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さて、前回でシェルの取り扱い方はだんだん見えてきたと思うので、サクサク次へ進みましょう。今回は、4th Shellです。

1. 詳細度数を確認する

やっぱり今回も、まずはここから。詳細度数の確認です。

4度のシェル

「P4」は完全4度、「+4」は増4度のことでしたね。今回はIVのコードだけが特別で、増4度になっていることが分かります。ですからまずは、これを除いた他の5つのコードから見ていくことにします。

2. P4 Shellとsus4

コードにP4が混じると、それは総体的なサウンドとしてはsus4のコードに近くなります。P4 Shellはsus4と同じ「吊り上げて浮かせている感覚」を本質的に我々に想起させるわけです。ですからP4をメロディとして打ったあとは、順次下行で解決するのが一番の基本形です。順次上行だと、けっこうパワフルさを感じさせるサウンドになりますね。

4thの解決の基本

それは上下の方向の違いだけでなく、下にあるのは彩り豊かな3rd、上にあるのは無色透明の5thという、度数の違いも関係しています。

3. メジャーコードとP4 Shell

今回は、完全4度のシェルを持つ5つのパターンのうち、さらに2つを抽出して先に確認します。それが、メジャーコードであるIVのパターンです。なぜこの2つが別かというと、この2つの時には「コードの構成音に半音上で乗っかる」という、「要注意のパターン」になっているからです。

要注意

これは非常に強い濁りを生むため、コード優先型の理論ではファはアヴォイド・ノート、「ハーモニーの中で長く伸ばすと許容できない音」とされます。実際のところ、ミとファを思いっきりぶつけたらどれくらいの不協和が生じるのでしょうか? 実験してみます。

メロディはファとミの繰り返し。対して伴奏のストリングスやオルガンは、ずっとミの音をトップノートに取っています。確かにこれでは音楽として、どちらの響きを押し出したいかが不明です。不協和が気持ち悪いですね。

現実はもっとグレー

ただし、ポピュラー音楽の世界では、普通にIVのコード上でP4を伸ばしてしまうことはよくあるというのが現実です。

こちらの場合、伴奏のアコースティックギターが普通にCのコードを弾いているのですが、なにせギターは弦が6本もありますから、さっきの音源と比べるとミの音がそんなに目立たず紛れています。また、エレキギターも全く別のフレーズを弾いているので、音響自体が複雑になっていて、ファとミがぶつかっていることがそこまで気にならないんですね。

理論はあくまでも音を形式的にモデル化したものであって、楽器のエンヴェロープや周波数の特徴、ミキシングといったところまでは考慮されていないということは気に留めておくべきです。

メロディ優先型で考える

目立たないとはいえ、奥底で濁っているのは事実。それが良くないと感じられる場合には、コードを少しアレンジしてあげればよい。それが「メロディ優先型」の発想法です。この場合は、3rdの音を使わない「sus4」「sus2」「パワーコード」などに変えてあげるとよいです。

sus4

こんな風に、M3を無くしてしまえば、P4のメロディはずっと使いやすくなります。ですからパワーコードが基本のロック音楽であれば、IやV上でP4を伸ばす行為はとってもカジュアルに行えます。

こちら、3:18〜の間奏の歌い出しがまさに「ファ→ミ」の流れになっていますが、伴奏がパワーコードなので、不協和を一切感じません。つまり、こうした不協和の処遇については、サウンドや編曲がとても重要になってくるということですね。

Check Point

メジャーコード上でのメロディが完全4度を取ると、コードトーンの半音上にメロが乗ることになる。

その際には、伴奏は3rdの音が目立たないような演奏をするか、そもそもコードをsus4にするなどして、過度な不協和を避けることが望ましい。ただし、その濁りの感じられ方は、サウンドと編曲によって大きく左右されるため、常に耳で判断する必要がある。

「アヴォイド・ノート」はすごく重要な知識として捉えられているような風潮がありますが、作曲においてはあまり効果的なアイデアではありません。今回のように「メロディ優先型」で考えてあげた方が、より自由に、より自分の思い描いた音楽が作れるはずです。ではここからは、IVで個別に用法を見ていきますね。

IとP4 Shell

IとP4

もうここまでの話で分かっていると思いますが、IのP4は「ファ」の音、強傾性音になりますから、そもそも鳴らすだけで強い不安を煽ります。あまり極端に長く伸ばすことは一般的でなく、また順次進行で大人しく解決してあげるのが良いです。
これをあえて解決しないというのは、相当なチャレンジですが、せっかくなので紹介しますね。実例としては、東京事変の「新しい文明開化」が最も極端な例として挙げられます。

こちらは頭サビの終わりで「ファ」を思いっきり伸ばしています。この曲はファニーな雰囲気を演出しているがゆえ、おかしなメロディラインが逆に活きているのです。また編曲面でもやはりパワーコードを使用することで、音響の濁りを避けているところがとてもよく練られています。

こちらもサビに注目。「はやく名前を呼んで 呼ん」のところで、コードがIに至るとともにメロディのICDはP4で伸ばしたまま解決しません。これも本当に絶妙で、コードはトニックに落ち着いたけども、まだ感情の昂りが収まりきっていないような状態を見事にサウンドで形にしています。

編曲に着目すると、やはり濁ったギターの音が中心となっていて、大元のコードトーンとの不協和が気にならないように配慮されているのがひとつ。もうひとつすごいのは、ストリングスが「ラ」の音を鳴らして、3度上からメロディをサポートしているのです。よく聴かないと分からないところに編曲の妙があります。

こんな風に独特な曲想を表現するような、特殊な場面でない限りは、IにおけるP4 Shellは解決を必要としているのだと思ってください。

VとP4 Shell

VとP4

一方で、一見すると同じメジャーコードであるVの場合には、ずいぶん話が変わってきます。P4 Shellとなるのはド、主音ですから、たとえ不協和であっても受容される傾向にあるのです。シェルではなくカーネルとしての安定性が、ここへ来て差異を生み出してくるわけですね1

もちろん、高揚を煽るドミナントとしての役割を全うするのであれば解決させるべきですけど、そうでない形、つまり主音を伸ばすことでドッシリ落ち着くという形も十分にありえます。

美メロとしておなじみ、「You’re Beautiful」のサビでは、歌い出しの「You’re Beautiful」のところで、コードがVになった瞬間にメロが主音に行くという、まさにドミナント感ぶち壊しのメロディを作っています。でもそれが、鬱々とした雰囲気を演出していて良いですよね。

この場面ではストリングスが普通にM3rdを位置取っていて、メロとはぶつかっています。しかしメロはすぐに消えちゃうし、ストリングスはアタックが遅いので、十分に共存できています。

こちら、サビの最後に「Holiday Holiday Holiday」と3回繰り返しますが、その2回目がVとP4の組み合わせになっていますね。ドミナントのパワーを強化せず、勝手に解決してしまっていることで、あてもなく彷徨っている浮遊感がよく出ています。

こちらはサビが4-5-1の進行になっていて、「2人ぼっちに慣れよう」でコードがIVからVへ動いた瞬間がまずP4、その後も表拍で思いっきりP4を二発当てています。
これもやっぱり伴奏がエレキギターのパワーコードですから、不協和は全く感じません。コードに関係なく主音をガンガン歌うことで、キッパリした強さのようなものがよく演出されていますね。

ですからVの基本的な立ち位置というのは、メロに導音を使ったりして、次のトニックへの解決まで盛り上げて行くというのがふつうですが、このVとP4 Shellの組み合わせというのは、そのセオリーを破って勝手にドシンと落ち着いてしまうということで、自分勝手・自由気ままな感じがどことなく生じるわけですね。

ですから特に、こういうポップスやロックでは普通にこの組み合わせが登場します。当然編曲の際には、M3とP4がぶつかり合わないように調整をすることが望ましいです。

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