二次ドミナント

コード編 Ⅱ章:新しい音響
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今回は「基調和音以外のコードを知る」回です。

前回「セブンスコード」を学んでバリエーションを増やしましたが、根本が基調和音の6つだけであることは変わりませんでした。
ここでは臨時記号(♯・♭)を使うことで、今までになかったコードを取り入れていきます。曲を展開させるときの重要なスパイス役になるので、どのジャンルでも重宝する知識です。


さて、ついに新しいコードに世界を広げていくのがこの回です。I章の最後で「クオリティ・チェンジ」というアイデアのもと新しいコードを導入しましたが、それと近い内容になっています。

#1.セブンスコードを思い出す

V7-I

ただ「7」がついただけのセブンスコードは、「ドミナントセブンス」と呼ばれるコードでした。
理由は後述しますが、V7Iという進行は、単なるVIよりも格段に滑らかです。

定番の「お辞儀のコード進行」でも、実はVではなくV7が用いられるのが普通。

V7Iと結びつきが大変に強い。ある意味いちばんのパートナーなんですね。その性質を利用して、新しいコードを導入することを考えます!

#2.パートナーを連れてくる

ちょっと別の調で考えましょう。キーが「Fメジャー」の時には、V7Iはこうなります。

C7-F

ちょっと戸惑っている人は、「五度圏」をみてコードを確認してくださいね。Fメジャーキーは、♭が1個つくキーでしたよね。
そうすると、Fにとって、C7最良のパートナーであると言えます。

Love

仲睦まじいのは良いことです。ところで、このFはFメジャーキーではリーダーとして頑張っていますが、おなじみCメジャーキーでは、IVのコードとして活動していますよね。

CとF

ここまで来て、ひとつのアイデアが思い浮かびます。すなわち、このCメジャーキーの世界に、FのパートナーであるC7を連れてきてみるのはどうでしょうか?

よろしく

・・・なんだか波乱の予感がしますが、実際の音世界では、コレが実にうまくいきます。ちょっとトライしてみますね。

#3.I7を使いこなす

I7

C7さんは、Cメジャーキーに導入されると、I7と呼ばれることになりますね。
どうでしょう? 臨時記号がついた割には、かなり自然体に聞こえます。それはやっぱり、I7IVという流れが非常にスムーズで、結びつきの強いものであるからです。もしフラットをなくしてしまうと、ちょっと接続が弱くなります。

もちろんコレはコレで良さがありますが、比べると、フラットのついたI7は、IVへとなだれ込むような勢いがあって、すごく聴きやすいと思います。もう少し曲らしい形でみてみましょう。

IVVIVIm

こちらは、もうおそらく「おなじみ」になっているであろう、4-5-1-6の王道的進行です。ちょっと面白みに欠ける気もする。そこで、VImI7に変えて彩りを加えてみます。

IVVII7

かなり微細な違いですが、臨時記号を伴っているぶん、複雑な響きになっています。IVヘの推進力が高まっているんですよ。単なるIとこのI7の違いを聞き分け、使い分けられるようになれば、中級者の仲間入りって感じです。

実際の用例

I7は数え切れないほど多くの曲で使われていますが、典型的な例を紹介します。

卒業式の曲としておなじみの「旅立ちの日に」ですが、3:00ごろの、サビへのつなぎ部分でI7が使われています(「夢をたくして」の後のピアノのフレーズ)。
このパートのサビへなだれ込むような勢いがとても魅力的ですが、それを生み出しているのがI7なのです。

「同じように」で伸ばすメロディのところ、最後に妙な下がり方をしますよね? そこがまさにI7の発生しているところです。象徴的な♭の音をメロディが歌っているので、コードの変化がクッキリとわかります。

どちらの曲もやはり、そのあとはIVへと繋いでいます。

#4.さらに相棒を連れてくる

FさんにC7というパートナーがいたように、他のコードたちにも相棒はいるはず。同じ要領で、ドンドン連れてきましょう!
次に見ていくのは、VVImIImの相棒。連れてくるのはやっぱり、ドミナントセブンスコードです。

2・3・6

ドドドン! こうなります。連れてきたのは、それぞれII7III7VI7の3人。
全員が第三音に臨時記号の♯がついています。・・・ん? このメンツ、なんとなく見覚えがないでしょうか?
そう、全員クオリティ・チェンジの時に登場したやつ! それがセブンスコードになっただけです。

クオリティチェンジ3人衆クオリティチェンジ3人衆

ですから、こいつらはクオリティ・チェンジの派生形だと思っていただいて構いません。セブンスを乗せたくらいでサウンドがどう変わるモンだか、響きの違いを聴いて比較しましょう。

II7の効果を見る

VImIIVI

こちらは「クオリティチェンジ」の時に紹介した音源。これがセブンスコードになると・・・?

VImII7VI

なんだかファンキーさが増しました! 和音のサウンドが複雑になったことにより、ストレートで元気な感じが失われ、ちょっとだけ大人っぽくなったのです。微細なので、違いが分かるまで何回でも聴いてみてほしいです。

III7の効果を見る

IVM7VIIIVIm

こちらは典型的なJ-Popのバラード風コード進行です。IIImをIIIに変化させたことで、情感を強くするんでしたよね。これをさらにIII7に変えてみます。

IVM7VIII7VIm

音が濁ったことにより、さらに悲しげな感じになりました! 思いっきり切なくしたいバラードなんかであれば、普通のIIIよりもこのIII7の方が活きるでしょう。

VI7の効果を見る

最後のVI7でも、同じことですね。

IIm7V7IM7VI
IIm7V7IM7VI7

上は普通のクオリティ・チェンジ。シンプルな三和音のメジャーコードですから、キッチリ明るく元気な感じがします。対する下は、セブンスにしたもの。濁りの強いドミナントセブンスコードですから、その分オトナな表情がしていますよね。

ただ、このVI7に関してはとりわけ注意しなければいけないことがあります。

クオリティチェンジの時はこうやってVIで終わるパターンを紹介しましたが、ドミナントセブンスになるとコード自体が不安定な響きになるので、このような使い方には不向きとなってしまうのです。
I7同様、これらは次のコードへの「つなぎ」の時に使うのが良いですね。

Check Point

「クオリティ・チェンジ」でメジャーコードにしたII・III・VIは、ドミナントセブンスコードにしても非常に使いやすく、次のコードとの結びつきも強くなる。

これらはより複雑で濁ったサウンドであるため、より強い「切なさ」や「大人っぽさ」などをもたらしてくれる。そのため、ジャズ、ファンクやバラード調の曲などでは、単なるメジャーコード版よりも今回のドミナントセブンス版の方が、サウンドが豊かに聴こえるため一般的に愛用されている。

#5.使い方いろいろ

I7は今回初登場のコードであり、進行先はおおむねパートナーであるIVに強進行する以外はあまり考えられません
一方で、II7III7VI7は、パートナーへ進むのが「お約束」とされる一方、事実上は「クオリティチェンジの派生形」であるわけなので、実際の自由度はもっと高めです。

VImIIVII7

こちらはII7を使ったロック調のフレーズですが、パートナーであるVへ進まず、VImへ行ってしまいます。でも全然コレでアリです。

というのもこのII7の役割はどちらかというと、コード構成音のラインを美しくキープするためにあてがわれたコードなんですね。

6142

「ド」の音が4つのコード全てに使われていて、それがずっと続くという面白い趣向が凝らされています。こうした前後の流れがあると、II7というコードが持つ“意味合い”も変わってくるわけです。1

ほかに強進行しない定番パターンとしては、以下のようなものがあります。

推奨

「接続系」をチェックしてみると、それぞれA¹・C¹・D¹から変化したものと言えます。元々の接続系統が定番の「四大接続」なのだから、自然なのも頷けますね。

IIImの相棒は?

この調子でいくとIIImの相棒はVII7となるのですが、「VII番目」というのがやっぱり特殊で、ポピュラー音楽ではあまり使われません。

VII7

ほんの少しだけ紹介しておくと、このコードはIIImではなくIIIへ進むのが定番となっています。クラシックではよく使われるので、この子についてはⅦ章に進んでからきちんと紹介しますね。

#6.名前などについて

さて、このようにして導入されたI7II7III7VI7VII7の5つのコードのことを、二次ドミナントSecondary Dominant/セカンダリー・ドミナントといいます。

冒頭の話でお分かりのとおり、この5人は基調和音の各メンバーによって連れてこられたわけですから、リーダーのIからすれば「親友の恋人」的ポジションなわけで、それで「二次」という名を冠することになりました。

ダブルドミナント

中でもII7はちょっと特別な存在です。なぜなら、IのパートナーであるVが連れてきた子ですから、この人に限っては「恋人の恋人」です。

二重関係なかなかこじれています

そこで、いわば「二重のドミナント関係」があることから、II7にはダブル・ドミナントDouble Dominantという特別な名称も与えられました。2

用語の整理

今回の「二次ドミナント」も、従来のコードの“クオリティを変化させた”と言えるので、クオリティ・チェンジの一種に含まれます。これまでに登場した言葉をまとめて行くと、以下のようになります。

ベン図

こんな風に、基調和音の外側を開拓していくのがこれからの内容になります。まあこういった「名前」や「用語」は、本質的にはさほど重要ではありません。大事なのは構成音とサウンドの関係性ですね。

借用和音

それから今回のように、よその調から一時的に借りてきた和音のことを、借用和音Borrowed Chordと言います。借りてる間は調性が乱れるのですが、あまりに一瞬の出来事なので「転調」とはみなさない、というのが一般的な見解です。

そんなわけで、長々と説明しましたがまとめると内容はシンプル。IVへ繋がる特殊コードI7が増えたことと、クオリティチェンジからさらに7thコードへ発展させることができるということ。それにより、4度上のコードとの結びつきが強まるということ。コレを覚えてもらえればオッケーです。

#7.理論的講釈

さてここからは、なぜこうしたコード進行の結びつきが強く、流れがスムーズに感じられるか。その説明となります。いわば数学の「公式」に対する「証明」の部分ですね。実践とは関係ない理屈の部分なので、軽く読み流してもらっても構いません。

ドミナントセブンスの力

カギになっているのは、ドミナントセブンスコードというコードの持つ魔力です。ドミナントセブンスコードからの強進行について考えてみると、実は人間が心地よいと感じる要素が3つも備わっているのです。V7からIへの連結を例にとって説明しますね。

ドミナントモーション

①強進行であること

「完全4度上行」は、力強く聴きやすい進行としておなじみ。そのクッキリ感が、接続を強化しています。

②増四度の濁りが解決する

ドミナントセブンスコードは、コードの構成音が増四度で重なるところがあります。V7なら、ファとシです。不気味なサウンドでおなじみの増四度が、進行後には解消されて綺麗な響きになる、この「不安からの解放」が、心地よいのです。

③滑らかな半音進行

そしてこの増四度が、半音の移動によって解決される点もポイントです。進行先がメジャーコードの場合は、上譜のように2つとも半音で動いて解決します。進行先がマイナーコードの時も、片方が半音移動です。その滑らかさが、聴き心地の良さに繋がっています。

これだけ聴き手に心地よい要素が詰め込まれていれば、一時的な転調があっても大丈夫だろうと考えたわけですね。二次ドミナントは、クラシックの時代からずっと愛用されているコードです。

この「ドミナントセブンスコードが完全四度上へ強烈に解決する動き」は、一般に「ドミナント・モーションDominant Motionと呼ばれています。3

二次ドミナントのTDS

最後に、コレは本当に理論的な部分が気になる人への補足。新しく入ったコードのTDS分類がどうなるかという話なのですが、基本的にはI7Iと同じトニック、II7IIと同じサブドミナント・・・という風に考えてもらえれば問題ありません。

ただし、「他の調からコードを借りてきた」ということを踏まえて、「そこだけ転調したとみなしたうえでTDS分析を行うべき」と主張する人もいます。そこのところ、実はキッチリ決まっていないんですね。その場合、二次ドミナントのコードは全て「ドミナント」ということになります。

いずれにせよ、けっきょく基調外和音はそれぞれがユニークなサウンドと定番の進行パターンを有していて、TDSで考えること自体メリットがほとんどありません。あまりこだわらずに進むのがよいです。4

総括
  • 「ドミナントモーション」の結びつきを利用して他調から借りてきたコードたちを、「二次ドミナント」といいます。
  • 二次ドミナントには、I7II7III7VI7VII7の5つがあります。
  • 和音が複雑になることで情感を増し、また次のコードへの推進力も高まります。
  • II7III7VI7の3つは、クオリティチェンジの派生形とみても構いません。
  • I7VII7が、それぞれIVIII以外に進むことは稀です。

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