Skip to main content

ハーモニックマイナーのコードスケール

コードスケール理論も気付けば第5回になりました。①概論、②メジャー・ダイアトニックモード、③その適用法、④メロディックマイナーのコードスケールと来て、今回はハーモニックマイナーのコードスケールを考えます。

1. ハーモニックマイナーから生まれるモード

ハーモニックマイナーから7つのモード

ハーモニックマイナーは、ラとシの間に「増2度」の間隔がありますから、ハーモニックマイナーから生まれるモードたちは、全員がどこかにこの特徴的な“増2のスキマ”を有しています。それがどこにあるかに着目すると、特徴が理解しやすいです。

第Iモード:ハーモニックマイナー

ハーモニックマイナー

前回同様、ハーモニックマイナーの第Iモードはそのままハーモニックマイナー。メロディックマイナーとの違いは、もちろん第6音。ここがフラットしたことで、テンションからアヴォイドへと変わりました。マイナーメジャーセブンスに対応する2つめのモードです。

第IIモード:ロクリアン 6

ロクリアン N2

短調のIIは、長調のVII。そのためここで「ロクリアン」ベースのモードが登場しました。普通のロクリアンと比べると、重苦しい短6度が長6度に変わっています。

第IIIモード:アイオニアン 5

Ionian #5

第IIIモードは、「Ionian #5」です。アイオニアンと一音差なので、そのように名付けられた。5度にシャープなので、augM7と対応する貴重なモードのひとつです。

第IVモード:ドリアン 4

Lydian Minor

第IVモードが「Dorian 4」。文字どおり、ドリアンモードの「3・7にフラット」状態から4thにシャープなのでこの名前が付いています。

やはり「増2度の段差」がかなり印象的なので、ふつうのポップスでよくある「切ない哀愁のサブドミナントマイナー」というのとはちょっと雰囲気が違いますね。

第Vモード:フリジアン・ドミナント

HMP5b

IIImを司るモードが「フリジアン」でしたから、それがIII7のドミナントセブンスコードに変化した時のモードということで、「フリジアン・ドミナント」。9・13はふつうアヴォイドになるような不協和ですが、「暴れどき」のドミナントセブンスなので、例外的に使用できます。

フリジアン・ドミナント

9・13という徹底したマイナー指向のテンションでダークな雰囲気を醸しているのが特徴です。

HmP5b

このモードは、特に日本ではハーモニックマイナー・パーフェクトフィフス・ビロウHarmonic Minor Perfect 5th Belowとも呼ばれ、「HmP5b」などと略記されます。これはもう直球で、「完全5度下を中心にしたハーモニックマイナースケールと同じです」という意味をストレートに表したネーミングですよね。この名称が広まった経緯は分かりませんが、ただひとつ言えるのは、このネーミングはCSTの哲学とはかけ離れているということです。

既に何度も述べているとおり「親スケールから離脱してコードルートから度数を把握し、コードトーン・テンション・アヴォイドを適切に使い分ける」のがCSTの意義なのですから、名前が「5度下のハーモニックマイナーを弾いてくれ!」なんて言ってしまうのはマズい。そんなことを言い出したらこのページで紹介しているモードは全員「ハーモニックマイナー・〇〇・ビロウ」になってしまいますよね。

この呼称は、特にメタル音楽のギタリストたちの間で使われている呼称です。メタルではこのモードを大々的にフィーチャーしてリフを作ったりソロを弾いたりするんですね。それはトラップ音楽がフリジア旋法一発のドロップを作るのと同じ感覚です。

こちらの動画冒頭で「フリジアン・ドミナント一発の演奏」が聴けます。また6分頃の場面では、「ジャズやクラシックではこのドミナントセブンスコードはP4上行して解決しちゃうけど、でもメタルでは解決しないまま使う。これが大事なポイントだ」という旨の説明をしていますね。まさしくメロディ編III章でやった「フリジア旋法のトーナル・センター確立」と同じ類の話です。

憶測ですが、この旋法の魅力がメタルの民たちの間に広まる中で「このかっこいいスケールは何なんだ!?」「いやこれ実は、弦の押さえる箇所自体は5度下のハーモニックマイナーと一緒なのよ。ルートにする位置が違うだけなのよ」というような形でこの名称が定着していったのではないかと思います。

ただここは今ジャズ理論の章であり、原則的に教会旋法ベースの名付けをしてきましたので、ここでは一貫して「フリジアン・ドミナント」の方を採用します。とはいえ、ハーモニック・マイナーの子供的存在であるフリジアン・ドミナントが“親離れ”して、単身メタル音楽に乗り込んで大活躍しているという構図は面白いものがありますね。

第VIモード:リディアン 2

Lydian #2

話を戻します。第VIモードはまたルートにフラットが付くので、度数構成が大きく変わり、結果としてリディアンによく似たモードが現れます。ルートと第2音が「増2度の段差」で開いた、「Lydian 2」です。

第VIIモード:オルタードスーパーロクリアン

Alt Sup Loc

最後にVII番目のモードが、「Altered Super Locrian」です。Diminished Seventhに対応する貴重なモード1
「不安定だけどかろうじてP4はある」がロクリアン、「そのP4がo4になってしまった」がスーパーロクリアン、そして「短7度が減7度になっていよいよディミニッシュに突入した」がこのオルタードスーパーロクリアン。こんな風に、「モードの相関性」で捉えてあげると、混乱しにくいです。

Locrian系列

これで実に21個のモードを得ることができました!

2. 七つのモードの関係性

最後はまた、7つのモードを全てCルートで書き直し、コードクオリティごとに分別します。

七つのモード

なんと、7つ全てが異なるコードクオリティと対応しています! ちょっと面白い偶然ですね。いずれも、前回までの14個のモードとは異なる微細なニュアンスをそれぞれ持っています。そしてここまでの21個のモードの相関関係をよく理解して体得したらば、ふつうの人では思いもよらないような(しかし魅力的な)スケール使いが可能になるわけです。

モード集めももう終盤。あと2回で終わります。

Continue