テンションコード ❸ テンションの選択

コード編 Ⅳ章:新しい技法

ここまででテンションの概念と表記法アヴォイドについて学びました。ここではもうしばらく慣習的な理論に従い、テンションの選び方についての見解を聞きます。

#6 テンションを選ぶ

そんなわけで、アヴォイドの烙印を押されずに済んだ音たちはテンションの候補となりますが、好き放題足していいかというとやはりそうではありません。アヴォイドを排除することで残ったのは、あくまで“アヴェイラブル(=利用可能)”なテンションです。

ここから実際に利用する音を選ぶ際に、もう一枚思考のプロセスを挟む必要があります。ドミナントセブンスコードではいっぱいテンションが積めるからと言って、積めば積むほど音楽が良くなるなんてことはないですからね。

IVVIIImVImVIIV7(-9,+9,+11,-13)

こちらはポップスの中で「ドミナントセブンスのアヴォイドは11thだけ」という言葉を信じてテンションを積みまくった例。聴いて分かるとおり、曲想に貢献しない技巧は無意味です。ちゃんと曲想と向き合わないとダメですし、テンションのないシンプルなコードの方がカッコよく聴こえることだってあるわけです。

IVVIIImVImVIIV

こっちの方が全然いいですね。そんなわけでここからは、テンションの選択方法について、慣習的な考え方を理解していきます。

キーに対してダイアトニックか

まず重要な判断基準は、その音が臨時記号を要しない音かどうかです。キーに属していない音を使うと、調性が乱れていい結果を生まないこともある。一番安心なのはキー本来の音だけを使うことですし、書によってはそれを原則とするものもあります。1

ダイアトニック・テンション

ある音が、そのキー本来の音階に属している音であることを、キーに対してダイアトニックDiatonic to the Keyと言うんでしたね。臨時記号が要るか要らないか。この違いを意識するため、テンションを以下のようにカテゴライズすることがあります。

  • ダイアトニック・テンション
    キーに対してダイアトニックなテンション
  • ノンダイアトニック・テンション
    キーに対してダイアトニックでないテンション

もしダイアトニック・テンションだけを使用するという考え方に従った場合、例えばIIIm7だったら使えるテンションは11thのみということになります。

キーに対してダイアトニックかどうか

ただ実際のところ、IIImなら9thのファはカジュアルに乗せられますので、ダイアトニック・テンションじゃなきゃ使っちゃダメとは絶対に思わないで頂きたい。やっぱり原則は原則にすぎず、ここに関しては耳と相談するしかありませんね。ディグリーやその音の傾性、進行先のコードといった様々な条件から、ノンダイアトニックなテンションの聴き映えは変わりますのでね。

数に節度を持つ

例えばIVΔ7は9・+11・13という3つのテンションが全てダイアトニックで、全てが容易に乗せられるわけですが、じゃあ全部乗せるかというとなかなかそうはしません。

全部のせ?

テンションは、一音一音がキャラクターを持っていて、それぞれの魅力があります。みだりにこれらを複合すると、ただただ濁るだけで魅力が引き出されないということもあります。ラーメンの比喩を引きずるなら、これはトッピングの“全部乗せ”。なかなか頻繁にやることではないはずです。テンションはひとつでも十分効果的だし、2つ乗せたらかなり複雑なサウンドになります。効果を吟味し、節度を持って使うことが推奨されます。

二者択一の原則

もうひとつ大事な注意があります。9・11・13thと±9・+11・-13thはそれぞれ半音で隣り合っていて、これもまたライバル関係のようなものです。例えばもし「9th」と「+9th」を同時に鳴らすと、ここでけっきょく「上からの攻撃」が発生してしまいます。

裏切り

ですので結果的に、同度数においては「プラマイあり」か「プラマイなし」かのどちらかしか選べないということになります。2

アヴォイドと同様に、テンションの使用基準についてもやはりまずは音から覚えるのがおすすめです。まずは実践の中で良い音を見つける。その音を記憶に保存しておくための“ファイル名”として、数字を使う。そういう順序感覚です。

#7 テンションの選択例

原理原則がわかっていれば、どんなコードであっても適切な判断を下すことができます。ここではただ“アヴェイラブル”なテンションを列挙することよりも、判断の仕方を解説する形でテンションへの理解を深めようと思います。

パラレルマイナー

例えばパラレルマイナーコードのエース、IVmΔ7の場合はどうでしょうか?

IVmM7

「上からの攻撃は禁止」というルールからアヴォイドを炙り出すと…

FmM7のテンション

こうなります。そうするとテンションとしてはまず9thと13thが筆頭候補で、+11thはアヴェイラブルですが、ルートとトライトーン関係なのでちょっとだけ扱いが難しめ。11thは臨時記号を伴うためさらに難しめです。

IVIVm7I

こちらはIVIVm7Iの進行にテンションを色々乗せ替えて、聴き映えがどう変わるかの比較実験です。

テンションの比較
  • 1回目は9th付加で、ナインス特有の「鋭さ・高らかさ」が良きスパイスとして加わっています。
  • 2回目は13th付加。シックスコードと同類のノスタルジックな薄暗さが加わり、サブドミナントマイナーの哀愁とかけ合わさって相性バッチリ! おすすめです。
  • 3回目は+11th付加。これはカーネルでみると“導音”ですから、トニックへの解決を自然に導いてくれている感があり、非常に上品です。クラシック風にも感じますね。
  • 4回目は11th付加で、これだけはノンダイアトニック・テンションです。それゆえ調性が傾き、劇的な変化を与えていますが、ちょっぴり急かもしれません。メロディによるサポートが欲しいところです。

こんな風に、シェルとカーネルの両面からテンションを評価することで、その音楽的性質を理解することができます。

二次ドミナント

テンションの自由度が高いドミナントセブンスも軽く触れておきます。

IV7V6IIIm7VI7IIm7V7I7

今度はおなじみ4-5-3-6-2-5-1の進行を3周。そしてVIのところでテンション比較をしてみました。

VI7のテンション比較
  • 1回目は9th付加で、やっぱり鋭さをちょこっと足した、薄味のテンションです。
  • 2回目は-9th付加、シの音です。ノンダイアトニックで、Dマイナーキーの香りを強めた形になるため、沈み込んだ感じが増しています。
  • 3回目は9th・13th付加。シとファの付加です。これは逆にDメジャーキーに近寄るため、転調しかかっているような高揚感があります。(ファを自然に聞かせるため、この周だけはIIIm7の時にもファを付加しています。)

パラレルマイナーコードや二次ドミナントの場合、こうやってノンダイアトニック音の交ぜ具合で転調の度合いをコントロールすることができます。「この音を入れることは、どんな意味を持つのだろうか?」と考えることがいつだって大切です。「たとえ同じドミナントセブンスコードであっても、進行先のコードが何であるかによってふさわしいテンションが異なる」という風にも言えますね。

テンションの個性

いま大事なことを言いました。テンションの運用においては、音の持つ意味を考えることが大切です。
「テンション/アヴォイド」の分類を覚えることが理論習得のゴールではありません。むしろそれはスタートでしかない。テンションだとしたら、それはどんなサウンドをもたらすテンションなのか? アヴォイドだとしても、それはどんな風にサウンドを濁らせる音なのか? 「+11」とか「-9」とかいうのは、それを管理するための「識別番号」に過ぎないということを忘れないでください。
それこそ、「コードネームを読む」「コードネームに起こす」という作業が必要でない環境であれば、数字は必ずしも覚えなくてはならないものじゃないですからね。

カーネル目線も大事

上の2例だけでも少し体感できたかと思いますが、テンションを分析するにあたっては、コード内における位置と同じくらいキー内での位置が大切です。つまり、シェル目線だけでなくカーネル目線でも見た方がいいということ。キーに対してダイアトニックかどうかという情報も、言ってみればカーネル情報の一部ですよね。一見難しそうに見えるコードネームでも、結果的にその音が何であるかというのを見ると、その音が意図していることは自ずと判ってくるものです。

カーネル目線

例えばIの(+11)、IIIの(9)、VIの(13)は結局全員「ファの音を足す」ということです。音から先に入ればこういうことは自明ですが、数字から先に入ってしまうとこういう点を見逃しがちで、知識体系が繋がらなくなってしまうので、注意してください。


さて、3回に渡ってテンション・アヴォイドについて紹介してきました。ただもう一度はじめの前提を確認しておくと、これはアドリブ・セッションのために生まれたマナーとしての分類法にすぎません。アヴォイドと呼ばれる音もメロディでは大いに活躍しますし、コードのハーモニーの中でさえ有効活用することができます。そうした点については追々学んでいきます。

メロディ編では、IV章の「偶数シェル」に関する理論でテンションに相当する内容をかなり深く学びます。そこではアヴォイドをメロディで使用したい場合にどうするかを、メロディ優先の視点で紹介しています。コード優先のコード編とは対照的に物事を捉えるわけですね。そうした多角的な解説を通じて、より自由な音楽観を手に入れるというわけです!

まとめ
  • アヴェイラブルであるテンションを暗記していること以上に、その中から曲想にあったものを選びとる能力が重要になります。
  • キーに対してダイアトニックかどうかがまず使い勝手の重要な判断基準になります。
  • コードネームでの分類以外に、カーネル目線でテンションを分類する意識も並行して持っておくとよいです。

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