんでいる。役割がきちんと活きているメロディを聴くと私たちは満足感を得られるし、それを裏切られると、気持ち悪く感じることさえある。

普通の曲での「中心」

このような「中心の認識」は、もちろん普通の音楽の世界でも起こります。

こちらはおなじみの、ハッピーバースデーの歌。この曲のメロディは、最後中心に着地しているでしょうか? していないでしょうか? 考えてみてください。

考えてね

最後のメロディを変えてみると、それは判りやすいです。

こちらは何だか、「最後盛り上げにいったな・・・」という感覚があると思います。つまり、本来のハッピバースデーは、最後中心に着地しているということです。こっちの方は、その着地を回避して上に進んだため、「盛り上げた感覚」が生まれたのです。

「中心」をどこに感じるかは、人間の認知に基づいています。だからそれはすごく流動的で、さっきの「明るい音階」と「暗い音階」の境目も実はすごく曖昧なんですよ。

中心を決めるもの

では、音の中心、リーダーが「ド」と「ラ」のどちらになるは、一体どうやって決まるのか? もちろん、選挙で投票して決めるわけじゃありません。

争い

これにはコード理論も大きく関わってきて難しいのですが、ひとまず言えることは、フレーズの始まり・終わりの、特に長めの音により多く使われている方が中心と認知される傾向にあります。

こちらは、フレーズの始まり・終わり・伸ばす音にラがたくさん使われていますね。そのためラが中心として感じられ、全体のトーンもやや暗く感じられます。

こちらの曲、明るいと言われれば明るいし、暗いと言われれば暗い・・・。何ともいえないですね。
ですから、あまり「明るい」「暗い」で白黒ハッキリつける必要はないのだと思ってください。むしろ、「ド」と「ラ」が中心を取り合っていて、その間で揺れ動いているというイメージを持つとよいです。

古典クラシックの時代には、その曖昧さを嫌って、明るいか暗いかがハッキリ分かれるように曲を作るのが原則でした。でも現代の音楽では、むしろどちらともつかない方がかっこよく聴こえたりします。

#3 「中心音」を感じ取ること

この「中心を感じる」ということは、めちゃくちゃ大事なことです。目に見えない音楽というものの、姿を捉えるための重要な概念です。だから、もうちょっとしつこくやりますね。

この「到達した際に“着地感”を強く感じる、楽曲の中心位置となる音」のことを、音楽理論では中心音Tonal Center/トーナル・センターと言います。そのまんまですね。
メロディラインは「中心音」で終わるとすごく安心感があって、定番の終わり方という感じがします。まず実際のポップスで、サビが「中心音」で終わるものを聴いてもらいます。

中心音の安心感をサビ終わりに活かした曲の紹介

サビ終わり「光らないほ」で伸ばしているところがちょうど中心音です。最後綺麗に中心音で伸ばして終わるため、「ああ、これでこのパートも終わったな」という感じが非常に強く感じられます。

中心音でしっかりと伸ばすメロディは、いわば文章で言うところの「句点」のようなもの。分かりやすくパートを終えることができます。

この曲も、サビ終わりで中心音をしっかりと伸ばし、堂々とサビを歌い終えています。だんだん、この「中心音」って感覚が見えてきたのではないでしょうか?

「生きると」「変わるこ」がやっぱり中心音。とても伸びやかに落ち着いてサビが終わります。

「閃きたい」のところですね。同じ中心音でも、下の方に下がって終わるのと、今回みたいに高いところで終わるのでは当然ながら印象が違います。こちらは非常に高らか、歌いきったぞって感じがします。

中心音で終わらないサビ

もちろん、「サビは中心音で終わったらいいよ」なんていう単純な話ではありません。ここからは比較実験、つまり中心音でサビが終わっていない曲を聴いてみましょう。そうすることで、なおさらこの「中心の認知」というものに自覚的になれるはずです。

こちらはMONKEY MAJIKの2ndシングル。サビ終盤の「’cause if it’s not ok」と伸ばすところも、そのあとの「I’ll change that world」も、中心音に着地していません。そのためどこか浮遊感があり、「熱が冷めないまま終わる」ような情感があります。

こちらのサンプルは、「静かサビ」の部分から始まります。そのサビの終わりが、なんと中心音のひとつ下の音で伸ばしています。そのため、極めて割り切れない感じの、不穏な終わり方になっています。椎名林檎はこんな風に、「ポップスの定番の聴きやすい終わり方」を避けることで、異常性を押し出すような技法をよく使っています。

実は椎名林檎は、その音楽性を音楽理論で”解剖”しやすいアーティストのひとりです。いかにも天才風、異端児風に思えるのですが、その正体をまるっと暴いてしまえるのが、音楽理論なのです。

こちらはエェーイと伸ばしてサビが終わりますが、その音は中心音から大きく離れた位置にあります。そのため、かなり豪快な感じがして、盛り上げたままサビを終わらせようという意図が見えます。こういうロック調の曲では、「上がりっぱなしで終わる」という手法はとても効果的です。

そんなわけで、中心音を歌った時にはそこにある種の「着地」が生まれます。それをしない間は、「浮遊」ないし「高揚」をもたらす時間であるわけです。
もちろん曲はたくさんの音の重なりから成り立っていて、その組み合わせによって最終的な曲想は決定します。でも、この「中心音」の考え方は、音楽を理論的に見ていくという行為の、ものすごく重要な「はじめの一歩」です

目に見えず、茫洋としていた音の世界の中に、「中心音」というひとつの道しるべができました。メロディがどう盛り上がり、どう落ち着くのかについての大事なヒント。音楽理論はこうやって、漠然と広がる音の世界を”視る”方法を私たちに授けてくれるのです。

#5 作曲の根幹

ですからこの段階で、早速もう作曲をするのに最低限必要な根本はマスターしたも同然です!

「ひとつの音階を基本的に使う」「中心がある」ということがわかれば、初歩段階の作曲・編曲はそこそこ実践できます。まず全パートの音階を統一しさえすれば、極端な不協和音は起こらない。全パートで共通した一つの音階を使うという大原則をまず今知りました。

また、「中心音」の概念があれば、いくらかメロディについて考察することができます。例えば・・・

ドレミファソ

「ドレミファソ」は「中心から離れて上昇」ですので、あからさまに「高揚感」があります。

ソラシド

一方「ソラシド」は、同じ「上昇」でも「中心に帰着する上昇」ですから、高揚感というより「到達感」とでも言うべき気持ちよさがあります。

ソファミファソ

「ソファミファソ」は中心から離れた位置をウロウロするので、「浮遊感」のようなものがあります。

・・・とまあこんな具合です。こういう原始的なアイデアもけっこう侮れませんよ。メロディ編のI章では、こういうことを詳しくやっていきます。今後曲を聴く時にはぜひこの「中心音」を意識してもらいたいものです。「中心音への着地」が耳で認識できるようになると、それが音感を鍛える第一歩になりますからね。

この「中心」という原理は、よく「重力」や「引力」などと称されます。音階には中心への引力がある。それをなんとなく理解しておけば、メロディを作る際にそれなりの抑揚を表現できるはずです。中心の位置を意識しながら常に作曲をすることをお勧めします。

もちろんこれから音楽理論を学んでいけば音の取捨選択も速くなり、より複雑な曲想の表現もドンドン可能になっていくので、ぜひもうちょっと先まで進んでいって欲しいとは思います。しかし音楽の根本はこの「音階」です。その中心核の部分を、貴方は今マスターしたのです。

次回は、それではどんな音階がポピュラー音楽ではよく使われるのか? それを説明していきます。

この節のまとめ
  • 12音のうちどの音を中心に使うのか? 使用する音を羅列したものが、「音階」です。
  • 曲が構成される中で、人間は音階の「中心」を認知します。その音を、「中心音」と言います。
  • メロディが「中心音」に到達した時、人間は「着地した感じ」「安堵感」を覚えます。
  • 曲中で使う音階を変えると、曲想が大きく変化して感じられます。

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