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トゥー・ファイヴの応用

さて、ジャズはとにかくトゥー・ファイヴを応用して音楽を発展させていきます。今回はトゥー・ファイヴを利用した様々な技法を紹介していきます。

1. Related II minor

「二次ドミナント」は実に面白い手法です。「V7-I」の結束の強さを利用して、他調のコード進行を強引にねじ込んでいる。しかし、ジャズの定番といえば、「トゥー・ファイヴ・ワン」です。そうなれば、必然的に次のようなアイデアが浮かんできます。

V-Iがねじ込めるんだったら、ii-Vだって同じようにねじ込めるんじゃね?

もしV-Iが組み込めるというのなら・・・

V-I

同じように、ii-V-Iだって入れられるのでは?

ii-V-I

実際にこれは、余裕で可能なのです。二次ドミナントが余裕で入れられるのと同じくらいに。このようにして、「どんな調からであろうと、V7として連れてこられたコードの手前に、相棒のII-7を連れてこれる」という技法、あるいはそのようにして連れてこられたII-7のことを、リレイテッド・トゥーマイナーRelated II minorといいます(以下「Rel. IIm」と略します)。

ポピュラー音楽で発見できるRel. IIm

実際にポピュラー音楽でも、Rel.IImは発見できます。ひとつめは、「二次ドミナント」の時に紹介したV–7I7IVΔの形。

IVΔIII7VI–7V–7I7

コレが最も分かりやすいRel.IImの発動例であり、ポップスでもはや定番化していますね。

もうひとつは、ハーフディミニッシュの回に紹介したIIIøです。

IIm7V7IIIm7(-5)VI7IIm7IVmI

こちらも連れてきた由来が、「VI7-IImというおなじみの二次ドミナントの手前に、強進行をもうひとつ付け足す」という原理でした。まさしくRel. IImに他なりません。この場合は、トゥーファイヴはトゥーファイヴでも、「マイナーのトゥーファイヴ」を形成しているパターンになります。

ほか、V章で紹介したVII–7についても、Rel.IImで説明ができます。III7の相棒として連れてこられているのです。

ですからジャズ理論のコースでは、このVII-7という変わったコードに、比較的早期に出会うことになります。ポピュラー音楽の理論系では漏れてしまいがちな部分を抜け目なく網羅できるのは、ジャズ理論の魅力のひとつです。

Rel. IImとスケール

Related IImは、そこに乗せるスケールまで考慮に入れると、けっこう奥が深いです。

例えばこんな進行があったとして・・・借用したドミナントセブンスコードであるVI7の手前に、Related IImであるIIImを挟み込みます。

局所的にこのIIImVI7だけを切り取ってみれば、コレはDメジャーキーのii-Vを実行しているんですね。

・・・これでは単にダイアトニックコードを挿入しただけですから、何の面白みもないと思いますか? それが意外と、そうでもありません。もしIIIm7の時点ですでに部分転調が始まっていると考えると、使うスケールが変わってくるのです。

こちらはまず、E–7を単なるダイアトニックコードと認識した場合の演奏。普通にCメジャースケールを弾いていますので、なんということもない演奏です。

しかしもしコレがRelated IIm扱いになると、E-7の方もA7の方も、お互いに関わり方が変わってきます。まずA7の方は、進行先がD-7でしたから、本来「Dマイナーキーへの一時転調」のつもりでした。しかし手前にE-7が加わったことで、「Dメジャーキー的ふるまい」を期待されることになります

板挟み

その結果、ここでのA7の演奏は、Dマイナーキー寄りだったものからDメジャーキー寄りに変わる。つまり、シにフラットを付けづらくなり、逆にファにシャープを付けるのが自然になります(もちろんこの「期待」をあえて裏切っても効果的ではあると思いますが)。

そしてE-7の方も、ここで既に「Dメジャーキー側」の味方につくことになるので、やはりファとドにシャープを付けても自然に聞こえるようになります。後ろにA7が控えているからこそ生まれる選択ですね。

こちら実際にDメジャーキーへと寄せて演奏していった例。E-7の時点でもう本来の調性感から逸れたときの高揚感が生まれています。また、Dメジャーキーへ向かうのかと思いきやDマイナーに着地することになるので、その点も意外性が少しだけ増しています。これは、コードだけでなくスケールで物事を考えるジャズ理論だからこそ浮かんでくるアイデアと言えそうです。E–7なんて身近なところにもまだアイデアの種が眠っていることに気づかせてくれるのです。

ジャズではこんな風に、コードを「代理」するのとは別にコードを「挿入」するアイデアがよくあり、これを「Interpolate」と言います。

2. Extended Dominant

似たようなアイデアとして、V7の解決先をまたV7にしてしまって延々とトライトーンの解決を先延ばししていく技法もあります。

F♯7B7E7A7D7G7CΔ9

ドミナントセブンスからのP4上行でスッキリ解決できたかと思いきや、コードクオリティがまたもやドミナントセブンス。いつまで経っても終わらないというパターンです。今回は適度なところでΔに着地して終了しましたが、もちろん無限に続けて五度圏を回り続けることもできますね。このように、P5下行で連鎖するドミナントセブンスのことをエクステンデッド・ドミナントExtended Dominantといいます。

ちょっと進行が特徴的すぎて個性は出しにくいですが、「いかにも陽気なジャズ」って感じがしますよね。この古典的な“らしさ”が欲しい時には使うとよいでしょう。

実際の例

ハンク・ジョーンズによる『Blue Monk』では、イントロでコテコテのエクステンデッド・ドミナントが登場します。E–7から始まってそこから5個のコードが全てドミナントセブンスの5度下行で進むという構成。本当に典型的なジャズのイメージが演出されますね。

もう少し現代寄りの例で、Mehlianaの『Sassyassed Sassafrass』は、冒頭からD7G7C7F7B♭7A7というふうに、ドミナントセブンスのP5下行が連鎖します。最後のBからAへは半音下行ですが、これはB7→E7という連鎖をベースに、E7を「トライトーン代理」でひっくり返した結果と見られ、これによりD7へとまた強進行で繋いでループさせられる構造になっていますね。

3. ii-V Chains

けっきょく、「ii-V」や「V-I」さえ構成されれば、どこへ転調しようとも自然に聴こえるということが分かってきました。そこで、Two-Fiveの聴きやすさを利用してしれっと転調してしまう技法が、「ii-V Chain」です。これは文字どおり、異なるルートのii-Vをどんどん繋げていく技法を指します。

D–7G7が、次はC–7F7と進むので、これは「長2度下降のチェーン」ということです。この場合、G7C–7のところも強進行ですから、これは最もピュアで最も強力なii-V Chainといえますね。

しかしTwo-Fiveが持っている安心感というのは相当な強さがありますから、これ以外にもチェーンを繋いでいくパターンはいくらでもありえます。

長2度上昇のチェーン

では、下降じゃなくて上昇したらどうなるでしょうか?

D–7G7E–7A7F♯–7B7G♯–7C♯7

そうなるとD–7G7の先はE–7A7と進みますから、要するにココは2-5-3-6という王道進行が偶然形成されています。だから、とても自然に聴こえますよね。
でもE–7の時点ですでに転調していて、スケールが変わっています。これはまさに、さっきの「Related IIm」が発動しているところです。

短2度下降のチェーン

では今度は、長2度じゃなく短2度にしてみましょう。

D–7G7C♯–7F♯7C–7F7B–7E7

コレはなんだか、かなりオシャレだ!
コード感はかなり変わりますが、どこか秩序があります。実は、ピアノのトップノートがうまく綺麗な流れを作っているんですよ。

トップノートに注目

こういうところで、バッキングの技術が問われます。それもジャズ理論の面白いところ。共通音があればメロディラインも作りやすいですから、何ならこのコードで歌モノを作ることだって可能でしょうね。

短2度上昇のチェーン

D–7G7E♭–7A♭7E–7A7F–7B♭7

コレは、妙に緊張感がありますね! いい転調です。ジャズに限らず、緊迫した雰囲気のBGMを作るときなんかにも、こういう進行は有効でしょうね。

長3度上昇のチェーン

長3度上昇は、けっこう「攻め」の進行と言えそう。若干の不自然さは、あるかもしれません。長3度は、3回上がると元の位置に戻ってきますから、そういう意味でも面白いです。

D–7G7F♯–7B7B♭–7E♭7D–7G7

今回はVのところで♭9thを乗せて、つなぎを滑らかにしてみました。まあ、全然成立してはいますよね。

長3度下降のチェーン

D–7G7B♭–7E♭7F♯–7B7D–7G7

・・・キリがないので、この辺で終わりにしておきましょう。

実際の例

デューク・エリントンの『Satin Doll』では、冒頭4小節のイントロを経た後のメインパートにて、キーの異なるトゥーファイヴのチェーンが見られます。

Satin Doll アナライズ

冒頭は典型的なCメジャーキーでのii-Vですが、その後のE–7A7がまず重要です。一見まだCキーに収まっているように見えますが、メインメロディの3度下のハモリを聴いてみるとファじゃなくファを弾いており、すでにキーからの逸脱がなされているのです。
したがってここは「Cメジャーキーのii-V-iii-VI」と解釈するよりも、「まずCメジャーキーのii-V、そのあと全音上がってDメジャーキーのii-V」と見た方が自然な解釈といえます。

その次は、あえてルートを動かさずにA7からA-7へと移動してGメジャーキーのii-Vを繰り出した後、さらに半音下がってまたii-V。半音下行のチェーンを構築しています。そして最後はそのD7を裏コードのように見立て、半音下行でスッとCに着地するという算段になっています。

ii-V-Iでチェーン

ii-Vの連続と似た話で、ii-V-Iまでのカタマリをずらして繋げていくものもあるので、おまけとして紹介します。

ソニー・ロリンズ作曲の『Airegin』。ちょっとコードチェンジが素早いですが、FmとGを繰り返すフリジアン風のイントロを過ぎ、メインテーマに入ってから9小節目(0:26-)のコード進行に注目です。

Aireginのコード

ii-V-Iを半音下げながら3回繰り返していることが分かります。例えばCΔからC-7へ接続すると、e-bの2音が共通音として保たれるので繋がりが非常にスムーズです。この方法だと毎回IΔでいったんホッと一息つけるので、安定感重視の進行といえます。

こうしてひたすらii-Vやii-V-Iを繋げてコード進行を構成する方法はジャズだと珍しくないですが、I~VIIのコードを色々と接続して曲想表現を作っていくポップスとは全然考え方が違っていて面白いですね。


聴けば聴くほどii-Vの進行というのはほんとうに聴いていて進行感が分かりやすく、“強い”進行だなと思うところです。突然妙なマイナーコードに進んだとしても、そのあとドミナントセブンスコードに強進行しさえすれば、「ああ、トゥー・ファイブね!」と聴き手はすぐに安心することができます。ii-Vと転調を組み合わせるだけで、無限とも思えるバリエーションが作れる。この素材のシンプルさに反する応用性の幅の広さが、ジャズ理論の魅力的なところです。

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