パラレルメジャー

コード編 Ⅴ章:近代の世界

今回の内容は、これまでやってきたジャズや20世紀クラシック等の理論とはちょっと違います。普通に使える新しいコードが増える、いわばボーナス回です。しかも、一般レベルの音楽理論では「転調」で済まされてしまっていて、知識としては形になっていないものですから、かなり新進気鋭の、使い甲斐のある技法ですよ。

#1 四人は仲良し

「同主調借用」という知識を以前に紹介しました。同主調からコードを借りてきて、一時的に違う曲想をもたらすものでした。 その時には、長調を主調として、同主短調のコードを借りてきました。Cメジャーキーでいえば、Cマイナーキーからコードを借りてくる。この2人は仲良し。
同主短調
同時に、Cメジャーキーはその平行調であるAマイナーキーと表裏一体の関係にあります。これまでも、この2つのキーは事実上同一のものであり、特に区別することなく進めてきました。
三人は仲良し
長調・短調がはっきりしない曲が現代にはたくさんある。現代では、平行調の転調などことさら転調扱いはしない。 そして、Aマイナーにももちろん大事なパートナーがいます。同主調である、Aメジャーキーです。
同主調と平行調
ですからこの4人は、「四人揃って家族」みたいなところがあります。切り離せない関係にある。 だからこそ、AmキーであってもCmからの借用和音は問題なく使えます。
Cm→Amへの流入
そうであるならば、この正反対のこともできるのではないでしょうか? すなわち、Aメジャーキーの和音をCキーへ持ち込むということです。
A→Cへの流入
事実として、AキーのスリーコードであるADEは、「二次ドミナント」の原理で連れてくるドミナントセブンスたちの中に似たようなものがありますから、まあ「既に使いこなしている」と考えてよいでしょう。
導入済み
しかし、残りの3つは完全にほったらかしです。
偏り
五度圏を見てもこの不平等は明らか。Cマイナーからの借用では、ちゃんと基調和音すべてを借用して、それぞれ独自の使い方で活用しています。
同主調借用
なのにAメジャーからは3つだけ。これはどう考えたって不公平です。不公平っていうか、もったいないですよね。Aメジャーキーのマイナーコード群も、絶対うまく導入できて、新しい曲想を生み出せるはずだ。
導入してない

この3つのコードに光を当てよう! それがこの回の主題です。

導入してみよう

さて、先ほどの「四人は仲良し」と言う話でもう理由は十分でしょう。実際に導入できます。Cマイナーほど簡単ではないにせよ、今までほったらかしていたのがバカみたいに思えるくらいには簡単に導入できます。
ニューカマー
Cメジャー主体の度数表記でいくと、今回新しく加わるコードは上図のようになります。この3つを、パラレル・マイナー・コードに対して「パラレル・メジャー・コード」と呼ぶことにし、積極的に「パラレル・メジャー」と略していきます。3

では、使いやすいところから順に見ていきましょう。

#2 IVmの用法

IVmは、この3つの中だと一番使いやすいです。構成音としてはIVøにそっくりですが、進行の自由度はこちらの方が高いかなという印象。性格としては{IV}に似ていて、特に{VIm}から入りやすく、{IIm}へと繋げやすいです。一方、下属音を含んでいないこともあり、機能性としてはトニックに一番近く感じます。 ではまずは借用をしない普段どおりのパターンから聴いてもらいましょう。
使用せず

6-4-2という普通のよくあるコード進行。美しくはありますが、彩りに一歩欠ける印象。この{IV}をIVmに変え、ついでにVIIøVIImに変えてみることにします。 さあどうなるでしょうか・・・

典型例
どうでしょう!? 2小節目に入った瞬間、"緊張感の高まり"や"決然とした感情"のようなモノが感じられるはずです。この独特の情感は、ダイアトニックコードでは絶対に出せないモノです。 それでいて、変なコードを使った感じはしてませんよね。特に一番最後にもう一回来るIV♯m7なんか、ほぼ違和感なし。やっぱり二次ドミナントと同じくらいの調子で使えています。 これは「マイナーセブンス」にして使っていることも大きい要因のひとつです。セブンスの音によって本来の調とのつなぎを強くしています。 今回はメロディラインにも臨時記号がバシバシ来るように作ったので、変化がより顕著です。逆にもっと変化を小さくしたければ、ミ・ラ・シあたりをメロディに据えるとよいでしょう。 VIImの方は、よっぽど音感が良くないと違いがわからないと思いますが、もともとのVIIøが持っていた増四度の不安定な感じが消滅したぶん、やはり「不安」から「高揚」へ曲想が変わっています。

上の例では{VIm}から降りてきましたが、{IIm}や{IIIm}から上がってくるのもよい。やはり、マイナーコード群と相性がいいですね。これはやはり、「あくまでもAマイナーキーのパートナー」ということに関係するのでしょう。

実例

このコードは独特の浮遊感と高揚感がポイント。主音に♯が付き、また属音に対してルートが半音下に位置するという性質上、メロはやや乗せづらい。歌モノよりも、BGMでの方が使いやすい印象があります。

浜渦正志 - White Whale of Heaven
https://www.youtube.com/watch?v=GEuRzRW86bI 「武蔵伝II」というゲームのBGMより。作曲の浜渦正志さんは、「ファイナルファンタジーX」「ファイナルファンタジーXIII」「サガ・フロンティア2」「アンリミテッド:サガ」などのBGMを制作している方です。

冒頭のシンセパッドの後、ソフトなシンセリードが入りますが、そこでコードが{VIm}IVm{IV}と進んでいきます。KeyはFm。独特の浮遊感を活かした典型例ですね。 しかもその後メインパートは、このIVmの繋がりを活かして、パラレルメジャーキーであるFキーへ転調するという、面白いパターンになっています。

ザ・なつやすみバンド - Odyssey
https://www.youtube.com/watch?v=DajY5y_IMOM

動画始まってすぐ、ここはAメロの途中なんですけど、IM9/III{IV}IVmという進行になっています。 本当は、Aメロはまずその3-4の穏やかな進行を2回繰り返してから、ここに突入します。ちょっと平坦な進行に飽きてきたところに、突然のスパイスとしてコレが入ってくるわけですね。差し込み方が非常にハイセンス。

スティービー・ワンダー - Sir Duke
もちろん長調であってもこのコードを導入することは可能。スティービー・ワンダーの「Sir Duke」でこのコードが使われています。
Sir Dukeの進行(サビ)

この曲の場合、IVmの時にはメロディに「シ」と「ラ」しか使っていない(臨時記号なし)なので、かなり自然に聞こえますね。

#3 Imの用法

Imについても、{I}の代理のような位置付けではめると成立させやすいです。{I}と{VI}と{III}が合体したような印象ですね。
I♯mの導入例
こちらも、ありそうでなかった彩りです。ポップスで使われ尽くしたVIと比べると、すごく気品のある高貴な感じが漂います。そのあとはやっぱり{IIm}に進むのが一番戻りやすいですね。

メロの位置どりがミかシくらいしか選べず、難しいのが敬遠されている理由でしょう。そもそもほとんどの人間はこんなコードを挿入することを考えすらしないですしね。まだ私はこのコードの実例を見たことがありません。

#4 VIImの用法

「VII」という度数自体が調には取り入れにくいものですから、VIImは少し用法が限られますが、強進行して二次ドミナントの{III}へ進めば、一番自然に使えます。
VIIm

こんな具合ですね。ノンダイアトニックコードが2回続くので転調の気配が強いですが、その後VImへ進めば元通りです。元々が扱いづらいVII番目のコードですから、進行先はもうIII系コードで決まりという感じです。

実例

このコードに関しては、最近のJ-Popで少しずつ使われ始めているような印象。

乃木坂46 - インフルエンサー
https://www.youtube.com/watch?v=r4SdiT7mm7Y こちら、VIImを導入した意欲的な例。ブンブンブンという歌詞が特徴的なイントロですが、その後の「インフルエンサー」の「サー」のところ。なんだか雰囲気がちょっと変わったな?という感じがしますよね。それがこのコードの力です。 {vii}との違いである、第五音の♯をそのままメロディに使っているので、より違いが際立って聴こえますね。 参考までに、普通のVIIØにしてしまうと、下のような感じになります。
ちょっと面白みにかける、普通の調子になってしまいました。この曲の場合、この後メロディが「ソーラーシ」と上がっていくので、ハーモニックマイナーのアラビア風なサウンドが強調されてしまって気持ちが悪いですね。4 こうして比べると、オリジナルの方はVIImが持つ独特の響きを実にうまく当てはめていることがわかります。

このコード、J-Pop界ではあまりにも聴き馴染みがないために、Uフレットコードスケッチといったわりと有名なコード進行紹介サイトでも、VIIØであるという誤った記載がなされています。それだとメロディとモロにぶつかってしまいますからね。ありえません。

CHEMISTRY - PIECES OF A DREAM
しかし実は21世紀初頭のJ-Popでもすでにこのコードの使用例があり、それがCHEMISTRYの「PIECES OF A DREAM」です。 https://www.youtube.com/watch?v=g750dOK-JQE&start=77 1:21〜のサビ、2つめのコード。「ひとかけらが」のところがVIImです。よーく聴くと、普通の曲とはちょっとだけ違う、独特な浮遊感を有していることがわかります。 メロディはあえて普通のJ-Popぽく、それでいてコードでは密やかに、めちゃくちゃ変わったことをしているのです。

この曲は、J-Popがまだカノンのコードでのんびり過ごしていたような2001年のリリースですから、非常に先進的であったと言えます。

光田康典 - クロノ・トリガー(メインテーマ)
ほか、やや特殊な用例ですが、ゲーム「クロノ・トリガー」のメインテーマは、このVIImが持つ独特の揺らぎを利用して、明るいとも暗いともつかない、調性のはざまを行くような曲想を展開しています。
クロノ・トリガー
ドあたまですね。いきなり{IIm}の緊張感からはじまり、そのままVIImへ行くので、調性感はかなり曖昧です。実際にこの曖昧さを利用して、この後すぐに転調します。調性がはっきりしないので、ここは{VIm}→IVmであると捉えることもできますね。

光田康典さんの曲は、他にもこういう定まらない調性の魅力を活かした曲がよく見られるので、きっと経験の中で独自のコード展開体系を組み立てているのでしょう。今回のパラレルメジャーをマスターすると、そういう調性の入り乱れた世界も理解しやすくなります。

#3 もっと自由な調性感覚へ

上の例のように、今回のパラレルメジャーの一番の要点は、この仲良し4人を組み合わせることで調性の縛りからかなり自由になれるということです。なんならCmキーの借用和音からすぐAキーの借用和音へ飛ぶことだってできる。 たとえ調性に揺らぎを作っても、この4調ならそれぞれに共通音が多いので、音楽として破綻しにくいです。
上の音源は、この4調をひとつのものとして、主調にこだわることなくドンドン和音を借用しまくった例です。
冒頭のコード進行
冒頭のコード進行はこんな感じ。基調和音を中心にしたコード体系と比べると、かなり異なった雰囲気を醸し出していますが、あくまでも近親調の世界の中を往来しているので、無秩序に転調を重ねていくよりも彩りにどこか統一感があります。

この4調を基本のラインにしつつ、さらに属調・下属調の転調などを加えていくと、ポップスの親しみやすさを保ったまま、発展的なコード進行を織り交ぜていくことができます!

この節のまとめ
  • 「同主調からの借用」の概念を拡張することで、ImIVmVIImを導入できます。
  • この3つを、同主長調から借用してきたとみなし、「パラレル・メジャー・コード」と名付けます。
  • VIImについては、メロディックマイナースケールの力によってファにシャープが付いたとも解釈でき、そのぶん導入もしやすいです。
  • 4調をセットと考えることで、より自由な調性概念のもと作曲ができます。
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