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3. VIIのパラレルメジャー

まずは手近なところから。VIIをルートにとったコードと言えばもちろんVIIøがおなじみ。

VIIø

そしてこのコードの特徴というと、シとファが作るトライトーンの濁りです。その不安定さを活かすため、この後はIII7へと進んでクライマックスを迎える展開が定番でした。ここであえて傾性音のファをファに変えてあげることで、VIIm7が生まれます

VIIm

そしてこの状態で、VIIøと同じようにIIIの前に差し込むことができます。どんな違いが生まれるか、聴き比べてみましょう。

IΔ7IVΔ7VIIøIII7VIm

こちらはいつもどおりの形。やっぱりトライトーンのひ弱さがこのコードの味です。

IΔ7IVΔ7VIIm7III7VIm

VIIm7に換えました。かなり微妙な差なのですが、こちらの方がトライトーンが消失し、ファという変位音が混ざることによって、貧弱なイメージから一転して、意志の強さが感じられるようなテイストに変わっています。
この微妙な違いは大切で、メロディでファをとっていない限りは常にどちらを選ぶことも可能1ですから、今後は曲想に合うのはどちらなのか、VIIのコードを使うときには考えてあげると良いです。

実例

ポピュラーレベルの理論書では、このコードはまあ載っていないと思います。実際にこれが使われることは珍しいですが、最近の曲では見かけることもあって、人々がVIIøに飽食していくにつれてこれから使用頻度がジワジワ増えていくことが予想されます。

King Gnu – 白日

2019年 King Gnuのヒット曲「白日」では、Aメロの「誰か」と、「失った」にあたる箇所でVIIm7が用いられています。伴奏の中の微妙な音使いの差なので本当に分かりにくいですが、該当箇所だけを切り取ってループするなどすれば、普通のVIIøではないことは確かに認めることができますよ。
このAメロはいくつかの技法によって普通とは違った風合いを演出しているのですが、そのパーツのひとつが、このVIIm7なのです。もしただのVIIøを使っていたら、もっとトライトーンの情緒が押し付けがましいような調子のバラードになってしまって、この澄んだ美しさは得られなかったでしょう。

乃木坂46 – インフルエンサー

こちらはなかなか挑戦的な例。コード進行はVImからはじまって6-5-4-3-2-1-7とするする下行していくのですが、VIIのところでやっぱり、VIIøでなくVIIm7が選択されています。

ブンブンブンという歌詞が特徴的なイントロですが、その後の「インフルエンサー」の「サー」のところ。なんだか雰囲気がちょっと変わったな?という感じがしますよね。VIIm7との違いである、ファの音が、ここでメロディとして使われているのです。先ほどの「白日」が控えめな使い方だとすると、こちらはかなり露骨な使い方と言えます2

メロディックマイナースケールとの繋がり

VIImIIIVImというコード進行では、ファ-ソ-ラという風にコードトーンが移ろっていきます。

VIm/IVIIm7III7VIm

ファとソ。そう言われて思い浮かぶのは、メロディックマイナースケールですね。

メロディックマイナー

ですからこのコード進行は、メロディックマイナースケールの音楽観、すなわち高貴で上品なクラシックの雰囲気を想起させる音使いであるとも言えそうです。

4. IVのパラレルメジャー

次にルートがIVのとき。おなじみの形はやっぱりハーフディミニッシュ、♯IVøです。これを先ほどと同じように、マイナーセブンスに換えることを考えます。

マイナーセブンス化
IVΔ7III7VIm7♯IVø

♯IVøは、こんな風に4つでワンセットの進行の4つ目に差し込まれることもしばしば。やはりファとドがなすトライトーンが、ひねくれたような雰囲気を演出しています。これを♯IVm7に換えると・・・

IVΔ7III7VIm7♯IVm7

こうです!今回はコードクオリティとは関係ないソの音にもシャープをつけて、フルシャープ。ここだけ完全にAメジャーキー世界に入っている形です。転調感が強めですが、すぐ次のIVΔ7で元のキーに引き戻されるため、特に問題なく成立しています。すぐに主調に戻れば思いのほか調性が崩れないということに関しても、やっぱりパラレルマイナーと全く同じですね。

実例

このコードについても、ポピュラー音楽で使われる頻度は少ないものの、実例はあります。聴いてみると、これまで視野に入れていなかったのがもったいなく感じられるはずです。

Stevie Wonder – Sir Duke

スティービー・ワンダーの代表曲。サビの進行がI♯IVm7IVIIm7IIm7/Vとなっています。
この曲のばあいはメロディが「シラシラ」で、♯IVøでも♯IVm7が当てられる状況にあります。ハーフディミニッシュだとなんか不安定すぎて、マイナーセブンスにしてみたらしっくり来た。そんな流れでこのコード進行が出来たのかなと思います。

浜渦正志 – White Whale of Heaven

歌モノではメロディラインの歌心を阻害しないように気を付ける必要がありますが、器楽曲だと導入はもっとイージーです。

「武蔵伝II」というゲームのBGMより。作曲の浜渦正志さんは、「ファイナルファンタジーX」「ファイナルファンタジーXIII」「サガ・フロンティア2」「アンリミテッド:サガ」などのBGMを制作している方です。

冒頭のシンセパッドの後、ベースとシンセサイザーのシーケンスフレーズが入りますが、そこでコードがVIm♯IVm9IVVI/IIIと進んでいきます。
しかもその後メインパートは、この♯IVmの繋がりを活かしてFマイナーキーからFメジャーキーへ転調するという、面白いパターンになっています。

パラレルメジャーを利用した転調

まさしく「パラレルメジャーキー」への転調ですね。2小節目のDm9はいわば伏線のような形で、後の転調をしやすくする布石になっているというのが非常に巧みなところ。

5. Iのパラレルメジャー

だんだんコツが掴めてきました。同ルートの類似するコードをクオリティ・チェンジするイメージで使うと、パラレルメジャーは自然に導入できるようです。次は、本来♯Iøが来るようなところを、♯Im7にしてみましょう。

VImVIIø♯Im7IIm7III7/♯VVIm

こちらも、ありそうでなかった彩りです。すごく気品のある高貴な感じが漂います。そのあとはやっぱりIImに進むのが一番戻りやすいですね。メロの位置どりがミかシくらいしか選べず、やや使用に難しさはあり、ポピュラー音楽での実例はちょっと思い浮かびません。ただすごく可能性を秘めたコードですね。その後の動き次第では、Aメジャーキーを通り越してEメジャーキーまで転調することもできるでしょう。

Im7やIVm7のようにドを含むコードは、どうしても調からの離脱感が強くなります。使う際にはその点を理解したうえでメロディをうまく使って調性をキープしたり、あるいは逆に転調に利用したりを考えるとよいです。

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