目次
前回はコードの「接続」という考え方の大まかな概要を説明しました。2コードの接続がもたらす曲想は、TDS機能論に加えて「ルートの変化」と「クオリティの変化」という2つの「コントロール・ファクター」から分析するとさらによく見えてくる。
コードクオリティに関しては「クオリティ・チェンジ」の回などを通じてすでに理解が深まっていると思いますが、一方でルートの動きについてはこれまでほとんど取り上げていません。
「ルートの動き」は、日本語のコンテンツでもカッコよく英語でルート・モーションRoot Motionなどと呼びます。ここからはルート・モーションへの理解がいかに重要であるかを学んでいきます。
1. ルート・モーションによる分類
これから30種類ある接続パターンを個別に見ていくわけですが、それは「Vのコードが次進みやすいのは…」というような形ではなく、「ルートが2度動くやつ」「ルートが3度動くやつ」という風に、ルートの移動量を第一基準として分類していきます。
こんな風に、2度で動くやつだけ集めて一つの記事に……といった調子で進みます。
このルート・モーションによる進行分類は伝統的な本格クラシック/ジャズ理論書でも行われるメソッドです。こうしたジャンルでは、実は好んで使うルート・モーションとそうでないものとがあるのです。そして明確な理論化こそされていないにせよ、ロックやEDMといった現代のジャンルでも、やはりそういった好みというのはあります。
だからルート・モーションを元に分類と解説をしていくことで、ジャンルごとの嗜好を知り、作曲の際にもそれぞれの様式らしいもの・らしくないものを意図的にコントロールすることができるというわけです。
2. 前提と記号の共有
まず具体的な説明に入る前に、いくつか言葉や記号を取り決めてしまって、説明を流暢にしたいと思います。
上行/下行の簡略化
ここから先は「2度上行」「3度下行」といった言葉がイヤというほど出てきます。これらを簡略化するため、2▲3▼といったシンボルで略記します。
ようは、「Aマイナー」を「Am」と書いて見やすくするのと同じ発想ですね。読み方については多少お好みで選ぶ余地を残したいと思います。例えば5▲だったら「5うえ」「5どうえ」「5どじょうこう」「5アップ」「Fifth Up」「Fifth Above」などが考えられます。
オクターブの無視
例えばV→Iという接続において、ベースの動きは「4度上がる」か「5度下がる」かのどちらかです。
しかし接続系を論じるうえでは、このオクターブの差は全く重要でありませんので、これらは同一視します。そうすると、六つの基調和音どうしの接続は必ず2・3・5度のいずれかで表されることになります。
なぜ「5度」だけ「4度」と言わずにわざわざ数字の大きい「5度」の方なのかというと、ひとつは単にそのような慣習が理論界に根強くあるということ、それからその方がまとめていくうえで暗記が多少しやすくなるという実利の面があります1。
数字が一つ飛ぶのがむず痒く感じるかもしれませんが、2・3・5は「最小の素数3つ」だということで、見ようによっては2・3・4より美しいではないかと、そのように前向きに捉えて頂けたらと思います。
ここまでの内容を総合すると、30種類ある基調和音の接続は、以下6種類にカテゴライズされるということになります。
モーション | 略記 | 接続の例 |
---|---|---|
2度上行 | 2▲ | I→IIm, IV→V |
2度下行 | 2▼ | VIm→V, V→IV |
3度上行 | 3▲ | I→IIIm, IIm→IV |
3度下行 | 3▼ | VIm→IV, V→IIIm |
5度上行 | 5▲ | I→V, IV→I |
5度下行 | 5▼ | V→I, IIIm→VIm |
禁則の扱いについて
現代の音楽において、コード進行に禁則などありません。しかし「かつて禁則だった」と知ることには意味があります。それを守れば音楽をお行儀よくできるし、破ればアバンギャルドにできるし、要は音楽の「新しさ/古さ」を意図的にコントロールできる人間になれるからです。
そのため、そういった『かつての禁則』については色の異なる点線で表して特別視します。
これらは他所の理論書だとあまり掘り下げられない存在ですから、自由派では収集した用例を元に解説することでその穴を埋めます。
さてそれでは、詳細はのちのち個別の記事でやるとして、まず各接続の特徴をおおまかに把握していきましょう。