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6. その他のパラレルメジャー

そんなわけで、パラレルメジャーのうち代表的なものは、VIImやIVmといったところですが、他にもちょっとしたところに新しい可能性が転がっています。

VI7をVIΔ7に

例えばVI7のコードをVIΔ7に換えるなんてことも、意外と可能です。

IIm7V7IΔ7VI7

こんな感じのVI7はもうI章からおなじみ。そろそろこのサウンドにも飽きてきますよね。それに、トライトーンの不安定さを持ち込みたくないという場面もある。そんな時には、メジャーセブンスにクオリティチェンジするという選択肢が、実はあります。

IIm7V7IΔ7VIΔ7

もちろんメロディにソを使う場合はコードのソとぶつかることになるのでその辺りは配慮が必要ですが、意外なくらいスンナリとこのVIΔ7はコード進行の中に収まります。

Official髭男dismの『Cry Baby』では、Bメロでこのコードが使われています。「うまくできないクセし」のところですね。2-5-6という進行で、VIを明るくしたついでに7thもメジャーセブンス化しています。少し分かりにくいですが、右側のシンセフレーズが長7度の音を通っています。

メロはミで伸ばしていて、これは自然シェルとなる5thの音。そうすることで、変化を目立たなくさりげないようにしていますね。

V7をVΔ7に

同じことがVのコード上でも可能です。

VIm9IVΔ7V7IIm7

こちらは6-4-5ときてIに終止せずIImへ行くという「ひねくれ」をフックにしたコード進行ですが、V7だとどうしてもIに導かれている感じがして、裏切りづらい。かといって単なるトライアドにしてしまうのもなんだし、ウーン…というところで、候補として出てくるのがVΔ7です。

VIm9IVΔ7VΔ7IIm7

こうです! V7は調性を決定づける重要なパーツなので、それをメジャーセブンスに変えてしまうと、それだけでかなり調性が揺らぎます。そのため使い方は控えめで、次のコードのIImがナチュラルのファを含むことで、「さっきのは気の迷いでした」という感じで主調に復帰するという“配慮”がなされています。

サウンド上の意味合いとしては、この場合はドリア旋法的な非西洋のテイストが加わった感じがありますね。歌モノであってもまあ、ファなしでメロディを構成することは難しくないので、十分に可能でしょう。

ゲスの極み乙女の『私以外私じゃないの』はこの珍しい実践例です。Aメロのはじめは普通に2-4-5-6系の進行から入るのですが、2周目(0:35-)からは、Vのところのコードで一瞬調性がぐらつく不思議な響きが現れます。この曲のキーはGmですが、この時VはF7ではなくFΔ7、つまりE♮の音をさりげなく付加しているのです! その後VI7の推進力を利用してすぐに主調へ戻るという形で調性の均衡を保っています。かなりさりげないですが、それでも勇気がないとできないアレンジですね。

II7をIIΔ7に

こうなって来たらトコトンやってみようということで、次はII7のクオリティチェンジ。ただこれは予想以上に難しく、なかなか綺麗にハマりづらいです。ジャンルやサウンドによるところがずいぶん大きくなります。

IVΔ7VVImIIm7IVΔ7VVImII9

うって変わってEDMで、2周目のIImをドミナントナインスに変えてバリエーションを出すなんていう場面です。変化をつけようと思ってII9にしたわけですが、やっぱりトライトーンの感じが妙にジャズっぽいというか、豊かな和音の響きがジャンルとマッチしていません。こんな時に、IIΔ7に光明が差してきます。

IVΔ7VVImIIm7IVΔ7VVImIIΔ9

このとおり、独特な浮遊感となって新しい曲想をもたらしてくれました! 非常に微妙な差ですが、トライトーンが消失しているこの変化は大きいです。

結果的に、パラレルメジャーコードの中には「応用的クオリティチェンジ」と言えるようなものがたくさん潜んでいるということです。端的に以下のように記憶しても面白いでしょう。

  • ハーフディミニッシュは、マイナーセブンスに換えられる可能性を秘めている。
  • ドミナントセブンスは、メジャーセブンスに換えられる可能性を秘めている。

ですからまずは「代理」のメソッドでこうしたコードを導入するのが、分かりやすいかもしれません。ただハーフディミニッシュ、ドミナントセブンスのどちらについても、クオリティ・チェンジすることでトライトーンが消失するため、進行先がより自由になるという側面があります。ですから実際にはもっと多様な進行可能性がそこに隠れています。

7. パラレルワールドの概観

今回「パラレルメジャーコード」の代表的なパターンをいくつかピックアップしましたが、例えコードクオリティが同じでもそれ以外の音でまだ選択の余地があり、それによってサウンドがさらに細分化するというのは、パラレルマイナーと同じです。
パラレルマイナー界は、ミ・ラ・シのフラットバリエーションが7とおり考えられ、そして非常に詳細な理論においてはそれぞれの音階に名前を付けて管理しているという話でした。パラレルメジャー界も同様にして、ド ・ファ・ソの7つのバリエーションがある。この世界観を、Cメジャーキーを中心にひとつの図にまとめると、次のようになります。

パラレルワールド

一応参考のために音階名も書いておきましたが、これを覚える必要はやっぱりありません。そこは完全に趣味というか、マニアの領域ですね(VI章で扱います)。それよりも、Cメジャー、Cマイナー、Aメジャー、Aマイナーという基本的な四つの調性の中に、これほど微細に枝分かれした「パラレルワールド」があって、それぞれが微妙に異なったサウンドを楽曲にもたらしてくれるということ。これをまず深く理解し、観測して頂きたい。

同主調の世界へ完全に移動するには主調から「3歩」踏み出す必要があって、その間に「1歩」「2歩」の世界がある。そして「ファにだけシャープ」のエリアにはVΔ7のような見落としていたコードが転がっていて、ただしVΔ7を使用する際にはシャープ1つのキー、つまり属調に転調してしまわないように“引力”のコントロールが必要。そんな見方です。

引力からの解放

あるいは逆転の発想で、あえて中心に拘らずこうした音階世界を行き来することで、調性のハッキリしない音楽、「不定調性」の世界に足を踏み入れることもまた可能です。

こちらは上記の「パラレルワールド」をかなり自由に移動して調性を不安定にさせた楽曲例です。コード進行は以下のようになっています。

CΔ7Bm7B♭Δ7E♭Δ7(+11)GΔ7E6/G♯F♯m9DmΔ7(+11)Am(9,13)Gm9D(9)/F♯AøEm9

調性がハッキリしないので、ディグリーではちょっと振れませんね。今回の「ピアノソロ曲」のように、調性を一定に保つ必要のないジャンルでは、不定調性の作曲というのも一興。不定調性の作曲方法はいくつもありますが、行き来しやすいパラレルメジャー・パラレルマイナーコードを用いた作曲は、その入り口として分かりやすい部類ではないかと思います。

まとめ

  • パラレルマイナーコードと同様のアイデアを、同主長調との間で用いることで、さらにコードの引き出しを増やすことができます。
  • 自由派では、ド・ファ・ソのいずれか(または全て)にシャープをつけることで得られる音階から借用してくるコード群を総称して「パラレル・メジャー・コード」と呼びます。
  • パラレルメジャー、パラレルマイナーのコードたちは借用がしやすく、これらを大々的に用いることで、より自由な調性概念のもと作曲ができます。
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