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5. 技法の名称や表記

さて、このような発想のもと持ち込まれたII7III7VI7I7VII7を、二次ドミナントSecondary Dominants/セカンダリードミナントと言います。

二次ドミナント

V7がキー本来のドミナント・コードで、言うなればこれが“一次”のドミナントです。他のヤツらはあくまでもV7の“マネっこ”をして作りだしたものということで、「二次」という名を冠します。

またクラシック理論においては、トライトーンの濁りを避けて三和音で使うスタイルも認められています。三和音なら「副属和音」、セブンスコードなら「副属七和音」と呼び分けます。

二次ドミナント (Secondary Dominants)
V7以外で、完全5度下にある基調和音に向かって進むことで解決するドミナントセブンスコード1

ダブルドミナント

特にII7については、ドミナント・コードであるV7へと進む二次ドミナントということで、「ドミナントのドミナント」という関係にあります。そのためドイツ語ではこのII7にだけドッペルドミナンテDoppeldominanteという呼称が与えられており、またこれを英語に直してダブルドミナントDouble Dominantとも呼んだりします。

ドッペルドミナンテ

借用和音

二次ドミナントたちは、臨時記号でシャープやフラットがつきます。これは、局所的・一時的な転調が起きているようなものです。でもその後すぐ元に戻るので、これを転調とは呼びません。

このような状況を比喩的に表して、「他のキー(ないしスケール)から借りてきた」と表現します。一時的に別の音階に切り替わったけども、それは“借りた”だけで、すぐ“返した”から、別に転調はしていないと言うわけなんですね。そのため、こうした和音たちのことを借用和音と呼んだりします。

表記のバリエーション

二次ドミナントには、通常のディグリーネームとは異なる表記も存在します。

別表記

これは、「誰に対してのお供か」ということを示すスタイルの表記で、例えばI7の別記である「V7/IV」というのは、「IVのお供としてやってきたドミナント・コード」という意味を表したシンボルなわけです2

クラシック/ジャズ流派ともに、専門性が高めの書籍ではこの表記が用いられる傾向にあります。

一方で、表記としてかさばっていたり、パッと見でルートがなんの音なのか分かりにくいといったデメリットがあるので、ポピュラー理論書ではあまり採用されません。以前紹介した「スラッシュ・コード」と表記がモロにかぶっているという問題もあるので、このサイトではこの表記は採用しません。

クオリティのバリエーション

ここまでの楽譜ではIII7VImのように後続を三和音にしていましたが、これはセブンスコードでも構いませんし、なんならIII7VI7IImのように二次ドミナントを連続して用いることもあり得ます。また先述のとおり、二次ドミナント自体も三和音にするという選択肢があります。ですからこの辺りの細かい音選びについては、かなりの組み合わせが考えられます。

選択肢

どれを選んで進んでいってもOKです。選び方しだいで個々のコードの濁りやカラーと、それから音が半音差で繋がる箇所が変わってくるわけなので、それを確かめながら場面に合ったものを選んでいくという具合です。

用語の包含関係

今回の「二次ドミナント」も、基調和音の“クオリティを変化させた”と言えるので、クオリティ・チェンジの一種に含まれます。「クオリティ・チェンジ」の方が広い意味の言葉で、対する「二次ドミナント」はその中でも5度下の基調和音をターゲットにするという条件を満たしたモノたちだけに与えられる特別な呼び名という関係性になります。

ルールではなく分類

だから勘違いしてほしくないのは、II7III7VI7I7といったコードたちが必ず5度下のコードへと進行しなきゃダメという話ではないということです。

ここにII7を使ったから、次はVに行かないと理論的に間違いな進行になっちゃう。

ということではなくて、

ここにII7を使ったから、もし次Vに進んだら定型コンボが完成して、II7が二次ドミナントと呼ばれることになるぞ。

ということです。二次ドミナントは「V7→Iのモーションを模倣する」という、いわゆる“根拠”らしきものに立脚した技法ですけども、しかしこれが行きすぎて「基調外和音を使うには根拠が要る」「解釈できない音楽はデタラメだ」と考えてしまうと、これは本末転倒です。

特にロックやEDMといったジャンルでは、意外性のあるコード進行がカッコよく聴こえることもある。コレは接続系理論のときにもお話ししたとおりです。

VImIIVII7

こちらは何の気なしに登場したII7。コレは「5度下のコードに向かう」という二次ドミナントの定義からは外れるため、単に「クオリティ・チェンジ」と呼ぶほかありませんが、それで別に何の問題もありません。知識が増えてくると、逆に知識にない音使いをためらう気持ちも芽生えてきやすいので、そんな時には流派や歴史の話を思い出して、自由な精神を取り戻してもらえればと思います。

まとめ

  • 5度下の基調和音との結びつきを活かして挿入されたドミナントセブンスコード達を「二次ドミナント」といいます。
  • IIIIIVIなど三和音の状態で用いても、5度下のコードと半音で繋がる音が増えるため、結束力は増します。
  • I7IVをさらに拡張したVm7I7IVの3連コンボは、ポピュラー音楽の定番のひとつです。
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