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今回は「新しいコードネームを知る」回です。
これまでのメジャーコード・マイナーコードにさらに音を加えて、サウンドをより複雑にしていきます。音響の世界を一段階拡張する、とても重要な回です。
シンプルな響きで勝負するロック・ダンスではほんの僅かに重要性が落ちますが、それでもよっぽどストレートな曲でなければ普通によく使う方法論ですから、概念を知っておくだけでもお得でしょう。
§1 四和音
これまでやってきたメジャーコード、マイナーコードは、音を3つ重ねた「三和音」でした。もうひとつ上に音を積めば、四和音Tetradと呼ばれるコードに進化します。
四和音のうち最も代表的なものが、ルートに対し長7度か短7度の音を重ねた、「セブンスコードSeventh Chord」です。
セブンスコードの作り方はとっても簡単。今までの和音のうえに、また「ひとつ飛ばしのお団子がさね」でもう1音乗っけてしまえばいいのです。
こちら、Cメジャーキーの基調和音をセブンスコード化したものたちです。例えばIの和音は「ド・ミ・ソ・シ」となります。一番下の「ド」と、一番上の「シ」はある意味「半音差」ですから、若干の濁りを感じます。でも一般的にはこれは「気持ち悪い」とは認識されず、むしろ少し洗練された響きがするのです。それがセブンスコードの魅力。
ちょっと、普通のコードと違いを聴き比べてみましょう。
普通のコード
コード進行はIVVIIImVImIImVIIです。典型的なポップスの進行ですね。特に面白みもないという感じ。コレを全部セブンスコードに変えてみます。
セブンスコード
たった1音足しただけでも、かなり響きが複雑になったと思います! 率直に言って、超おしゃれ。普通のコードの方が、ダサく聴こえてしまうくらいです。
実際、このセブンスコードはポピュラー音楽界では大活躍。とてもよく使われます。セブンスコードは、この「セブンス」の音をてっぺんに持って来れば「露骨にオシャレ」な感じになりますし、和音の下の方で使うと「さりげない深み」が出ます。
セブンスを足しても、メジャー・マイナーが変わったり、TDSが変わったりすることは全くありません。臨時記号がつくわけでもないので、かなり自然に曲中で使えて、曲に深みを付加してくれます。
例えばこんな曲があったとします・・・
ピアノとセブンスコード
普通のコード
IVとIを繰り返すコード進行。なんだかうだつの上がらないピアノ曲ですが、これをセブンスコードに変え、それに合わせてメロディも少し調整すると・・・
セブンスコード
OH MY GOD. エリック・サティの「ジムノペディ第一番」になりました。この曲、実はセブンスコードの魅力を存分に活用した一曲なのです。セブンスコードは、その絶妙な濁りのもつ魅力、それだけで曲を成り立たせるくらいのパワーを秘めているということですね。
もちろん綺麗なピアノでなくたって、ロックとかであってもセブンスは効果を発揮します。
ギターとセブンスコード
普通のコード
- IVIIImVImI
こちらはトライアドの状態。ちょっと味がなく、シンプルな状態です。これをセブンスに変えてみて、どれくらいサウンドが変わるかを検証します。しかも、てっぺんにセブンスの音が来る、露骨な方の使い方で!
セブンスコード
- IVIIImVImIのセブンスコード版
ジーザス!! なんだか、アジカンみたいになりました。すごいのは、ただ機械的にセブンスにしただけなのに何かメッセージ性みたいのを感じることです。サウンドが複雑になったぶん、感情に訴えかけて来るものがあるんですね。
だから、普通のコードでは何か一味足りないという時に、セブンスにしてみるといいです。おしゃれな作風にしたいのであれば、使わない理由がないという感じです。
ただもちろん、ずっとひたすらセブンスというのも、それはそれで平坦な味わいになってしまいます。複雑な響きにすべきところと、あえてシンプルにすべきところをきちんと見極めて、メリハリをつけると良いでしょう。
メリハリ
さっきの音源の、最後をあえて単音のフレーズでシンプルな響きにしてみました。ちょっとドキッとする展開になったと思います。今後も複雑な和音をドンドン知っていきますが、そうであればこそ、「引き算」の美学も忘れないようにしたいものです。
ですから下図のようなイメージを思い描いて、出したい曲想に応じて使い分けるといいかもしれません。
どれくらいの複雑性がマッチするかはジャンルによって大きく異なり、ロックやEDMではややシンプルに寄ったバランスが好まれるでしょう。古典的なクラシックでも、Vの和音以外でのセブンスコードの使用には制限があり、スッキリした三和音の方が基本となっています。一方ジャズにおいてはこのセブンスコードの方が基本となって理論が組み立てられていて、逆に三和音の方が「セブンスコードの7thをわざわざ抜いたもの」というような見方をされます。
さあ、こんな簡単にオシャレなサウンドを手に入れられるなら、もっと早く教えてほしかった! なんて思う人もいるかもしれません。しかし、Ⅱ章までひた隠しにしていたのにはワケがあります。このセブンスコード、コードネームがちょっとややこしいのです。「度数」がしっかり頭に入っていないと、けっこう大変。今すぐには、まだ飲み込めなくていいかもしれません。
ここからはそのコードネームの規則を詳しく見ていきます。だから「コード譜を作る」か「コードネームを見て音に起こせるようにする」といった作業をするのでない限り、まだしっかり理解できなくても問題ありませんよ。
§2 四種のセブンスコード
たとえば「3度」といっても「長3度」と「短3度」の2つがあって、それによってメジャーコードかマイナーコードかが分かれました。7度にも「長7度」か「短7度」の2種類がありますから、そのどちらを乗せるかによって響きも名前も変わります。
その3度の方の長短と、7度の方の長短。その組み合わせによって、2×2=4種類のコードが作れることになります。
それぞれのコードの名前をどうするかなのですが、以下のように定めます。
- 「長7度」を足した場合→後ろに「メジャーセブンス」と付け加える。
- 「短7度」を足した場合→後ろに「セブンス」と付け加える。
このルールにのっとると、4種のセブンスコードの呼称は次のようになります。
「マイナーメジャーセブンス」だけ長ったらしいですが、致し方ありませんね。
そして楽譜上で表記する場合には、メジャーセブンスは「M7」、セブンスは「7」と書きます。
ルール自体は難しくないのですが、いざこうやって楽譜で見たときに、度数を判別するのが難しいんですね。でも今後はこのセブンスコードを通じて、自ずと「長7度」と「短7度」の区別がどんどんスラスラできるように脳が進化していくはずですよ。
基調和音とセブンス
基調和音を音階に沿ってセブンスコード化していくと、そのディグリー表記によるコードネームは次のようになります。
IとIVがメジャーセブンス、Vはセブンス、マイナー3人衆はすべてマイナーセブンスです。これ以外のセブンスコードを作ろうと思ったら臨時記号が必要になるので、それらはやっぱりスパイス的存在になるわけです。
一応、いくつか鍵盤で度数を確認してみますね。
IM7の度数を確認
V7の度数を確認
IIm7の度数を確認
ご覧のとおり、それぞれ違う度数になっていることがわかります。特に紛らわしいのが「メジャーセブンス」と「セブンス」です。たとえばCメジャーキーの曲で、「CM7」といったらそれは普通のセブンスコードですが、「C7」といったら、それは臨時記号を要する「スパイス的存在」のコードということですからね。
セブンスの別名
ところで、こちらの「セブンス」は、名前にあまり特徴がないですよね。これだと「セブンスコード」と言った時に、上の「長3・短7のセブンスコード」のことを言いたいのか、あるいはメジャーセブンスやマイナーセブンスをひっくるめた「総称としてのセブンスコード」を指しているのかが不明瞭です。
そこでこのコードには、「ドミナントセブンスDominant Seventh」という別名も用意されています。これはドミナントであるVのコードの時に現れることに由来しています。
ですからこの「ドミナントセブンス」という呼称を使えば、セブンスコード全体の話をしているのではないということが明示できます。ただ逆に今度は、この「ドミナント」はTDS機能の「ドミナント」とは別だぞってところが、またややこしいんですけどね。
別の表記スタイル
特にジャズ系統の流派では、書きやすさを重視してか、以下のような表記もよく使われます。
マイナーが「-(マイナス)」というのは、以前にも紹介しました。メジャーセブンスの「メジャー」の部分を「Δ(デルタ)」で表すというのが、新しい表記法です。「マイナーメジャーセブンス」の記号はパソコンでは打てないので、「C-Δ7」という風に、横に並べて書きます。1
このサイトでの表記
このウェブサイト内では、「-(マイナス)」はちっちゃくて見にくいのでやはり採用しませんが、一方で「Δ(デルタ)」はユニークで見やすく魅力的です。それに「mとM」を採用してしまうと「検索の際に区別がつかない」というウェブならではのデメリットもあります。そこで、以下のような表記を基本方針とします。
ドミナントセブンス | 7 |
マイナー・セブンス | m7 |
メジャーセブンス | Δ7 |
マイナー・メジャーセブンス | mΔ7 |
「mとΔ」という記号の組み合わせは珍しいかもしれませんが、視認性に関しては最強のコンビです!
そんなわけでコードネームは色々とややこしいですが、運用はそんなに難しくありません。要するに、「臨時記号が生じないように重ねれば、それがそのコードにとって一番基本的なセブンスコードになる」ってことですから、作曲をするぶんには「I,IVはメジャーセブンスで・・・」なんていう風にコードネームを覚える必要はありません。もちろんコード譜からコードを弾きたいなら、暗記しなきゃダメですけどね。
まとめ
- セブンスコードは、Rt・3rd・5thの上に第7音、7thを重ねた四和音たちの総称です。
- セブンスコードで加わる音は長7度と短7度の2種類があります。
- トライアドとの組み合わせを考えると、セブンスコードは全部で4種類あります。