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クオリティ・チェンジ

5. セブンス/テンションと併せる

前回は音に濁りを付加する「セブンスコード」や「テンションコード」の存在を紹介しました。今回のクオリティ・チェンジによって生まれた新コードに対しても、やはり音の付加をすることでより複雑なサウンドが得られます。それもやはり本来は高度なワザなのですが、ここで軽く紹介だけしますね。

IImIIIVImVmIVIIIVImII

こちらはIII,Vm,IIという3つの「クオリティ・チェンジ」を施し、さらに全ての和音に1〜3音を付加してオシャレ度をアップさせたものです。やはりこういう大人っぽい曲調では、適度に音を付加して濁らせるとよい。どの音を足したのか、詳しく見てみますね。

これがまず1-2小節目。IIIのところでは、ルートが「ミ」で「ファ」を乗せるという“濁りすぎに要注意”のパターンですが、ここは強く感情を揺さぶる場面なので、その不安定さがバッチリ効果的に働いています。
またVmなんかは、こうして音を足してあげると異物感がドンドン薄れて使いやすくなりますね。

そしてこちらが3-4小節目。ここではビックリマークを付けたところが大きなポイントで、せっかくソやファをシャープにしたのにも関わらず、その上の方にナチュラルの音を乗せてクオリティ・チェンジの効果を弱めています。耳につきやすいトップの音は平静を装いつつ、内側の方の音ではシャープによる高まりが生じているという、実に絶妙なバランス感覚なのです。
IIIIIVIのシャープ3人衆に限っては、この打ち消しをしても面白いサウンドとして成立させやすいです……が、ヘタをすると気持ち悪いサウンドになってしまうので、なかなか上級者向けです1

ですから、「基調和音」「クオリティ・チェンジ」「セブンス/テンション」の3つをうまく使いこなすだけでも、相当にリッチなサウンドを構築できます。III章以降では、具体的にどのコード上でどの音を乗せるとどんな効果が得られるのかについてひとつずつ学んでいくことになるわけですが、試行錯誤から良いものを見つけていくスタイルで経験を積むのも大いにアリだと思います。理論はいつだって、独力に限界を感じたときのサポートツールなのです。

6. 主観性と主体性

今回「予想外の明るさ」「感情の昂り」などとかなり主観的な表現を用いて説明をしました。従来の理論では、ここは「変えることができる」という説明に留めるところでしょう。実際にコードの印象は前後関係など状況次第で変わったりもするもので、あまりこのコードはこうだと印象論を展開するのは好ましくないことです。

しかし禁則のない“自由派”の認識からすれば「できる/できない」で言えば何だってできるのであって、それよりも一歩先の表現に関する話題まで踏み込まないと、あまり理論としての意義を果たせません。
音の印象に関する説明を理論が完全に放棄した場合、けっきょく音を選ぶときには感覚頼みということになってしまいますね。それではもったいないなということで、ここまでの説明においては音響と聴覚印象とを結びつける考え方を示すために(たとえ主観を排せないとしても)それらしい表現を選んで提示しました。

しかし言うまでもなく、VIに対するあなたの印象は、「予想外の明るさ」という言葉である必要はありません。自分の言葉でいいし、もっと言えば言語である必要もないですよね。形は何でもよくて、ただこうやって音響と印象とを結びつけて記憶することで理論が実践に活きる知恵となるということを知ってもらいたかったわけです。理論があなたに「客観的に・正しい音を・教えてくれる」のではなくて、あなたが理論を使って「主体的に・ふさわしい音を・選びとる」のだという、その関係性は忘れないでいてください。

今後もこのような説明は度々登場しますが、それらは全て「言語化の一例」にすぎないですから、自分の納得できる形に変えてそれを吸収していってもらえればと思います。

まとめ

  • メジャー・マイナーといったコードの質感のことを「コード・クオリティ」といい、それを変えることを「クオリティ・チェンジ」といいます。
  • コードのいずれかの構成音を上下にずらして音を変えることを、「変位」といいます。
  • IImIIImVImIVは、メジャー・マイナーをひっくり返しても容易に曲中に入れ込むことができます。
  • IVをそれぞれ変位させたImVmは使いどころが難しく、上級者向けです。
  • これらの和音はスパイス的存在として、特にサビ前やサビのクライマックスなどでよく使われます。
  • クオリティチェンジを施した和音に、さらに音を付加することもできます。
  • “シャープ三人衆”、特にIIIのコード上では、テンションのバリエーションはかなり豊富です。
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