目次
ここまででテンションの概念と表記法とアヴォイドについて学びました。ここからは、実践におけるテンションの選び方を見ていきます。
1. アヴェイラブルのその先
アヴォイドの烙印を押されずに済んだ音たちはテンションの候補となりますが、好き放題足していいかというとやはりそうではありません。アヴォイドを排除することで残ったのは、あくまで“アヴェイラブル(=利用可能)”なテンションです。
ここから実際に利用する音を選ぶ際に、もう一枚思考のプロセスを挟む必要があります。ドミナントセブンスコードではいっぱいテンションが積めるからと言って、積めば積むほど音楽が良くなるなんてことはないですからね。
- IVVIIImVImVIIV7(-9,+9,+11,-13)
こちらはポップスの中で「ドミナントセブンスのアヴォイドは11thだけ」という言葉を信じてテンションを積みまくった例。聴いて分かるとおり、曲想に貢献しない技巧は無意味です。ちゃんと曲想と向き合わないとダメですし、テンションのないシンプルなコードの方がカッコよく聴こえることだってあるわけです。
- IVVIIImVImVIIV
こっちの方が全然いいですね。そんなわけでここからはより実践に目を向けて、テンションの選択例を見ていきます。
2. ノンダイアトニック・テンション
今回は実践にまで踏み込むので、前回解説を省いた領域にも触れないといけません。それが、キー外のテンションについてです。例えばメジャーキーなら全員がメジャースケールを使う状態が基本であって、それ以外の音は「スケール外の音」として真っ先に候補から除外されていました。
臨時記号の要る音を使うというのは、基本的に転調やスケールの変更を意味しますから、アドリブ中に単独で勝手には行えません。しかしこれは逆に言うと全員の同意のもとスケールを変えるとか、もしくは自由作曲であれば、キー外の音を盛り込むことが選択肢としてあるということです。その場合にはやはり「半音上はダメ、でもドミナントセブンスは例外」というジャッジでAvailable/Avoidが区別されます。
- IVΔ9IIm9VIm9IΔ9IIIm9
例えばIIIm7をナインスコードにしようとしたら、キー外であるファ♯の音を乗せることになるのでした。
この音はキー外でこそあれど、別にコードトーンに半音上からかぶさっているわけではないので、キツい濁りなどはなく非常に魅力的なサウンドをしています。そのため、調性の離脱感だとか、ファ♮との衝突とかには注意が必要ですが、そこさえクリアすれば問題なく活用ができます。
そしてドミナントセブンスであれば、さらに許容度は増します。
- IVΔ7III7VIm7VI7(-9)
こちらはラストのVI7でシ♭の音を付加したという例。ラの半音上にかぶさる音ですが、特に“機能が阻害”されることもなく美しく響いています。
そんなわけで、キー外の音もテンションとして活用が可能です。ただキー内のテンションと同列に扱うことはできないので、次のような言い方で二者を区別する場合もあります。
- ダイアトニック・テンション
臨時記号のつかない、キー内の音によるテンション - ノンダイアトニック・テンション
臨時記号を要する、キー外の音によるテンション
この2つは「半音上はダメ、でもドミナントセブンスは例外」という点では共通していますが、使い勝手には差があると覚えてください。
3. テンション同士の衝突
1つのコードに対して複数のテンションを乗せることも、もちろん可能です。特にドミナントセブンス上では実に多くのテンションが選択肢として用意されています。
しかし、プラマイのつきテンションはそうでないテンションと半音で隣接しています。したがって、もしこれらを同時併用すると結局そこで半音の衝突が発生してしまうことに注意が必要です。
結果として、プラマイありのテンションとプラマイなしのテンションは、どちらか一方しか選べないというのが原則になります。
テンションを選ぶ際の使いやすさに関する原則は以上となります。あとは、サウンドとしてどんな意味を持つかというのを考えながら付加していくことになります。