複合和音

コード編 Ⅴ章:近代の世界

#1 複合和音とは

複合和音Polychordとは、文字どおり和音のうえにさらに和音を重ねる技法です。スラッシュコードの進化形のようなモノですね。
これまでスラッシュコードは、「ベースがルート以外を弾く」という程度の技法でしかありませんでしたが、複合和音は本当にコードの上にコードを鳴らすのです。
もちろん大衆音楽で使われることは極めて稀で、主にジャズやプログレッシブロック、20世紀頃のクラシック、映画音楽などで使われます。
しかし、コードの上にコードを乗せるというのはなんともイメージし難いところですね。とにかく音源を聴きましょう。今回は分かりやすいように、まずは一層の状態からはじめ、途中から下にもう一層重なり、2種類のコード進行が並行するというパターンで作ってみました。


我々の聴覚によるコード感の認知は、ルートによって最も大きく左右されますから、低音層が加わった後はそちらがメインのコードとして認識されます。
しかし、上も上で何か別なことをやっているなあという知覚もあり、その上下の独立性が、音楽をユニークなものにしています。別々のストーリーが同時並行で展開されているような面白さがあります。
コードを確認すると、まず最初の電子ピアノの方はこうです。

上側

GGmを繰り返すような、特徴的なコード進行です。キーはおおむね「G」ってことになりますね。それに対して、後から入ってくるシンセパッドのコードは以下です。

下側

こちらはAmFCBという基本的なコード進行ですが、これだと聴くとキーは「C」に感じられます。

調性もイマイチ一致していないということで、なおのこと、2パートが独立して感じられます。
ちょっと、それぞれを一段にまとめて、一枚の楽譜内にまとめてみます。

複合和音

上譜のように、複合和音は「分数」の形で表記し、「スラッシュコード」とは区別するというのが、ジャズ系でのスタンダードな表記です。
とはいえデジタルテキスト上ではコレはかなり表現しにくいので、その場合は「GΔ7/Am7」という風に表記すれば、まあコードの上にコードを乗せているということは伝わるのではないでしょうか。

単一サウンドでポリハーモニー

もちろん、同じ楽器を使ってポリコードを構成することだってありえます。音がよく混ざるぶん、より混沌とした感じになります。まあシンセパッドの静かなアンビエントあたりが取っつきやすいでしょう。

ポリコード

とても複雑玄妙なサウンド! やっぱりこのレベルのサウンドは、単なるテンションコードやトーン・クラスターでは作り出せません。演奏としても、上のコードは上へ、下のコードは下へ進んでいくことで、サウンドの広がりを表現しています。
こんな宇宙的サウンドが作れるようになるなんて、音楽理論って楽しいなァ。そう心から思えるのがⅤ章ですね。ここまで進んできてよかった。

#2 U.S.T.

しかし、そうは言っても複合和音というのはなかなか気軽に使えるものでもありませんね。そんな中、もうちょっと簡単に使えるパターンがあるので、それを紹介します。それが、アッパー・ストラクチャ・トライアドUpper Structure Triadです。略してU.S.T.と呼ばれることも多い。

USTはすごく簡単で、うず高く積んだテンションコードを2つのコードに分割してしまうという、複合和音のうち最も自然に導入しやすい手法です。

US

上譜のように、セブンスまでは下、テンションからは上という風に分離するのが最も基本的です。この方法なら、いくら複合和音といっても、所詮はテンションの集合。「普段の感じ」で曲に使えるというわけ。
実際のアレンジを、ジャズトリオを例にしてみると、大元のルートはベースに任せ、ピアニストが左手で3rdと7thを鳴らしてセブンスコードをまず作り、右手で上のコードを元にアドリブを弾くなんていう具合です。

jazz

ちょっと丁寧に説明しますね。1小節目のベースとピアノの左手をみると、下から「レ・ファ・ド」になっていて、コレでDm7のRoot・3rd・7thを確保しているわけです。
ジャズピアニストはやっぱり右手の方に集中したいわけなので、このように左手を簡易化することはよくあります。


やっぱり大元がテンションなので、だいぶ秩序があります。ピアノの右手は、ちょっと楽譜より高めにしました。少し間を開けた方がやっぱり濁りにくいです。
ちょっとここにサックスを加えて、アドリブを吹いてもらいましょう。

全部の小節でUSTなので、ちょっと節操がないというかフワフワしすぎてますね。とはいえ、雰囲気は掴めたと思います。
元々はテンションとはいえ、完全に「セブンス側」と「テンション側」に分かれてしまうことで、普段以上に変わったサウンドが生まれます。

バリエーション

特にドミナントセブンスコードは、ジャズ界では色々なテンションを乗せて遊ぶことでお馴染みですので、USTのパターンも多様になります。いくつか紹介しておきましょう。

パターン

右から二番目のように、ソシレファが基本なのに「シ♭」や「レ♭」を乗せちゃうということも、ジャズではよくあります。このサイトの参考文献のひとつである「Jazzology」には、もっともっと多くのパターンが掲載されていますよ。

まずはこのUSTを使って複合和音の世界に慣れて、それからより自由な和音編成を試してみるとよいのではないでしょうか。

この節のまとめ
  • 和音の上に和音を重ねる技法を、「複合和音」と言います。
  • 複合和音の活用法は様々で、決まったセオリーはあまり存在しません。
  • テンションコードを応用した「U.S.T.」は、複合和音のうち最も使いやすいパターンです。

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