目次
今回は「新しい言葉を知る」回です。
メロディメイクのうえで極めて重要な、コードとメロディの関連性について論じます。I章ではコードと独立してメロディだけで理論を展開しましたが、そこから大きく一段階レベルアップしていくことになります。
この章を読み進めるには、先にコード編I章を修了している必要があります。
1. 垂直的に見る
I章では、まずコードと切り離してメロディの性質について学ぶということをしました。しかしこのII章では、いよいよコードとメロディをセットに考えて、その関係性に踏み込んでいきます。
「調性引力論」では、「収束・発散」や「ストライド跳躍」、また「傾性とその解決」など、主にメロディの動き方に注目してきました。
これは、メロディを「ヨコの流れ」で見ているということですよね。これに対して、コードとメロディの関係性を論じる際には、メロディの「タテの位置」が重要になってきます。
こんな感じで、コードとメロディとの度数関係をII章では見ていきます。この「ヨコ」と「タテ」は、音楽理論の世界ではしばしば水平的Horizontal、垂直的Verticalと表現されます。専門用語と言うほどではなく、比喩として使われる程度ですが、これからはこの「ヨコとタテ」をしっかりと区別して論じていくために、この「水平・垂直」という言葉をひとつの「理論用語」として採用することにします。
- メロディの水平的側面
メロディのカーネル、キーの中での傾性とその解決、中心音から近づいたり離れたりする動きなど。 - メロディの垂直的側面
その時に鳴っているコードとの度数関係。
2. 奇数と偶数
メロディを垂直的に分析するさいの“物差し”になるのが、度数です。基本的なコードであるメジャーコード・マイナーコードにおいてはRt3rd5thがコード・トーンとしてあります。この3音が非常によく協和する(綺麗に響く)のに対し、2・4・6・7度の音は何かしらの濁りを生みます。
7度の音は、「濁り」はあるのですが、2・4・6度の濁りと比べると許容しやすく、ちょっと微妙な立ち位置にいる度数です。また、1〜7各度数の響きはもちろん違っていて、それぞれの「意味合い」も「濁りの度合い」も違います。
例えばコードの3rdは明暗を決定する音、5thは無色透明なんていうのは、コード編のはじめの方でも説明しましたよね。度数による質感の差は、2・4・6度にもあります。度数の偶奇というものを区別し意識することで、「垂直的な作曲」というのが新たに出来るようになります。
I章の段階では、そこまで細かく言うと窮屈になっちゃうし、コード理論も知らない前提だったので、こういうところは解説しないままでした。II章ではコードの知識をメロディ理論に持ち込むということで、あからさまに一段階レベルアップする形になります。
3. ジャンルごとの傾向差
水平的側面と垂直的側面、どちらを重視するかはジャンルによって大きく異なります。
クラシック
特に古典クラシックは、垂直の意識が最も顕著で、濁りを伴う偶数度の音は使い方にルールが細かく決められているほどです。例えば「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のメインフレーズは、全て奇数度のコードトーンで作られています。
コードトーンだけのフレーズは、濁りがなく澄んでいます。クラシックが垂直指向であるのには音響的な理由もあって、残響が比較的長いコンサートホールでの演奏だとか、オーケストラの様々な音色でのアンサンブルというのを考えた時、濁りを混ぜるという行為が抱えるリスクが大きいのです。
ジャズ
ジャズも、(ジャズ内のジャンルにもよりますが)基本的に垂直指向が強いです。次々と変わるコードに合わせて音を選び、コードの響きがよく伝わるように演奏するというのが基本になって理論が作られています。
垂直指向でメロディを作ると、必然的にコードの明るい/暗いといった響きの違いが表にクッキリと現れることになります。そのためカラフルな印象、情緒的な印象、上品な印象などをもたらしやすい傾向にあります。
ポピュラー音楽
したがってポップスでも、情緒的なバラードやカラフルなサウンドを求める場合には、垂直的なメロディが有効です。
上はポップスからの一例。「サラバ、愛しき悲しみたちよ」も垂直なメロディの典型です。コードの変化に合わせて音の高さが変わっていき、それぞれのコードが持っている明るさや暗さがより一層引き立っている感じがするのが分かるでしょうか?
垂直なメロディは、言ってみればコードときちんと協力して、二人三脚でサウンドを作ることになりますから、うまくハマった時には聴覚的にもかなり気持ちよく、パワーを感じます。ただ、コードに振り回されて肝心のメロディラインが微妙になってしまうと、本末転倒ということ。垂直な作曲は、上級者向けとまでは言わないにせよ、中級者レベルの方法論なのです。
対して、ロックやダンスといった近代的な分野では、水平指向のメロディメイクが重要なカギになります。あまりコードに合わせ過ぎると、お行儀がよくって逆にカッコ悪いふうに聴こえてしまう可能性すらあります。
宇多田ヒカルの「道」は、水平指向の典型例です。Bメロなんかほぼ一音でやり通してますし、「It’s a lonely」連呼のところなんかも分かりやすい。
3回目の「It’s a lonely」からコードが変わっているのに、メロディはそのまま。単調といえば単調ですが、でも変にコードに沿うよりも、同じ音程で連呼された方がなんだか説得力がありますよね。繰り返し訴えかけている感じが、よりよく伝わっています。
ココはコード進行でいうとIV→Vと変化していますから、垂直指向でメロディラインを作った場合には、コードに合わせてメロディの音高も変えるのが普通になります。
上はメロディを下げてコードに沿った場合、下はメロディを上げてコードに沿った場合です。確かに響きの変化はクッキリ見えますが、メロディラインとしての魅力は減ったように感じます。行儀が良すぎて、エネルギッシュさが失われてしまいました。
ですから垂直・水平は、どっちがイイとかどっちが上等とかいう話ではありません。ジャンルや曲のテーマによって変わります。ただやっぱり、「水平な目線で見ても垂直な目線で見ても素晴らしい」というメロディは、名曲に仕上がることが多いですね。
だから水平オンリーの作り方から一歩先へ進み、コードとの関連性も意識できるようになっていく。そして必要に応じてそれを使い分けられるようになれば、やっぱりそれが最強です! それがII章の目標です。
まとめ
- メロディは「垂直」「水平」という2つの視点で観察することができます。
- メロディラインの作りを垂直指向的だ・水平指向的だとざっくり分類することもでき、ジャンルによる好みの差がここにもあります。
- 垂直的なメロディは、コードの響きをよく引き立て、おしなべて情感が豊かになります。
- 水平的なメロディは、コードよりも旋律自体の内容で表現が左右されます。
- 2つを上手く使いこなすのが、良いメロディ作りのカギとなります。