2nd Shellの用法

さて、今回以降は、2・4・6各度数の用法を個別に見ていきます。まずやっぱり最重要である、六つの基調和音における各シェルの用法をマスターしていきましょう。そこで考え方を理解すれば、それを基調外和音に応用することだってできるはずですからね。今回はまず、2度からです。

#1.詳細度数を確認する

NCTのシェルについては、全て詳細度数で解説を進めます。やはりこれくらい上級レベルになると、簡易度数で済ませてはダメなのです。六つの基調和音に対して、音階に沿って「2度」でメロディをとった場合、以下のようになります。

2ndシェルのインターバル

IIImだけ短2度、すなわちルートと半音差になっていることが分かります。当然これは、響きに重大な違いをもたらします。コレがNCTの難しいところで、「3rdと言えば(長3度も短3度も)色彩を強調する働き」なんていう風に一言で片付けられないのです。

ですからここから先は、長2度と短2度を別々に分けて考えていきます。

#2.M2 Shellの用法

長2度は英語でMajor 2ndなので、「M2 Shell」などと言い表してみました。六つの基調和音においては、IIImを除く5つのコードはみな、メジャースケール上で普通にメロディを構成するのであれば、M2 Shellを保有することになります。

M2 Shell

長2度はオクターブ上げれば長9度ですから、この音の並びは、コード編の「9thコード」の時に紹介したものと実質的に同じです。ですから、生み出されるサウンドも同じ。鋭く、高らかで、浮遊感がある。それがM2 Shellの本質です。

M2 Shellの傾性

M2は、さほど傾性が強くありません。ですから、元々のカーネルが低〜中程度の傾性であれば、十分に伸ばすことが可能です。

IとM2の組み合わせ

こちらはIでM2を伸ばしっぱなしにしている例です。「Someone whose smile」の部分。ここはまだ語り始めなので、解決せずにあえて浮かせているという感じ。その次の「makes me feel I’ve been holding back」のところでは、基本に忠実に順次下行解決をしています。

解決した時としない時で生まれる曲想の差と、メロディのストーリーが噛み合った、とても良い例ですね。

こちらも地味ながら、非常に面白い。始まり方は、嵐のデビュー曲「A・RA・SHI」や、「残酷な天使のテーゼ」を思わせるようなメロディラインで、コードもよくあるJ-Popのマイナー調。
しかしフレーズの終わりが面白く、「青空のせいじゃない」のところで、I上のM2を伸ばして解決しません。90年代のJ-Popセオリーならココは全音上行して解決しちゃうところですが、そうしないというのがLate 2010’sの感性なのです。その後の「ずっと見上げてたわけじゃない」のところは上行解決してスッキリするのもバランスとして良いですね。

この「未解決」によって、この曲のテーマである疾走感や力強さ、流されない心といったものが際立って表現されています。

IImとM2の組み合わせ


「Her heart is breaking」のところが、IIm上のM2になっています。IImのM2は、要するに「ミ」の音。半音上に「ファ」が控えているので、ややそちらに引っ張られる感覚はあるのですが、何せ「ミ」の傾性が低いので、無視して留まることが可能です。

This Love

非解決でも全く嫌な感じはなく、むしろ強さや、やはり突き刺さるような質感が強く現れていて、曲のテーマとマッチしています。これがファへと解決すると、いかにも情に流されたような、女々しい感じになっちゃいますね。

IVとM2の組み合わせ


上はサビ頭、「いつまでも」の「も」がIV上のM2ですが、特に解決する気もなく伸ばしっぱなしで次のコードへ進んでいます。あえてしっかり解決しないことで、M2の突き刺さるような質感が存分に発揮されています。
IVにおけるM2は属音ですから、力強く芯があって、高らかな響きをカーネルとして備えています。それがIVのメロウな感じと合わさると、いい具合に混ざって、失恋ソングにぴったりの熱情的なサウンドになるわけですね。これも実に巧い活用例です。

だんだん見えてきたと思いますが、こんな風にカーネルも考慮に入れたうえで、そこにシェルが重なって最終的な質感がどうなるかというのを考えると、曲想との関連がよく見えてきます。

VとM2の組み合わせ

実はこの組み合わせ、現実に遭遇する率はあまり高くありません。Vはドミナントで高揚を掻き立てるべきコードなのですが、そこにM2で乗っかる音は、いわゆる「ラ」の音です。こいつは本質的に短調のボスであって、どっしりと落ち着いていますから、どこかドミナントの高揚をかき消してしまう感じがあります。だから短めの挿入ならあり得ても、伸ばすという選択が活きる場面が少なく、あまり使われないのです。

そんな中レアな使用例がこちら。3:20のアウトロから、IVVVImというおなじみのコード進行が始まるのですが、3:37のボーカル歌い出し、「’Cause you’re a sky」のところで、解決しないVとM2の組み合わせが発生しています。

この曲は、静けさと情熱、暗闇と輝きが共存するような、不思議なテーマの曲です。そこへ来てこの組み合わせは絶妙。ドミナントのコードで浮上感、高鳴りを表現しながらも、そのコード感をかき消す「ラ」の音が重なることで、まさに光と影がせめぎ合うようなサウンドが生まれています。Coldplayは本当に、カーネルとシェルに対する感性が研ぎ澄まされていて、シンプルなようで実に奥深いパターンがいくつも発見できるんですよ。

VImとM2の組み合わせ

このVIm上のM2と言えば「導音」ですから、これまで何度も「導音伸ばしは大人っぽさを演出する方法としてアリ」と紹介してきましたね。「開花す」のところの伸ばしや、最後の「救助し」のところです。もう今更言うことはないので、割愛します。

M2 Shellと解決

ここまでは、シェルの質感を理解するために「解決せず伸ばすパターン」を紹介しましたが、もちろんよくある使い方は、順次進行で解決することです。M2の場合は、上下どちらともに安定した解決先があるので、上行も下行も両方容易に行えます。

順次進行で解決

下行すれば行き着く先はルートですから、非常にどっしりと力強い解決の仕方になります。逆に上行すれば3rdに行きますから、「上行」の華やかさと「3rd」の彩りが合わさって、かなり鮮やかに感じられる展開となります。どちらにすべきかは、完全に表現したいもの次第ですね。
またVImIImにおけるM2の場合、上方向が半音差になっています。ですからこういう場合、上行の方が滑らかさにおいて勝ります。

IIとVIの場合

逆に下行する場合は、その半音差の魅力に逆らって力強いルートへと進むことになるので、ややパワーを感じさせることになります。

こうして見ていくと、NCTのシェルの用法というのは、Ⅰ章・Ⅱ章でやってきたことの集大成であると言えますし、逆に言えば、新しいことは何もありません。順次跳躍、収束発散、傾性といった根本のコンセプトを理解していれば、こうやって一つ一つ説明を聞かなくたって理解することは可能です。このウェブ上で全てのパターンを説明するというのはさすがに難しいですから、これ以上の詳細は、各自で考えて頂きたいと思います。

#3.m2 Shellの用法

短2度の方は英語でminor 2ndですから、ここでは「m2 Shell」と略記することにします。
基調和音の中でm2 Shellを保有することになるのは、IIImだけ。ルートの半音上にメロディが乗っかるというのは、ものすごい不協和になりますから、傾性が非常に高まります

「コードの構成音に、半音上で乗っかるのは基本的によくない」という話は、コード編のI章、「具現化基礎」の時に既にしていますね。それと繋がる話です。これは今後もずっと同じことですが、コードトーンに半音上で乗る音は、基本的に傾性が高まりますから、そのまま音を伸ばし続けられるシチュエーションというのは、限られています。

カーネルとの兼ね合い

ましてやIIImの場合、m2で乗る音は「ファ」、最も強い傾性音です。

カーネルの傾性

ですから、IIImのコード上でメロディが「ファ」を取っているときは、極めて不安定な状態になっているってことですね。こういう場合は大人しく解決するのが基本となります。「内部解決」であれ「後続解決」であれ、とにかく解決させてあげれば、不安を煽ることも効果的に働くので良い。

IIIm上のm2の内部解決
内部解決

こちらは典型的な内部解決の例です。左側が模範中の模範、半音下がってルートに落ち着くというパターンです。メロの流れとしては綺麗なのですが、メロがルートに着地することで、力強さが出てしまうのが玉に瑕。IIImって、基本的には切なさを出したいところですからね。
だから右のように、ちょっと跳躍して7thへ行くというのもアリです。そうすると、m2の濁りは解消しつつも、まだ7thという緊張感が残る状態が続く。そうであればIIImはドミナントとしての役目をしっかり全うでき、そのあとのVIの着地が活きます。

IIIm上のm2の後続解決

しかし、せっかくの強烈な不安定さですから、解決しないままトニックのVIへと流れ込み、そこで満をじして解決するというのもよい。前回説明した後続解決ですね。

後続解決

これも、タメにタメて、コードが解決した後にメロディが追いかけてくるという構成ですから、感情的なバラードなんかではとても映えるでしょう。ですから、こういうちょっとした違いであっても、それが何をもたらすのかというのを理論的に考察してみるとよいです。例えばこの2パターンの後続解決でも、右と左で何がどう異なりますか?

右のパターンは、ファが本来持つ半音下行の欲求に逆らっていますよね。ICDで見ても、上方向は「7度」だから、さほど解決感はない。ですから、自然に降りていった左のパターンと比べると、圧倒的にパワフルで、「譲れないものがある」とでも言うような、芯の強さを感じさせるメロディになっています。これがもしバラードのサビならば、右のパターンの方がより多くの人の心を打つでしょうね。もちろん、そこに乗る歌詞にも依りますけども。

アヴォイド・ノートについて

今回のm2 Shellのような強傾性音は、ジャズ理論の流れを汲む一般的なコード理論では「アヴォイド・ノート(避けるべき音)」などと呼ばれます。

アヴォイドジャズ理論書でよくある光景

白抜きになっている音符がアヴォイド・ノートで、「目立った使い方を避けるべき」などと説明されます。ただこのルールはあくまでもジャズ界の通念であって、歌メロを考えるときには参考にしないほうがよいです1

実際には、先ほどの「後続解決」のようなあからさまに目立った使い方も、ポピュラー音楽のメロディメイクにおいては重要な技術のひとつなのですから、「濁るから避ける」という発想はすごく消極的で貧弱です。
また、「アヴォイド・ノート」という言葉で一括りにされてしまった音の中でも、その使い勝手は各音で全く異なります。中には、「ポピュラー音楽であれば全然避けずに使っている」なんていう音もあるんですよ。

ようするにアヴォイド・ノートというのは、「細かいことを考えていられないジャズの即興演奏において、ひとまず“危険な音”をまとめて暗記しておこう」という、完全に即興演奏向けの簡易的なガイドラインなんですね。作曲用の理論では全くない。

そしてその欠落を補うための理論こそが、今学んでいる「シェル」というわけです。ですから今後、アヴォイドがどうのという話を見かけても、それは気にするようなものではありません。


そんなわけで、具体例と共に確認したことで、コードに対する2度の音がどのように活用されているか、ぼんやり見えてきたと思います。ここから先はとにかく実践です。実際の作曲や、楽曲の分析。その中で偶然見つけた「いいもの」をコレクションしていけば、それが確実にセンスへと繋がっていくはずです。

総括
  • 2nd Shellは長2度か短2度かで全く性質が異なるため、区別して考える必要があります。
  • M2 Shellは、鋭く高らかなサウンドを基本的に有しており、基本的に解決させず伸ばすことが可能です。
  • M2を解決する場合、下行だとRootにどっしり落ち着くことになり、上行すると彩り豊かな3rdに到達します。
  • m2 Shellは、強烈な不協和を生むため、常に解決が期待されます。
  • m2のような強い不協和をあえて引き伸ばし、後続解決するのも技法として効果的です。

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