クオリティ・チェンジ

コード編 Ⅰ章:新しい言葉

#1 II章を先取り

さて、「I章では使うコードは6つだけ」という話をちょっと前にしました。この次の記事以降は「接続系理論」に入っていきますが、そこでもずっと、6つのコードの話をし続けます。 もちろんこういった基礎の理解はとても重要で、飛ばすわけにはいきません。ただ、I章で一旦学習を切り上げた場合、これだけ色々やってきて知ったコードが6つだけというのも、何だか味気ない感じがしますよね。だからこの段階で、II章の内容から使いやすい部分をサクッと抜粋して紹介してしまおうと思います。

II章の方では、原理や考え方も含めて解説するのですが、ここではそういう余計なの一切ナシで、実戦投入だけを目的の解説をさせてもらいます。

#2 コードのクオリティ

度数の「長・短・完全」といった属性やコードの「メジャー・マイナー」といったタイプは、英語では「クオリティQuality」という風に称されます。日本語のカタカナで言う「クオリティ(品質)」とはちょっと意味合いが違って、「質感」という言葉が訳語としてふさわしいかもしれませんね。 コードのクオリティが変われば、曲想が変わる。 メジャーコードの第3音を半音下げると、マイナーコードになって暗くなる。逆にマイナーコードの第3音を半音上げれば、メジャーコードになる。こんな話も、そろそろスンナリ理解できるようになってきているのではないでしょうか。
インターバル
そうするとですね、これからドンドン発展的なコードを身につけていくにあたって、どこから手をつけていったらいいのかと考えたときに、この「長短を入れ替える」というのが最も導入しやすい手近な手法と言えるのではないでしょうか。

大事なルート音は変えず、音を足したりもせず、ただ真ん中を入れ替えるだけ。それなら出来上がるコードも、すでに知っているメジャーコードかマイナーコードかのどっちかです。それくらいのちょっとしたアレンジなら、現段階でもけっこう使いこなせるはず。


#3 変位

そんなわけで、今手持ちにある6つの基調和音、その6つとも、メジャーとマイナーを入れ替えて使うことができます。それによって、普通とは違う、「スパイス的存在」に早変わりするのです!

長短変換
メジャーコードは真ん中を下げ、マイナーコードは上げる。だから楽譜上では、何かしらの臨時記号がつきます。 {Im}と{Vm}はなかなかクセのあるやつで、使いどころを知っていないと難しいのですが、他はかなり容易に曲に入れ込むことができるのです。 このように、メジャー・マイナーといった「コードのクオリティ」を変えることを、クオリティ・チェンジQuality Changeといいます。5

古典派理論では、コードのどこかに♯♭がついて音が変わることを変位Alterationと呼び、変位によって新しくできたコードのことを「変位和音Altered Chord」といいます。6 上に登場した6つは、変位和音のうち最も代表的な6つということですね。

#4 クオリティ・チェンジ

ではここからは、実際の使い方を音源とともに見てみましょう。

VI : 予想外の明るさ

{VIm}は本来「暗くて落ち着きがある」というダークサイドの存在でした。それが明るい方に変わるわけですから、希望が差したような情感が生まれます。
{IIm}{V}{I}{VIm}
こちらはまだ何もしていない、普通のコード進行です。この{VIm}を全て{VI}に変えてしまいます。
{IIm}{V}{I}{VI}
違いが分かるでしょうか? 聴き取れるまで何度でも聴いてほしいです。この辺りの音感を鍛えることは、メチャクチャ大事です。こちらの方が、起承転結の「結」が明るいため、聴いた後の「幸福感の総量」みたいなものが、かなり違いますね。圧倒的にウキウキ感、ワクワク感が高まっています。 特に、パートの最後にこの{VI}を持ってくると、いかにも終わったなァという達成感を覚えます。
{IV}{V}{VIm}{IIIm}{IV}{V}{VI}
1周目は普通に暗い{VIm}なのですが、2周目は明るい{VI}へ変位させます。この感じ、ポップスでよく聴いたことありますよね。この「暗いと思いきや明るい」という裏切りは定番の手法です。

クオリティ・チェンジは、いずれもこんな風に、本来のコードの代わりとして挿し込むと、曲の構成としても崩れにくいです。

III : さらなる感情の昂り

一方で{IIIm}をメジャーコードにしたIIIは、流れの中で聴くとそこまで「明るい」という感じはしません。どちらかというと、「ドミナント」が本来持っている高揚感を強化したようになり、強い「揺さぶり」の効果が生まれます。 {IIIm}は時にはトニックぽくも振る舞う「二重人格」的存在という話でしたが、メジャー化することでそれが吹っ切れて思いっきりドミナントになるようなイメージを持ってもらえたら、分かりやすいかと思います。
{IV}{IV}{IIIm}{VIm}

こちらはまず、同じコード進行を普通に2周しているパターン。サウンドがしっかりと盛り上げてはいますが、何か物足りない感じもします。

{IV}{IV}{IIIm}{VIm}{IV}{IV}{III}{VIm}

そこで、大盛り上がりの2周目の方だけ、{IIIm}を{III}に変えたのがこちらです。ほんの一音変えただけなのに、だいぶ印象が変わりましたね! こっちの方が感情の昂りをより強く感じます。{III}のコードは、J-Popのバラードなどでも大活躍しているコードなんですよ。

II : 多彩な役者

続いてIIは使い方次第で実に様々な表情を出しうる、“役者”のコードです。{VI}と同じように「希望が差す感じ」も出せるし、民族調の雰囲気を出す時にも使えたりなどします。
{I}{IIm}{IV}{I}
こちらは、まだ、変位をしていない普通の音源です。この2小節目の{IIm}を明るくすることで、曲想をチェンジします。
{I}{II}{IV}{I}
やっぱり明るくなったぶん、パァっと景色が開けたような開放感がありますね! では逆に、暗めの曲調の中でこれを使うとどうなるでしょうか?
{VIm}{V}{II}{II}
今度は、いかにもハードロック風の曲調。全体の暗いトーンに打ち消されて、{II}もそこまで明るい感じはしません。実は肝心のギターソロが、変位した音を全く弾いていません。そのため、本来のトーンから逸脱した雰囲気が少なく感じられるのです。 つまり、変位した音をどれくらい使うかで、明るさをコントロールできるとも言えますね。 もちろん、ロック以外でも全然使います。
{VIm}{IIm}{V}{I}
こちらはダンス風の曲で、まだ普通の{IIm}です。これを明るくすると・・・
{VIm}{II}{V}{I}

より元気な感じになりましたね! この曲調なら、こっちの方がよく合っている気がします。

IVm : あからさまな切なさ

これまでとは正反対で、明るかったはずのものが、暗くなります。それはまるで夕焼けのようで、これは切ない感じを出すのにぴったりのコードです。
{I}{IVm}{I}{IVm}{I}
こういう穏やかな感じは、Aメロにぴったりですね。ただの{I}{IV}を繰り返すよりも、長短がクルクル入れ替わるため、よりドラマ性を感じられる。こうやって、バリエーションを作り出せるのもクオリティ・チェンジの良さです。
{IV}{IVm}{I}

明るい{IV}から暗い{IVm}へ、あえて2つ連続させることで長短の変化を際立たせたパターンです。特にポップスのバラードで非常に重宝する、使いやすいコードです。

Vm : 意外性のあるつなぎ

曲を構成するうえで{V}が重要なコードであることは、ここまでの経験でもう理解しているかと思います。同じドミナント系に{IIIm}が居るとはいえ、こいつは「二重人格」。唯一無二の存在感を持っているのが{V}です。それをマイナーに変えてしまう{Vm}は、これまで紹介したものたちと比べると、使用頻度は少し低めです。前後のコード使いも限られてきます。
{VIm}{V}{IV}{IVm}
これはまだクオリティ・チェンジしていないバージョン。6-5-4と降りてくる流れで、ちょっとまあ、面白みがないような気もする。そこで意外性を出すために、Vをマイナーに変身させてみましょう。
{VIm}{Vm}{IV}{IVm}

独特な情感が生まれ方が生まれました! このパターンの場合、ちょっとIVmに近い哀愁みたいなのもありますね。今回のように、{Vm}の進行先としては{IV}が一番安定します。まあいずれにせよ上級者向けですね。

Im : 強烈な異物感

{I}は、調のリーダー。それをマイナーに変えるということは、まるで天変地異、朝と夜がクルッと入れ替わってしまうようなもので、かなり強烈。だから使用の可能性は他と比べると圧倒的に落ちます。 {VIm}の方がリーダーを担っている暗めの曲であれば、過激な飛び道具として使うこともあるかなという感じです。
{VIm}{V}{VIm}{I}
こちらはまだ未適用。最後の{I}がちょっと明るすぎて、なんだか違う気がする。そこで思い切って、ラストをマイナーにしてみます。
{VIm}{V}{VIm}{Im}

ダンスミュージックをよく聴く人は、この感じをどこかで聴いたことがあるかもしれません。伝統理論おかまいなしのEDMなんかでは、この{Im}に偶然遭遇することがたまにあります。相当“異物感”がありますけど、でもそれが聴いててクセになる感じもしますよね。こういう過激系EDMだったら結構アリだと思います。

メロディメイクに注意

臨時記号をつけて音を変えるというのは、それなりに高度な行為です。メロディラインに使うべき音も変わってきますしね。 変位和音にメロディを乗せるときは、例えばファが♯になったのならメロディも「ただのファ」は使わずに「ファ♯」にするというのが基本ですが、一概にそうとも言えません。ここはやっぱり、耳で確かめながら体得していくのが一番でしょう。

#5 「付加和音」と併せる

前々回には、音に濁りを付加する「付加和音」を紹介しました。今回のクオリティ・チェンジによって生まれた新コードに対しても、音の付加をするとより上質なサウンドが得られます。それもやはり本来は高度なワザなのですが、ここで軽く紹介だけしますね。
{IIm}{III}{VIm}{Vm}{IV}{III}{VIm}{II}
こちらはIII,Vm,IIという3つの「クオリティ・チェンジ」を施し、さらに全ての和音に1〜3音を付加してオシャレ度をアップさせたものです。やはりこういう大人っぽい曲調では、適度に音を付加して濁らせるとよい。どの音を足したのか、詳しく見てみますね。
1-2小節目
これがまず1-2小節目。{III}のところでは、ルートが「ミ」で「ファ」を乗せるという“濁りすぎに要注意”のパターンですが、ここは強く感情を揺さぶる場面なので、その不安定さがバッチリ効果的に働いています。7 また{Vm}なんかは、こうして音を足してあげると異物感がドンドン薄れて使いやすくなりますね。
3-4小節目
そしてこちらが3-4小節目。ここでは赤字になっているところが大きなポイントで、せっかくソやファをシャープにしたのにも関わらず、その上の方にナチュラルの音を乗せてクオリティ・チェンジの効果を弱めています。耳につきやすいトップの音は平静を装いつつ、内側の方の音ではシャープによる高まりが生じているという、実に絶妙なバランス感覚なのです。 {II}{III}{VI}の“シャープ3人衆”に限っては、この「打ち消し」を発動させることができます・・・が、ヘタをすると気持ち悪いサウンドになってしまうので、かなり上級者向けですね。まあ、「こんなワザもあるぞ」ということで紹介しただけですから、いったん忘れてしまってもかまいません。8

ですから、「基調和音」「クオリティ・チェンジ」「付加和音」の3つをうまく使いこなすだけでも、相当にリッチなサウンドを構築できます。III章以降では、具体的にどのコード上でどの音を乗せるとどんな効果が得られるのかについてひとつずつ学んでいくことになるわけですが、試行錯誤から良いものを見つけていくスタイルで経験を積むのも大いにアリだと思います。理論はいつだって、独力に限界を感じたときのサポートツールなのです。

この節のまとめ
  • メジャー・マイナーといったコードの質感のことを「コード・クオリティ」といい、それを変えることを「クオリティ・チェンジ」といいます。
  • コードのいずれかの構成音を上下にずらして音を変えることを、「変位」といいます。
  • {IIm}{IIIm}{VIm}{IV}は、メジャー・マイナーをひっくり返しても容易に曲中に入れ込むことができます。
  • {I}と{V}をそれぞれ変位させた{Im}と{Vm}は使いどころが難しく、上級者向けです。
  • これらの和音はスパイス的存在として、特にサビ前やサビのクライマックスなどでよく使われます。
  • クオリティチェンジを施した和音に、さらに音を付加することもできます。
  • “シャープ三人衆”、特に{III}のコード上では、付加和音のバリエーションはかなり豊富です。
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