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ディミニッシュ系のコードスケール

前回までで、実に21個のコードスケールを紹介してきました。

メジャーキーのモード
MMのモードたち
七つのモード

これだけでもう十分すぎるくらいの量がありますが、もう少しだけ、重要なのにまだ解説できていないコードスケールがあります。なのであと少しだけ、スケール紹介にお付き合いください。

1. ディミニッシュ系のスケール2種

この記事で扱うのは、Diminished Seventhと対応するコードスケールです。これまでの21個の中に、Dimと対応したスケールは「オルタードスーパーロクリアン」のたった1つしかなく、ちょっと手薄でした。そこを強化しようというのです。

度数の埋め方は2種類

これに関しては、ふつうのスケールを「親元」にしたって、なかなかディミニッシュが発生しなくて面倒です。逆にもう、ディミニッシュのコードトーンを大前提にして、その間の度数を埋めていくことを考えます。

dim

埋め方は幾通りも考えられますが、きちんと名前がつけられて愛用されているのは2つ。コードトーンの「半音上」に置いていくものと「半音下」に置いていくものです。

半音上に乗せる

半音上

半音下につける

半音下


「半音上」に乗せた方は段差が綺麗に「半全半全半全」と繰り返され、「半音下」につけた場合は「全半全半全半」と繰り返されます。

この二つのスケールは似ているけれど、それぞれに特徴があります。丁寧に分析して、区別が出来るようにしましょう。

ドミナント・ディミニッシュ

まず、「半音上」に音をつけて埋めた方を、「ドミナント・ディミニッシュ・スケールDominant Diminished Scale」と呼びます1

Dominant Diminished

ディミニッシュ・セブンスは異名同音の扱いが難しいコードです。本来スペリングというのは前後関係から明らかになるものですが、こうやって理論上の世界でポンとコードだけ取り出すときには何が正しいとも言い難いものがある。コードスケール理論においては、ディミニッシュ・セブンスだけはスペリングのブレが許容されるとしています2

ここでは一旦、楽譜も度数も「減7」ではなく「長6」に替えて紹介してしまいます。

ノンコードトーンは全てコードトーンの半音上にあるため、アヴォイドとなります。このコードスケールが「ドミナント」の名を冠しているのには理由があって、このスケールは結果的にドミナントセブンスコードの構成音をしっかり全て含んでいます

M3・P5・m7。きっちり揃っていますよね。ですから、ディミニッシュのために用意したスケールではあるのだけど、実際にはドミナントセブンス上でも活躍できるスケールなわけです。

Dominant Diminished as 7

そうすると途端にアヴォイドなし、テンションいっぱいの使いやすいコードスケールとなります。それゆえこのスケールは、「ドミナントセブンス上で使うもの」として紹介されることも多いようです。

ディミニッシュ

もうひとつの、「半音下」に音をつけて埋めた方を、シンプルに「ディミニッシュ・スケールDiminished Scale」といいます。

Diminished

こちらは先ほどの「Dominant Diminished」と違い、m3・+4・+5・M7という変わったインターバルの組み合わせになっているので、Dimコード以外には全く対応しません。それゆえ満を持して「ディミニッシュ・スケール」という名前を冠しているのです。

テンションについて

ディミニッシュ・スケールのテンションについては、見解が一意に定まっていません。調性感を乱しすぎないようテンションはそのキーの音階に沿ったものにすべきという意見もあるし3、9thや11thのテンションは強烈な刺激になるので、注意して使おう! くらいの言い方にとどまっているものもあります4。 まあ、このレベルまで来たらもう、自分の求めるサウンド性から自己判断すべきでしょう。

II–9♯Vo(M7)VI–7♯Io(9)

こちらが実際に、パッシング・ディミニッシュにテンションを乗せた例。♯Vo(M7)は、要するにソの音が加わるので、いわばIII7(+9)のルートを抜いた形です。そう考えれば、この自然なサウンドも頷けますね。ダイアトニックなテンションなので、響きが自然です。
最後の♯Io(9)では、レの音が加わっています。実質的にはミと同じブルーノート的サウンドを生んでいますね。ディミニッシュに対してもこうやってカジュアルにテンションが乗せられるという事実は、コードスケール理論を学ばないとなかなか見えてこない発想です。

別名について

この2種類のスケールには、けっこう別名が色々とついているので、表にしてまとめておきます。

Diminished Scale Dominant Diminished Scale
Symmetric Diminished Scale Symmetric Dominant Scale
Diminished Scale (W-H) Diminished Scale (H-W)
Combination of Diminished Scale

②はとにかくカッコイイ呼び名ですね。バークリー系列は基本的にコレです。③は「名は体を表す」なスケールで、WとHは”Whole(全音)”と”Half(半音)”を表しています。分かりやすいため、カジュアルな場面でよく使われている印象。伝わりやすさではナンバーワンですかね。

④番目の「Combination of Diminished」は日本特有の名称らしいのですが、「コンディミ」と省略できて言いやすいため、日本では非常に良く浸透しているかと思います。このサイトでは、①の名前が対応コードクオリティと直結していて分かりやすいと思うので、これを推進します。

2. ダイアトニック・ディミニッシュ

ほかディミニッシュセブンスにスケールをあてる別の方法として、純粋にその時のキーに対してダイアトニックな音を使ってスキマを埋めていくやり方もあります。
特にそれが「二次ドミナントのルート省略から生じるパッシング・ディミニッシュ」のばあい、トーナリティを適度に維持する目的で、この方法が推奨されます。

C# Diatonic Dim

こちらはVI7由来のパッシング・ディミニッシュ、♯Io7での実践例。よ〜〜く見比べると、先ほどの「Dominant Diminished」とも「Diminished」とも微妙に違います。

「The Berklee Book of Jazz Harmony」では、こうしたコードスケールに対しダイアトニック・ディミニッシュDiatonic Diminishedという呼び名を与えています。どんな度数構成になるかはルートの位置によって異なるため、この「Diatonic Diminished」はあくまでも通称、総称でしかありません。

その実際の中身としては、普通に「ルート省略前の本来の二次ドミナント」に対応するスケールと近似したものになります。

A7 Phry Domi +9

前回紹介した「フリジアン・ドミナント」に+9thを加えると、先ほどの「C Diatonic Diminished」と同一の度数構成になります。これを、第iii音がルートだと思って演奏すればよいわけです。

わずかに保守的傾向にある「The Chord Scale Theory & Jazz Harmony」では、半音上行するディミニッシュはこの方法によってスケールを決めなければならない(must rely on)という強い言い方をしています。しかし実際には先ほどの例のように、パッシング・ディミニッシュの文脈上にノンダイアトニックのテンションを付加しても美しく鳴らすことは十分に可能です。ここまで順当に研鑽と実践を積んできた人ならば、このレベルまで来たらもう自分の耳を信じて判断してよいと思いますよ。

3. モードとコードスケール

ここでまた言葉の話を少し確認します。以前述べたとおり、CSTにおける「モード」という言葉は、基本的に「あるペアレントスケールから生まれた“子”」というニュアンスがあります。

それゆえ前回までの21個のスケールに対して、「リディアン・オーグメンテッド・モード」という風に「モード」と呼ぶことは、極めて自然です。

一方で、今回紹介した「ディミニッシュ」「ドミナント・ディミニッシュ」「ダイアトニック・ディミニッシュ」は、いずれもペアレントスケールを元にして生まれたわけではありません。そのため、これらを「ドミナント・ディミニッシュ・モード」などと呼ぶことは基本的になく、もっぱら「ドミナント・ディミニッシュ・スケール」などと呼ばれます。

「モード」と「スケール」の使い分けの見解は、本当に人による差が大きいです。ですから実はいちばん気楽なのは、どちらとも呼ばないことかもしれません。別に「モード」とも「スケール」ともつけなくたって、「リディアン・オーグメンテッド」「ドミナント・ディミニッシュ」で十分伝達も記憶もできます。ここに関しては、拘っても損だと割り切ってルーズにやるのがよいと思います。


今回のディミニッシュに関する話は、いくつか発見があったのではないでしょうか? 特にディミニッシュセブンスをさらにテンションで彩ってあげることができるというのは、また創造性を刺激してくれますよね。自力では閃けないような発想を簡単に与えてくれるのが、音楽理論の素晴らしいところですね!

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