パラレル・メジャー

コード編 Ⅴ章:近代の世界

II章で、同主短調からコードを借りてくる「パラレル・マイナー・コード」を紹介しました。主調から少しだけ離脱して、新しいフレイバーを曲の中に持ち込むことができる。

同主調からの借用

しかもミ・ラ・シの付け方には微妙なバリエーションがあって、ラにだけフラットをつけて作るIVm7なんかは、適度な切なさとメロディの乗せやすさから、貴重な戦力になっている人も多いのではないでしょうか。
メロディ編IV章では、フラットの付け方に応じて異なるスケール名が付いていることも軽く紹介しました。

借用元一覧

この微妙な音使いによって、様々なサウンドが生まれてきました。今回やるのは、これとちょうどコントラストをなす作業、つまりフラットではなくシャープ方面を開拓します。

#1 同主長調からの借用

IV章の後半では、転調について詳しく触れました。そこでは、R(レラティヴ)とP(パラレル)の関係にあるキーたちはみんな親戚、ファミリーのようなものと述べましたね。

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この図で言えば、「パラレルマイナー」によって開拓したのは、左上の方面。Cメジャーキーにとっての「パラレルマイナーキー」であるCマイナーキーの方角へと入りこんで、フラットを1つなり2つなり付けたコードを拾ってくるという行為でした。

それが可能であるならば、逆にAマイナーキーにとっての「パラレルメジャーキー」であるAメジャーキー方面からコードを持ってくることだって、同様にして可能であるはずなのです。ミ・ラ・シにフラットを付けたのとは対照的に、ド・ファ・ソへシャープをつける。

パラレルメジャースケールたち

「パラレルマイナーコード」は、ミ・ラ・シのいずれか(または全て)にフラットをつけたコードたちの総称でした。同様にして、上のようにド・ファ・ソのいずれか(または全て)にシャープをつけることによって得られるコードたちを総称して自由派ではパラレルメジャーコードParallel Major Chordsと呼ぶことにします。

たとえ「ラにフラットがあるだけ」でも「パラレルマイナーコード群」という括りの中に含めたとおり、たとえ「ファにシャープがあるだけ」でも「パラレルメジャーコード群」というグループに含めることにします。

上の音階たちの中には、すでに見覚えがあるものたちもいますね。特に、「3つの短音階」で紹介したメロディックマイナー、ハーモニックマイナーはすでに実践での使用経験があるかと思います。

短音階

とはいえド方面なんかはかなり手薄にやってきた感じもしますし、どんどん開拓していきましょう。

#2 既知のコードたち

これまで学んできたコードの中で「パラレルメジャーコード」に分類されるものは、そこまで多くありません。クオリティ・チェンジによって生まれたII7III7VI7と、それらの「根音省略形態」として登場したIVøVo7Iø、この6つだけです。

既知のパラレルメジャー

考えてみると、かなり少ないですよね。この記事ではこれ以外のコードでポピュラー音楽の中に持ち込みやすいものを発見していきます。

#3 VIIのパラレルメジャー

まずは手近なところから。VIIをルートにとったコードと言えばもちろんVIIøがおなじみ。

VIIø

そしてこのコードの特徴というと、シとファが作るトライトーンの濁りです。その不安定さを活かすため、この後はIII7へと進んでクライマックスを迎える展開が定番でした。ここであえて傾性音のファをファに変えてあげることで、VIIm7が生まれます

VIIm

そしてこの状態で、VIIøと同じようにIIIの前に差し込むことができます。どんな違いが生まれるか、聴き比べてみましょう。

I7IV7VIIøIII7VIm

こちらはいつもどおりの形。やっぱりトライトーンのひ弱さがこのコードの味です。

I7IV7VIIm7III7VIm

VIIm7に換えました。かなり微妙な差なのですが、こちらの方がトライトーンが消失し、ファという変位音が混ざることによって、貧弱なイメージから一転して、意志の強さが感じられるようなテイストに変わっています。
この微妙な違いは大切で、メロディでファをとっていない限りは常にどちらを選ぶことも可能ですから、今後は曲想に合うのはどちらなのか、VIIのコードを使うときには考えてあげると良いです。

実例

ポピュラーレベルの理論書では、このコードはまあ載っていないと思います。実際にこれが使われることは珍しいですが、最近の曲では見かけることもあって、人々がVIIøに飽食していくにつれてこれから使用頻度がジワジワ増えていくことが予想されます。

King Gnu – 白日

2019年 King Gnuのヒット曲「白日」では、Aメロの「誰か」と、「失った」にあたる箇所でVIIm7が用いられています。伴奏の中の微妙な音使いの差なので本当に分かりにくいですが、該当箇所だけを切り取ってループするなどすれば、普通のVIIøではないことは確かに認めることができますよ。
このAメロはいくつかの技法によって普通とは違った風合いを演出しているのですが、そのパーツのひとつが、このVIIm7なのです。もしただのVIIøを使っていたら、もっとトライトーンの情緒が押し付けがましいような調子のバラードになってしまって、この澄んだ美しさは得られなかったでしょう。

乃木坂46 – インフルエンサー

こちらはなかなか挑戦的な例。コード進行はVImからはじまってC型接続で6-5-4-3-2-1-7とするする下行していくのですが、VIIのところでやっぱり、VIIøでなくVIIm7が選択されています。

ブンブンブンという歌詞が特徴的なイントロですが、その後の「インフルエンサー」の「サー」のところ。なんだか雰囲気がちょっと変わったな?という感じがしますよね。VIIm7との違いである、ファの音が、ここでメロディとして使われているのです。先ほどの「白日」が控えめな使い方だとすると、こちらはかなり露骨な使い方と言えます。

参考までに、普通のVIIØにしてしまうと、下のような感じになります。

ちょっと面白みにかける、普通の調子になってしまいました。こうして比べると、オリジナルの方はVIIm7が持つ独特の響きを実にうまく当てはめていることがわかります。1

メロディックマイナースケールとの繋がり

VIImIIIVImというコード進行では、ファ-ソ-ラという風にコードトーンが移ろっていきます。

VIm/IVIIm7III7VIm

ファとソ。そう言われて思い浮かぶのは、メロディックマイナースケールですね。

メロディックマイナー

ですからこのコード進行は、メロディックマイナースケールの音楽観、すなわち高貴で上品なクラシックの雰囲気を想起させる音使いであるとも言えそうです。

#4 IVのパラレルメジャー

次にルートがIVのとき。おなじみの形はやっぱりハーフディミニッシュ、IVøです。これを先ほどと同じように、マイナーセブンスに換えることを考えます。

マイナーセブンス化
IV7III7VIm7IVø

IVøは、こんな風に4つでワンセットの進行の4つ目に差し込まれることもしばしば。やはりファとドがなすトライトーンが、ひねくれたような雰囲気を演出しています。これをIVm7に換えると・・・

IV7III7VIm7IVm7

こうです!今回はコードクオリティとは関係ないソの音にもシャープをつけて、フルシャープ。ここだけ完全にAメジャーキー世界に入っている形です。転調感が強めですが、すぐ次のIVΔ7で元のキーに引き戻されるため、特に問題なく成立しています。これに関しては、やっぱりパラレルマイナーと全く同じですね。

実例

このコードについても、ポピュラー音楽で使われる頻度は少ないものの、実例はあります。聴いてみると、これまで視野に入れていなかったのがもったいなく感じられるはずです。

Stevie Wonder – Sir Duke

スティービー・ワンダーの代表曲。サビの進行がIIVm7IVIIm7IIm7/Vとなっています。
この曲のばあいはメロディが「シラシラ」で、IVøでもIVm7当てられる状況にあります。ハーフディミニッシュだとなんか不安定すぎて、マイナーセブンスにしてみたらしっくり来た。そんな流れでこのコード進行が出来たのかなと思います。

浜渦正志 – White Whale of Heaven

歌モノではメロディラインの歌心を阻害しないように気を付ける必要がありますが、器楽曲だと導入はもっとイージーです。

「武蔵伝II」というゲームのBGMより。作曲の浜渦正志さんは、「ファイナルファンタジーX」「ファイナルファンタジーXIII」「サガ・フロンティア2」「アンリミテッド:サガ」などのBGMを制作している方です。

冒頭のシンセパッドの後、ベースとシンセサイザーのシーケンスフレーズが入りますが、そこでコードがVImIVm9IVVI/IIIと進んでいきます。
しかもその後メインパートは、このIVmの繋がりを活かしてFマイナーキーからFメジャーキーへ転調するという、面白いパターンになっています。

パラレルメジャーを利用した転調

まさしく「パラレルメジャーキー」への転調ですね。2小節目のDm9はいわば伏線のような形で、後の転調をしやすくする布石になっているというのが非常に巧みなところ。

#5 Iのパラレルメジャー

だんだんコツが掴めてきました。同ルートの類似するコードをクオリティ・チェンジするイメージで使うと、パラレルメジャーは自然に導入できるようです。次は、本来Iøが来るようなところを、Im7にしてみましょう。

VImVIIøIm7IIm7III7/VVIm

こちらも、ありそうでなかった彩りです。すごく気品のある高貴な感じが漂います。そのあとはやっぱりIImに進むのが一番戻りやすいですね。メロの位置どりがミかシくらいしか選べず、やや使用に難しさはあり、ポピュラー音楽での実例はちょっと思い浮かびません。ただすごく可能性を秘めたコードですね。その後の動き次第では、Aメジャーキーを通り越してEメジャーキーまで転調することもできるでしょう。

Im7やIVm7のようにドを含むコードは、どうしても調からの離脱感が強くなります。使う際にはその点を理解したうえでメロディをうまく使って調性をキープしたり、あるいは逆に転調に利用したりを考えるとよいです。

#6 その他のパラレルメジャー

そんなわけで、パラレルメジャーのうち代表的なものは、VIImやIVmといったところですが、他にもちょっとしたところに新しい可能性が転がっています。

VI7をVIΔ7に

例えばVI7のコードをVI7に換えるなんてことも、意外と可能です。

IIm7V7I7VI7

こんな感じのVI7はもうI章からおなじみ。そろそろこのサウンドにも飽きてきますよね。それに、トライトーンの不安定さを持ち込みたくないという場面もある。そんな時には、メジャーセブンスにクオリティチェンジするという選択肢が、実はあります。

IIm7V7I7VI7

もちろんメロディにソを使う場合はソにしないといけないので、その辺りは配慮が必要ですが、意外なくらいスンナリと、このVI7はコード進行の中に収まります。

V7をVΔ7に

同じことがVのコード上でも可能です。

VIm9IV7V7IIm7

こちらは6-4-5ときてIに終止せずIImへ行くという「ひねくれ」をフックにしたコード進行ですが、V7だとどうしてもIに導かれている感じがして、裏切りづらい。かといって単なるトライアドにしてしまうのもなんだし、ウーン…というところで、候補として出てくるのがV7です。

VIm9IV7V7IIm7

こうです! V7は調性を決定づける重要なパーツなので、それをメジャーセブンスに変えてしまうと、それだけでかなり調性が揺らぎます。そのため使い方は控えめで、次のコードのIImがナチュラルのファを含むことで、「さっきのは気の迷いでした」という感じで主調に復帰するという「配慮」がなされています。

サウンド上の意味合いとしては、この場合はドリア旋法的な非西洋のテイストが加わった感じがありますね。歌モノであってもまあ、ファなしでメロディを構成することは難しくないので、十分に可能でしょう。

II7をIIΔ7に

こうなって来たらトコトンやってみようということで、次はII7のクオリティチェンジ。ただこれは予想以上に難しく、なかなか綺麗にハマりづらいです。ジャンルやサウンドによるところがずいぶん大きくなります。

IV7VVImIIm7IV7VVImII9

うって変わってEDMで、2周目のIImをドミナントナインスに変えてバリエーションを出すなんていう場面です。変化をつけようと思ってII9にしたわけですが、やっぱりトライトーンの感じが妙にジャズっぽいというか、豊かな和音の響きがジャンルとマッチしていません。こんな時に、II7に光明が差してきます。

IV7VVImIIm7IV7VVImII9

このとおり、独特な浮遊感となって新しい曲想をもたらしてくれました! 非常に微妙な差ですが、トライトーンが消失しているこの変化は大きい。電子音楽では、シンセサイザーが常に完全5度上の音を重ねて鳴らすようなプリセットがしばしばあり、それによってキーから外れたファやドが登場するということがあるので、このIIΔ7もどうにか取り込めている感じがします。

結果的に、パラレルメジャーコードの中には「応用的クオリティチェンジ」と言えるようなものがたくさん潜んでいるということです。端的に以下のように記憶しても面白いでしょう。

  • ハーフディミニッシュは、マイナーセブンスに換えられる可能性を秘めている。
  • ドミナントセブンスは、メジャーセブンスに換えられる可能性を秘めている。

ですからまずは「代理」のメソッドでこうしたコードを導入するのが、分かりやすいかもしれません。ただハーフディミニッシュ、ドミナントセブンスのどちらについても、クオリティ・チェンジすることでトライトーンが消失するため、進行先がより自由になるという側面があります。ですから実際にはもっと多様な進行可能性がそこに隠れています。

#7 パラレルワールドの概観

今回「パラレルメジャーコード」の代表的なパターンをいくつかピックアップしましたが、例えコードクオリティが同じでもそれ以外の音でまだ選択の余地があり、それによってサウンドがさらに細分化するというのは、パラレルマイナーと同じです。
パラレルマイナー界は、ミ・ラ・シのフラットバリエーションが7とおり考えられ、そして非常に詳細な理論においてはそれぞれの音階に名前を付けて管理しているという話でした。パラレルメジャー界も同様にして、ド ・ファ・ソの7つのバリエーションがある。この世界観を、Cメジャーキーを中心にひとつの図にまとめると、次のようになります。

パラレルワールド

一応参考のために音階名も書いておきましたが、これを覚える必要はやっぱりありません。そこは完全に趣味というか、マニアの領域ですね(VI章で扱います)。それよりも、Cメジャー、Cマイナー、Aメジャー、Aマイナーという基本的な四つの調性の中に、これほど微細に枝分かれした「パラレルワールド」があって、それぞれが微妙に異なったサウンドを楽曲にもたらしてくれるということ。これをまず深く理解し、観測して頂きたい。

同主調の世界へ完全に移動するには主調から「3歩」踏み出す必要があって、その間に「1歩」「2歩」の世界がある。そして「ファにだけシャープ」のエリアにはV7のような見落としていたコードが転がっていて、ただしVΔ7を使用する際にはシャープ1つのキー、つまり属調に転調してしまわないように“引力”のコントロールが必要。そんな見方です。

引力からの解放

あるいは逆転の発想で、あえて中心に拘らずこうした音階世界を行き来することで、調性のハッキリしない音楽、「不定調性」の世界に足を踏み入れることもまた可能です。

こちらは上記の「パラレルワールド」をかなり自由に移動して調性を不安定にさせた楽曲例です。コード進行は以下のようになっています。

C7Bm7B7E7(+11)G7E6/GFm9Dm7(+11)Am(9,13)Gm9D(9)/FAøEm9

調性がハッキリしないので、ディグリーではちょっと振れませんね。今回の「ピアノソロ曲」のように、調性を一定に保つ必要のないジャンルでは、不定調性の作曲というのも一興。不定調性の作曲方法はいくつもありますが、行き来しやすいパラレルメジャー・パラレルマイナーコードを用いた作曲は、その入り口として分かりやすい部類ではないかと思います。

まとめ
  • パラレルマイナーコードと同様のアイデアを、同主長調との間で用いることで、さらにコードの引き出しを増やすことができます。
  • 自由派では、ド・ファ・ソのいずれか(または全て)にシャープをつけることで得られる音階から借用してくるコード群を総称して「パラレル・メジャー・コード」と呼びます。
  • パラレルメジャー、パラレルマイナーのコードたちは借用がしやすく、これらを大々的に用いることで、より自由な調性概念のもと作曲ができます。

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